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不支持のほうが多いのに「モンスター政治家」が当選する不条理

プレジデントオンライン / 2020年7月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SIphotography

対立と分断を煽る危険な指導者の多くは、選挙によって選ばれている。こうした人物がやすやすと権力を握るのは、彼らが仕掛ける「感情戦」によって有権者が分断され、互いに潰し合うからだ。どんな手口を使うのか。紛争解決の専門家であるビル・エディ氏が解説する――。

※本稿は、ビル・エディ著『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「対立屋」は有権者を4つの集団に分けて戦わせる

対立を煽る政治家〈対立屋〉は、「感情戦」を仕掛け、人をたぶらかしたり攻撃したりしながら、コミュニティや国家全体を分断、支配していきます。このようなことが可能になるのは、有権者がこの感情戦によって4つの集団「熱列な支持派」「憤る抵抗派」「おとなしい穏健派」「幻滅した棄権派」に分かれて、お互いに際限なく戦い続ける傾向があるからです。

ビル・エディ『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)
ビル・エディ『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)

対立屋によって分断される四つの集団について、詳しく見ていきましょう。

熱烈な支持派

対立屋の味方です。彼らは指導者のためなら何でもします。対立屋は特別な人物であり、他の人が見向きもしなかった自分たちのニーズを満たしてくれると信じ、対立屋が非難の標的を攻撃するのに賛同します。

憤る抵抗派

対立屋の強敵です。彼らは対立屋の言動を危険視し、強く反対しないとコミュニティや国が悲惨な目にあうと考えます。

おとなしい穏健派

穏健派は、対立屋の言動はおおむね政治的なものであるとみなして、政党や政策に基づいて賛成なり反対なりの票を投じます。彼らは対立屋の性格的な欠点や攻撃はささいな、あるいは一時的なものだと考え、ほぼ無視します。

幻滅した棄権派

棄権派は政治にもっとも強い嫌悪感を示し、政治には関わりたくないと考えています。自分の一票に意味があるとは思っていないため、わざわざ投票しません。対立屋も他の政治家とまったく同じだとみなしています。

図表1は、この四つの集団を図示したものです。

対立を煽る政治家による4分割
画像=『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』

■指導者と支持派は結束し、他の集団を無力化する

対立屋が感情的な攻撃を行うと、すべての集団が非常に感情的に反応し、ぶつかり合います。それによって対立を煽る指導者と支持派の結びつきはさらに強まり、他の三つの集団を無力化していきます。そのパターンは次のようなものです。

熱烈な支持派

支持派は、自分たちの指導者を批判し、自分たちを見下す抵抗派を軽蔑します。抵抗派は愛国心がなく、もしかすると邪悪な存在なのかもしれないと考えて憎みます。穏健派については、政治的中心にいる傾向が強いことから単に「エスタブリッシュメント」の代表として切り捨てます。

憤る抵抗派

抵抗派は支持派を軽蔑します。支持派がなぜ対立屋を支持できるのか理解できず、支持派は愚かだと考えます。穏健派に対しては、能天気で、対立屋の要求にやすやすと応じすぎると考えます。また、棄権派にも腹を立て、投票しないことを恥じるべきだと言います。

おとなしい穏健派

穏健派は、自分たちの穏やかな価値観に喧嘩を売ってくる支持派の極端な言動を嫌います。また、抵抗派も嫌いです。彼らのように怒り、抗議する必要性を見いだせず、それを見てうんざりさせられるからです。また、棄権派には総じて失望しています。

幻滅した棄権派

棄権派の中には、対立屋の攻撃的な性質を嫌う人もいますが、対立や分裂を招いた支持派と抵抗派にも責任の一端はあると考えています。棄権派は、両方の陣営から自分の側に投票するよう圧力をかけられていると感じ、たいていは「政治的な」人々を無視して自分の生活に集中します。

■「対立屋」は反対派の投票パターンにまで影響を与える

対立を煽ることで権力を手にする「対立屋」は、対立や混沌、危機、恐怖が続いているように演出し、この四つの集団を紛争状態や膠着状態に巧みに保ち続けます。演説を繰り返し、それぞれの集団の言動を利用して他の集団の怒りを煽るようにするのです。彼らが権力を握り、その座に居座れるのはそのためです。

興味深いことに、こうしたやり方で成人人口の40%(支持派)程度以上の支持を得ることはありません。そのため、他の三つの集団(残りの60%)がまとまればたやすく多数派になることができるのですが、この三つの集団はしばしば分断されたまま、感情的に無益なことをしています。

協調型の指導者は言葉を尽くして分断を克服し、コミュニティを鼓舞して、共通の課題を実現するために小異は脇に置くよう呼びかけますが、分断を煽る指導者は言葉を尽くして人々を反目させ、コミュニティ内部の個人や集団に対して行動を起こすように仕向けます。

皮肉なことに、対立屋はこのような対立の「両方の側」を煽ることができます。支持者をおだてつつ、分断された集団の一方を攻撃し、返す刀でもう一方の集団を攻撃するのです。この分断された反対派は、対立屋に好意を持っているわけではないのですが、別の反対派に対する対立屋の批判に同調する傾向があり、それが投票パターンにも反映されます。

■他者を「よい人」と「悪い人」に二分して集団を分断する

対立屋が支持者に標的を攻撃するよう教え込むときに用いる言動は、「スプリッティング(分裂)」と呼ばれる心理作用をもたらします。その用語が示すとおり、こうした人たちは他者を「よい人」か「悪い人」、あるいは単に「勝者」か「敗者」として見ます。対立屋にとって中間は存在しないのです。彼らが感情的に仕掛けてくるスプリッティングによって支持者はしばしば自分では気がつかないうちに、特定された人々をすべてよいか、すべて悪いかで見るようになります(図表2)。

対立屋のスプリッティング
画像=『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』

対立屋は、絶えず「よい人」や「悪い人」のことを話し続けることで、集団を分断します。そのために、噂を広めたり、脅迫のほのめかしをしたり、市民を罠にはめて相争わせたり、時には陣営の鞍替えをして他のすべての人々を狼狽させたりするのです。対立屋にとっては、個人を槍玉に挙げるだけですから気楽なものです。彼らは公的な場で攻撃を仕掛けたり、自分好みの問題で標的を非難したりしてコミュニティ全体をかき回し、その人のためになるとは限らない感情的な決定を全員に行わせます。標的となった人は、社会の中で自分の身を守る必要に迫られることに慣れていないため、しばしば恐怖に陥り身動きが取れなくなります。

■「高ぶった感情」は伝染しやすい

情報や通信、論理的な問題解決法がこれほど急速に発展した世紀に、対立屋たちはどうしてあれほど支持者を獲得し、批判する人々を恫喝することに成功しているのでしょうか。答えは単純で、彼らが他の誰よりも「感情的なやりとり」や「感情的な関係」を効果的に活用できるからです。

なにより感情は伝染します。そして「高ぶった」感情――恐怖、パニック、嫉妬、恨み、怒り、逆上――はことさら伝染しやすいのです。穏やかな感情は日常生活の一部であり、私たちの意思決定や他者とのつきあい、有意義な人間関係の構築に役立ちますが、感情が高ぶると、鼓動が速くなり、精神的な視野は狭くなり、筋肉は戦いや逃亡、硬直モードになり、論理的な問題解決を司る脳の部分が働かなくなります。あっという間のことなので、私たちは自覚することさえできません。

脳の研究者によると、私たちはお互いの感情を「捉える」ことができます。不安になっているときは特にそうです。そのとき特に大きな役割を果たす部分が脳内に二つあります。一つは扁桃体です。扁桃体が他の人の顔にあらわれた恐怖の印を見つける速度は驚くほどで、0.033秒、人によってはわずか0.017秒という速さです。

もう一つは「ミラーニューロン」です。これは、私たちが目にした他の誰かの言動と同じものを、意識的な思考なしに私たちの脳内や体内で再現してみせるもので、子供たちはもっぱらそのようにして学び、大人たちがすぐに集団行動に加われるのもそのおかげだといわれています。

■「感情表現が豊かな指導者」に従ってしまう脳の働き

また、脳の研究によれば、特定の状況で誰が権力を握っているのかはっきりとわからない場合は、もっとも感情表現が豊かな顔の持ち主が集団の注目を集めるといいます。感情表現が豊かな相手に恋してしまうのと同じように、私たちの脳は感情表現が豊かな指導者に従ってしまうのです。どちらの場合も、私たちの感情は私たちの意識のレーダーが捉えられないところで動いています。

対立屋は直感的にそのことを知っていて、常に人々を誘導します。人々は彼らの豊かな感情表現に引き込まれてしまうのですが、彼らは支持者のことなど気にしていません。後になってようやく人々は自分たちが操られて道を踏み外していたことに気がつきます。

この感情の伝染は、誰にでも起こりうるものであり、実際に起こっています。私たちは、誰もが感情的になるよう誘導されているのです。もっとも、その方向性はさまざまで、戦う人もいれば、逃げる人も、固まってしまう人も、従う人もいます。ここで学ぶべき教訓は、「私たちの側」に立っているように見える指導者が「敵に立ち向かう私たち」という言い方をしているときは、その感情的なメッセージをただ受け入れるのではなく、そのような感情の伝染の発生を監視し、みんなで協力してそれに対処する必要があるということです。

■「恐怖やテロ」を道具に分断を仕向ける

たいていの場合、人は異なる政治的傾向を持つ人々とも仲良くできます。そこにいかさま王が入り込み、その違いを繰り返し強調して、わざと人々を分断するよう仕向けたとき、深刻な問題が起こるのです。では、彼らが人々を分断するうえでもっとも強力な道具の一つとしているものは何でしょうか。

有権者の分裂を推進するもっとも強い感情は恐怖です。多くの政治家は、権力は組織力や優れた政策に由来するものだと言うのでしょうが、ヒトラーが一歩一歩権力を掌握していったように、対立屋が重視するのは恐怖やテロです。ロシア生まれの作家マーシャ・ゲッセンは、近著でウラジーミル・プーチンの来歴や大統領としての仕事ぶりを分析しながら、次のように述べています。「イデオロギーが重要だったのはほんの最初期、将来全体主義的な統治者となる者たちが権力を掌握するまでのことで、その後はテロが始まった」。

2018年のアメリカで『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』(ボブ・ウッドワード著、日本経済新聞出版)というタイトルの本が登場したのも興味深いことです。

■大切なのは、政策よりもパーソナリティ

覚えておいてください。大切なのは政策ではありません。パーソナリティなのです。

現実的には、家庭でも職場でもコミュニティでも国でも、新しいものを求める気持ちと安定を求める気持ち、知らない人に対する寛容と用心、指導者への忠誠と懐疑、恐怖に対する感受性のバランスを取るために、リベラルと保守派の双方がそれぞれに役割を持っています。ところが、対立屋は、自分が権力を握るために感情戦を用いて人々を誘導、攻撃、分断、支配して、混沌や対立、混乱、恐怖を生み出します。

対立屋が極左の場合、傾向として支持派はリベラルに、抵抗派は保守になります(ただし、対立屋に呆れて抵抗派になるリベラルもいます)。同様に、対立屋が極右の場合、傾向として支持派は保守に、抵抗派はリベラル(と、対立屋に呆れた保守)になります。これらはおもに感情的な傾向であることは覚えておいてください。

私たちはこの感情戦に対して、異なった反応をします。無意識のうちに、戦うか、逃げ出すか、固まるか、従うようになり、対立屋が選出されるのを一致団結して止めることができるはずのところで、罠にはまって意見のすり合わせができなくなるのです。

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ビル・エディ ハイ・コンフリクト・インスティテュート創設者
個人や組織が「対立屋」に対処することを支援する会社、High Conflict Instituteの共同創設者兼トレーニングディレクター。アメリカ、サンディエゴにある国立紛争解決センター(National Conflict Resolution Center)のシニアファミリーメディエーター。弁護士、臨床ソーシャルワーカーの資格を持ち、ペパーダイン大学ロースクールのストラウス紛争解決研究所(Straus Institute)およびモナーシュ大学法科大学院の非常勤講師を務める。200万人以上の読者を持つPsychology Todayのウェブサイトに連載を持つ。最新刊は『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)。

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(ハイ・コンフリクト・インスティテュート創設者 ビル・エディ)

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