「ツイッターに書くことがない」と悩む人が根本的に勘違いしていること
プレジデントオンライン / 2020年8月3日 15時15分
※本稿は、竹村俊助『書くのがしんどい』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「自分のこと」を書くことにこだわらない
「書くことがない」と悩む人には共通点があります。
それは「自分のこと」を書こうとしていることです。自分の中にコンテンツがないとダメだ、と思っているのです。
しかし自分の中に「何か」がなくても発信はできます。自らコンテンツを生み出そうとするのではなく、まずは他人のこと、まわりのことを発信しようとすればいいのです。
自分の中には何もないのです。急に哲学的な話になりますが、「自分」というのは「他者」でできています。たとえば自分のことを説明しようと思ったとき「○○県出身で、こういう会社に勤めていて、こんな町に住んでいます」と言うでしょう。このとき、出身地も会社も住んでいる町も、「自分」ではなく「他者」の話になります。
自分のことを語ろうとすると、どうしても他者を語ることになる。というよりも、他者を語ることで「自分の輪郭」が明確になっていくのです。
■周りで起きたこと、自分の心が動いたことを書けばいい
ぼく自身、誰かに聞いたことをよく発信しています。
「上機嫌というのは、すなわち上質なことである」というツイートを書いてバズったことがありますが、これはキリスト教のシスターさんに聞いた話です。
また、自律神経の研究で有名な順天堂大学の小林弘幸先生から「人間ができる我慢の量は決まっている」ということを聞きました。それも「なるほど!」と思ったので、ツイートしてみたらバズりました。
自分のことを発信するのは難しくても、自分のまわりで起きたことや、自分の心が動いた瞬間を書いてみればいいのです。
お母さんの言動がおもしろければそれを文章化してもいいでしょう。職場に変わった人がいるならそれを文章にしてもいい。本で読んだ仕事のノウハウでもいいし、誰かから聞いたことでもいい。それを少しずつ発信していけばいいのです。
みんな生きている以上、かならず誰かから何かしらの刺激を受けています。それを発信すればいいわけです。
■コンテンツメーカーではなく「メディア」になる
つまり、本当は全員「メディア」なのです。それなのに「コンテンツメーカー」になろうとするから無理がある。書けないときに見つめるべきは「自分の内側」ではなく「外側」なのです。
「他人のことを書けばいい」と言うと、たまに「人のコンテンツをパクることになりませんか?」と聞かれることがあります。そんなことはありません。もちろん他人の言葉をあたかも自分が考えたかのように発信してはいけませんが、「これは聞いた話です」ということがわかればOKです。
情報やコンテンツ自体はすでにありふれています。「まったく新しいもの」を発信することは相当難しい。そういう時代においては「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が重要になってきます。
つまり、唯一無二の存在である「あなた」を通して発信することに意味がある。「どういうフィルターを通ったか?」「どういう人が伝えたか?」「情報に対してあなたがどう感じたか?」、そこが重要なのです。
■人生が雑誌なら、あなたは「人生の編集長」である
ぼくの中に「伝えたい強烈なメッセージ」はありません。世の中に対して訴えたいことは特にないのです。
もちろん「平和であればいいな」「みんな仲よく、豊かになればいいな」くらいは思っています。それでも声高に「世界を平和に!」と街頭で演説したり、ブログでガンガン発信していきたいとは思いません。
ほとんどの人がそんな感じではないでしょうか? 「発信はしてみたいけど、別に伝えたいことなんてそんなにないんだよな」と。
ただぼくは「こんなにおもしろい人がいたよ!」「こんな発見があったよ!」「これ、けっこう役立つよ!」ということは伝えたいのです。
「書けない」という人は「作家マインド」ではなく「編集者マインド」に切り替えることをオススメします。作家は訴えたいことが自分の中にないとうまくいかないかもしれませんが、編集者は「誰かに伝えたい」という思いさえあればいいのです。
人生が雑誌だとしたら、人はみな自分の人生の「編集長」です。おもしろいこと、役立つことを見つけてきて、集めていけばいいわけです。
「書く」というのは「編集」に近い行為です。誰しもがすでにある情報や言葉を組み合わせて文章にしているにすぎないからです。
■「書く」の前には「取材」がある
「書く」の前には「取材する」が必要です。ネタがなければ寿司が握れないのと同じように、ネタがなければ文章も書けません。
取材をしてネタを仕入れないと「さあ、書こう」と思っても書けない。あたりまえのことですが、ここで止まっている人は多くいます。書けないと嘆なげく前に「きちんと取材をしたかな?」「ネタはあるのかな?」ということを確認してみましょう。
よく「どう書くか」にこだわる人がいます。「どういう表現がいいかな」「どうすればきれいな日本語になるかな」と悩んでしまう人です。
しかし、そこに悩む時間があるなら「何を書くか」というネタにこだわりましょう。
ぜんぜんおもしろくないことを、一生懸命きれいな言葉で書いても、そんなに読まれません。おもしろくないものがおもしろくないまま届くだけです。
きれいなだけの文章は読みやすいかもしれませんが、スッーと流れていってしまいます。多少、日本語がおかしくても、文法が間違っていても、中身がおもしろければ届くのです。
おもしろい文章は、中身がおもしろい。おもしろくない文章は、中身がおもしろくない。ただそれだけの話です。
もちろん書き方でおもしろくする方法もいろいろありますが、それはあくまで最後のテクニック。まずはネタがおもしろくないとおもしろい文章にはならない。だからこそ「取材」に力を入れるべきなのです。
■「取材マインド」を身につけよう
「取材する」といっても、普通の人は新聞記者のようにICレコーダーやカメラを持ち歩く必要はありません。「これは取材なんだ」というマインドを持っておくだけでいいでしょう。
たとえばラーメン屋さんに入ったときに、取材マインドがなければ、普通に食べて帰ってきます。すると、こんな文になるでしょう。
今日はラーメンを食べた。おいしかった。
もちろん備忘録や日記に書くのであればこれでもいいのですが、人に読んでもらいたいのであればこれではダメでしょう。
そこで取材マインドを発動するのです。「これは取材なんだ」と思いながらラーメン屋さんに入れば、いろいろなことに気づきます。すると、
すごくおいしいラーメンだった。ただひとつ気になったのは、出されたときに店主の指がスープに浸かっていたことだ。
とか、
そのラーメン屋には「人生は濃厚なスープ」という格言が貼ってあった。なぜラーメン屋は格言が好きなのだろう。ただラーメンを食べたいだけなのに、人生論を押し付けてくる店は少々暑苦しい。
といった一味違った文章が生まれます。
取材マインドがあれば、ラーメン店の選び方も変わってくるかもしれません。
たとえば日高屋などのチェーン店ではなく、商店街の外れにあるさびれたラーメン屋を選んでみる。いつ見ても誰も入っていなくて、店主がずっと新聞を読んでいるような店です。そういうところにあえて入ってみたら、ネタの宝庫です。「なぜか手伝わされた」とか「追い返された」みたいなことがあっても最高のネタになります。
■ものごとに敏感な人は「取材」に向いている
「ものごとに敏感な人」「神経質な人」「違和感を抱きやすい人」は取材マインドの持ち主です。逆に「何を食べても、何をやっても、なんとも思わない」「世の中になんの感情もない」という人はネタを見つけづらいでしょう。
いちいちイライラする人や細かいことが気になる人は、生きづらいかもしれませんが、それをアウトプットすれば立派なネタになります。ふと感じたことについて、いちいち立ち止まって考えることも大切です。
たとえば「ゴッホ展」などの美術展に行くと、入ってすぐのところに「はじめに」のような長々とした文章が書いてあります。ゴッホは何年に生まれて、なんとか財団の協力を得て、どうのこうのと書いてある。それを20人くらいで囲んで読んでいる。
「……あれ、意味なくないですか?」と思うのです。
絵をみんなで囲って見ているならわかります。でも、文章なら紙に書いて配ってもらえれば手元で読めるし、サイトに載せておいてもらえばいい。音声や映像で流しておいてもいいでしょう。なのに押し合いへし合いしながら「はじめに」を読んでいる。
たしかに「あの場で読む」ことに意味があるのかもしれません。でも「せっかく入場料を払ったのだから、隅々まで読んで元を取らなきゃ」というだけの人も少なからずいるのではないかとぼくは踏んでいます。
■感じたこと、気づいたことを記録してアウトプットしてみる
こんな感じで「これって、意味あるのかな?」と思ったら、メモをするなりしてきちんと覚えておきましょう。違和感があってもそのまま受け入れてしまうと、それは自分の「常識」になっていってしまいます。すると「取材マインド」は消え失せます。
小山薫堂さんも普通に生活していて「ここ、こうだったらいいのになあ」と思ったことは全部覚えておいて、何かをプロデュースするときに活かすそうです。「こうしたほうがいいよね」という一般ユーザーとしての気づきを忘れないようにしているのです。
気づいたことを書いて発信すればネタにもなりますし、共感者がいれば本当に改善されるかもしれない。毎日が楽しくもなるはずです。
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編集者
1980年岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本実業出版社に入社。書店営業とPRを経験した後、中経出版で編集者としてのキャリアをスタート。その後、星海社、ダイヤモンド社を経て、2019年に株式会社WORDS代表取締役に就任。SNS時代の「伝わる文章」を探求している。主な編集・ライティング担当作は『段取りの教科書』(水野学)、『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平、以上ダイヤモンド社)、『メモの魔力』(前田裕二)、『実験思考』(光本勇介、以上幻冬舎)など。手掛けた書籍は累計100万部以上。オンラインメディア「note」に投稿した「WORDSの文章教室」は累計150万PVを超える。
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(編集者 竹村 俊助)
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