歯科医が断言「食後30分以内に歯磨きをしてはいけない」

プレジデントオンライン / 2020年6月22日 11時15分

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むし歯や歯周病を防ぐには、いつ歯磨きをすればいいのか。歯科医の江上一郎氏は「多くの人に驚かれることだが、食後20~30分以内の歯磨きは避けた方がいい。食後はうがいをして、その水を飲み込むだけで十分だ」という——。

※本稿は、江上一郎『すべての不調は口から始まる』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■歯磨きには「ゴールデンタイム」がある

歯のケアについて患者さんから質問されることのうち、もっとも多いのは、「歯はいったいいつ磨けばいいのか」ということです。

逆にどうされているのかを聞いてみると、「食後すぐに毎日3回」「夕食後1回」「就寝前に1回」「食後3回+起床時と就寝前の1日5回」「毎食後に洗口液+磨くのは寝る前だけ」「食事前と後にもする」「口臭がするときだけ」「朝食後や外出前のみ」「痛いから磨かない」など、患者さんによってさまざまです。

実のところ、先述のプラークコントロールという目的と、食事と睡眠に関わる唾液の分泌と働き、それに伴う口の中の細菌の数の増減を考え合わせたタイミングがベストであり、結論から言って、私は次のように考えています。

1 もっとも重要なのは「夜寝る前」
2 次に「起床後すぐ」
3 余裕があれば「食後30分後以降」も

なぜこのタイミングがよいのかを、患者さんのケースとともに、磨くべきではない時間から順に説明しましょう。

■食後20~30分以内は磨く必要はない

患者さんの回答で多いのは、出勤や外出前の「朝食後」、次に「朝食後と夕食後すぐ」でした。しかし、これまでに述べたように、食後すぐから20~30分以内は唾液分泌も多く、口の中では歯の脱灰と再石灰化が行われているため、この間はとくに、歯磨き剤を使ってゴシゴシと磨くことは避けるほうがよいと考えています。

そのように告げると、「え、食後すぐではないの?」「学校で食後3分以内に3分間磨けと教えられたけど」と驚かれる方はとても多いのですが、歯科学的に口腔トラブルの研究が進んだいまでは、「食後すぐに磨く必要はない。食後すぐの歯磨きの場合、磨きかたによっては口腔の健康によくない場合がある」と考えられています。

その理由を簡潔に述べると、「唾液が1日のうちでもっとも多いのは、食事中と食後だから」です。先述のように刺激時唾液といって、唾液は、唾液腺が刺激されたときに分泌量が増えます。食事中と食後は、噛むことによって三大唾液腺と小唾液腺がいっせいに活発化し、唾液が急増するときです。くり返しますが、食後30分ぐらいの間までに、脱灰と再石灰化が起こって初期むし歯を修復します。

■食後の歯磨きはエナメル質を傷つける恐れがある

食後すぐに歯磨き剤を使って歯磨きをすると、せっかく分泌された唾液を洗い流すことになります。歯の再石灰化、抗菌・殺菌や消臭作用をさまたげるのです。とくに、泡立ちの成分である発泡剤が含まれる歯磨き剤を使って強く磨くと、口の中をじゃぶじゃぶと洗濯するようなもので、唾液がごっそり流されることになります。

また、食後すぐは口の中が酸性に傾いているため、歯のエナメル質がやわらかくなっています。すぐに歯を強く磨くとエナメル質に傷がつきやすくなります。また、大人の歯の特徴として、根の部分は、エナメル質の保護がなくて象牙質が露出しているため、とくに傷がつきやすい状態です。

さらに、食後は口の中の細菌は食事とともに胃に流されて激減しているため、丁寧に磨く必要もありません。日ごろは意識しないかもしれませんが、食後の口の中を思い起こしてください。ネバネバしていないでしょう。乾燥も口臭もほとんど感じることはありません。これは、口の中がサラサラの唾液で満たされて細菌もあまり存在しない、良好な状態だからです。食後30分ぐらいはその状態が続きます。

■「唾液は天然の歯磨き剤」食後は舌先で歯を磨け

食後すぐに歯を磨きたくなるのは、歯磨き剤に含まれる発泡剤や研磨剤、香料によって爽快感を得られるからではないでしょうか。

確かに、磨いた瞬間はすっきりするかもしれません。しかしそれは、歯磨き剤に含まれる薬剤成分の作用によるそのときだけの感覚です。爽快感を覚えてもらえるように配合されているのです。それによって、きれいに清掃されて口腔の健康を保っていると誤解しがちです。実際には、汚れや食物残渣(食べかす)が取り切れていないということが多々あります。

食後に歯を磨きたいときは、天然の歯磨き剤である唾液を活用してください。舌先を歯ブラシに見立てて、唾液で歯の表面を磨くようになぞりましょう。食後の歯の再石灰化にも大いに役に立ちます。口の中で多くの唾液が流れているほど、歯の表面が洗われて汚れも付着しにくくなるからです。これは食後でなくても「いつでもどこでもできる歯磨き法」です。本を読みながらでもできますので、いますぐ行ってみてください。

一方、空腹のときには口の中が乾燥してネバネバ感を覚え、口臭を自覚することがあるでしょう。この場合は唾液が不足して細菌が増えている状態です。食前に口の中のネバネバを感じたら、水を飲む、水で口をすすぐ、それができないときは、第二章の口腔トレのどれか行いやすい方法を状況によって選び、少しでも実践して唾液分泌を促してから食事をしてください。すると、唾液による嚥下機能が促進されます。

■食後は水で口をすすぎ、そのまま飲み込む

では食後、歯間などにつまった食べかすはどうすればいいのでしょうか。

食べかすを取り除いて口臭も抑え、口からのどの粘膜を潤すことができるとっておきの方法があります。それは、「食後、ひとくち程度の分量の水を口に含み、縦に4~5回と横に4~5回、ぐちゅぐちゅとすすいでからゴクンと飲みこむ」ことです。その水を吐き出すのではありません。飲むことで、口臭予防と、のどの奥までの洗浄と保湿になります。

私はこれを「ぐちゅぐちゅゴクン」と名付けて推奨しています。

患者さんには、「お父さんがよくしていて、汚いなぁと家族で話していたのですが……」と驚かれることが多い方法です。しかし、お父さんが正解です。

いまの60歳以上の世代の若いころには、食後にお茶でぐちゅぐちゅして口を洗う習慣がありました。食後すぐは自分の食べたものが口の中に残っているだけで細菌もほとんどいないので、汚いことはまったくありません。災害の現場や避難所で節水を余儀なくされる場合にも、この水すすぎで飲みこむ方法は推奨されています。飲みこむためにも、洗口剤ではなく、水や白湯、お茶ですすぐことがコツとなります。

■食後は「マイ歯間ブラシ」で食べかすを取り除く

その後に唾液を利用して、『すべての不調は口から始まる』で紹介している「舌回し体操」で歯の表面や歯ぐき、上あご、下あごをなぞってみてください。前述のように、唾液を歯磨き剤に、舌先を歯ブラシに見立てて、口の中を磨くイメージで行いましょう。

食後すぐのタイミングで実行しておきたいもうひとつのケアは、つまようじや歯間ブラシ、デンタルフロスなどで食べかすを取り除くことです。食べかすはまだ歯垢になっていないため、つまようじや歯間ブラシで容易に取り除くことができます。歯磨き剤を使わないので、唾液を洗い流すこともありません。

歯間や歯と歯ぐきの境目のブラックトライアングルにたまった食べかすを取り除くと、そこに唾液が流れてむし歯の自然修復作用である再石灰化に役立ちます。そのために、「マイ歯間ブラシ」を常に携帯するとよいでしょう。

食後すぐのタイミングでの口腔ケアには、「唾液で歯磨き+ぐちゅぐちゅゴクン+舌回し体操+歯間ブラシ」を行いましょう。2~3分でできます。

■むし歯や歯周病の多くは睡眠中に進行する

唾液の分泌が1日のうちでもっとも増える時間は食事中と食後だと言いました。では唾液がもっとも減る時間帯とはいつでしょうか。

それは、「睡眠中」です。睡眠中は体の生理的活動が低下し、涙や胃腸の運動が鈍化、呼吸器系や脳も休息し、体から排出される液体すべてが減少します。唾液の分泌量は1日1~1.5Lと述べました。そのうち、安静時の分泌量は1時間あたりの平均が約19mlであるのに対して、睡眠時は平均2mlと激減します。これは大小の唾液腺の活動がとまるためと考えられています。

甘い夢と十分な休息を楽しむ若い女性
写真=iStock.com/zGel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zGel

つまり、睡眠時は、唾液のすべての作用が期待できず、口の中は細菌が繁殖して急増します。このため、むし歯や歯周病の多くは睡眠中に進行するのです。そこで、夜寝る前に歯を磨いて、できるだけ歯垢を取り除いておくことがプラークコントロールにとって最重要になるわけです。夕食後は前述の唾液による口腔ケアをして、「寝る直前」に丁寧に磨いてください。

■寝る直前と起床直後の丁寧な歯磨きは必須

次に、朝起きたときの口内の状態に注目しましょう。口の中が渇いてネバネバしているでしょう。年齢とともに自覚する人が増えますが、そのネバネバが細菌の増殖を示しています。起床してすぐは、口の中は細菌のかたまりでいっぱいなのです。

歯磨きをしないで朝食をとると、食べ物の糖が、大量のネバネバに棲む細菌と結びつき、歯垢をどんどんつくります。また、起床してすぐに水を飲むのもいいことではありません。口の中いっぱいの細菌をのどや体内に送ることになるからです。水を飲むのは歯磨きのあとにしましょう。

毎日、朝起きたらできるだけ時間を置かずに、歯磨きをしてください。それもいきなり歯ブラシを使わないで、まずは水で口を何度かすすぎましょう。ネバネバの細菌を少しでも口の中から追い出したあとに、歯磨きを丁寧に行います。すすぎをしないで歯ブラシを使うと、細菌をブラシで口の中いっぱいにかき回すことになります。

もし、面倒なときやしんどいときは、発泡剤やアルコールを含まない、殺菌性がある洗口剤ですすぎましょう。ただし、歯垢は歯間や歯と歯ぐきの境目に付着するので、洗口剤だけでは不十分な場合がほとんどです。できるだけ歯ブラシで磨いてください。

起床後すぐに歯を磨くことで、朝食時に細菌を体内に取り込む量は減り、糖尿病や誤嚥性肺炎など体と脳への悪影響の予防に直結します。歯磨き後に口腔トレを行ってから朝食をとると、唾液の分泌量が増えて食事中の咀嚼や消化、食後の再石灰化を促すことができます。

■「起床直後と睡眠直前」と「ぐちゅぐちゅゴクン」を習慣にしよう

江上一郎『すべての不調は口から始まる』(集英社新書)
江上一郎『すべての不調は口から始まる』(集英社新書)

歯磨きのタイミングを1日の時系列で整理すると、「起床直後と睡眠直前の1日2回」は必須です。このときは時間をかけて丁寧に磨きましょう。仕事中や外出時は、「ぐちゅぐちゅゴクン」と、つまようじや歯間ブラシで食べかすのケアをします。

余裕があれば、食後20~30分を過ぎてから、軽く歯磨きをしましょう。この場合は1日に5回、歯磨きをすることになります。それが理想ではありますが、平日はなかなか難しいでしょう。

まずは「起床直後(朝食前)と睡眠直前は必ず磨く」ことを習慣にしてください。そのうえで、1日に数回の口腔トレを行うと、唾液の分泌促進とプラークコントロールが可能になります。

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江上 一郎(えがみ・いちろう)
歯学博士
1947年生まれ。江上歯科(大阪市北区。歯科、歯科口腔外科、口臭外来、予防歯科、小児歯科)院長。専門は口腔衛生・歯科口腔外科。日本歯科医師会会員。日本口腔衛生学会永年会員。日本口臭学会口臭認定医。日本糖尿病協会会員。大阪市学校歯科医会北区大淀支部長。日本学校歯科医会歯科校医永年勤続表彰。「口腔は全身の健康の玄関」「口腔ケアのカギは唾液」を掲げ、地域医療、自治体や学校、メディアで口腔ケアを啓発する。

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(歯学博士 江上 一郎)

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