「浸水エリア外でも関係ない」川から遠いのに豪雨で浸水する家3タイプ
プレジデントオンライン / 2020年7月16日 15時15分
■浸水エリア外でも多くの建物が被害に
令和2年7月豪雨は、熊本県を中心に九州・中部地方に大きな被害をもたらした。とりわけ熊本県では24時間雨量が「多いところで200ミリ」としていたところ(気象庁)、実際には400ミリを超える雨量となるなど、全国で75名の死者を出している(消防庁、7月15日午前6時30分時点)。
浸水リスクゼロのエリアを選ぶのがベストだが、大きな河川が近くを流れる街などでは、リスクゼロの土地を探すのは難しい。自治体によるハザードマップの確認や、万が一の備えへの重要性が改めて浮き彫りになった形だ。
忘れてはいけないのが、浸水のなかったエリアでもこうした豪雨の中では多くの建物が被害を受けていることだ。これまでの被害事例を、主に一戸建てについてご紹介する。
■1.「基礎の低い家」は床下浸水しやすい
ハザードマップで浸水の可能性が指摘されているエリアでは、都心部・都市部の狭小地に建つ3階建てに多い「基礎の低い家」が、最も水害のリスクが高い。半地下を設けた一戸建てと同様、建物の高さ制限を守ることを目的として、あるいは高齢者に配慮し、バリアフリーの観点から、建物の「基礎」を低くしている一戸建ても多く、水害のリスクが高い構造の典型例だ。
地表面からの基礎の高さは、40センチ以上取ることが望ましいとされているが、建築基準法で定める下限の高さは30センチ。そのため、基礎高が40センチに満たないケースも珍しくない。筆者が創業したさくら事務所が調査した住宅では、後から設置した花壇が原因で、地表面の高さが上がり、基礎高が10センチ程度しかない状態で、ゲリラ豪雨の際に床下浸水の被害を受けた。もし花壇を作らなければ、被害を受けずに済んだはずだ。
基礎が高くても「床下換気口」があればそこから浸水することにも留意したい。最近では、最初から床下換気口がない建物も多く、基礎と土台の間に、樹脂製や金属製の基礎パッキンを敷きこむ基礎パッキン工法であれば、床下換気口がなくても、床下の換気が可能だ。この工事は新築時にしか選択できない。
■地下空間に居室を置いている人は注意
地価が高く、狭小敷地の多い都心部・都市部では、居住空間を少しでも広く確保するため、地表面よりも低い空間に、居室を設けるケースがある。しかし、ひとたび台風やゲリラ豪雨が襲来すれば、ハザードマップで震災可能性が指摘されていないエリアでも、下水が逆流したり、排出しきれなくなった雨水が流れ込んでくることがある。
排水ポンプを設置していても、排水能力を超える雨が集中的に降れば、一気に水が溜まって窓の高さを超え、室内に浸水する。ある晩、皆が寝静まった深夜に大雨が降り、住人が目覚めたときには、すでに部屋中が浸水。何とかドアを開けて上階に逃げることができたが、もう少し遅れていたら水圧でドアが開かず、閉じ込められていたかもしれなかった。
このケースでは、駐車場にも水が溜まってしまい、車は廃車に。排水ポンプはあったものの、メンテナンスをしないままに10年以上放置され、壊れて作動していなかったことが判明した。
マンションなら原則として排水ポンプや排水管などの点検・清掃は、管理会社が担う。しかし、一戸建ての場合は自身で行う必要があり、往々にして忘れられがち。異音などの故障のサインが表れるまで気づかず、この事例のように、いざというとき役に立たないことも多い。
■2.腐食したバルコニーを通して雨漏りが
バルコニーからの浸水もハザードマップエリアとは関係がない。バルコニーには建物と一体化しているものと、後付けされたアルミ製などのものの2タイプがあり、昨今の新築一戸建ては、建物と一体化したバルコニーが大半。その表面は防水・止水加工が施されるが、時間の経過とともに劣化し、建物内部に浸水することがある。
特に弱いのがバルコニーと建物やサッシが接続している部分。とある一戸建ての住宅では、豪雨をきっかけにバルコニーを通じて1階の室内に雨漏りが発生していた。
雨が上がった後もバルコニーの表面がなかなか乾きにくかったり、上裏(上階にあるバルコニーの裏側の面)を下から見上げたときにシミができていたりしたら、内部に浸水している可能性が高い。これを放置していたところ、住宅の雨漏りの原因になり、バルコニーはおろか、建物を解体して丸ごと作り直すことになったケースがある。内部の腐食に気づかず、突然バルコニーの床や手すりが落ちた事例も。定期的にメンテナンスせず、被害を拡大した。
■豪雨のときに役立つ「オーバーフロー管」
定期的な清掃も大切で、バルコニーの排水口にゴミや枯葉などが詰まっていたため適切に排水されず、やはり建物内部に浸水をもたらすケースも多い。またたとえ排水口が清掃されていても、想定を超える大雨が降れば、排水口の処理能力を超えてしまい、建物内部に浸水する。
そんなときに役立つのが、窓のサッシよりも低い位置に設置する「オーバーフロー管」だ。排水口で対応できないほどの雨が降っても、オーバーフロー管があればバルコニーに溜まった水を緊急放水できるため室内への浸水を防げる。
しかし、オーバーフロー管は設置義務がなく、設置されていない住宅も多い。バルコニーからの浸水被害の相談を受けた住宅のうち、大部分はオーバーフロー管がなかった。後付けで設置することも可能だが、ずさんな工事をすると、バルコニー内部の防水層を傷つける恐れがあるため、確かな技術を持ったリフォーム会社などに依頼したい。
一方、後付けバルコニーは雨水をためることはないが、外壁に穴を開けて設置するため、少しでも穴が開いていれば、壁の中に雨水が浸入する。
■3.外壁のひび割れは0.5ミリでも注意せよ
外壁のクラック(ひび割れ)が生じ、そこから浸水するケースも。中古住宅を調査すると、窓の周辺の壁にクラックが入っていることがよくある。一般にクラックができたら、その都度対処する必要がある。髪の毛程度の細いクラックなら緊急性は低いが、太さ0.5ミリや深さ20ミリを超えるようなクラックが外壁に生じている場合は要注意。そこから雨水が建物内部へと入り込むリスクが高い。
またサッシの周りはゴム状のコーキング材などで埋めて止水・防水しているが、経年とともに必ず劣化していく。次第にひび割れなどが生じ、そこから雨漏りをすることも。
またエアコンを取り付ける際には、建物が完成してから壁に穴を開けることも。防水の知識に長けた、まともなリフォーム会社による工事なら問題はない。しかし、家電量販店などが契約している施工業者に後付けエアコンの工事をしてもらった結果、雨漏りし始める事例は後を絶たない。工事の仕方が下手だと、最悪の場合、配管穴から雨水が入り込む。
以上、一戸建ての水害についてざっと概観してきたが、一戸建てにお住まいの方は、来る台風シーズンに備えて、建物を一通り点検してはいかがだろうか。
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不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。
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(不動産コンサルタント 長嶋 修)
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