橋下徹「Go To トラベルに各地方の知事や市長から異議が出ている根本原因」
プレジデントオンライン / 2020年7月22日 11時15分
(略)
■本当に難しい感染症対策
7月22日からコロナ禍における政府の目玉経済対策「Go To トラベル」が始まる。これは菅義偉官房長官が特に力を入れている政策だ。
ところがこのGo To トラベルが大混乱している。当初は22日から一斉に開始と謳っていたが、東京都民・東京都は除外。そのことによって予約のキャンセルが殺到した。キャンセル料について、赤羽一嘉国土交通大臣が補償はしないと強弁していたところ、一転して補償する流れになるようだ。
そもそも、このGo To トラベルに対しては、地方の首長たちから様々な意見が出ていた。「このような政策を、今、全国一律でやるべきではない」という声が強い。
国民世論もそのような傾向であることを政府は察知し、急遽、東京都内の観光と東京都民はGo To トラベルの対象外になることが決定したのだ。
感染症対策は本当に難しい。僕のような無責任なコメンテーターの立場で政治行政を批判することは簡単だが、実際に当事者として対策を実施するのは至難の業だろう。コメンテーターでほんとよかった(笑)
■アクセルとブレーキをコントロールするのは国か地方か?
この大混乱の原因は、国家の動かし方がぐちゃぐちゃになっていることだ。国家の動かし方とは、政府と地方自治体の役割分担、権限と責任の所在のこと。ここが曖昧不明なままでは誰がやっても政策を円滑に実施することができないというのが僕の持論だ。
(略)
3月、4月、5月、6月は、基本的には政府がコントローラー役・ドライバー役を担った。その間、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事の活躍もメディアで取り上げられたが、社会経済活動についてのアクセル・ブレーキのコントロールは政府が主導した。
それは、コロナ感染症に適用される新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)が、そのような法律になっていることに原因がある。
特措法では日本全体に感染が急速に蔓延するような状況において、「政府」が緊急事態宣言を発令することになっている。緊急事態宣言が発令されると、知事たちは、事業主に対して休業要請をかけたり、住民に対して外出自粛要請をかけたりすることができるようになる。
つまり、緊急事態宣言を出すか出さないかは、「政府」が「日本全体」を見る視点から判断し、そこから現実的な社会経済活動の抑制が始まる法体系となっているのだ。
だから政府が緊急事態宣言を発令するのには、どうしても時間がかかる。過日4月7日に緊急事態宣言が発令されたが、既に感染拡大の傾向にあった東京や大阪の知事は、医療体制の逼迫性を感じて3月下旬から緊急事態宣言の発令を政府に強く求めていた。しかし、政府は発令に慎重になっていた。
これは政府と知事の間で視点の違いがあるからだ。政府は日本全体の視点から緊急事態宣言発令の是非を判断するが、知事たちは東京や大阪という地域の視点から休業・自粛要請の必要性を判断する。
(略)
■「日本全体の視点」と「地域の視点」のぶつかり合い
過日の緊急事態宣言は、日本全体の社会経済活動を抑制した。感染があまり拡大していない地域も含めて予防的に社会経済活動を抑制したため、経済的なダメージは著しかった。そこで政府は日本全体に対する経済支援策を講じざるを得ず、1次補正、2次補正を合わせて、事業費ベースで総額約230兆円、予算ベースで総額約50兆円の予算を組んだ。
加えてコロナ禍の直撃を受けた観光業・飲食業・イベント業を特に支援するために、政府は約1兆7000億円の予算をかけてGo To キャンペーン事業を打ち出した。
これは、「日本全体」の視点によって、「国民全体」が国内旅行や外食、イベントを楽しむことを促す政策である。
ところが、5月25日の緊急事態宣言の解除によって社会経済活動が徐々に再開されたことで、また感染者数が増えてきた。特に東京の増加傾向は顕著であり、最近では緊急事態宣が発令された4月7日前後のピークに近づきつつあるようだ。大阪も、そして他の地方都市も増加傾向になっている。
そこで、各地方の知事や市長からGo To キャンペーンについて異議が出始めた。知事や市長は、自分の預かる「地方・地域」の視点から、異論を出したのだ。
まさに政府の日本全体の視点と、知事・市長たちの地域の視点がぶつかり合っている。
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■感染症対策の基本「ボヤはボヤのうちに消せ」の本当の意味
ワクチンや特効薬のない感染症への対策の基本は、「ボヤはボヤのうちに消せ」である。ボヤから火が回り、大火事となってからでは手が付けられなくなる。大火事となればその消火作業に莫大な労力がかかるが、ボヤのうちなら、そこそこの労力でなんとかなる。
さらにボヤを消したらできる限り早く日常生活を取り戻すことも重要だ。ボヤを消した後も日常生活が戻らなければ意味がない。ボヤを消すこと自体が目的なのではなく、消すことで「日常生活を取り戻すこと」が目的なのだ。
ボヤをボヤのうちに消す。そして日常生活を素早く取り戻す。そしてまたボヤが発生したらそれを素早く消す。小難しい専門家の理屈でなくても、この繰り返しこそが感染症対策の基本であることは誰もが直感でわかることだ。
では、このようなボヤ消火作業は、政府がやるべきなのか、知事・市長がやるべきなのか。僕は、知事・市長がやるべきだというのが持論だ。
というのも、日本全体の視点を持つ「政府」が、各地域の感染のボヤを細かく、迅速・的確に見つけることができるだろうか? 政府が各地域の医療体制の状況を細かく把握することができるだろうか? 政府が感染拡大の状況を見ながら、ベッド数確保の調整をすることができるだろうか?
そんなことは不可能である。
Go To キャンペーンを実施すれば、必ず各地域で感染のボヤが生じる。その時には誰が責任をもって対応するのか?
必死にベッド数を確保し、感染拡大の抑制に努力をしていている知事・市長たちの努力が、Go To キャンペーンによって水の泡になったときにも、また知事・市長たちは黙々と医療体制の強化と感染拡大抑止のために汗を流すのだろうか。
僕が知事・市長なら「政府が勝手にGo To キャンペーンを実施して感染を拡大したんだから、その責任は政府がとってくれ。今後は僕はベッド数の確保や感染拡大抑止のために汗を流すことは止める。その権限と責任をすべて政府に返上する」と“大政奉還”を宣言するね。
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(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万2300字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.208(7月21日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【菅義偉官房長官を直撃】「Go To トラベル」大混乱! 国は財源を用意し、地方に権限と責任を譲るべきだ》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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