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「酒を飲まされ…」ナンパ塾の被害に遭った女性たちはなぜ沈黙したのか

プレジデントオンライン / 2020年7月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tharakorn

レイプなどの性犯罪事件は、証拠不十分のため立件されないケースが多いという。なぜなのか。弁護士の上谷さくら氏は「被害者が法律の存在を知らないまま、通報せずに1人で抱え込んでしまう場合がある」という――。

■「ナンパ」と称し、酒を飲ませてレイプ

2020年3月、東京地裁で、とある塾の「塾長」に懲役13年の判決が下された。罪名は「準強制性交等罪」。何を教える塾の塾長かというと、「ナンパ」である。

40代の塾長は、10年以上前に「リアルナンパアカデミー」(略して「RNA」)という名前のナンパ塾を設立。塾生は、ナンパのノウハウが記載されたマニュアルを購入し、講習会に参加したり、塾長と一緒に街に出て女性をナンパして酒を飲ませ、性行為することを繰り返していた。塾生は約100名と言われている。

事件が発覚したのは、平成30年5月。RNAの塾生2名が女性を泥酔させて姦淫させた罪で逮捕されたのである。この事件の被害者は、被害の約半日後に警察に届け出ている。その時、対応した警察官が「被害者からは酒の臭いがする」と述べるほど多量に飲酒させられていた。加害者は、姦淫する様子を撮影していた。

事件の発覚後、警察の捜査により、次々と同様の動画が見つかり、塾長を含め、RNAは10名以上の逮捕者を出した。塾長は3件の事件で起訴され、懲役13年の判決を下された。しかし現在、無罪を主張しており、東京高裁に控訴中である。起訴された塾生たちは、「未遂」に終わった1名が執行猶予付き判決を得たものの、その他の塾生たちは既に刑務所に服役している。

■女性たちが声を上げなかった理由

このような「組織的大犯罪」であるにもかかわらず、なぜ露見しなかったのか。

警察の捜査で新たに判明した被害者の女性たちは、「ナンパになんか応じてしまったからだ」「酒を飲み過ぎた自分も悪かった」と思い込み、自分のことを責めていた。そのため、犯罪被害者であることの認識がなく、警察に行こうという発想がない人が多数だった。

警察に「これはとんでもない犯罪なんだよ」と言われてやっと、「自分は犯罪被害者なのだ」と思えたのである。

このように、「自分も悪かった」と思い込んで、自分がされたことが犯罪だと気づいていない事案は、実はたくさんあるのが現状だ。

RNAの事件のように女性が泥酔している状態や、薬物、睡眠等により抵抗できない状態で性行為をしたりすることは「準強制性交等罪」となる。

「準」とついているが、いわゆる「レイプ」である「強制性交等罪」と、罪の重さは同じである。

相手の立場が圧倒的に強くて「心理的に抵抗できない」状態の人に性行為をしたりすることも「準強制性交等罪」にあたる。

■被害者が未成年だと隠すケースも

このように、「強制性交等罪」「準強制性交等罪」は、きちんと刑法に定められている。それにも関わらず、その行為が犯罪にあたると知らない場合が少なくない。だから、被害に遭っても「自分が悪かった」「もう忘れよう」等と考え、放置してしまうのだ。

事件を忘れることができず、一人で抱え込んでしまったりトラウマ化させてしまったりして、生きづらい人生を送ってしまう事例は決して少なくない。

なお、被害者が未成年で、加害者が学校や塾の先生、部活の指導者の場合などは、被害が潜在化するケースがもっと増える。加害者から「内緒だよ」と言われると、生徒は一生懸命に先生の言うことを守ろうとしてしまうのだ。

自身がされたことが「犯罪」であると知り、適切に対処していくことは、その後の人生にも影響を及ぼす重要なことだ。

■夫の浮気が原因で別居する際の費用は?

またそれが犯罪ではなかったとしても、法律を知り、そして実際に当事者になった時にどうすればいいのかという手続きや制度を知ることは重要だ。たとえば次のようなケースだ。

「夫が浮気していたというAさん。相談を重ねた結果、離婚を見据えて別居をすることになった。しかし、Aさんは婚姻期間中の10年間、専業主婦として家庭を支えてきており、キャリアも中断してしまっていた。すぐにはまとまった収入が見込めないという」

この場合、夫は妻側に「婚姻費用」を支払うべき法律上の義務がある。任意で渡してくれないようであれば、家裁に調停を申し立てることができる。支払義務者(夫)が拒否しても、裁判所が「いくら払うように」と決めてくれる。支払われない場合には、給与の差し押さえができる。

■男性側が婚姻費用を下げることも可能

むろん、法律は女性だけのものではない。男性にとっても知っておくと便利なシーンが多々ある。例えばこの事例で、次のような状況になった場合、男性読者諸氏はどうすればいいと考えるだろうか?

「妻子と別居して、毎月婚姻費用を支払っている。妻はそれに味を占めて、自分はたまにアルバイトする程度しか働かず、婚姻費用をもらい続けるつもりのようだ。婚姻費用はいつまで払わなければならないのか? また、金額は今後どうなる?」

婚姻費用は、離婚が成立するか別居を解消するまで支払う必要がある。金額も、調停や審判で決められた場合は、一方的に変えることはできない。

つまり、別居が続く限り、離婚するまで延々と婚姻費用を支払い続けなければならないということだ。当初、離婚に難色を示していた夫が、妻子と別居してほとんど会うこともできないのに、毎月婚姻費用を支払うことに嫌気がさして、離婚に踏み切る場合も少なくない。

しかし、この夫の給与が大幅に下がったり、病気で働けなくなったりなどした場合や、もらう側(妻)が仕事を始めて収入が大幅に増えた場合、「婚姻費用減額」を求める調停を起こすことができる。

なお、調停や審判になった場合、妻が全く仕事をしていなくても、特段の事情がない限り、月に10万円程度は稼げるとみなされ、年収100万~120万くらいの稼働能力を前提として金額を決められることが多い。

■あなたや大切な人を守るために知っておこう

「もしもの時に自分を守る方法がある。それを知っているだけで変わることは少なくない」と、『おとめ六法』(KADOKAWA)を上梓した上谷氏は話す。

上谷さくら『おとめ六法』(KADOKAWA)
上谷さくら、岸本学『おとめ六法』(KADOKAWA)

冒頭の例に戻ると、性被害の場合、被害者の体に加害者の手がかりが残っていることが多いため、シャワーを浴びたり、被害時に着ていた衣類を捨てたりしないことが重要だ。すぐにそのまま警察に駆け込めば、体液などを採取できる可能性がある。

法律を知っていても、その後に何をすればいいのかを知らなければ、結局、犯罪として立件できなくなる恐れが十分にある。実際、「強制性交等罪」「準強制性交等罪」は、証拠不足のために立件できないケースがとても多い。

法律とそれに伴う手続きの知識は、いざというときにあなたを守るだけでなく、もし家族や友人がそのような目に遭ってしまったときには、助けることもできる。

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上谷 さくら(かみたに・さくら)
弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。

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(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)

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