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米GEが「優秀な社員だけ」に超豪華な研修を受けさせる理由

プレジデントオンライン / 2020年6月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

リーダーを育てるために必要なものとは何か。米ゼネラル・エレクトリック(GE)で人材育成研修を行っていた田口力氏は、「優秀な社員を、そのほかの社員と区別することが大切だ」と説く――。

※本稿は、田口力『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■リーダー育成に対する基本的な考え方

GEのクロトンビルは「人材開発の聖地」とも呼ばれている組織ですが、そこで行われるリーダー研修には、いくつかの特徴があります。

まず、GEにおけるリーダー育成の基本方針は、「セレクト・アンド・デベロップ」です。つまり選抜研修が基本ということになります。職能別あるいは事業部門単位で独自に行う研修には「必修」とされているものがありますが、クロトンビルのリーダーシップ研修にはありません。

『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)より
『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)より

2008年まで従業員の業績評価としては、図表1のように上位から「トップ・タレント」、「ハイリー・バリュード」、「レス・エフェクティブ」の三つの分類が適用されていました。そして、図を見てわかるようにトップ・タレントには、お金と時間、エネルギー(労力)を集中豪雨のように投下して、さらなる成長を促進します。

■選ばれなかった人がやる気をなくさないか

私がGEにいたとき、講演でこの話をすると必ずと言ってよいほどもらう質問がありました。それは、「研修に選ばれなかった人たちが、やる気をなくしてしまいませんか」というものです。

田口力『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)

この質問に対して私は、「GEでは従業員を業績によって差別化しますが、評価を固定化することはありません。敗者復活は大いにありますし、逆に最優秀者に選ばれたとしても、あるいはクロトンビルの研修を受けたとしても、将来のキャリアについては何の保証もありません」と答えていました。

さらに、「研修に選ばれなかったからといってやる気をなくすような人は、そもそもGEで働こうなどと思いませんし、GEとしてもそういう人は採用しません」と付け加えたり、「日本企業の良くない点は、ある人物に対する人事評価がなされると、その評価がずっと固定化されてしまうことではないでしょうか」とコメントを加えたりすることもありました。

■辞められて困るのは業績上位の人か、下位の人か

逆に私から聴衆に質問することもありました。「皆さんの会社の従業員を人事評価に基づいてランキングしたとき、辞められて困るのは上位20%の人ですか、下位20%の人ですか」と。

一人ひとりの従業員の業績が異なり、組織に対する貢献度がそれぞれ違っているのであれば、その違いに見合った処遇を行うべきではないでしょうか。

当然多くの企業では、給与などの昇給額やボーナスなどのインセンティブ報酬、あるいは昇進・昇格などによって、個々人の貢献に見合った相違を生みだしています。しかしなぜ研修など人材開発の機会においては、そうした相違を生み出すことにためらいを持つのでしょうか。

GEでは、研修を総合的報酬の一部であると考えています。

給与水準は、アメリカの企業で言うと、「中の上」か「上の下」というところで、決して高くありません。経済的な報酬は大したことないにもかかわらず、GEで働きたいと入社してくる人たちは、自己の成長に貪欲な人たちです。

ハードワークで知られるGEには仕事を通じた成長の機会がたくさんありますが、仕事以外にもそうした人々を引き付け、成長させ、引き留めるツールを持っています。それがクロトンビルなのです。

■十把一絡げの研修では切磋琢磨が生まれない

クロトンビルは、GEのトップ・パフォーマーたちに、彼らがお金以上に欲しがっているもの、そしてお金を払っても手に入れることができない成長の場を提供することを使命としています。

具体的に言えば、ある優秀なGEの従業員がいて、その人に他社からヘッドハンティングがかかったとします。GEよりも良い報酬や待遇が提示されます。そのようなときに、その人の頭の中に「もし転職してGEを離れたら、もうクロトンビルの研修が受けられなくなる」という思いを起こさせ、その転職のオファーを断らせることができるような研修をしなくてはならないのです。

研修には、厳しい選抜基準を経た選ばれし者だけが集います。そこは仲間との切磋琢磨の場であり、また世界中の同僚たちと結び付くことができる場でもあります。

こうしたことは、トップ・タレントから、あまりパッとしない人たちまでを混ぜた「十把一絡げ」の参加者による研修では、実現できないのではないでしょうか。

日本企業でも選抜研修が浸透してきましたが、第一期生が一番優秀で、回を追うごとにだんだんと普通の人たちが参加するようになるのは、よく見られる現象です。それでは選抜研修とは言えません。それは単に同じ階層や職能等級にいる人たちが、上位の優秀者から順番に研修を受けているにすぎません。

もしこうした現象が自社で見られるとしたら、選抜に値する人材が対象層の中ですぐに枯渇してしまう理由をよく考えなくてはなりません。単に従業員の数が少ないといった理由だけではないはずです。採用、異動、昇進・昇格などの仕組みに問題点がないか検証する必要があります。

■「個人の業績」を何で測るか

ここで先に述べた業績評価に関連して、GEにおける「パフォーマンス(業績)評価」について紹介しておきます。

狭義の業績評価は、達成することが期待される業務目標をどの程度達成したのかを評価することであり、これはどの会社でも行っていることでしょう。広義の業績評価は、業務上の目標の達成度合いだけでなく、その目標をどのように達成したかというプロセスと併せて評価することを意味します。この評価方法も、多くの企業が取り入れています。

■「Performance」と「Values」で評価をする

GEでは、図表2にある縦軸の「Performance」で、設定した業務目標に対する達成度合いを評価し、横軸の「Values」はその業績をどのようにGEバリューに則って達成したのかというプロセス評価をします。その評価のウエートは50対50です。その結果が従業員個人の総合的な評価になり、図表2の中の9個のブロックのどこかに位置付けられることになります。

GEの人事評価制度について知っている人は、以前の「9ブロック」を思い浮かべると思います。この新しい2軸による業績評価が2008年に導入されるまでは、縦軸に「全体的な評価」、横軸に「昇進可能性」を置き、チームや組織における人材をマップのようにして見える化していました。

『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)より
『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)より

■GEの個人業績評価システム

さて、各職務等級において、上位10%から15%以内に2~3年の間ランクされ続けると、研修の対象候補者として上司や担当人事スタッフに認識されます。そして毎年全世界のGEで行われる「セッションC」(人と組織のレビュー=棚卸し)を経て、個人ごとにどの研修に参加するかが決まります。

この「セッションC」も知っている人が多いと思いますが、ポイントだけ説明します。セッションCで取り上げるトピックは、「個人の業績評価」「組織の現状のレビュー」「変化のためのプランニング」の3点と、「重要なリーダーシップ・ポジションの後継者プラン」の作成です。これらについてビジネス・リーダーと人事リーダーたちが議論します。

「個人の業績評価」は、EMS(Employee Management System)をベースにして従業員一人ひとりの評価を行います。EMSはGEの全世界全部門共通の社内システムで、「社内履歴書」兼「評価記録」兼「キャリアプランナー」です。

「組織の現状のレビュー」では、人員計画や組織のあり方、組織変更プランを検討します。

「変化のためのプランニング」では、まず優秀社員をハイライトし、先述のように研修プランを練ります。次に非優秀社員に対してどのようなアクションを取るか検討します。

私がGEを退職した2014年頃、アメリカの企業で人事評価をやめる動きが出てきました。GEも翌年にかけて人事評価をやめましたので、現在ではこの制度はなくなりましたが、仕組みとして参考になると思いますので紹介しました。

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田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。

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(上智大学グローバル教育センター 非常勤講師 田口 力)

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