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ビジネス書は「少数の古典をじっくり読む」が正解なワケ

プレジデントオンライン / 2020年6月19日 15時15分

筆者提供

どうすればオリジナリティのある人材になれるのか。KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院の三谷宏治教授は、「人は読んだものでできているが、漫然に読書をしていると他人と同じことしか言えなくなる。戦略的に本を読むことが大切だ」という——。

※本稿は、三谷宏治『戦略読書〔増補版〕』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。

■カシオの計算機が売れた理由

どんなにイノベイティブな商品・サービスも、そのうち競合に追いつかれ、独自性を失ってコモディティ(誰でも安くつくれるもの)になっていきます。みんなの役には立つけれど、価格も下がり、いつでも他社品に取り替えられてしまう、ちょっと悲しい存在です。

シャープの液晶テレビも、カシオの電卓もそうでした。ただ、商品自体がコモディティになってしまっても、自社にオリジナリティがあれば話は別です。世界で毎年2億台が売られる電卓にしても、AMADAやメタフィスといったデザイン性の高いものは高値で売れますし、カシオは「インド向けに特化した電卓」で成功を収めました。インド特有の「桁区切り(※)」「検算機能」に対応した商品です。

※インドなど南アジアでは、千の位(3桁)で区切った後は2桁ずつ区切る。1千万の表記。インド式:1,00,00,000、米式:10,000,000、独式:10.000.000、仏式:10 000 000

インドの商習慣にいち早く、かつ徹底的に対応したお陰で、競合の倍の値段で年間100万台売れるようになりました。オリジナリティこそがモノの価値の源泉なのです。

ヒトだって同じです。瀧本哲史は『僕は君たちに武器を配りたい』で、人材のコモディティ化について論じ、6つのスペシャリティ(独自のオリジナリティある存在)を定義しました。

①トレーダー(営業)
②エキスパート(専門家)
③マーケター
④イノベーター(起業家)
⑤リーダー
⑥インベスター(投資家)

そしてこれからの世の中では、①②はダメで、③〜⑥だ、特に「業界の裏を読める人」である⑥の力を持て、と主張しました。

■誰とでも取り替え可能な人材にならないための戦略的な読書法

まあ、みんながそこまですごくなくても大丈夫です。この6つの他にもスペシャリティはいろいろありますし、特に人間相手のサービス業では、人の存在価値は変わらず大きいでしょう。成功した④⑤の下で、しっかり働く人材も必須です。

でももちろん、誰とでも取り替え可能な大量に存在するコモディティ人材になってしまっては、話になりません。自分をこれまでより少しだけ、取り替え困難で、少数しか存在しない価値ある存在にしていくことが、必要です。つまりそれは、自身をオリジナリティある、時間効率の高い人間に高めていくということなのです。

それがきっと、みなさんの楽しい人生、変化に強く競争力のある(※)キャリアにつながります。

※最近はレジリエント(resilient)とも表現する。弾性や復元・回復力があること

読書がそれを助けます。「何を」「いつ」「どう」読むかの工夫によって、自身のオリジナリティを育て、維持することができます。情報収集や知識会得の時間効率が上がります。この「複雑で困難に満ちた」世の中が、新しいものに見える視点や視座、視力をみなさんにきっと与えてくれます。

■読書ポートフォリオで「何を」読むのか時間配分する

「『読書家なのに話がつまらない人』に欠けている5つの視点」と「ビジネス書好きなのに仕事が非効率な人に欠けている本の読み方」で紹介してきたのは、「どう」読むのかの工夫についてでした。(それぞれ「5つの視点」、「3つの技法」)

今回ご紹介するのが、「何を」「いつ」読むのかについての方法論「読書ポートフォリオ」です。

壁面の本棚
筆者提供

ポートフォリオとはもともと、紙の書類(や現金)を入れるジャバラ式の容れ物や平カバン。書類を取引先別とか、時系列で分類して、入れていきます。そこから転じて、その集められた資料や情報そのものを意味するようにもなりました。

資産が1000万円あったなら、1割は手元に現金で、5割は手堅く債券投資し、残り4割はリスクが大きい(そしてリターンも大きいかもしれない)株式投資をする。そういった分類・配分がされたものが、資産運用ポートフォリオと呼ばれます。

ポートフォリオを組む目的は、リスクとリターンのバランスを自分なりに取ることです。でもひとつの金融商品だけでそれは達せされないので、いくつかのものを組み合わせていくわけです。

読書も同じ。目的は、自分のオリジナリティを時間効率よく構築することです。でも1種類の本だけではそれは達せられないので、自分なりの分類・配分をしていかなくてはなりません。そのポートフォリオを意識して組みましょう。

軸①【ビジネス系】(今の仕事)の本か、【非ビジネス系】(趣味や将来の仕事)の本か
軸②【基礎】か【応用】や【新奇】か

例えば年間100冊読める時間があるのなら、5割はビジネス系に、残り5割は非ビジネス系に振り分けましょう。私の場合、ビジネス系の中では、基礎に2割、応用に8割。非ビジネス系の中では基礎ジャンルに7割、新奇ジャンルに3割といった感じです。

もちろんこれも、人次第。自分のオリジナリティを時間効率よく構築するために、どんな割合がベストなのか、試しながら決めましょう。

読書ポートフォリオ・マトリクス

■読書ポートフォリオを時間(成長)とともにシフトさせる

この読書ポートフォリオは、人次第でもありますが、「キャリア段階」次第でもあります。新入社員とベテランでは当然違いますし、キャリアチェンジを図るときも、違ってくるでしょう。そんな読書ポートフォリオの「シフト」を少し紹介します。

社会人1年目
【ビジネス系】にほぼ100%投入。【基礎】10冊(時間比では5)と【応用】90冊(同5)

社会人2〜3年目
【ビジネス系】と【非ビジネス系】を1対1に。【ビジネス系】では【基礎】から【応用】にシフトし、「基礎2」対「応用8」(時間比)。【非ビジネス系】では、【新奇】は1割ほどでOK

社会人5〜10年目
このあたりで己の殻を破り、幅を拡げるために【非ビジネス系】、特に【新奇】を増やす。【非ビジネス系】6割で、「基礎5」対「新奇5」程度に

キャリアチェンジ準備期
挑戦領域のものを【ビジネス系】として定義し、まずそれに集中し、①(ビジネス基礎)→②(ビジネス応用)へと回す。つまり1年間は新キャリア領域のものを徹底して読む

ここで示した配分やシフトのタイミングは、あくまで一例に過ぎません。もっと早くこれらをこなす人もいるでしょうし、遅い人もいるでしょう。自分に合わせて調整してみてください。

■半年に1回は「読書に対するメタ認知」を

そのために必要なのが、読書に対するメタ認知能力です。

・自分の読書ポートフォリオ状況(何を読むのか、読んでいるのか)を常に意識・把握する
・それを自分の成長や、そのときのキャリアの方向性と合っているかどうかを確認する。もしズレていれば修正する

ことを半年に1回くらいでいいので、意識・実行しましょう。読んだ本や読む予定の本の管理をちゃんとやりたい場合には、Webやスマートフォンアプリの「ブクログ」や「読書メーター」なんかが便利でしょう。私は使っていませんけれど……。私は本棚派なのです!

■セグメントごとに読み方を変える

読書は楽しいことが第一です。イヤイヤ読んでも頭には残りません。

でも、全体としての読書効率を上げるためには、「効率の良い読み方」もトライしてみましょう。読書ポートフォリオのセグメントごとの、効率の良い読み方をお教えします。

基本は「ビジネス系は必要なところだけピックアップ」「非ビジネス系はじっくり味わう」なのですが、そうするための前提も考えると、次のような感じの読み方がいいでしょう。

ビジネス基礎
少数の古典をじっくり読む。応用読書の基礎をつくる

ビジネス応用
成功・失敗事例やファクトのみをピックアップし、新しいコンセプトやフレームワークの学習は最小限に留める。どうせ使いこなせないから

非ビジネス基礎
ヒトやコトの本質に迫る本を選んでじっくり読む

非ビジネス新奇
売れたものや信頼する人のオススメ本を斜め読み

ビジネス系は、基礎ができていれば応用はつまみ読みで大丈夫です。

もともとがロジカルな世界なので。経営事業戦略・財務会計・マーケティング・生産・物流・人事組織・商品開発・IT・オペレーション・ロジスティクスなどの基礎をまず理解しましょう。あとはその上に立つピラミッドに過ぎません。

ただその基礎を築くために、各分野の基礎本を1冊でいいので熟読玩味しましょう。線を引いて、メモして、SNSやブログに書いて、もう1回読んで。その「基礎」さえあれば、応用セグメントではそこから何が違うのか、新しいのかだけを、気にすればいいことになります。

■非ビジネス系は本質を抽象化して記憶する

非ビジネス系は、とにかく幅が広く「すぐに何かの役に立つわけではない」本だらけですが、だからこそ「そこで得られる本質」にこだわりましょう。

ヒトやコトの本質を描いた(といわれる)名作を選び、じっくり味わいましょう。そして良いと思ったなら、その本質をちゃんと抽象化して記憶しておきましょう。

例えばSF界の不朽の名作『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)で語られるのは、新人類の誕生と旧人類(われわれ)の救助です。でもそこでの本質は「進化とは断絶である」ということなのでしょう。

われわれから生まれ出た新人類は、圧倒的な能力とコミュニケーション力を持ちます。それはままごと遊びで地球を破壊できるほどの力なのです。そんな者たちを相手に、どんなコミュニケーションが成り立つでしょうか。われわれは親ですが、子どもたちを理解すらできないことになるのでしょう。

■戦略読書でしなやかで強靭なキャリアを手に入れる

本を読む効用って何でしょう。

「2カ月で絶対痩やせる」とも「結果にコミットする」とも言えません。でも、「2年あれば自己改造は可能」です。

そのための、「何を」「いつ」「どう」読むかを変える「戦略読書」に踏み込むためには、まずは、戦闘資源の確保が必要です。

といっても、最近われわれがSNSや動画、ゲームに捧げてしまっている時間を、半分、読書に戻すだけでいいのです。それだけで、1日平均80分、2年間で約1000時間の読書時間が生まれるはず。

そしてそれを上手に振り分け(読書ポートフォリオ・シフト)、割り切って読み(セグメント別読み方)、多くの発見をする(5つの視点と3つの技法)こと。

自己改造は、その継続の結果に過ぎません。

読書には戦略が必要でした。人と同じことを言っちゃうツマラヌ人に、ならないために。

三谷宏治『戦略読書 〔増補版〕』(日本経済新聞出版)
三谷宏治『戦略読書〔増補版〕』(日本経済新聞出版)

読書とは素晴らしいものでした。人と世界、人と自分とに橋をかけ、脳を鍛えて心を豊かにし、「メタ認知能力」を与えてくれ、人生の諸先輩を凌駕するための道具ともなってくれます。

読書には戦略が存在しました。何をいつどう読むかという「戦略読書」によってわれわれは、自らのオリジナリティを磨き、効率を上げることができるようになるでしょう。

それで初めて、私たちはしなやかで強靭なキャリア(人生)を手に入れられるようになるのです。

これは決してビジネスの話だけに留まりません。「ビジネス=今メインでやっていること」と読み替えれば、NPO職員であろうが公務員であろうが、専業主婦・主夫であろうが同じです。

読書を仲間に、新しい世界へ。

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三谷 宏治(みたに・こうじ)
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
東京大学理学部卒業。BCG、アクセンチュアを経て現職。INSEAD MBA修了。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授。著書に『新しい経営学』『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『戦略子育て』『お手伝い至上主義!』など。

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(KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授 三谷 宏治)

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