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「安物で壊れやすい」といわれる韓国車がインドで存在感を示すワケ

プレジデントオンライン / 2020年7月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/1970s

人口13億5000万人の巨大市場インドで、日本企業は存在感が薄い。なぜなのか。著述家のグルチャラン氏は「日本人は日本人がいるところにしか進出しない。つまり冒険心がない。日本人ビジネスマンの商人魂はひ弱だ」という——。

※本稿は、グルチャラン・ダス、野地秩嘉『日本人とインド人』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■日本企業の存在感が薄れ、韓国企業が注目を集める

インドにはスズキをはじめとして日本企業が多く進出してきています。しかし、明確に述べますが、スズキ、トヨタなどごく一部の日本企業をのぞけば、インドでは日本企業の存在感はありません。

パナソニック、ソニーについて聞いたことはあるけれど、両社の家電製品を持っているインド人はほぼいません。金融、ITといった企業についてはまったく知らないといっていいでしょう。ITの仕事をしているビジネスマンの間では、ソフトバンクは知られています。しかし、その他の日本企業のことは知りません。

インドで知られているのはアメリカ、イギリス企業。次いで、韓国企業と中国企業でしょうか。家電製品のうち、冷蔵庫、洗濯機などは韓国製もしくは中国製です。スマホはサムスン、シャオミ、ノキアです。韓国の企業についていえばサムスンのイメージは非常にいい。

しかし、ヒュンダイの車は安物、壊れやすいといったイメージを持っています。それでも、まだ韓国企業の方が日本企業よりも、一般のインド人には存在感があるのではないでしょうか。日本企業はインドの一般的な庶民にとっては知らないでもいい存在になりつつあるのです。

■「日本人は日本人がいるところに進出する」という悪癖

私は不思議に思います。バンコクへ行くと、日本企業の看板、日本食の店がいくつもある。ミャンマーにも増えつつあります。シンガポールにもある。しかし、マレーシア、インドネシアといったイスラムの国へ行くと、日本企業の知名度はタイほど高くありません。

夜のバンコク・リトル東京
写真=iStock.com/David_Bokuchava
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/David_Bokuchava

日本企業のすべてが東南アジアや世界で存在感を示しているわけではありません。日本企業のうち、トヨタ、日産、ホンダといった自動車会社だけが、かろうじて存在感を放っているのです。

そして、日本企業は存在感を示しているその自動車会社が進出している東南アジア諸国を目指している。しかし、東南アジアのマーケット規模はインドほどではありません。たとえば……。

ASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国はブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国。合わせて人口は6億5000万人。それなのになぜ、自動車会社以外の日本企業はタイ、ベトナム、ミャンマーへ進出するのでしょうか。

■日本人ビジネスマンには「冒険心」がない

答えは簡単です。日本人は日本人がいるところに進出する。日本のビジネスマンには冒険心がないからです。冷静にマーケットリサーチをしたら、各国がそれぞれの言葉や文化を持つ6億5000万人のマーケットよりも、多様性があるとはいえ、約13億人のインドマーケットへ進出するのが当然の帰結ではないでしょうか。

日本人は楽なところが好きなのです。タイのバンコクならば赴任してもいいけれど、インドのコルカタへ行くことは嫌なのです。理由は「そこには日本人がいないから」、もしくは「私が好きな種類の日本人がいないから」。

私はそこに日本人ビジネスマンのひ弱な商人魂を見ます。

インドのマルワリ商人だったら、たったひとりでマーケットを開拓するのが自分のやるべきことだとわかっています。他に同種の企業が進出しているところへ行こうなんて考えるマルワリ商人はいません。

日本人ビジネスマンがさらに成長したいのなら、日本人のいない国へ行くことです。そこでマーケットのなかに入っていって、その国にないものを持ってきて売るのです。

■スズキの孤軍奮闘に見る成功の鍵

スズキがインドの自動車市場の半分近くを占有しているのは、トヨタやフォルクスワーゲンが来ないうちにインドに進出してきたからではないでしょうか。

インドには規制はなくなりつつあるとはいえ、進出企業に大きく市場が開かれているとはまだいえません。スズキが成功したのは当初、国営のマルチと合弁で会社を設立したからです。スズキのインドでの歩みは次のようになります。マルチ・スズキ・インディアは現在の名称です。インドでは乗用車を造り、販売しています。

1982年という早い段階に、インド政府との合弁会社「マルチ・ウドヨグ」として設立されました。1992年、スズキは出資比率を26パーセントから50パーセントへ。2000年代から生産、販売台数が増えていき、インドで造った「アルト」をヨーロッパへ輸出し始めた。

2002年、スズキは出資比率を過半数の54パーセントに引き上げてマルチ・ウドヨグを子会社にして、2006年にはインド政府が全保有株式を売却、完全民営化されました。

■見下し、傲慢な態度をとる人はいなかった

スズキの成功の大きな鍵は、経済改革前の時代は政府と一緒に公的な組織としてスタートし、保護主義が薄れ、規制が撤廃された後は民間企業として成長したところです。最初から民間企業ではインドのマーケットに入ってこられなかったし、経済改革以後も公的な組織を続けていたら、生産性は落ちたでしょう。

インド・オールドデリーの通り
写真=iStock.com/Instants
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Instants

私はスズキに依頼されて講演をしたこともあります。その時、スズキの担当者が強調して言っていたのが、「スズキはローカライズをちゃんとやっている」ということ。それも鈴木修会長が直接、指示したとのこと。

日本企業に限らず、海外企業はインドに来ると、インド人従業員を見下したり、なかには傲慢な態度を取ったりする人がいます。しかし、スズキの日本人は一切、そういうことはしなかった。

■景気が悪化しても、レクサスを売りさばく販売力

グルグラム(グルガオン)はデリーから車で30分のところにあり、日本人駐在員が多く暮らしている経済都市です。そこで見たトヨタの販売店はかなりの実績を上げていました。

販売店はカーディーラーです。メーカーではなくサービス業の範疇に入ります。トヨタがインドで車を売って実績を上げているのは、サービス業として優れたカーディーラーを抱えているからでしょう。そのひとつが私の見たMGFトヨタでした。

MGFトヨタは1960年に設立され、自動車販売事業の他、不動産事業、ショッピングモールの開発等も行っています。2000年にトヨタの第一号ディーラーになったときの従業員数は23名でしたが、現在は1100名。

また、2000年の販売台数は900台で、かつ点検、修理などサービスをした車両は2800台に過ぎなかったのが今では販売が4200台、サービスは6万5600台の入庫となっています。

店舗数はグルグラムに5店、デリーに1店。同社は販売よりもサービスを重視しているようで、従業員のうち、販売担当が200名ほどなのに対して、サービス担当の陣容は870名以上にのぼっています。

2019年上半期(1~6月)のインド自動車市場は、2018年に比べると10パーセント減と縮小していますが、MGFトヨタは前年比20パーセント増を達成しているとのこと。そのうえ、同社は高級車レクサスの販売でも好調を維持しています。

インドで造った車にはむろん輸入関税はかかりません。しかし、レクサスのような高級車を輸入すると125パーセントの高関税がかかります。日本で買う倍以上の高価な車を売ってしまうのだから、MGFトヨタはサービス力と販売力のある会社なのでしょう。

■MGFトヨタが成功を収めた3つの理由

見たところ、MGFトヨタは点検修理サービスに力を入れていて、しかも、他の販売店にはない特長がありました。

ひとつは徹底した顧客志向です。「お客様は神様です」を実践していました。予約した客が車を持ってきたら、入り口の警備員が全店の従業員に向けてゲートインを知らせる。その後、すぐに世話係が飛んできて、入庫、客との面談、点検修理箇所のチェックなどを済ませる。点検、修理に入るのはそれからです。マンツーマンで客の世話をします。

店の幹部はこう言っていました。

「インドには車検システムはありません。ただし、排ガス規制があるので、お客様は一定のタイミングで車をメンテナンスする必要があります。私どもは時間と走行距離の両方に基準を設けていて、5000キロ走った時点、もしくは、買ってから6カ月経った時点で点検に来ていただきます。また、車によっては1万キロ、もしくは1年というメンテナンスタイミングになることもあります。インドのカーオーナーの走行距離は法人客でしたら、1年間に5万キロから6万キロ。個人客でしたら、だいたい2万キロ以下です」

2番目の特長は、リフレッシュメント(スナックなどの軽食)とミール(食事)を無料提供していること。インドでは顧客サービスの一環となっています。車が贅沢品に当たる新興国では、見込み客、顧客に対して、食事を提供するくらいはごく当然のサービスメニューになっているのでしょうね。

3つ目は「エクスプレス・メンテナンス」。車両点検を実質、60分で終えてしまうサービスです。インドで60分という短時間で点検をやることができるのは、トヨタの販売店だけだそうです。

■現地に関心がないトップと早く帰りたい駐在員

そういえば、私の経験に照らすと、インドに来ている日本人ビジネスマンに共通することがあります。それは「つねに日本に帰ることを考えている」こと。

インドは貧しい国、生活に不便な国、お腹を壊す国という偏見を抱いて赴任してきたのでしょう。「インドに駐在になってから、日本に帰る日をカウントダウンしている」と真顔で言うビジネスマンにも会ったことがあります。とても質の悪いジョークだとは本人は気づいていませんでしたね。

ただ、これもまたある日本人ビジネスマンに言わせれば「ダスさん、それは何もインドに限ったことじゃないですよ。東欧、東南アジア、中南米、アフリカ……、どこでも同じです」とのことでした。

問題は偏見を持っていることだけではありません。長くてもせいぜい3年ですから「自分がいる間は何もしません。問題が起きなければいいと祈っています」と思っていることでしょう。

■関心を示さず、足を運ばずに成功できるはずがない

では、彼らは何のためにインドに来たのでしょうか。そして、彼らは言います。

「日本の本社のトップはインドのことはわかりませんから。何かをやろうと思っても無駄なんですよ」

グルチャラン・ダス、野地秩嘉『日本人とインド人』(プレジデント社)
グルチャラン・ダス、野地秩嘉『日本人とインド人』(プレジデント社)

現地に関心がないトップと早く帰りたい駐在員がいる企業が、インドで業績を上げられるわけがありません。日本人にとって中国、韓国は決して相性がいいとはいえない国でしょうけれど、それでも関心はある。一方、インドはワンダーランドなのでしょう。何があるのか知らないし、関心もない。

けれど、考えてください。スズキがインドで成功しているのは、鈴木修会長が何度もインドに来ているからです。ソフトバンクの孫さんは一度、ナンバーツーをインド人にしました。さらに、インドの企業に投資しています。自分でやってきて、自分で判断しています。ユニクロの柳井さんもモディさんに会ったり、自分でインドマーケットを開拓したりしています。

そして、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インドで成功している企業のトップは全員、その地に足を運んでいます。トップマネジメントがコミットしていないのは日本くらいです。ですから、インドでは日本製品の存在感がない。金融機関も名前を知られていない。そこを変えない限り、インドで日本企業が成功することはありません。

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グルチャラン・ダス 著述家、経営コンサルタント
「タイムズ・オブ・インディア」に定期的にコラムを執筆。「ウォールストリート・ジャーナル」、「フィナンシャル・タイムズ」などに随時寄稿する世界知識人の一人。ハーバード大学哲学・政治学科卒業、ハーバード・ビジネス・スクールで学ぶ。リチャードソン・ヒンドスタンの会長兼最高経営責任者(CEO)、プロクター&ギャンブル(P&G)インディアのCEO、P&G本部の経営幹部(戦略企画担当)を務めた。小説『A Fine Family』(ペンギン)、劇作集『Three English Plays』(オックスフォード大学出版局)、エッセー集『The Elephant Paradigm』(ペンギン)などがある。ニューデリー在住。

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(著述家、経営コンサルタント グルチャラン・ダス)

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