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感染リスクを激減! 名医が教える病気にならない生き方10

プレジデントオンライン / 2020年7月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jay Yuno

新型コロナウイルスの第2波襲来が確実視されている。そこで、生活習慣の改善で免疫力を高める方法を紹介する。

■【感染症対策】ものをいう免疫力と生活習慣

何らかの病原体が体に侵入し、発症するものを「感染症」と呼ぶ。

感染症のなかで、私たちがかかる頻度が最も多いものは「風邪」だろう。だが風邪は病名ではなく、医学的には「上気道炎」「咽頭炎」による発熱や悪寒、鼻水、咳、のどの痛み、下痢などの症状があるときに使われる総称だ。

風邪を引き起こすウイルスや細菌は約200種類近くも存在し、風邪の原因の約9割がウイルスと覚えておこう。代表的なものに春秋に流行するライノウイルス、冬の風邪代表の従来のコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどがある。ちなみに2009年に新型インフルエンザが流行したように、同じウイルスでも遺伝子が変異すると全く様相が異なる。

世界中で流行している新型コロナウイルスも、冬の風邪の10~30%を占める風邪ウイルス、重症肺炎を生じるSARS、MERSに続き、7番目に登場してきたものだ。

抗生物質は、溶連菌感染症など細菌によるものには効くが、コロナウイルスを含めたウイルス感染の風邪には効果がなく、根本的な治療薬はない。あるのは鼻水を止めたり、熱を下げるといった対症療法だ。インフルエンザなどの抗ウイルス薬も、ウイルスを“壊す”薬ではなく、ウイルスの“増殖を抑え”て治癒を助けるものにすぎない。

「ウイルスを退治するには、自分の免疫システムに頼らざるをえない」と、東京医科歯科大学臨床教授で、総合内科専門医の大和田潔氏(秋葉原駅クリニック院長)が説明する。

「免疫システムには、生まれながらに備わっている自然免疫と、標的が現れたときに活躍する獲得免疫と呼ばれるものがある。加齢によって、また体力が落ちると両者の免疫システムが低下します。ただの風邪も、肺炎などという侮れない状態に陥ってしまいます」

つまりウイルス感染症を予防するのも治すのも、自分の免疫力や生活習慣がものをいうのだ。マスクやうがいをはじめ、さまざまな予防法を何となく実行している人が多いかもしれない。そんな習慣を科学的視点から検証してみた。感染症対策に役立ててほしい。

■(1)マスク 手洗いとの併用でインフル最大51%減

現在国内では外出時に「マスク必須」という雰囲気だが、健康な人がマスクを着けた場合の予防効果については明らかでない。ウイルスの感染経路は3つ──ウイルスそのものを吸い込む「空気感染」、ウイルスの付いた手で目や口に触れ、粘膜から体内に侵入する「接触感染」、感染者の咳やくしゃみによってウイルスを含むしぶき(飛沫)を吸い込むことで起きる「飛沫感染」がある。はしかや水疱は空気感染もするが、通常は飛沫感染と接触感染が主流になるため、この2つの感染経路を遮断することが重要だ。

マスクをし、かつ手洗いをすればインフルエンザ発症率を51~35%減らせるという報告がある(『米国感染症学会誌』)。またSARSも7つの研究の解析において、手洗いによって感染リスクが低下することがわかっている。子供が手洗いをすることで、呼吸器感染症などの発症率が減少する報告もある。マスクだけにこだわらず、食事前や帰宅時の基本的な手洗いを忘れずに。

また、ウイルスそのものの大きさは0.1マイクロメートルほどで、花粉の100~1000分の1くらいの非常に小さなサイズ。そのため一般的なマスクではほぼ通り抜けてしまう。ただし、鼻水やくしゃみによってウイルスのまわりが水分で覆われたものはサイズが大きくなるため、満員電車のような閉鎖空間で、感染者と非感染者がお互いにマスクをすれば飛沫を防ぐうえでの一定の効果はあるかもしれない。しかし、屋外でこれからの時期にマスクを着用することは、むしろ熱中症が心配である。

■(2)水うがい 水道水で1日3回風邪の発症率36%減

たとえウイルスが体内に入っても、上気道の粘膜細胞に吸着して感染症状を引き起こさせないことが肝要であるため、うがいはしたほうがいい。実はうがいは日本独自の習慣で、平安時代に始まったとされる。語源は鵜飼(=鮎漁で鵜に魚をのみ込ませ、あとで吐き出させる漁法)に似ていたからとの説も。欧米諸国では1918年のスペイン風邪が流行したときにうがいを推奨する記事が学術誌に掲載されたが、以降は下火に。しかし最近になり、うがいの科学的根拠が集積されつつある。

水およびヨード液を用いたうがいの有効性

18~65歳の約380人の健康なボランティアを「水うがい群」「ヨード液うがい群」「特にうがいをしない群」に振り分け、60日間風邪の発症リスクを検証した研究がある。うがいは1日最低3回、1回およそ20ミリリットルの水またはヨード希釈水で15秒実施し、参加者は鼻水や咳、熱などの14の風邪症状を4段階(なし、軽症、中等症、重症)で毎日評価した。その結果、うがいなし群と比べて、水うがい群は風邪の発症が36%低下。ヨード液うがい群では明らかな差が出なかった。また水うがい群では風邪をひいた場合も気管支症状が軽く済む傾向が見られたのだ。

ヨード液では抗菌・抗ウイルス作用が強く、喉や口腔内の良い菌も殺してしまうのではないかと考えられている。普通の水道水で1日3回のうがいを。

■(3)緑茶 含まれるカテキンでインフル発症率87%減

さらに緑茶によるうがい、緑茶を飲む習慣も、感染症発症リスクを低下させる。「緑茶カテキン」を用いたうがいによる効果を研究する静岡県立大学薬学部教授の山田浩氏に話を聞いた。

「老人ホーム入所者を対象に行いました。うがいに緑茶カテキン(市販のペットボトル緑茶の半分のカテキン濃度)を使った群では1.3%(76人中1人)しかインフルエンザを発症しなかったのに対し、使わない群では10%(48人中5人)も発症しました。カテキンの抗菌・抗ウイルス作用が働いたと考えられます。別の研究で小学生約2000人を対象に緑茶の飲用習慣とインフルエンザ発症のアンケート調査をすると、適度な緑茶飲用(一日5杯まで)が発症率を減少させる傾向にありました」

また山田氏らは急性上気道炎(風邪)についても、カテキン57ミリグラムを1日3回摂取すると、発症率が半減することを2019年末に国際科学雑誌『Nutrients』に発表した(図2)。

カテキンと発症率の関係

ただし小学生への調査以外は緑茶そのものでなく、あくまで緑茶主成分のカテキンを抽出した研究。十分な証明に至っていないため「今後研究を継続する予定」(山田氏)という。

とはいえ緑茶に含まれるカテキンには、急性感染症に対して抗ウイルス作用を示す多くの報告がある。細胞実験では緑茶に含まれるカテキンが、ウイルスの増殖を抑制している。緑茶を生活に取り入れるのは感染のリスク低下になるはずだ。

■(4)歯磨き 口腔内の清潔保ちインフル発症率90%減

うがいも口腔内を清潔に保つことにつながるが、最も重要であるのは歯磨き。デイケア施設に通う高齢者190人を専門家が口腔ケアをする群と、セルフケア群に分けて追跡したところ、6カ月後に専門家がケアしていた群はインフルエンザの発症率がほぼ10分の1に抑えられていた(図3)。風邪の発症頻度も明らかに低い。プロが磨くと発症率が激減、すなわち口腔内の清潔が感染症予防に有効ということだ。

口腔ケアでインフルエンザの発症率が減る

健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「口腔内環境が悪い人は、免疫物質IgAが少ない」と話す。

「IgAとは侵入してきた病原体にくっついて無力化するように働く免疫物質です。健康な人116人を年代別に4群に分けて、唾液と血清中のIgAを測定した研究があります。すると、1分間当たりに分泌された唾液中のIgAは加齢とともに低下することがわかりました。年を取るほど歯磨きを丁寧に行うことが大切でしょう」

特に就寝中に唾液に潜む菌が気管支に入り込むと、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まる。夜はしっかりと。

■(5)睡眠 5時間以下だと風邪発症4.5倍に

続いて、唾液中のIgAと睡眠時間の関係をみた研究では「睡眠が6時間以下で短いほど唾液中のIgAの分泌量が低下していた」と望月氏。

「免疫細胞の司令塔であるT細胞が病原体などの情報を記憶し、次に体内に侵入したときに備えるためにも睡眠が必要という報告もあります」

実際に睡眠時間の短さで発症率が上昇する研究もある。

睡眠の質が低いほど風邪をひきやすい

カリフォルニア大学で健康な約160人を対象にライノウイルスが入った点鼻薬を施し、睡眠時間を記録したうえで風邪を発症するかどうか調べた(余談だがウイルスを体内に入れて研究するその手法に驚く)。結果、7時間以上の睡眠が最も発症しにくく、5時間以下の睡眠の人は7時間睡眠に比べて4.5倍も風邪を発症しやすかったのだ。

睡眠時間だけでなく“眠りの質”も関係する。20代から50代の健康な男女153人に、風邪のウイルスを鼻から投与し、5日間ホテルで過ごさせた。実験前の2週間、良い眠りが得られているかを評価し、3群に分けて風邪の発症率を調べたところ、眠りの質が低いほど風邪の発症率が高かったのだ。

忙しいビジネスパーソンも、せめて睡眠は「5時間」を切らないように、かつ質を高める工夫をしよう。

■(6)飲酒 毎日お酒を飲むと風邪のリスク54%低下

べろんべろんに酔っ払うのは決してお勧めしないが、「適度な飲酒」なら悪いとはいえない。東北大学大学院教授の永富良一氏らが、仙台で勤務する30代後半から50代後半の勤労者約900人を対象に、過去1年間の「風邪発症と生活習慣」の関連を調査したところ、特定の食べ物摂取や運動量よりも「アルコール頻度の高い人」が風邪にかかりにくいという結果であった。

「あくまで飲酒“量”ではなく“頻度”です。アルコール頻度が▽週3回以下▽週4~6回▽毎日で比較すると、毎日飲む人は飲まない人に比べて風邪にかかるリスクが54%も低下したのです」

ストレス軽減や血流改善で免疫力を高める側面があるのかもしれない。特に上気道(鼻まわり)を温めることもいい。しかし、飲みすぎは免疫力を確実に低下させる。

「ジョージア州で行われた調査では新たに発症した結核患者の半数近くがアルコール依存症者でした。日本においても結核患者は都市部に偏在し、路上生活者やアルコール依存症との関連が指摘されています」(望月氏)

大和田氏も「血圧が上がり、糖代謝にも悪影響がある。ネガティブな作用も考えて適量で」と話す。「寝つき」はよくなるが、「睡眠の質」を低下させるため、ほどほどに。

■(7)日光浴 ビタミンD補給でインフル発症率50%減

「感染を防ぐ」というより、「免疫力を高める」観点から最重要ポイントが日光浴。もともと日光はシミの原因や、皮膚がんの発症に関与するとして嫌われてきたが、極端に日光を遮る現代生活では体内の「ビタミンD」が不足する可能性がある。ビタミンCなど、ほかのビタミンは体内で作れず食事から摂取する必要があるが、ビタミンDだけは日光浴によって唯一自分の体内で作れるホルモンの一種であるためだ。

近年、ビタミンDは「万病に効果アリ」と、みられるようになってきた。

米国医師会雑誌『JAMA』に17年、ビタミンDを補給しているとインフルエンザの発症率が50%減少したという研究をはじめ、ビタミンDのサプリメント(サプリ)を取り始めて14日後から30日までの間はインフルエンザの発症を抑えられるなど、インフルエンザには有効という研究が多数報告されている。国際共同研究で1万人以上を対象に、ビタミンDのサプリとプラセボ(偽薬)を試した結果、サプリを飲むと気管支炎や肺炎などの発症を20%抑えることもわかっている。

また“肺の健康”を保つのにも重要だ。18年、世界最高峰の栄養研究者が集う学術誌『ジャーナル・オブ・ニュートリション』で「血中のビタミンD濃度が低いと間質性肺疾患を発症するリスクが高まる」と発表された。喘息やたばこ病などの呼吸器疾患の発症や進行の予防にも有効とされる。

さらに血中のビタミンD濃度が高いほど、全死亡率も減少することがわかっている。英国医師会雑誌『BMJ』で14年、「血中のビタミンD濃度が10ナノグラム/ミリリットル低下すると、死亡率が16%上昇する」と発表された。

残念ながら新型コロナウイルスについてはいくつか最新論文が報告されているものの、有効といえるだけの根拠は不十分。しかし感染症から身を守るためには十分なビタミンDの血中濃度を維持する必要があるといえるだろう。

元北里大学教授で日本細菌学会名誉会員の熊沢義雄氏によると「大半の日本人は不十分か欠乏状態」という。

「日本内分泌学会などが17年に発表した新しいガイドラインでは30ナノグラム/ミリリットル以上の血中濃度が推奨されています。20~29ナノグラム/ミリリットルだと不十分、19ナノグラム/ミリリットル以下が欠乏といわれる。しかし厚生労働省の日本人食事摂取基準によれば、成人が一日に食事から摂取すべきビタミンDの目安量(一日5.5マイクログラム)。これでは推奨濃度に全く届きません。長野県の閉経後の女性を対象にした研究では、ほぼ半分の人がビタミンDの血中濃度が20ナノグラム/ミリリットル未満でした」

ビタミンDが豊富な食品は何か。ビタミンDにはD2とD3があり、植物由来のD2はきのこ、しいたけなどに、動物由来のD3は鮭やクロマグロなどに多く含まれ、体内で実際に働くのはD3といわれる。前出のBMJの論文でも、ビタミンD2のサプリだけでは死亡率が低下しないと報告されている。

とはいってもガイドラインの血中濃度を食事のみで維持するのは難しい。海外ではサプリから摂取することが常識といえるが、国内で販売されるサプリはビタミンD含有量が少なく、D2、D3の表記がされていないものも多い。

やはり日光浴を心がけよう。

「しっかり日光を浴びれば、一日で75マイクログラムものビタミンDを作れるといわれています。日光浴のみで推奨濃度の9割に達するという説もある」と熊沢氏も言う。この時期はせめて手や腕には日焼け止めを塗らず、一日に20分は日の光を浴びたい。

■(8)血圧安定 生活習慣病を治し免疫細胞を活性化

ところで今回の新型コロナウイルスの感染では、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を抱える人の重症化や死亡率の高さが指摘されていた。

大和田氏は「特に糖尿病があると肺炎を起こしやすい」と説明する。

「糖尿病は体の免疫力を低下させ感染症を起こしやすく、悪化しやすくなります。わかりやすい例としては細菌をパクパク食べてくれる白血球の機能低下によって細菌やウイルスに対抗する力が弱くなることです。

高血圧は、心臓や血管に負担をかけて慢性的な炎症を起こします」

ウイルスは細胞に取り付き、増殖して細胞外に出てほかの細胞に再感染することを繰り返す。取り付く場所によって肺の病気を起こすこともあれば、消化管に入って胃腸炎を起こすこともあるという。

「脳炎や心筋炎もありえます。重症化を防ぐにはウイルスをいかに免疫細胞がやっつけてくれるか」(大和田氏)

免疫細胞が効率的に働けるように糖尿病の管理、血圧の安定といった、生活習慣病を放置しないことが感染しても重症化させない大きな鍵になる。

■(9)体形維持 太りすぎも痩せすぎも重症化・死亡リスク増

その人の生活習慣の“積み重ね”が大きく表れるのが、体形。

医学会のトップジャーナル『NEJM』に11年、100万人を超えるアジア人のBMI(=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))と死亡リスクの大規模研究が発表された。

その結果、BMIが23~27の間が最も死亡リスクが低かった。あらゆる死亡リスクを下げる研究結果であるため、当然そこに感染症も含まれる。日本肥満学会はBMIが男女とも22のときに高血圧や高脂血症、肝障害などの有病率が低くなるとしているが、死亡リスクとして考えると、それよりもやや太り気味までOKということだ。

「肥満も痩せすぎも免疫力を低下させます。またタンパク質不足は筋肉低下につながり、体温が低くなりやすい。タンパク質は免疫細胞や抗体の材料でもあるので、特に痩せている人は意識して摂取を。肥満に関連したホルモンは炎症を促進し、病態を悪化させる恐れがあります」(望月氏)

肥満者がインフルエンザに感染すると重症化しやすいという報告もある。米ミシガン大学公衆衛生学部の研究で、インフルエンザにかかった肥満の患者は、肥満ではない患者に比べてA型インフルエンザウイルスを排出する期間が2倍になることがわかったのだ。

最近、外出自粛で「コロナ太り」が増えていると聞くので心配だ。

太る理由として大和田氏は「体内時計の乱れ」を指摘する。

■(10)体内時計 リズムがズレると免疫力60%ダウン

私たちの身体機能にはリズムがある。睡眠と覚醒、血圧の高低、筋肉の収縮弛緩、自律神経の切り替えなど、さまざまな形で規則的な周期を繰り返す。

体内時計に詳しい明治大学農学部准教授の中村孝博氏によると「人は全身のほとんどの細胞の中に、時計遺伝子が作り出す“時計”を持ち、24時間周期の概日(サーカディアン)リズムを刻んでいる」という。

「体内時計は体のそれぞれの生理機能が、最も働くべき時刻にピークを迎えるように整えてくれます。例えば、いつもの起床時刻が近くなると血圧を上昇させ、目覚めた直後から活動できるように。午後から夕方にかけても、人がもっとも活動的になることを見越して心拍数や血圧を上げようとします」

時差ボケで免疫力が落ちる

このリズムが乱れると病を発症し、免疫力が低下することがわかっている。マウスの研究で、日常より6時間ずらした活動時間を週に1回、4週間続けた後に、過剰な免疫反応を引き起こす薬剤を投与すると、活動時間をずらさなかったマウスと比べて生存率がおよそ6割低下していたのだ(図5)。

「海外旅行などで日本とは時差のある国へ出かけた場合、いわゆる時差ボケを経験しますよね。現地の環境に合わせようとしても頭がボーッとしてうまく働かない。同じことが体内時計の乱れでも起こり、ホルモン分泌や臓器の働きに影響します。ポリスオフィサー(米国の警官)を対象にした調査でも、7日間の交代勤務によって免疫システムの異常が報告されています」

体内時計は細胞内の10種類以上の時計遺伝子のやりとりで作られる。

中村氏は体内時計をオーケストラにたとえ、「体内時計の司令塔(中枢時計)が指揮者、さまざまな臓器に存在する時計(末梢時計)が楽器演奏者のような感じ」と話す。

中枢時計とそれぞれの末梢時計の足並み(演奏)が乱れると、正しいリズムが刻めなくなる。すると例えばメラトニン(睡眠ホルモン)分泌が抑制されるなど、「正しい夜」が生み出されなくなる。うつ病の発症リスクが高まり、心身の不調を招きやすい。

「外出自粛が長引き、昼間の眠気、夜の熟睡が少なくなっている人が増えています」と大和田氏も言う。

「サーカディアンリズムを保つには交感神経(オン)と副交感神経(オフ)の上手なスイッチ切り替えが必要です。猛烈に働く社員が突然死するのは交感神経が常時過剰に優位になった結果。一方でテレワークでは副交感神経優位の状態が続きやすい。スーツを着るなどの機会も減ってリラックスモードで過ごしてしまう。普段の朝にバシッと出るホルモンが分泌されず、常にグレー状態に……。生活にメリハリがあるほうが免疫力が落ちにくいのです」

■何を食べても、いつもより太りやすくなってしまう

一例として、脂肪を溜め込む働きのある時計遺伝子の1つ、BMAL1も本来なら夜に大きく増えるが、体内時計の乱れで一日中ずっと分泌されているような状態になれば、何を食べてもいつもより太りやすくなってしまう。

「年をとるほど1度乱れたリズムを元通りにするのに時間を要する」(中村氏)こともわかっている。

対策としてはパンチの効いたリセットをすること。在宅勤務の場合もできる限り日中は日光を浴び、反対に就寝前は明るすぎる場所を避ける。そしていつも通りの時間に食事をする。朝型でも夜型でもいいが、日々“規則性”を保つことが重要なのだ。

さて体内時計の研究が進み、病気の発症にも時刻が関係することがわかってきた。感染症対策にちなんで最後に面白い報告を紹介しよう。

図6を見てほしい。ウイルス感染と細菌感染で発熱時刻が違うのだ。

細菌感染による発熱とウイルス感染による発熱

「古い研究ですが急性発熱を起こした幅広い年代の約2000人を対象に分析すると、細菌性の発熱は午前8時のピークが多く、ウイルス性は18時付近という傾向にありました。最初にいつ熱が上がったかどうかで、ウイルス性か細菌性かを判断する、1つの診断目安になると思います」(中村氏)

個体が違っても発熱時刻(リズム)は一緒。誰の体でも時計遺伝子が常に働いているのがわかるような研究結果だ。感染症の発症リスクを下げる生活習慣と、自分なりのリズムを大切に。

▼鼻まわりを温めるとウイルスが増殖しにくい
冒頭に記したライノウイルスは、温度が低い環境で増殖することがわかっている。ライノウイルスは33度で培養した細胞に感染すると、その細胞を壊してしまうが、37度であれば壊れない。「つまり、鼻まわりの粘膜細胞の温度が保たれていると、感染症の原因ウイルスが侵入しても増殖しにくくなる可能性が高い」と永富教授。人の体内の奥深くや口腔内はおよそ37度。33度は鼻腔内の一般的な温度だ。寒い環境では空気の入り口である鼻腔内を冷やさないようにマスクで保温も良し。

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大和田 潔
大和田 潔(おおわだ・きよし)
東京医科歯科大学臨床教授
東京生まれ。福島県立医科大学卒業後、東京医科歯科大学医学部大学院修了。秋葉原駅クリニック院長も務める。
 

山田 浩
山田 浩(やまだ・ひろし)
静岡県立大学薬学部教授
1981年、自治医科大学医学部卒業。94年、同大学大学院医学研究科博士課程修了。専門分野は臨床薬理学など。
 

望月理恵子
望月理恵子(もちづき・りえこ)
管理栄養士・健康検定協会理事長
企業や医療機関の監修・栄養顧問として、栄養・美容学の分野で情報発信を行う。
 

永富良一
永富良一(ながとみ・りょういち)
東北大学大学院医工学研究科教授
1984年、東北大学医学部卒業。同医学系研究科助手などを経て現職。運動機能、身体活動、防衛体力の研究に従事。
 

熊沢義雄
熊沢義雄(くまざわ・よしお)
順天堂大学医学部非常勤講師
元北里大学教授で日本細菌学会名誉会員。感染免疫と生薬成分の免疫薬理作用の研究に従事。
 

中村孝博
中村孝博(なかむら・たかひろ)
明治大学農学部准教授
2005年、名古屋大学大学院修了。博士(農学)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校などで生体リズムに関する研究を行う。
 

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 図版作成=大橋昭一)

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