オンライン授業が普及した米国で、夏休み中に共稼ぎ世帯が悲鳴を上げているワケ

プレジデントオンライン / 2020年7月29日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KMHPHOTOVIDEO)

米国の多くの学校では、一斉休校になるとすぐにオンライン授業に切り替わり、現在も継続されている。非常事態においても学習の継続ができる利点がある一方で、家族への負担は想像以上に大きいという。夏休み真っ只中の今、米国の親たちが嘆きは高まるばかり――。

■店も保育園も再開したのに学校だけ、なぜ

米国の子どもたちは今、夏休み真っ盛り。本来なら、数週間単位の泊まり込みで行われるサマーキャンプに参加し、山や森、川や湖などで思いっきり遊び尽くし、真っ黒になって親の元に帰ってくる。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、こうした宿泊型は基本的にキャンセル。自宅から連日通うスタイルや、オンラインへの移行を余儀なくされた。

子どもの楽しみが失われたのはもとより、子ども不在をあてにしていた親の働き方や意識にも少なからず影響を与えている。閉鎖が続いている学校が、9月の新学期から再開するかどうかの議論も各地で続いており、全米の親たちは気をもんでいる。

「デイケア(保育園)も、サマースクールも、レストランも、お店もオープンしたのに、学校はどうして違うの。どうして、子どもたちを放棄するの?」「危ないのは分かるけど、何とか学校を再開する方法はないのかしら」。ツイッターやインスタグラムなどのSNSには、米国で暮らす母親、父親によるこんな投稿が目立ち始めている。

■共働きだったら破綻していたかもしれない……

そうした悲痛にも似た叫びが相次ぐのも無理はない。3月から学校が一斉休校となり、ほとんどの学校がオンライン学習をスタート。子どもが学校に行かないことで、親子ともども一日中自宅で一緒に過ごす日々が今も続いている。この間、子どもがいない時間に済ませていた家事や買い物、友人とのランチや自分の趣味、習い事などに充てる時間が奪われた。

さらにオンライン学習では、低学年を中心に親の付きっ切りが必要となるため、自らの時間が失われたどころか、子どもの面倒にかける時間が一段と増す。感染リスクを心配しながら、家族のために連日、三食を用意し、子どもの世話をする。専業主婦・主夫家庭にとっても負担なのに、夫婦そろってワーク・フロム・ホーム(在宅勤務)をしている共働き家庭には、相当な負荷がかかっている。

仕事をしつつ、オンライン学習の子どもの面倒に忙殺される。そうこうしている間に、時間は着実に経過し、食事の時間が容赦なく訪れる。気晴らしやストレス解消も十分にできず、仕事の能率も向上しているのかどうか、皆目はっきりしない。こうした状況が長期間続いており、親の気力や体力も、かなり限界に近づきつつあるのが実情だ。わが家の場合、私が休職中で主夫であるため、何とか持ちこたえているが、米国でも共働きだったら破綻していたかもしれない。

■悩ましい子どもたちの夏休みの過ごし方

例年、全米各地で開催されてきた宿泊型のサマーキャンプ(1週間から長いものでは2カ月程度実施)は中止となり、夏休みに希望を抱いていた親たちの頼みの綱も切れた。こちらも例年行われている、スポーツやダンス、音楽などを教える各スクール、教会や自治体、図書館などが主催するサマースクールは容認されているため、自宅から通っている子どもたちもいる。各スクールは、マスク着用や空気の入れ替え、室内への親の立ち入り禁止、手洗い励行など細心の注意を払っているが、多くの子どもたちが集うことには変わりなく、感染リスクがないとは言えない。

集団行動を不安視する親たちは、今回初めて行われているオンライン型のサマースクールにわが子を参加させ、ひと夏の思い出を少しでも積ませてあげたいと腐心している。スクール側もオンラインながらも工夫をこらしながら、語学やプログラミング、絵画、チアリーディング、サイエンスや芸術などを組み合わせたSTEAM教育などの実践に努めている。わが家でも通学型に入れることを一度は検討したが、安全性への疑念が払拭されず、オンライン型を連日受講中だ。

ただ、子どもが自宅にいることには変わりない。

筆者が暮らすニュージャージー州を拠点とし、米国大学への進学コンサルティング・カウンセリング、個別指導の家庭教師サポートなどに長年取り組む「フレックスラーニング」によれば、ほとんどの米国人が「サマーキャンプが人生で一番楽しい時間だった」と口をそろえるという。社会に出てからも激しい競争社会にさらされる米国人にとって、子ども時代のサマーキャンプはそれだけ貴重な経験を積ませてくれるということが、うかがい知れるエピソードだ。

■トランプ大統領は秋からの対面授業再開を主張

米国のトランプ大統領は、経済・社会活動の再開の一環で、予算停止に踏み切る意向をちらつかせながら、新学期からの学校再開に意欲を示している。オンラインではなく、対面式授業の再開を強く求めており「学校は秋に再開しなければならない!」と相も変わらず、言い切り型の表現をツイッターで繰り返す。南部や中西部で感染拡大が続く中、教育・学校関係者間で物議を醸し、反発を招いている。

米国で最初のエピセンターとなり、「地獄を見た」(マーフィー・ニュージャージー州知事)東部の各州は、今は比較的落ち着いた状況を取り戻している。ニューヨーク州が実施するウイルス検査での陽性率は、ここ1カ月間、1%前後が続く。州が設けた基準に照らせば、経済再開が最終段階を迎えた地域では、直近14日間平均で陽性率が5%以下ならば学校を再開。直近7日間平均で陽性率が9%以上となれば閉鎖するとし、8月上旬には方針を示すという。

■対面かオンラインか、世論は真っ二つに

米国の教育行政は基本的に各州、各自治体の教育局に委ねられている。筆者のもとには6月、地元教育局から保護者の意向を尋ねるメールが送られてきた。大きく分けて、①オンラインの継続、➁対面式授業の再開、③オンラインと対面式の組み合わせ――のどれが良いかを求め、それぞれに設問が続いていた。意見を表明できる機会が保護者に与えられている有難さを実感しつつ、熟慮した上、③と回答した。日本の小2にあたるセカンドグレードのわが子とその友達に、いくらソーシャルディスタンスを保つよう言い聞かせても、まだ通わせるのには一抹の不安が残るためだ。子ども同士でも、ハグが日常的な米国。3月以来、半年ぶりの再会となった瞬間、どのような光景が広がるか。保護者として、心配してもし過ぎることはないとは、こういう時に言うべきなのかもしれない。

ニュージャージー州の教職員組合は、早期再開に反対する意見をまとめた。地元大学による世論調査によると、州民の46%が安全対策を施しながらの再開を望む一方、42%はワクチンが利用できるまでは、オンラインを続けるべきと回答、真っ二つに割れている。冒頭で紹介した、子どもの安全と自らの負担軽減で頭を悩ませる保護者の思いは、どのような結論につながるか。米国で暮らす親の一人として、常に留意している。

オンライン教育が浸透しないまま学校が再開され、夏休みが大幅に短縮された日本。オンライン教育の態勢が万全な米国では、夏休みは通常通りに確保できたものの、新学期からの行く末が見通せない。「どちらが良い悪い」の問題でないのは言うまでもない上、子どもの感染リスク対策をめぐり、何が正解かは誰も分からない。それだけに、心の中で解消されないモヤモヤが堂々巡りしている。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。7歳の長女、5歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。2019年1月~9月、米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。世界中の日本人駐夫約60人でつくるフェイスブックグループを主宰。

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(米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎 写真=iStock.com)

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