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韓国国内の文化心理学研究「韓国人の自己評価は客観的現実ではなく自身の理想」

プレジデントオンライン / 2020年8月3日 9時15分

2020年7月11日、韓国・ソウル市庁舎前に設置された追悼祭壇で泣き崩れる韓国人。 - 写真=Penta Press/時事通信フォト

■OECDで自殺率1位の韓国

7月9日、韓国のパク・ウォンスン元ソウル市長が山中で息絶えているところを発見された。自殺と見られ、前日に元女性秘書からセクハラを告発されたことを苦にしたものとみられている。女性側は、セクハラが4年以上にわたっていたと主張し、パク市長の死を受けても、追及の手を緩めていない。現時点で被害女性の証言以外に有力な証拠はなく、パク市長が与党寄りの人物だったため野党による謀殺説まで飛び出し韓国内は混乱をきたしている。

パク市長しかり、韓国は階層にかかわらず自殺が多い国で知られている。OECDの中で長年自殺率1、2位をキープしていたが、昨年また1位に“返り咲いて”しまった。

韓国「中央自殺予防センター」の統計によると、2009年から2017年までの自殺者数は2011年の10万人あたり31.7人を頂点に、30人前半から20人後半を推移しており、2018年は1日の平均自殺死亡者数は37.5人で前年比2.3人(9.5%)増加した。

そして特に高齢者の自殺率がOECD国内でもトップとなっており、年金が十分ではないなど社会保障の問題も大きく関連しているとみられる。中でも80代男性がダントツの1位である。職業別にみると学生、家事従事者、無職が50.9%と突出しており、そこに事務職(12%)、サービス業従事者(10%)と続く。学歴別には高卒が最も多く(42.6%)、続いて大卒(29.9%)、大学院以上(2.4%)と無学歴(0.9%)は思いのほか低いという結果になっている。

編集部註:韓国「中央自殺予防センター」の統計の数字について、初出時は自殺率としていましたが、正しくは10万人あたりの自殺者数だったため、当該箇所を訂正します。(8月3日15時42分追記)

■韓国における自殺報道のガイドライン

こうした事態を重く見た韓国記者協会と韓国自殺予防協会は2004年、共同で「韓国記者協会自殺報道倫理綱領」を発表し、自殺報道のガイドラインを設定した(ただし、社会的に重要な人物など例外についてはこの限りではない)。

その中で「避けるべき事項」には、以下の内容が含まれている。

・(新たな)自殺方法を紹介し、細かく説明すること
・小さな事実を根拠に一般化したり、自殺の原因を単純化したりすること
・自殺した人の写真を掲載すること
・有名人の自殺記事を主要ニュースとして掲載すること

そして、「入れるべき事項」として以下を定めている。

・自殺の最近の傾向
・最新の治療およびカウンセリングの発展の様子
・治療およびカウンセリングを受けて自殺の危機から脱した人々の事例
・自殺せずとも、絶望から立ち直った人々の事例
・自殺神話、自殺の兆候
・自殺危機に面した他人を手助けする方法

■確かに韓国の自殺率は下がったが…

そして、「自殺報道勧告基準3.0」は以下の3つを基本骨子としている。

1.自殺報道には社会的責任が伴います。
2.間違った自殺報道は人間を死なせることにもなります。
3.自殺報道方式を変えれば貴重な命を救うことができます。

そのうえで、以下の5つの原則を定めている。

1.記事のタイトルに「自殺」や自殺を意味する表現の代わりに「死亡」「息を引き取る」などの表現を使用します。
2.具体的な自殺方法、道具、場所、動機などを報道しません。
3.自殺に関連した写真や動画は模倣自殺を引き起こす可能性があるため、留意して使用します。
4.自殺を美化したり合理化したりせず、自殺で発生する否定的な結果と自殺予防情報を提供します。
5.自殺事件を報道するときには、故人の人格と遺族の生活を尊重します。

※有名人の自殺報道をする時、この基準はさらに厳格に遵守しなければなりません。

とはいえ一口には難しい側面もある。著名人の場合は死因が隠されることで新たな憶測や不安が生まれる可能性も考えられる。また、自殺予防に関する報道が逆に「自殺するような人はわれわれとは違う」といった社会的スティグマを広げる可能性を指摘した研究もある。

韓国記者協会はこの前の2014年に「自殺報道勧告基準2.0」を発表、その後は自殺率が低下しているとしているが、勧告基準が守られていないケースも多い。

■なぜ朴ソウル市長は自殺してしまったのか

真相究明はさておき、パク市長は皮肉にも国内の女性問題改善に最も寄与した先駆者の一人だった。弁護士であった1993年、韓国初のセクハラ訴訟の弁護を行い、6年の法廷闘争の末に勝訴。従軍慰安婦問題にも精力的に取り組み、人権活動家として数々の業績も打ち立てた。

人には理想自己、義務自己、現実自己といった自己像がある。他者に見せている自分や思い描いている自分と、実際の自分が一致しないと自尊心が著しく低下することが各種研究でも明らかになっている(ただ、自尊心の定義は文化や国ごとに少しずつ異なる)。

パク市長の場合は女性問題の先駆者および名のある人権活動家としての自己像と現実自己の間に大きな乖離(かいり)があったのかもしれない。そして弁護士として正義を追求してきただけに、告発を受けたことで自己像が矛盾することを許せなかったという可能性もある。

加えて、韓国国内の文化心理学研究には韓国人の自己評価は客観的現実ではなく自身の理想のイメージに基づいたものであるという結果もある。他の国内研究ではさらに、韓国人にとっての自尊心とは、平素は自覚されていないが、他者との関係性の中で傷つけられたときにネガティブな情緒とともに発現する概念であるとも分析している。

そして、多くの人がそうした感情を発散できず、誰かに話したりSNSに書いたりすることで「再体験」「反芻」しメンタルの健康度がどんどん下がっていく。こうしたことも、韓国人の自殺の多さの要因につながる一因なのかもしれない。

■日本も対岸の火事では済まないかもしれない

日本でも主にアラフォー以上の著名男性が公共の場で性差別発言をしたり、職位を乱用したセクハラや不貞行為を行ったりする事例が相次いでいる。自身が若い頃から当然のように感受していた「常識」が突如、社会的に断罪されSNSからも罵声を浴びるといった急激なパラダイムシフトに戸惑うことは十分に想像できるが、彼らがそう簡単に自殺していないのは、日本が良くも悪くも「ほとぼり」が覚めれば「再起」できる社会であるからと考えられる。一方、同調圧力の強い韓国では非常に厳しく、叩く側の記憶力も良いため自殺念慮が加速する要因にもなる。

だが中年男性においては直ちに女性観と言動をアップデートしないとパク市長のように自ら命を脅かすことになりかねない。社会的実績とセクハラが両価的に成立する時代はすでに終わっているのだから。

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安宿 緑 韓国心理学会正会員、ライター、翻訳者。著書に「北の三叉路」(双葉社)、「韓国の若者」(中央公論新社・9月10日発売)

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(安宿 緑)

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