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コロナ独自路線のスウェーデン方式、死者多数もいよいよ「効果」が見えてきた

プレジデントオンライン / 2020年6月29日 11時15分

レストランは普段通りの営業。マスク姿も見えない(4月22日、ストックホルム市内) - 写真=AFP/時事通信フォト

新型コロナ第2波の警鐘がいまだ鳴りやまぬが、いざその時が来た場合、「ロックダウンしない」スウェーデンの手法こそが日本にぴったりの方策では?

■ロックダウンしなかったのは「証拠がないから」

新型コロナの感染拡大に対して、世界中の国々で、強制力のあるロックダウンの措置が取られてきた中、WHO(世界保健機構)の出したガイドラインに沿わずに、ロックダウンしないという大胆なやり方で挑んで注目を集めたのがスウェーデンだ。休業の要請もなく、勤め人の出勤は経営者の判断次第。公共交通機関も、スーパーやカフェ、レストランも通常営業というやり方の是非をめぐっては、世界的な議論を呼んでいる。

人口が日本の12分の1ながら、6月2日時点で死者は4795人、100万人あたりの死者が507.17人と、7.55人の日本はおろか世界各国の中でも上位となっており、最近では「失敗だった」とする言説が世界中にあふれている。おおむね好意的だった日本国内の報道とは対照的だ。いったいどう評価すべきなのか。

そもそも、この発想はどこからきたのだろうか。スウェーデン政府の感染症対策の顧問であるヨハン・ジェセック教授(Prof. Johan Giesecke)の論文が、世界5大医学雑誌の1つ『The Lancet』に掲載されている(5月5日付『見えないパンデミック』)。ジェセック教授は30年にわたり様々なパンデミックを経験してきたエキスパートだ。この論文で目を引く点が2つある。まず、ロックダウンを行わない理由が「証拠がないから」といたってシンプルである点だ。

■ロックダウンしてもしなくても「死者数は変わらぬ」

世界各国でロックダウンが有効とされ、実行された根拠については、3月半ばに発表された英インペリアル・カレッジ・ロンドンの専門家チームの論文が知られている。「何もしなければ、8月までに約51万人が死亡する」という主旨で、英国政府も途中から指針としたほか、日本の新型コロナウイルス対策専門家会議が「他人との接触を8割削減する」という目標を打ち出す際の拠り所ともなった。

が、ジェセック教授はこのロンドンチームの論文について、「公式に医学誌に発表されたものでもなく、他の専門家らが精査していない、推測ベースのレポート」と一蹴。「数字は悲観的過ぎると思う」と見立てている。

「人々を感染から守るはずのハードロックダウンは、介護施設に住む老人や虚弱者を守れないことが明らかになった。また、新型コロナによる死亡率も減少しない。これは、イギリスの事例と他の欧州諸国のそれとの比較を見れば明らかだ」
「他国の施策を見ても、ロックダウンが正しいとする明確な証拠となるものがなく、それは学校の閉鎖やソーシャルディスタンスも同様だ」
「コロナウイルスには誰もが感染するが、ほとんどの場合症状が表に出ないか、出ても弱く、パンデミックの大半は水面下にとどまる」
「拡散そのものを防ぐ手立てはほとんどない。ロックダウンは(感染者・死亡者数の)グラフの曲線を平坦にはできるかもしれないが、深刻な状態となる時を先延ばしするだけだ。各国の今後1年の死亡者数は、ロックダウンする、しないに関わらず近い数値になると思う」(いずれもジェセック氏論文より)

当初はスウェーデン同様にロックダウンなしで対処していたイギリスが、ジョンソン首相本人の感染や死亡者数の急拡大を受け、180度政策を変えてしまった。ジェセック教授は「残念だった」と記している。

■ロックダウンを言い続けるのは、経済的に余裕がある人たち?

すでに各国が経験していることだが、(日本の自粛も含めた)ロックダウンで難しいのは経済活動とのバランスのとり方と、出口戦略だ。解除のタイミングがわからないのである。仮に感染者数が減ったときに解除すれば、また感染者数が増える。だからまた封鎖して……を繰り返すことになり、その間に経済活動が受けるダメージは計り知れない。感染者数の増加だけを理由に自粛やロックダウンを言い続けるのは、経済的に余裕がある人たちなのかもしれない。

もう1つの注目ポイントは、スウェーデンの施策の目的が、巷間でいわれているような「集団免疫の獲得」ではないとしている点である。すでに広く知られているが、集団免疫の獲得とは、ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持たせることによって、免疫を持たぬ人々を保護するという感染予防の手法。要するに、「感染させることで、みんなにウイルスへの抵抗力をつけさせる」というわけだが、日本も含めた他の国々でも、「集団免疫の獲得を目指しているのがスウェーデン」はほぼ通説になってしまっている。

実は、集団免疫について厳密にいうと、感染して抗体さえできれば万事OKというわけではないという。抗体ができた後でも、感染・発症するリスクがゼロではないのだ。それもあってか、スウェーデンおよびジュセック教授にとってはあくまで「結果としてついてくるもの」という位置づけなのである。

■実は「ノーガード戦法」ではなかった

では、目指す第一の目的は何だったのか。それは、あくまで「医療崩壊を防ぐこと」とジェセック教授は言う。そのための方策は単純明確で、「死亡率の高い高齢者と(基礎疾患を持つ)リスクの高い人を守ること」。他国と同様、死亡者が70代以上の高齢者と基礎疾患を持つ人に大きく偏っていたことがその裏付けの一つとされたようだ(6月24日現在、死者5209人中70歳以上が88.9%、60歳以上で95.8%)。実際、この間のスウェーデンにおける病床の数については、常に3割程度の空きをキープし続け(ストックホルム在住・吉澤智哉氏、Youtubeより)、その後も医療崩壊のエピソードは漏れてこない。

では、こうした理論は現場でどう実践されていたのだろうか。まず、まったくの“ノーガード戦法”ではなかったことには留意すべきだろう。法律で50人以上の集会は禁止、飲食店での混雑は避ける。スウェーデンへの入国禁止(国籍を持つ人、居住許可を持つ人以外)、高齢者施設への訪問は禁止。飲食店でも立ち飲みは禁止で、テーブルは1メートル半程度の間隔を開ける、70歳以上は外出自粛、等々の様々な規制はあったという。

それでも「肉を切らせて骨を断つ」やり方だけに、当然のように不協和音は起こった。3月半ばに死者が激増、イギリスが方針を集団免疫の獲得からロックダウンに切り替えた頃には、学者2000人が連名で政府に抗議したし、死者が100人を超えた4月にも20人以上の医師が政府に抗議している(現地在住・久山葉子氏ブログより)。

■感染者増で貿易相手国が「閉鎖措置」

しかし、現地に住む複数の日本人の方々のネット発信を見た限りでは、大多数の国民はほぼ納得している様子である。その根底には、政府に対する信頼度の高さがあるようだ。もともと国選選挙の投票率が80%超、若年層でも8割以上が投票所まで行くというお国柄だが、コロナに関しての情報開示の透明度も高く、特に国家主席疫学者のアンデシュ・テグネル(Anders Tegnell)氏は連日14時に行われる記者会見に出席し、記者たちの厳しい質問にもポーカーフェイスで堂々と応答。その様が国民的人気を得ているという。

スウェーデンのやり方を批判する人がその理由に挙げるのは、すでに述べた通り感染による死者の多さだ。そこは前出のジェセック教授やテグネル氏も認めている。テグネル氏は4月30日、「感染・発症する人が増えるのは計算していたが、死者がここまで増えるとは驚きだ」「高齢者の施設から疫病を遠ざけておくのは、ベストをつくしたとしても難しい」とコメントした(5月9日付豪THE WEEKLY SOURCE)。3月30日に老人ホームへの訪問を禁止したが、首都ストックホルムの400の老人施設のうち200以上が、少なくとも1例以上の感染者を出したという。

そのせいで、「輸出立国」スウェーデンはあちこちの貿易相手国から閉鎖措置を取られ、スウェーデン国立銀行はGDPで最大10%減少、失業率も10.4%まで上昇という予測数値を出している(6月5日付米ウォールストリート・ジャーナル)。

■「外出・営業の自粛と感染拡大には相関が少ない」

しかし、スウェーデン方式を全否定するのはやや早計に思われる。すでに述べたように、医療崩壊を防ぐという第一の目標は達成されているし、テグネル氏も「高齢者施設などでは、よりよい方法があったかもしれないが、感染防止の戦略はおおむねうまく機能した」「次に大きな感染が起きても同じような対策を実施するつもり」とコメントしている。詳しくは触れないが胃ろうを嫌い寝たきり老人が皆無という福祉国家独特の死生観・個人主義もあってか、国全体を揺るがすような大きな不協和音は聞こえてこない。

加えて、「ロックダウンはムダだった」論は、パンデミックの早い段階でスウェーデンのみならず随所から上がっている(過去記事『緊急事態宣言「全く不要だった可能性」の指摘も』参照)。日本国内でも、6月11日の大阪府の「新型コロナウイルス対策専門家会議」で、大阪大学核物理学センター長の中野貴志教授が、「データを見る限りでは、(外出・営業の自粛と感染拡大との間には)相関が少ない」と明言するなど、ここ数カ月で蓄積されたデータの分析によって徐々に説得力を持ち始めている。

感染の拡大そのものを食い止めるという、ロックダウンや緊急事態宣言の発想じたいが有効でないとしたら、第2波への備えとしてのスウェーデン方式は、日本にとっても十分に検討に値するのではないか。無論、感染者は増えるし、それゆえに他の国の入国禁止措置などが経済活動に及ぼすマイナスも考慮せねばなるまい。

■「簡単に死なない」日本人の強み

しかし、反省点はすでに明確だ。死亡した感染者が集中する70代、80代以上の高齢者および基礎疾患を持つリスクグループへのケアが足りていなかったことである。彼らの隔離も含めて、そのケアに様々なリソースを集中配分できぬものか。「ベストを尽くしても難しい」というテグネル氏の反省を重々踏まえつつ、である。

そもそも老人介護施設や医療施設で働く人々は、ロックダウンや緊急事態宣言の下でも自粛とは無関係に現場に赴かなければならない。現地在住の日本人によれば、スウェーデンではそうした施設で働く人々はただでさえ賃金が低いのに、病気などで仕事を休むとその初日は無給、その後も何日分かを割り引かれてしまう。そのために無理をして出勤したことが感染を拡大させてしまったという(前出・吉澤氏、Youtubeより)。

日本の場合、スウェーデン方式の最大のネックである死亡率が(理由は不明だが)欧米諸国に比べて圧倒的に低いことと、感染者の9割を超える退院・療養解除率――誤解とお叱りを覚悟でいえば、「簡単には死なない」という強みがある。ウイルスによほどの変異がない限り、経済活動を損なわずに第2波と対峙するよりよい方法だといえるのではないか。

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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。

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(プレジデント編集部 西川 修一)

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