「東京を封鎖しろ」なぜ日本人はこれほどコロナを恐れてしまうのか

プレジデントオンライン / 2020年7月13日 11時15分

2020年6月24日、東京・品川駅。帰宅ラッシュの時間帯に、マスクをつけた人々が歩いている。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「過剰な恐怖と不安」は人を支配する

恐怖は、自分の生命の危機がせまっているときに強く感じる感情です。心配事は、未来に終わりのない不安をいだかせます。恐怖も不安も、人間の生存にとって必須で根源的な感情ですが、過剰になってしまうと焦って考えがまとまらなくなり他者に行動を強く支配されてしまいます。恐怖と不安はセットで人間の心をむしばむだけでなく誤った行動へ導きます。

感染症だけではありません。自分の身が危険にさらされるものに対して、私たちは過剰な恐怖と不安を抱くことへ誘導されてしまうことがあります。そのような状態になると他者に行動をコントロールされてしまい、通常ではありえないことを許容したり行動をしてしまったりする危険をはらんでいます。

大雨による災害のニュースで、コロナのニュースは激減しました。その結果、コロナウイルスに対する恐怖や不安が和らいできたことを感じている方も多いでしょう。ウイルス感染の状況は数日では変化しません。脳に与えられる情報が減ると、恐怖が減り不安が終わることを意味しています。メディア自身は、そのことを良く知っていて洗練された方法で私たちに情報を与えてきました。

■大雨のニュースで「コロナが過去のもの」になった

7月4日までは「東京都で新規感染者107人”の衝撃…若者の街・渋谷はどう捉えた? 「第二波」「休業再要請」の不安も」(FNNプライムオンライン)や、「国内感染者2カ月ぶり200人超 新型コロナ」(NHKニュース)「新型コロナ 全国で250人感染 東京は2日連続で100人超」(FNNプライムオンライン)と報道が続いていました。そのころは、「ああ、コロナウイルスの流行がまた始まった」「終わらないのが不安だ」「いつまで続くの? もう限界」と考えていたことでしょう。

東京の感染について全国放送が繰り返されているので「東京全部が汚染されてしまっている」「東京の人が来ると、ウイルスがうつりそうで怖い」「東京を封鎖したら?」と思うのも自然なことだったでしょう。ところが7月5日以降は、パタッとコロナ関連の報道はやみました。数日でコロナは過去のものになっていませんか? 不思議ですよね。

人は、五感に頼って生きています。見たり、聞いたり、匂いをかいだり、味わったり、触ったりして自分に安全なものかを確認しながら暮らしています。ウイルスは五感で感じることができないため、「見えない敵」となり恐怖と不安を引き起こします。

■人を不安にさせる映像と言葉が巧みに使われた

時間を追うと、まずメディアは家で情報番組やニュースを見ることが多い高齢の方、特に持病がある人は重症になりやすいと繰り返し報道しました。感染すると呼吸器が必要になったり、人工肺であるECMO(Extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)を装着しなくてはならないとも伝えられました。通常の感冒には使わない大掛かりな装置を目にすれば、誰でも怖くなります。

メディアの恐怖を起こさせることと不安の継続については、非常に洗練されています。ダイアモンドプリンセス、オーバーシュート、クラスター、医療崩壊、嗅覚味覚障害などなど恐怖を感じさせるキーワードがたくさん出てきていました。

他のウイルスでも見られる「嗅覚味覚障害」という一般の方には見慣れないキーワードを提示したところには感服します。実は、コロナではずっと頻度が多い「胃腸炎」は、軽症で新規性がないため、不安を起こさせるキーワードには選ばれなかったのだと推測しています。

それをみて、私は「次のキーワードをあててみよう」とか、「あなたが為政者なら次は何をおこないますか?」、「治療薬で先頭を走る日本、ドラッグリポジショニング」といった内容をブログに綴り続けました。

■日本の陽性者のうち、9割は回復している

でも、実際はどうだったのでしょう? 日本では発症者のうち何割が軽症で、何割が重症になり総数何名が呼吸器などを装着しなくてはいけなかったのか、そういった全体像を私達は知らされていません。

海外のデータを調べると、日本の陽性者のうち9割が回復されています(※1)。日本では、発症者や濃厚接触者だけをPCRしていました。もし、もっと数多くPCRをおこなっていたら、軽症の方が増加し回復率は高齢者を含めて95%以上かもしれません。

米国NYの惨状の映像を繰り返し、いざというとき自分たちを守ってくれる医療も崩壊してしまうかもしれないとも報道されました。守ってくれる場所が無くなってしまって逃げ場所すらないのか……という恐怖につながりました。

米国の様子をみてみましょう。前回お示しした通り、日本のこれまでの「半年近くの総数以上」が「毎日」米国では発生しています。日本の100日以上の累計患者数ですら米国の1日の発症数を下回ります。(図表1)

2月から7月の、米国の1日の感染者数(赤)と死亡者数(青)(図版作成=大和田潔)
2月から7月の、米国の1日の感染者数(赤)と死亡者数(青)(図版作成=大和田潔)

米国では連日数万人が発症していますが、大統領選挙の日程も順調にこなし独立記念も祝う準備がなされています。医療崩壊の危機は脱しています。米国では毎日数万人が発症する一方で死亡者数は減少を続けています。コロナは致死的ウイルスではありません(※2)。また、現在使える治療薬も積極的に採用しようとしていて外来患者さんへのアビガンのトライアルがスタンフォード大学で開始されています(※3)

■「ポジティブなデータ」が報道されない

ピークでも1日に800人しか発症しなかった先進国日本では、医療崩壊が連日報道されていたことは皆さんがご存知の通りです。アビガンの採用は遅れ続け、フサンの情報は少なくイベルメクチンに関しては情報が途絶えています。フサンやイベルメクチンは、臨床で長年使われている通常薬ですぐにでも使える状況の薬にも関わらず、です。

東京都のPCR検査数は激増しています。数カ月前は1日に100人以下でしたが、今では2000人以上検査しています。データを見ると、呼吸器装着患者数は4月末にはピークを超え減少しつづけ、一度も増加することもなく現在では10人以下となっています(※4)

世界的に見ると日本は、「最初からあまり流行しなかったアジアの国のひとつ」で「自国で開発した治療薬の配備もすぐできたはずの国」というのが本当のところです。こういった、「全体を見渡し俯瞰するデータ」や「安心材料につながるデータ」、「他国と比較のデータ」という「ポジティブなデータ」は報道されることがありませんでした。

発生数が収束し発症者もゼロに近づいていることを示したり、他国と比べたり、米国のように治療薬が入院医療機関や診療所の外来に全国配備されていたら、私たちはどんなに安心したことでしょう。

■警戒は必要だが、恐怖と不安は不要だ

6月初旬にお書きした私の最初の記事は「日本のコロナウイルスは終わった、さあ旅に出よう」という題名でした。流行が終わっていれば不安はなくなり、旅に出て楽しい思い出が増えれば恐怖も忘れて消えると思ったからです。

くしくも恐怖を引き起こす報道は、数日前の洪水災害の報道で激減しました。ウイルスの危険性も数日で激減したのでしょうか。

私は、ノーガードの無警戒を勧めているわけではありません。警戒して日々工夫して暮らすことは必要ですが、過剰な恐怖や不安といった感情は必要ないと考えています。恐怖や不安とはサヨナラして、日々の淡々とした作業をするだけです。

メディアは5カ月近く私達にまずは強い恐怖を植え付け、その後終わりなき不安が続くように上手にコントロールし続けていました。恐怖や不安が心にうず巻いてしまうと、自分の頭脳の思考停止に陥ります。そして、どうしても情報発信元の権威にすがったり過剰に反応した行動をとったりします。

私は、それをとても危険なことだと思います。

■いつのまにか「陽性者ゼロ」を求めるようになっていた

東京の流行も良い題材です。約1400万人の東京都民の一部の地域に200人の軽傷の陽性者がいる状況だとします。東京の端から端まで見渡して陽性の人を見つけるゲームでもよいでしょう。あるいは、1kgの精米は5万粒ですので300袋の中の100粒の玄米を見つけるゲームでもよいでしょう。わずかな玄米の粒が1袋に集まってしまっていて、299袋は空振りかもしれません。分散していたら見つけたくても、ほぼ不可能でしょう。そして、玄米が50粒でも500粒でも状況はほとんど変わりません。面白いですよね。

このように「全体像を見せない」ことが、恐怖のマジックの正体です。私たちの脳はいつも「全体の中のどれだけを占めているのか」、「他と比較してどの程度なのか」ということでいろいろな判断をしています。全体像や比較を隠されてしまうと、正常な判断ができなくなります。ウソはついていないけれども、正確な判断ができないようにする。私たちは、その仕組みにやられて魔法にかかってしまっていたわけです。

「200人陽性」=「ほとんどの都民はウイルスを持っていない」というのがファクトです。だからこそ、大多数の都民は感染することなく平和に暮らしています。他の県では、なおさら安全です。

東京で連日100人は、全国1億5千万人に換算すると連日1000人の陽性者に相当します。それでも現在の東京と同じ割合になるので、ほとんどの人がウイルスを持っていないということを忘れてはいけません。私達は、いつのまにか国土から陽性者がゼロにならなければ安心できない気持ちにさせられていたのです。

皆さんは、なんとなく東京全体が感染者であふれる汚染地区のような誤ったイメージを描いていていませんでしたか?

■「TV出演者のソーシャルディスタンス」が醸し出す終わらない不安感

日本の医療崩壊の恐怖も検証してみましょう。先ほどの米国のグラフに、日本の死亡者数を合わせてみてみました。(図表2)

2月から7月の、米国の1日の感染者数(赤)と死亡者数(青)、日本の死亡者数(緑)の比較。(図版作成=大和田潔)
2月から7月の、米国の1日の感染者数(赤)と死亡者数(青)、日本の死亡者数(緑)の比較。(図版作成=大和田潔)

日本の死亡者はピークでも1日50人ほどです。人口3億人の米国に比べてもピークでも50分の1以下、現在では数百分の1以下に過ぎません。前述したように米国は、通常通り機能しています。それでも、もし日本の医療がひっ迫してしまうとすれば、その程度の医療システムということになってしまいます。私は、ありえない話だと思います。

ウイルスを持つ人が、ほとんどいなくなった今になりメディアのアナウンサーさんたちは画面の両側に位置しています。実は、そのような対策をとるべきだったのは、放送局にクラスターした数カ月前でした。今になって、そのようなフォーメーションを取り続けるのは「終わらない不安感」を醸し出し継続することにつながっています。

客観的データをお見せしても「コロナウイルスは恐ろしい。本当は日本も世界と同じようにかくれて大流行しているはずだ」という患者さんもいらっしゃいました。米国との比較の図を目にしても、数の違いを判断できなくなっているのです。メディアの繰り返しは、内容が誤っていても感情を支配し判断力を落としてしまう強力な力を持っています。

■「コロナの心配」よりも大切なことがたくさんある

今回の新型コロナウイルスに対する恐怖と不安の教訓は、私たちに重要な事を教えてくれます。

どんな理由であっても、過剰な恐怖と不安は私達が自分で理性的に思考する力を奪います。必要以上に、権威や他者への依存を高めます。必要もないのに街角に検問所が設けられて、陽性だと断罪され連れ去られるような世の中にしてはいけません。

まずは、一息いれて落ち着くことです。

私たちには無数の細菌とウイルスが付着しています。発症しなければ病気ですらありません。新型コロナウイルスであっても発症しなければ一時的に体に存在したウイルスの一つとして免疫システムが記憶するだけであり、私達は全く気付かないでしょう。それが普段の日常の出来事であり、発症していなければ免疫が勝っているので人にもうつしません。付着しただけかもしれません。それで良いのです。

何の悪さもしなければウイルスの存在を確かめる必要もありません。社会生活を送る中で、私達は気がつかないだけで細菌やウイルスを頻繁にやりとりしています。新しいウイルスは、次々にたくさん発生してきます。新型コロナウイルスは、私たちを通り過ぎて行ったウイルスの一つに過ぎません。

猛暑の夏には熱中症に気を付ける必要があります。洪水の被害の支援も必要です。甚大な被害を受けた経済の再建も必要です。コロナの心配以外に、私たちにはやらなくてはならないもっと大切なことがたくさんあります。自分の心に植え付けられた恐怖と不安を解消できるのは、自分自身しかいません。自分の足元を照らす明かりは、自分がともした灯火(ともしび)だけです。

新型コロナウイルスに限ったことではありません。これからも次々に作り出される恐怖と不安の罠にはまることなく、私達は自由に生き生きと暮らすことを目指しましょう。

■English Abstract

The power to think and choose: Breaking away from fear and anxiety

Japan is one of the successful countries that incurred minimal damage from COVID‐19. Nevertheless, the people have been harboring fear and anxiety, which the media worsens. This scenario is becoming an increasing concern. We must keep in mind that even if virus epidemic is not the cause of fear and anxiety, it not only deprives individuals of rational judgment but also induces impulsive behavior. Regardless of minimal damage of COVID‐19, people tend to lose control of autonomous cognition and increase dependence on others, such as experts and officials. Therefore, I wrote my first column entitled “The new coronavirus epidemic is over: Going out on a journey.” To lead healthy lives, fear and anxiety should first be overcome.

【参考文献】
1.worldometer Japan
2.worldometer USA
3.1 July 2020 News Stanford researchers to assess favipiravir in Covid‐19 outpatients
4.東京都新型コロナウイルス 感染症対策サイト、旧モニタリング指標(4)重症患者数

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大和田 潔(おおわだ・きよし)
医師
1965年生まれ、福島県立医科大学卒後、東京医科歯科大学神経内科にすすむ。厚労省の日本の医療システム研究に参加し救急病院に勤務の後、東京医科歯科大学大学院にて基礎医学研究を修める。東京医科歯科大学臨床教授を経て、秋葉原駅クリニック院長(現職)。頭痛専門医、神経内科専門医、総合内科専門医、米国内科学会会員、医学博士。著書に『知らずに飲んでいた薬の中身』(祥伝社新書)、共著に『のほほん解剖生理学』(永岡書店)などがある。

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(医師 大和田 潔)

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