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「白米は健康に悪い」科学データに基づく健康に良いもの・悪いもの

プレジデントオンライン / 2020年7月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexRaths

世の中には健康に良い食べ物、悪い食べ物の情報が溢れている。どの情報が正しいのか、正しくないのかを判断するのは難しい。そこで、科学的に証明された食事術を解説しよう。

■科学データに基づく全48品目総チェック

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がきっかけとなったのか、日常生活で免疫力を高め、感染症を予防する方法にも、人々の関心が集まっているようです。そんな中で最近、テレビ番組やインターネットを中心に広まっているのが、「免疫力アップや感染症予防に役立つ食品」の情報。しかし、それらの中で、エビデンス(科学的根拠)に基づいて、免疫力アップや感染症予防の効果がはっきりと認められている食品は、残念ながら、皆無に等しいのが現状です。

では、科学的な研究方法とは何でしょうか。医学では、研究方法によってその内容のエビデンスのレベル、すなわち、信用度も決められています。まず試験管での実験や動物実験のデータは、論外です。そもそも人体への効果など、わかるはずもありません。

人間を対象とした研究でも、①個人の体験談やエビデンスに基づかない研究者の個人的見解は、エビデンスのレベルが最も低いデータといえます。①よりもレベルが高く、統計学的な検証に値するのが②観察研究。特定の人間集団を一定期間追跡してデータを抽出し、健康に対する効果を分析します。

例えば、東京都民の中から、納豆をたくさん食べていた人とほとんど食べなかった人を選び、10年後の死亡率を調査するといった方法です。ただし、納豆をたくさん食べていた人と、ほとんど食べなかった人は、その他の健康習慣も違う可能性があります。できる範囲でそれらの影響を統計的手法を用いて取り除きますが、完ぺきには取り除くことはできません。

■納豆そのものの健康への影響をきちんと評価する

そこででてくるのが、②よりもエビデンスが強い③ランダム化比較試験です。人間集団をくじ引きのような方法を用いて無作為に同質的なグループに分け、それぞれに決まった行動を取ってもらい、その結果を追跡します。例えば、40歳の1万人を5000人ずつ、納豆を毎日1パック食べるグループと全く食べないグループに分け、10年後の死亡率を比べたりする方法。2つのグループの間で納豆を食べる習慣以外の条件がほぼ同じであるため、納豆そのものの健康への影響をきちんと評価することができます。

津川友介『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)
津川友介『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)

そして、③を上回る最強のエビデンスとなるのが、複数の③を統合解析した「メタアナリシス」。解析する研究データが多ければ多いほど、エビデンスは強くなるのです。そこで、健康効果について現在、研究結果が出ている食品のうち、エビデンスのレベルによって、5段階にグループ分けしたのが表です。

グループ1は、メタアナリシスや③で健康効果が証明された食品、グループ2は、複数の②で健康効果の可能性が示されたが、まだ効果がはっきりわからない食品と考えてください。つまり、野菜や果物、魚といったグループ1の食品を積極的に摂る一方で、牛肉や豚肉、白米のように、健康へのマイナス効果が証明されたグループ5の食品をなるべく摂らないことが、「科学的に正しい食事」だといえます。

ここで1つ、強調しておきたいのが、健康に有効なエビデンスがあるのは、“食品”であって、食品の“成分や栄養素”ではないということ。さまざまな成分や栄養素を含んだ食品を丸ごと摂らないと、健康効果は期待できないのです。食品から抽出された成分が、よくサプリメントとして出回っていますが、それが人体に有効とは限りません。成分の有効性を、動物実験でしか確かめていないようなケースも少なくないからです。中には、成分だけ摂取すると、かえって健康を害するというケースも報告されているので、注意しましょう。

ただし、一部の成分や栄養素では、健康効果に対する研究が進んでいます。例えば、ビタミンDは、複数のランダム化比較試験をまとめたメタアナリシスで、通常の風邪の予防効果が報告されています。新型コロナウイルス感染を予防する効果はまだ証明されていませんが、風邪の1~2割はコロナウイルス(新型コロナではなく旧型コロナ)であるといわれているため、今後の研究結果次第では、ビタミンDが新型コロナ予防にも有効であるという可能性もあります。

健康に良いか悪いかの5つのグループ
魚を食べていればがんは予防できるか?

■どうして魚が健康に有効なのか

島国である我が日本で、国民食として馴染み深い魚。ところが、最近では、「内臓が苦手」「小骨を取るのが面倒」などといわれて、残念ながら若者を中心に敬遠されがちです。実は、総論で示したように、魚は体にとても良い食品。そこで、ここでは「どうして魚が健康に有効なのか」を、エビデンスに基づいてご紹介しましょう。魚の健康効果を見直し、メーンディッシュとして、ぜひ活用してください。

魚の摂取量と死亡率との関係

12の観察研究のデータ(対象は合計67万人)を統合解析したメタアナリシスが2016年に発表されたのですが、その結果、魚を1日60グラム食べていた人は、全く食べなかった人よりも死亡率が12%低いことがわかりました(もっとも、魚を60グラム以上摂っても、死亡率は低下しなかったとの研究結果も出ている)。また、別のメタアナリシスによれば、魚を1日当たり85~170グラム食べていた人は、全く食べていなかった人に比べて、心筋梗塞によって死亡するリスクが36%も低かったとのことです。

そのほか、魚を食べることで、肺がんや大腸がんになるリスクが下がるという研究報告もあります。前立腺がんの場合は、魚を食べることで発症するリスクは下がらないのですが、死亡するリスクは下がるといった、興味深い研究データも示されています。

ところで、ひと口に魚といっても、タイやヒラメ、サケ、ウナギ、アユといった具合に、さまざまな種類がありますが、具体的にどんな魚を食べればいいのでしょうか。結論からいえば、いろいろな魚を日替わりで食べたほうがいいと、私は考えます。というのも、魚全般についての健康効果はわかっているのですが、特定の魚についての健康効果については、確かなエビデンスがないからです。それに、魚については近年、環境汚染による水銀やPCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシンといった有害物質の蓄積も指摘されているため、複数の種類の魚を食べることで、健康上のリスクを分散しておいたほうが得策です。

とはいえ、魚の場合、「オメガ3脂肪酸」という脂肪成分の健康効果が、高いエビデンスのレベルで示されています。例えば、イタリアなどの研究者が1993~95年に行ったランダム化比較試験によると、心筋梗塞を起こした患者さん1万人のうち、1日1グラムのオメガ3脂肪酸を3~5年服用したグループは、服用しなかったグループよりも、死亡率が14%低下しました。

日本人を対象としたランダム化比較試験もあります。オメガ3脂肪酸の一種である「エイコサペンタエン酸(EPA)」を摂取した人は、摂取しなかった人よりも心筋梗塞の発症やそれによる死亡のリスクが、19%も低下したそうです。さらに、21個の観察研究のデータを統合解析したメタアナリシスでも、魚からオメガ3脂肪酸を1日0.1グラム摂取していた人は、乳がんになるリスクが低下したと報告されました。

魚の摂取量(オメガ3脂肪酸換算)と乳がんのリスクの関係

オメガ3脂肪酸は、マグロやカツオ、サンマ、イワシ、アジ、ブリのように背中が青い、いわゆる青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種。例えば、脂の乗ったマグロの「トロ」は、オメガ3脂肪酸の宝庫といえるでしょう。ちなみに、アマニ油、エゴマ油など植物由来のオメガ3脂肪酸もあります。

つまり、青魚を毎日のように食べていれば、心筋梗塞や乳がんにかかりにくくなる可能性が高いわけです。毎日の献立の中に、青魚をなるべく採用することをお勧めします。なお、オメガ3脂肪酸の場合、それを含んだサプリメントもよく出回っていますが、魚は、ほかの栄養素も豊富なので、できれば魚を丸ごと食べましょう。

牛肉、豚肉、鶏肉、体に悪いのはどれ?

■肉は極めて旗色が悪いのが現状

肉食派の皆さんにとっては残念ですが、健康に対する効果という点では、肉は極めて旗色が悪いのが現状です。

赤い肉と白い肉

有名になったエビデンスは、世界保健機関(WHO)の専門組織である「国際がん研究機関」が、2015年に発表したレポートでしょう。その中で、世界各国の研究データに基づいて、加工肉を「発がん性あり」、赤い肉も「おそらく発がん性あり」とリスク分類したのです。加工肉の発がん性のリスクは、タバコやアスベストと同じランク。ここで注意が必要なのは、このランクはがんとの関連性の「確からしさ」によって決まるのであり、影響の強さは関係ありません。つまり、発がん性があるという強いエビデンスがあるものの、リスクをごくわずかしか上げないと報告されているものもあるので、ランクだけで一概に評価することはできません。

この「国際がん研究機関」のレポートによると、加工肉の1日当たりの摂取量が50グラム増えるごとに、大腸がんのリスクが18%上がると報告されています。また、赤い肉を1日100グラム摂取していると、大腸がんのリスクが17%増えるとされました。国立がん研究センターの研究者が、日本人約8万人を8~11年追跡調査した研究でも、加工肉や赤い肉の摂取量が増えるにつれ、結腸がんのリスクが高まる傾向だったそうです。

それだけではありません。9つの研究論文を統合解析したメタアナリシスによれば、加工肉の摂取量が多くなると全死亡率、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化による死亡率、がんによる死亡率が、いずれも上昇することがわかりました。また、5個の研究論文をまとめたメタアナリシスで、脳卒中を起こすリスクについて調べたところ、加工肉の摂取量が1日当たり50グラム増えるごとに13%増加し、赤い肉の摂取量が1日当たり100~120グラム増えるごとに11%上がることが明らかになりました。

赤い肉を食べると男女ともに結腸がんのリスクが高まる

なお、肉は肉でも、鶏肉のような“白い肉”は、体に悪い肉とはされていないので、肉を食べたい人は、鶏肉を選びましょう。代わりとなる動物性たんぱく源としては、魚もお勧めです。一方で、高齢者については、若い世代とは同列に考えないほうがいいかもしれません。食の進まない高齢者であれば、食事制限をするよりも、好きな赤い肉を食べるほうが、低栄養に陥らずにすむこともあるからです。

卵についても、「摂りすぎは体によくない」というエビデンスが示されています。16の研究データをまとめたメタアナリシスによると、卵を1日1個以上食べるグループの人は、卵をほとんど食べないグループの人よりも、2型糖尿病を発症するリスクが42%上昇しました。19年に発表された研究報告でも、約3万人を追跡調査したところ、卵を食べる量が増えると、心筋梗塞や脳梗塞になるリスク、それらによって死亡する可能性が高まったそうです。

野菜は心筋梗塞・脳卒中のリスクを減らすか?

■野菜が“体の毒”になってしまう

皆さんの中でも、野菜が「体に良い食品」だというイメージは、すでに定着しているのではないでしょうか。実際に、これまでのさまざまな研究によって、健康に対する野菜の効果は、立証されています。ただし、ここで気をつけておきたいのが野菜の摂り方。摂取の方法によっては、野菜が“体の毒”になってしまう場合さえあるのです。そこで、ここでは、エビデンスに基づいた、野菜の正しい摂り方をご紹介しましょう。

まずは、野菜の健康効果についてのエビデンスを、いくつか挙げてみましょう。なお、野菜には、キャベツやニンジン、トマトといったさまざまな種類がありますが、ここで示すエビデンスは、特定の野菜ではなく、いろいろな野菜をバランス良く食べたケースだと、お考えください(ただし、炭水化物が多いジャガイモは含めない)。

16の観察研究をまとめたメタアナリシスによれば、1日当たりの野菜の摂取量が1単位(ここでは小皿1杯分を指す)増えると、全死亡率が5%低下することが明らかになりました。なお、野菜と果物は、摂取量が多くなるにしたがって、死亡率も減っていくのですが、1日当たりの摂取量が5単位(約385~400グラム)を超えると、死亡率はそれ以上低下しないこともわかりました。

果物や野菜の摂取量と死亡率の関係

つまり、健康上のメリットが目的なら、野菜と果物の摂取量の目安は、1日5単位で十分といえます。また、脳卒中や心筋梗塞などの病気によって死亡する確率も、1日当たりの野菜や果物の摂取量が1単位増えるごとに、4%下がることもわかっています。

では、がんに対する効果はどうでしょうか。「1日に野菜や果物を5皿以上食べよう」というがんの予防運動「ファイブ・ア・デイ運動」がきっかけとなって米国で始まり、日本でも広まっているのを、ご存じの人がいるかもしれません。しかし、野菜と果物を多く摂取すれば、食道がんのリスクが下がる可能性は示されているものの、残念ながら、その他のがんでは、予防効果があるというエビデンスは、確立されていないのが現状です。

■野菜ジュースやサプリメントはいいか

さて、ここでいう“野菜”とは、スーパーや八百屋で売っている、加工されていない野菜を指します。もちろん、サラダなどで生の野菜を食べなければいけないわけではなく、煮物や野菜スープに入っているような調理した野菜、冷凍野菜でも、健康効果は変わらないと考えていいでしょう。しかし、市販の野菜ジュースや野菜ピューレのように、“加工された野菜”は別。野菜の加工食品については、健康効果のエビデンスがなく、加工のプロセスで、有効性を失ってしまっている可能性もあります。

例えば、野菜ジュースは、血糖値の上昇を抑制する効果がある野菜の不溶性食物繊維を取り除いて作られています。フルーツジュースのように、加工した結果、健康にとってむしろマイナスの効果を示すケースもあります(果物編を参照)。健康上のメリットを追求するなら、生の野菜を摂ったほうがいいでしょう。

また、サプリメントで、野菜の成分だけを手軽に摂ろうとするのも考えもの。というのも、健康効果のエビデンスが示されているのは、あくまでも生の野菜であって、野菜の成分ではないからです。例えば、トマトに多く含まれる「リコピン」は、血中濃度が高い場合に摂取するとがんや心筋梗塞のリスクが下がるという研究報告があるのですが、リコピンをサプリメントで摂ることで、実際にがんや心筋梗塞を防いだり、死亡率を下げたりしたというエビデンスはありません。

「でも、野菜の成分なんだから、とりあえず体に良いだろう」などと考える人がいるかもしれませんが、それも早計です。例えば、「βカロテン」は、ニンジンなどに多く含まれる栄養素としてよく知られていますが、サプリメントとして摂った場合、体に有害というショッキングなエビデンスが示されました。複数のランダム化比較試験の結果を統合解析したメタアナリシスでは、βカロテンのサプリメントを摂ると、膀胱がんの発症率が約50%高まり、喫煙者では肺がんと胃がんのリスクが10~20%増加することがわかったのです。体のためを考えるのであれば、サプリメントに安易に頼ることは、避けたほうがいいでしょう。

フルーツは糖尿病のリスクを減らすか?

■ジュースのように“加工された果物”

野菜編でご紹介したように、これまでのさまざまな研究によって、果物にも、健康に対する効果が認められています。ただし、野菜と同じように、健康効果のエビデンスがあるのは、“加工されていない果物”であって、ジュースのように“加工された果物”ではないことに、注意しておきましょう。それどころか、健康にマイナス効果をもたらしてしまう、果物の加工食品もあります。そこで、果物をどのように摂れば、健康上のメリットが得られるのかを、詳しく説明しましょう。

果物の摂取と糖尿病のリスクの関係

では、果物にどのような健康効果のエビデンスがあるのでしょうか。

16の観察研究をまとめたメタアナリシスによれば、1日当たりの果物の摂取量が1単位(バナナなら2分の1本、リンゴなら小玉1個を指す)増えると、全死亡率が6%低下することがわかりました。また、2013年に発表された大規模な観察研究では、果物をたくさん食べている人ほど、実は、糖尿病になりにくいことが明らかになったのです。さらに、この研究の興味深いところは、果物の種類によって糖尿病の予防効果が異なるということ。糖尿病のリスクを減らす効果は、ブルーベリーが最も高く、それに次ぐのがブドウ・レーズン、プルーンでした。

ほとんどの果物には糖尿病の予防効果があったのですが、カンタロープメロン(果肉の赤いマスクメロン)には、血糖値を上げるマイナス効果があることもわかったのです。つまり、この研究によって、血糖値が高めの人にとっては、選ぶべき果物が示されたことになります。ブルーベリーやブドウなら、積極的に食べたほうがいいが、果肉の赤いマスクメロンは、なるべく食べないほうがよさそうだというわけです。

もう1つ興味深いのが、生の果物とは違って、果物を加工したフルーツジュースを飲んでいる場合には、糖尿病のリスクが、かえって上昇してしまうという事実。1週間当たり3単位(コップ3杯分)のジュースを飲んでいた人は、糖尿病になるリスクが8%高かったのです。15年に発表された観察研究のメタアナリシスでも、フルーツジュースの1日当たりの摂取量が1単位増えると、糖尿病のリスクも7%アップすると報告されています。このように、野菜ジュースの場合と違って(野菜編を参照)、フルーツジュースには、「体に悪い」というエビデンスが示されているので、健康のためには、飲むのは控えたほうがいいでしょう。

生の果物
PIXTA=写真

ところで、ご存じのように、甘い果物には、果糖がたくさん含まれています。「フルーツジュースなら、血糖値が上がるのはわかるが、なぜ生の果物なら、糖尿病の予防に役立つのだろう?」と、不思議に思った人もいるかもしれません。確かに、生の果物を食べると、果糖を摂取することになるのですが、果物に含まれるその他の成分や栄養素も、一緒に摂れるわけです。例えば、生の果物には、血糖値の上昇を抑制する効果のある「不溶性食物繊維」も、豊富に含まれています。それに対して、フルーツジュースは、加工の過程で、大事な不溶性食物繊維が取り除かれてしまいます。

そうした結果、果糖ばかりを大量に摂取することになり、血糖値が上昇しやすくなるのではないかと考えられるのです。「それなら、フルーツジュースと一緒に、不溶性食物繊維のサプリメントも摂ればいいや」と、考える人もいるかもしれませんが、生の果物には、血糖値を下げるファクターが、ほかにもあるのかもしれません。フルーツゼリー、フルーツジャムといったように、果物を使った加工食品には、さまざまな種類があるものの、生の果物と同じような健康効果を得られるというエビデンスはありません。健康上のメリットを追求するなら、加工食品ではなく、生の果物を食べるべきでしょう。

白米、パン、ラーメン、うどん、そば、健康にいいのはどれ?

■健康に良い炭水化物

血糖値のコントロールやダイエットの目的で、炭水化物を減らした「糖質制限食」が人気を集めていることは、皆さんもご存じでしょう。健康志向の日本では、炭水化物は今やすっかり悪者扱いですが、そうした風潮に、私は大いに異論があります。というのも、総論で説明したように、確かに「健康に悪い炭水化物」もありますが、一方で、積極的に摂ってもいい「健康に良い炭水化物」もあるからです。

前者は、白米や小麦粉のような精製された「白い炭水化物」、後者は、玄米や全粒粉、蕎麦粉のような精製されていない「茶色い炭水化物」です。それでは、同じ炭水化物の食品なのに、どうして精製されたか否かで、明暗が分かれてしまうのでしょうか?

「白い炭水化物」と「茶色い炭水化物」

例えば、同じ米でも、玄米と白米では成分が違います。玄米には、胚乳のほかに胚芽、ヌカもついていて、胚芽やヌカには、食物繊維や栄養素が多く含まれています。それに対して、精白によって、胚乳だけが残されたのが白米です。同じように、全粒粉には、小麦の胚乳だけでなく、表皮(フスマ)や胚芽が入っていて、表皮や胚芽に含まれる食物繊維や栄養素も豊富。一方で、精製によって小麦の表皮や胚芽を取り除き、胚乳だけを残したのが小麦粉なのです。つまり、茶色い炭水化物から精製によって失われた成分には、健康に役立つ優れた働きがあったと考えられるわけです。

ここで、茶色い炭水化物に、どのような健康効果があるのか、エビデンスに基づいて明らかにしましょう。

白米の摂取量が多いほど糖尿病リスクは高くなる

米国や英国、北欧などの研究(78万6000人が対象)を統合解析したメタアナリシスによれば、茶色い炭水化物を1日70グラム摂ったグループは、ほとんど摂らなかったグループよりも、死亡率が22%低下しました。7つの研究を統合解析した別のメタアナリシスでは、茶色い炭水化物の摂取量が多い(1日に2.5単位以上)グループは、摂取量が少ない(1週間に2単位未満)グループに比べて、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化によって起こる病気になるリスクが、21%も低かったのです。

さらに、玄米を1週間に200グラム以上食べる人は、1カ月に100グラム未満しか食べない人に比べて、糖尿病のリスクが11%減少するという研究報告もあります。

■白米の代わりに食べたいものとは

反対に、日本の国民食であり、白い炭水化物の代表ともいえる白米については、残念ながら、少量でも健康によくないというエビデンスが示されています。国立国際医療研究センターの研究者らが日本人を対象に行った研究では、男性では、白米を食べる量が1日お碗2杯以下(1杯を160グラムと換算)の人に比べて、1日お碗2~3杯の人は、5年以内に糖尿病になるリスクが、24%も高いことが明らかになりました。女性では、白米を1日お碗1杯しか食べない人に比べて、お碗2杯食べる人は15%、お碗3杯食べる人は48%、お碗4杯食べる人はなんと68%も、糖尿病になるリスクが上昇しました。

その研究を含む4つの研究結果をまとめたメタアナリシスによれば、白米の摂取量がお碗1杯(158グラム)増えるごとに、糖尿病のリスクが11%アップしました。この研究では、白米の摂取量が増えるにつれて、糖尿病のリスクも上昇するという相関関係が見つかりました。つまり、健康のためには、白米を食べるのはなるべく控えるのがいいと、結論づけられるわけです。

とはいえ、米は日本人の主食。「米を食べるなと、今さらいわれても無理」という人も少なくないでしょう。そこで、どうしても米を食べたいという人は、白米の代わりに、玄米を食べるようにするといいでしょう。

バターとオリーブオイル、どっちが健康に良い?

■オリーブオイルとナッツ類

日本伝統の「和食」は、「ヘルシーフード」としても今や世界中で注目されているようですが、実は、健康効果のエビデンスが世界で最も強いのは、イタリアやスペインのような地中海沿岸地域で食されてきた、「地中海食」だということをご存じでしょうか。魚とともに地中海食のメーンの食材となるのが、オリーブオイルとナッツ類ですが、それら2つの食材に、健康効果のカギがあることがわかったのです。

では、地中海食とオリーブオイル、ナッツ類には、どのような健康効果があるのでしょうか。

世界でも権威のある医学誌として有名な『ニューイングランドジャーナル』に2013年、地中海食の健康効果を確かめた、ランダム化比較試験の結果が掲載されました。その試験では、喫煙歴があって、心筋梗塞などを発症していない約7500人の糖尿病の患者さんを、①地中海食(表を参照)の栄養指導を受け、1週間ごとに約1リットルのオリーブオイルをもらうグループ、②地中海食の栄養指導を受け、ミックスナッツを1日当たり30グラムもらうグループ、③地中海食の代わりに、低脂肪食の栄養指導を受けたグループに分けました。

約5年間追跡調査したところ、③に比べて、①は、1日当たりのオリーブオイルの摂取量が50グラム多く、②は、1日当たりのナッツの摂取量が25グラム多かったそうです。そして、脳卒中や心筋梗塞になり、それらによって死亡するリスクは、③に比べて、①は30%、②は28%も低下したのです。脳卒中のリスクだけに絞ってみると、③に比べて、①は33%、②はなんと48%も減っていました。さらに、地中海食によって、乳がんになる確率が57%も減るという研究データも示されたのです。

研究で用いられた地中海食の栄養指導

■地中海食が糖尿病になるリスクを、30%低減

別の研究では、地中海食が糖尿病になるリスクを、30%低減させるというデータも報告されています。16年に米国で発表されたメタアナリシスによれば、地中海食を食べ続けた人は、そうでない人に比べて、がんの発生率が4%、がんによる死亡率が14%、大腸がんになるリスクが9%低いこともわかりました。

オリーブオイル
PIXTA=写真

地中海食とオリーブオイル、ナッツ類の健康効果のエビデンスが、いかに強いかということは、おわかりいただけたでしょう。オリーブオイルは同じ油でいうとバターと比較しても健康に良いといえます。バターは悪玉(LDL)コレステロールを上げるからという観察研究があるからです。

地中海食の栄養指導の表をご覧になれば、地中海食が、総論で説明した「グループ1の食品」と、ほぼ重なっていることにお気づきになるでしょう。つまり、生の野菜や果物、魚介類、白い肉(鶏肉)を豊富に食べ、オリーブオイルやナッツ類をふんだんに使う地中海食こそ、科学的に正しい究極の食事の1つといえるわけです。皆さんも、地中海食を日常生活に積極的に取り入れて、健康づくりに活用してみてはいかがでしょうか。

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津川 友介(つがわ・ゆうすけ)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教(医療政策学者、医師)
日本で内科医をした後、世界銀行コンサルタントを経て、ハーバード公衆衛生大学院で修士号(MPH)、ハーバード大学で医療政策学の博士号(PhD)を取得。専門は医療政策学、医療経済学、統計学(因果推論)。著書に『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)など。

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(カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教(医療政策学者、医師) 津川 友介 構成=野澤正毅 図版作成=大橋昭一)

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