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奇策! サイゼリヤの「1円値上げ」が与えた想定外すぎる衝撃

プレジデントオンライン / 2020年7月28日 11時15分

写真=サイゼリヤHPより

人は「お得感」を何で感じているのでしょうか。イタリアンファミリーレストランのサイゼリヤは、7月1日からメニューの税込価格の末尾を、端数のない「00円」か「50円」に統一しました。これによって、人気の「ミラノ風ドリア」(税込・299円)が(税込・300円)の1円値上げになるわけですが、この1円の値上げは消費者から「お得感」を奪う値段なのでしょうか。

■1円の値上げはむしろ企業努力

昨年の消費増税で、外食の消費税率は10%に上がったにもかかわらず、増税前のまま据え置いたサイゼリヤが、今回は新たな値上げに踏み切ったのです。日頃からサイゼリヤには「お得感」を感じている人が多く、今回の1円の値上げに対しても、むしろ好感度の高い意見が多いです。

インターネットなどや私の周辺からは以下のような声が上がっています。

「値上げを1円だけにとどめるのすごい」
「むしろライスなどは値下げしていることが衝撃」
「元々安いサイゼリヤでの1円の値上がりは気にならない。むしろ努力してるなと感じる」

サイゼリヤは端数がない価格設定で1円、5円、10円硬貨の使用を減らし、接触機会を減らして「新しい生活様式」に対応するとしています。

一方で、前述の声にもあったように、値下げしているメニューがあることにも驚きます。

半熟卵のほうれん草ソテーは268円から250円、ライスは169円から150円に値下げされています。金持ちであろうが、所得が低かろうが、人は圧倒的に安いモノに対して文句を言わない傾向があるように感じます。サイゼリヤの場合はそれに加えて「おいしい」ことからファンが多いのです。

■新橋のプラセンタクリニックと共通する点

新橋にある某自費美容クリニックではプラセンタ(美容効果があるとされる胎盤から抽出した成分)注射2本を税込750円で提供していますが、ビルはお世辞にもきれいだとは言えず、手厚いサービスというよりは、どちらかといえば高回転を重視したクリニックとなっています。銀座などの別のクリニックでは価格は2倍以上での提供になっています。

しかし、そのクリニックはいつも「行列のできる」大繫盛のクリニックとなっており、文句を言う人はいません。高回転はこの場合、消費者にとって短時間でサービスを受けられる「価値」なのです。必ずしも、美容クリニックだからといって長時間かけてゆっくりとぜいたくに過ごす必要はありません。今や、「日本一」のプラセンタクリニックとなっています。圧倒的に市場の価格より安いものが提供され、効率良くサービスを受けることができた場合、消費者は不平不満を言わないのです。

サイゼリヤは飲食店のなかで、その最たる例でしょう。市場の値段に比べて圧倒的に安く、しかも、おいしい。値上げしても、応援のコメントが寄せられる。一番、最悪なのが中途半端な値段で中途半端なサービスを提供している商売をしている場合は、ファンがいない代わりにクレーマーが付きます。

■お得感=生活を豊かにするものと感じる

「お得感」を「生活を豊かにするもの」だと考えると、サイゼリヤは日頃から「お得感」という「価値・サービス」を消費者に提供していることになります。その「お得感」は数値化できませんが、デジタル社会では、今、この「お得感」は経済成長へのインパクトがあると考えられており、お得感を数値化しようという動きがあります。GDP+iという考え方です。

GDPは経済成長の指標として扱われてきましたが、GDPだけでは経済の成長を測れなくなってきているのです。世界のGDP成長率はリーマン・ショック後に低迷を続けていますが、それにもかかわらず、世界の各種機関が実施した調査結果などから、アメリカを除く世界の多くの国で、消費者の生活満足度が高くなっていることがわかっています。

この理由は「デジタル技術の恩恵によって、消費者が生活の質の豊かさを感じるようになっているため」だと言われています。つまり、世界の成長指標にGDP+iの軸が必要になってきているということです。

現在、デジタルサービスが生み出す「消費者余剰」(消費者が最大限支払ってもよいと思う支払意思額と実際の価格の差。金額には表れない消費者の利便性やお得感)が、非常に大きくなっているのです。Amazonプライムや、無料で利用できるLINE電話など、消費者は、無料または、信じられないほどの低料金で、質の高いサービスを受けられるようになったのです。これらを、実現しているのが、「デジタル資本」の存在なのです。

お得感から人は自分の生活を豊かだと感じるのです。実際、世界では生活が豊かになったと感じている人が増加しています。そういった意味でも、サイゼリヤはデジタル企業ではないものの、企業努力によって「お得感」という経済価値を消費者に与えている企業だと言えるでしょう。

■たった1円の値上げから「自我」に思考が至る

上記のように、消費者が感じている「お得感」が「新しい経済価値」なのだとすれば人は何をもって「お得感」「安い」と感じるのでしょうか。それを考えるうえでヒントとなるキーワードは「自我」です。

人間には「自我」は存在していないという研究者もいます。落合陽一氏によれば、「実は自我だと思っているものは膨大にインプットした過去の情報により、意識が反応しているにすぎないといった考え方」があると述べています。つまり「自我」は存在しているものではなく、過去の経験の積み重ねによって「感じる」だけのものかもしれないのです。

だとすれば、私たちが「お得感」=「幸せ」を感じているものは、実は虚像であり、過去の経験の積み重ねによって、「幸せ」と脳が反応しているだけという考え方もできます。そうなると、人の満足度や消費行動が集まって形成されている経済活動は、経済成長となり、それが国力といったリアルな実社会へと結びついていきます。

「高い・安い」「お得感」「これが欲しい、これを食べたい」といった欲求から消費が生まれ、それが経済となっているわけですが、その「欲求」のスタート地点はつくられたものかもしれません。消費者は人類の歴史が積み上げてきた、過去の経験則上でつくられた欲求を満たしているにすぎないのではないかとも感じてしまいます。もし、違った歴史があれば、今生きている私たちは、違った欲求、違ったものに、お得感を感じるのでないでしょうか。

■今後のサイゼリヤ経済圏

「たった1円で何を」と思うかもしれませんが、経済は人々の消費活動の集まりで、人々の気持ちの集合体だと言えます。経済学では「家計」は何も考えていない無邪気な「モノ」として捉えています。しかし、これまで述べたように「自我」と「お得感」の境界線は定かではなく、消費者は意思を持って消費行動をしているのです。

サイゼリヤ経済圏では、今まで、300円よりも299円、400円よりも399円、200円よりも189円といったように、キリのいい数字よりも数円だけ安い値段の提示によってお得感といった「価値」を提供してきました。現金決済の時代では「現金」でお釣りが戻ってくることでお得感を感じていましたが、キャッシュレスではそのようなやり取りはなくなります。

デジタル経済圏に決済が移行していくなかで、よりこのような傾向が強くなると感じます。消費者の「お得感」の比較対象がよりフラット化していくでしょう。サイゼリヤも、他のイタリア料理店はすでにライバルではなく、年々クオリティーが上がってきているコンビニエンスストアの総菜や、単価の安い「居酒屋」との間で「お得感」をめぐる競争がさらに激化してくのかもしれません。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。

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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)

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