1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

病院で「発達障害」と診断されたら、職場の上司に報告するべきか

プレジデントオンライン / 2020年7月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

発達障害を抱える人の中には、家族や職場に症状を理解してもらえずに悩む人がいる。精神科医の岩波明氏は「必ずしもカミングアウトしたり、理解してもらったりする必要はない」という。なぜなのか——。

※本稿は、岩波明『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■理解しない相手に対してどう接するべき?

発達障害について理解しようとしない家族や職場とは、どう接するべきなのでしょう。

特に家族の反応は両極端です。非常に保護的で、発達障害のことも良く理解した上でサポートしてくれる家族もいる一方で、まるで無関心だったり、発達障害を否定しにかかったりする家族もいます。そのように最初から理解を拒否しているような人たちに理解を求めるのは、なかなか難しいのが現実です。

それでも、日本社会において発達障害の理解が少しずつ浸透してきているのは確かです。以前は精神科の医師にすら、「発達障害なんて、そんなもの本当にあるの? メディアの話題づくりでは?」と平気で言う人が少なからずいたことを思えば、大きな進歩です。

最近の日本社会においては、発達障害という現象が実在することや、どんな症状が表れるのかなどについて、理解されてきているという実感があります。しかし、ここで大切なのは、「必ずしも理解し合わなくても生活は続けられる」ということです。

■「発達障害の分際で」と夫からモラハラ

ある発達障害の女性は高学歴で、以前に正社員として商社などでの勤務歴もあり、物事をロジカルに追究する能力の極めて高い人なのですが、家庭では夫に完全に服従していました。

お金の管理もぜんぶ夫がしていて、女性はお小遣いをもらうだけ。夫からは「お前なんか、発達障害の分際で」などと、ひどいモラハラ発言もありました。当初、女性はそんな境遇を特に不満なく受け入れていたのですが、あるとき、「こんな扱いはおかしい!」と気がついて、離婚を思い立ちました。今は、自立に向けて就職活動をしているところです。

興味深いのは、彼女が懸命に自立して働こうとしている姿を見て、夫の態度が変わり始めたことです。発達障害について理解をしたわけではなさそうですが、「働いて収入を家に入れてくれたら、それでいい」と考えているようで、夫婦関係が変化しつつあります。

■理解を求めるよりも「どう暮らしていくか」

次はADHD(注意欠如多動性障害)の男性のケースです。

彼はADHDの治療薬を飲みながら金融関係の会社でしっかり働いているのですが、家では妻の話をきちんと聞こうとしませんでした。奥さんに頼まれたことをやりませんし、すると約束したことも忘れてしまうのです。しかも、お子さんにもADHDの疑いがあるため、奥さんとしてはたまりません。

長年の夫婦間の不和が高じて、妻は、「とても一緒にはやっていけない」ということで、今は別居をしています。しかし、離婚するという話には進展しませんでした。この夫婦は別居してからの方がお互いに協力できるようになり、ひんぱんに会っては子どもの治療や教育をどうしたらいいか相談を繰り返しています。

どちらのケースも、「相手の理解」を求めるより、「現実的にどう暮らしていくか」が問題となっている点が、共通しています。

理解のないパートナーと別れて自立する道を選ぶのか、理解してもらうのは諦めて、折り合いをつける道を選ぶのか。どちらの道が正解とは言えません。本人だけでなく、パートナーの考えや感情も変化していくものだからです。

■「発達障害です」と打ち明けたほうがいいか

家族に対しては、発達障害の診断が下った時点で正確に打ち明けるべきです。それでは、職場ではどうするべきでしょう。「自分は発達障害だ」とカミングアウトしたほうがいいか?

結論から言うと、これはケースバイケースです。もちろん障害者雇用なら職場には告知されているわけで、具体的な症状や問題について積極的に話すべきですが、一般雇用の場合はどこまで話すか吟味する必要があります。もちろん、まったく話さないという選択肢もありえます。

沖田×華(ばっか)さんや小島慶子さん、また経済評論家の勝間和代さんなど、発達障害をカミングアウトする女性が増えています。それが発達障害の理解を世間に促す力になっていることは確かです。

しかし現実には、「打ち明けても理解してもらえないかもしれない」、「仕事を続けられないかもしれない」と心配に思う気持ちは、多くの当事者が抱えています。残念ながら、その不安が的中することもあると思います。

いまだに、発達障害に苦しんでいる人を前にして、「サボっているのでは」、「努力が足りない」、「そんな病気があるわけない」といった差別や偏見の言葉を口にする人もいます。

■多くがカミングアウトしない道を選んでいる

カミングアウトしたことで退職に追い込まれたケースもあります。異動だけならともかく、「辞めろ」と言われたら死活問題です。また退職にならないまでも、障害者雇用への切り替えを強く求められた例も見られました。

現実には、多くの発達障害の当事者が、カミングアウトしないという道を選んでいます。時折、問題が起きることがあったとしても、業務がある程度こなせているなら、会社から問題視されることもありません。

仕事においては、本人が自分の特性を理解して、問題となる状況にうまく対応策を考えていくことが何よりも重要です。ADHDにおいては、薬物療法により良い効果が見られることも少なくありません。

反面、幸いにも従業員どうしでサポートし合う文化が浸透している職場なら、周囲の理解と協力を得るために、カミングアウトする道はあると思います。業務内容を配慮してくれたり、場合によっては、得意な部署に異動をする選択肢を提示されたりするかもしれません。

ときには、職場の人に連れられて専門外来にやってくる人もいます。診察で得た情報は患者の個人情報ですから職場の人にすべてを話すことはありませんが、本人の了解を得た上で、「こんなところに気をつけてください」と情報を共有することもあります。

こうした点は、会社によって大きく異なっています。一般的には、IT関係の大企業は比較的理解が進んでいる印象があります。

■障害者雇用という選択肢も

最初から発達障害の特性を理解してもらえる環境で働きたい場合には、障害者雇用という選択肢があります。

一般雇用の場合、配属や転勤などにおいて、どうしても他の従業員と同じように扱われます。職種の選択の幅は広いものがあり、努力次第で昇進も可能ですが、個人の特性や希望を配慮してもらえる範囲は狭くなります。

一方、障害者雇用においては、多くの場合、職種の幅は軽作業や事務の補助などに限られており、待遇にも制限がありますが、周囲の人に特性を理解してもらえる利点があります。障害者雇用に対する理解や考え方は、企業によってかなりの濃淡がありますが、今後より拡充していくものと考えられます。

このところ、障害者雇用が一般に浸透し、企業に雇用される障害者の数は年々増加しています。

障害者雇用の対象になるのは、障害者手帳を取得している人です。従来の障害者雇用は知的障害や身体障害に限られていましたが、今は精神疾患も対象になっています。

この制度は、発達障害の当事者が働く上では、とてもいい制度だと私は思います。当事者にとってのメリットは前述の通りですし、企業の側にとっても大きなメリットがあります。つまり、発達障害の特性はあるものの知的レベルの高い従業員に、一般雇用より低めの賃金で活躍してもらえるからです。

■対人トラブルに悩む人に伝えたい

前述しましたが、職場で対人関係のトラブルを起こしやすい人には、「まず、相手の話をちゃんと聞きましょう。話したいことがあっても、相手が話しているときにかぶせて話してはいけません。それがむずかしければ、特に上司が話しているときにはしゃべらず、黙っていなさい」と、アドバイスしています。

岩波明『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春出版社)
岩波明『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春出版社)

残念なことに、いまだに日本では、やまとなでしこタイプが理想の女性像です。一歩下がって男性より前に出ず、陰ながらサポートする。このような振る舞いが、ASDにおいても、ADHDにおいても、発達障害の女性には難しいわけですが、それでも、世間にそうした理想があるということを最低限理解しておかないと、職場ではかなり不利に扱われます。

せめて、上司に反論しないように注意しましょう。特に、人前ではっきりと反論したら「アウト」です。この場合、上司は他の人の前で恥をかかされたと感じるわけで、恨まれ、後々まで尾を引くことも珍しくないでしょう。仕事をしている方は、このあたりは皮膚感覚でご理解いただけると思いますが、たいていの場合、これが日本の企業文化なのです。それから、ボスより決して目立たないことです。

■その場に「薄く入る」ことがコツ

職場はひとつの部族のようなものであり、必ずボスがいます。そのボスより必要もないのに目立つのは得策ではありません。

コツとしては、その場にいるかいないか気づかれないぐらいに、「薄く入る」こと。特にADHDの人は声が大きく、普通にしているだけで目立つことが多いのですが、意識してその逆を演じてみましょう。

目立つだけで目をつけられてしまうというのは、日本の学校でも職場でも、変わらず見られる現象です。発達障害の特性を持っていると、周囲から浮かび上がりやすいので注意が必要です。

----------

岩波 明(いわなみ・あきら)
精神科医
1959年、神奈川県生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『天才と発達障害』(文春新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)等がある。

----------

(精神科医 岩波 明)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください