トランプvs.バイデン泥沼化する殴り合い…次期大統領は正直「おいしくない」理由

プレジデントオンライン / 2020年7月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/twinsterphoto

■大統領選だけではなく連邦議会議員選挙にも注目せよ

トランプかバイデンか、2020年米国大統領選挙を巡る分析への興味が尽きない。だが、忘れてはならないのが大統領選挙と同時に行われる上下両院の連邦議会議員選挙である。

米国は三権分立の国家であり、連邦議会は非常に強力な権限を有している。そのため、米国大統領はキャピトル・ヒルに陣取る連邦議員の意向を無視することはできない。

政府の高官人事は連邦上院の過半数からの承認を受ける必要がある。米国大統領は自らの政権の要職に就く人物を自由に決めることはできないのだ。具体的には各省の局長クラスまで上院承認を必要としており、その政治任用職数は約1000名となっている。この上院の承認プロセスは極めてハードルが高く、政策能力や経歴は言うに及ばず、過去の言動や素行も含めた厳しいチェックが行われる。そのため、仮に与党が上院過半数割れしている場合、大統領が任命したい人物であっても、上院が問題を指摘する人物は承認を得ることが難しい。

また、各上院議員の意思決定の独立性は高く、与党議員が過半数を占めていたとしても大統領の意向に反して人事案や法案を否決する事態も発生する。トランプ政権下においても人事案や重要法案が通らず、その見直しを余儀なくされた事例は複数存在している。さらに、条約批准については上院議員3分の2からの承認が必要であり、上院のコントロールを失うことは外交面でも支障をきたすことにもなるだろう。

■大統領は連邦下院のコントロールを失うと予算面で厳しい

米国大統領は自らの政権意思を示す予算案を直接議会に提出することはできない。大統領が公式にできることは行政府としての意向を示す予算教書を送付することだけだ。同予算教書を参考とするものの、連邦議員は予算策定に関する全面的な権限を有している。

特に近年では選挙区割りの見直しによって、下院議員の党派色が極めて強くなっているため、拒否権を持つ大統領と主導力を持つ連邦議会が非妥協的な衝突を繰り返すことが常態化している。そのため、大統領は連邦下院のコントロールを失うと、対抗政党に予算面で様々な妥協を強いられる状態になりがちである。

現在の連邦議会議員構成は、2018年中間選挙を受けて、上院は共和党多数、下院は民主党多数となっている。上院の構成は共和党53対民主党系47であり、共和党は自党から3名までの造反が出て50対50の議決になっても、最終的には副大統領による裁定投票で可決させることができた。そのため、トランプ政権は最高裁判事などの重要ポストに保守派を充てる人事を断行してきている。

逆に下院構成は民主党側が435議席中233議席を占有している。したがって、トランプ大統領と上院共和党は下院民主党に予算面で妥協させられており、連邦政府の予算や税制を大幅に見直すことは極めて困難な状況となっている。そして、トランプ大統領が望む更なる減税案も民主党が望む国民皆保険も進展する見通しが立っていない。

■共和党の上院トップ落選&過半数割れもありうる

2020年大統領選挙と同時に実施される連邦議会議員選挙では、上院の3分の1、下院の全議席がシャッフルされることになる。

2020年の上院議員選挙は「共和党が大勝した年の改選年」となっている。したがって、残存している民主党議席(補選で勝利したアラバマ州は除く)は極めて強固であり、共和党は現在の53議席から議席数を減らすことはあっても増やすことはない。

7月現在、共和党敗色が濃厚となっている州は、アリゾナ、コロラド、メイン、ノースカロライナと4州も存在している。この4州は民主党が元々一定の勢力を有する地域でもあり、共和党候補者は極めて厳しい戦いを強いられている。

また、従来までは共和党の鉄板として考えられてきた、アイオワ、ジョージア(2議席)、モンタナなども、共和党議員のスキャンダルや民主党州知事の上院選転出などを背景に世論調査上の共和党優勢が急速に危うくなっている。上院トップであるミッチー・マッコーネル院内総務の地元ケンタッキー州ですら民主党側が激しい追い上げを見せており、共和党からすれば上院トップ落選・過半数割れという最悪の事態もあり得る状況となっている。

■下院は民主党が圧倒…共和党は手も足も出ない

下院は既に過半数を有している民主党が圧倒的な優勢を築いている。共和党全国委員会は2019年2月に民主党から奪い返す55の重点選挙区リストを公表した。そのうち31選挙区は2016年にトランプ大統領が勝利した選挙区であり、20戦局はヒラリーが勝利したものの、以前は共和党議員が存在した選挙区となっている。

しかし、共和党はこのリストの選挙区において民主党に対して手も足も出せていない。各選挙区の資金調達で大幅に劣後する状態となっており、過半数を奪取できる可能性は皆無だ。それどころか、共和党は27名以上の現職議員が引退する見込みであり、下手すると下院議席を更に減らす可能性すらある有様となっている。

■トランプが勝っても、バイデンが勝っても死に体?

したがって、仮にトランプ大統領が再選された場合でも、下院は民主党が制圧している状況は前提となるため、トランプ大統領が経済を立て直すための追加の税制改革案を進めることは困難だろう。インフラ投資については下院民主党と合意点はあるかもしれないが、その財源や内容について堂々巡りを繰り返すことも十分に想定される。

また、仮に上院まで民主党に過半数を奪われた場合、民主党がトランプに対する弾劾決議を再び試みることも想定しておくべきだ。共和党が上院過半数を辛うじて残した場合でも、反トランプ系の共和党上院議員らはトランプ大統領に容易には協力しないだろう。つまり、いずれの場合でもトランプが再選後にレイムダック(死に体)化することは避けることができない状況だ。

一方、バイデン元副大統領が大統領になった場合はどうだろうか。仮に上院で共和党が過半数を残した場合、バイデンは政権高官の人事権を十分に行使することが難しいことになる。特に、バイデン政権で懸案となる、環境、ヘルスケア、外交などに関する人事承認は困難を極めることになるだろう。また、民主党が上院で過半数を上回った場合でも、穏健派民主党議員らは左派的な党派色が強い人事や政策を簡単に容認することはないだろう。

そのため、バイデンが政策的なフリーハンドを得るためには、2022年上院選挙においてラストベルトで勝利し議席を上積みする必要がある。一方、下院は民主党であることはほぼ確定しているため、予算についてはバイデン・民主党は主導権を持つことができるであろう。しかし、あまりに極端な政策は上院の壁に阻まれて前に進めることは難しいと思われる。

■新大統領が何をするのかには2022年中間選挙が鍵になる

もちろん大統領の顔が変わることは、政策の全体的な方向性を規定する重要な要素だ。特に外交安全保障などの基本的な方向性やアプローチは大統領の意向によって大きく舵を切ることになる。

ただし、2020年大統領選挙の結果がいずれであったとしても、そして大統領の顔が変わることになっても、新しい米国大統領が何でもやりたい放題できる環境が整うわけではない。むしろ、任期最初の2年間は十分にコントロールすることが難しい連邦上院・下院との関係に大いに悩まされることになるだろう。トランプでもバイデンでも2022年中間選挙に勝たなければ政権運営のフリーハンドを得ることは難しい。

新大統領の意向に内実が伴うか否かは、人事や予算による裏付けが必要となる。2020年11月大統領選挙に終わると同時に、米国は2022年中間選挙に向けた戦いが始まる。新大統領が何をするのかは、2022年中間選挙に向けた各政党の動きを分析することで見えてくることになるだろう。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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