コロナ禍で真っ先にリストラされるのは「年収500万円未満の人たち」である
プレジデントオンライン / 2020年8月6日 9時15分
■3密回避の「非接触」「遠隔」「超臨場」ビジネスへ急転換
コロナショックで航空・旅行・観光・飲食・小売業など多くの産業の収益が悪化している。恐ろしいのは、それと同時にダメージを受けている産業でリストラが進んでいることだ。コロナが収束すれば再び元の仕事に戻れると思っている人がいれば、その見通しは甘いと言わざるをえない。
たとえば、上場企業の外食産業主要100社の今年度の閉店数は約1200店に達している(7月29日時点、日本経済新聞社調査)。
コロワイド、ワタミは1割強の店舗を閉店するほか、ジョイフル、吉野家なども相次いで閉店計画を発表している。いったん閉店すれば再開するのに時間がかかる。コロナが長期化すればさらに閉店する店舗は増えるだろう。
■コロナで「外食産業を含めた既存の産業が大きく変化する」
同時にコロナ危機を契機に、外食産業を含めた既存の産業が大きく変化すると見る識者は多い。
産業戦略研究所の村上輝康代表は『生産性新聞』(2020年7月15日)において、いわゆる「密接」「密集」「密閉」の3密ビジネスを、ICT(情報通信技術)を活用し、「非接触」「遠隔」「超臨場」のビジネスへの転換を提唱している。
「密接」回避の非接触ビジネスモデルはキャッシュレス決済にとどまらず、飲食サービスの注文やエンターテインメント施設や宿泊施設でのチケット発券、サービスロボットによる配膳といったサービスのデジタル化を指す。
「密集」回避のビジネスモデルが「遠隔」(リモート)による技術・サービスだ。ECサイトの利用が活発だが、今後は「無人店舗」など流通・飲食・宿泊・金融のあらゆる業種で技術革新を図り適用していく。
「密閉」回避の「超臨場(メタ・リアリティ)」とは、VR(仮想現実)などの最新テクノロジーを認知科学で進化させ、臨場感を高めることだ。たとえば音楽やスポーツなどの超臨場ライブは、現場中継だけではなく応援や観客席側の臨場感を加え、リアリティを超えるリアリティを目指すべきと村上所長は同紙で提唱している。
さらにZoomなどのウェブ会議サービスは実用化が進んでいるが、まだ臨場感が不足しており、人事評価の上司と部下の2人だけの話し合いなど臨場感が伝わるように技術を進化することが可能だという。
■3密回避型の「産業構造転換」は全業種に波及必至だ
こうした3密回避型の産業構造転換はすでに始まっている。
外食ではモスバーガーが遠隔操作のできる音声対応ロボットを使った実証実験を始めている。デニーズは東京都内に宅配専用の厨房を開設。ネット上で受け付けた料理を、宅配事業者を通じて注文先に届けるサービスを始めている。
こうしたビジネスモデル転換の行き着く先は、これまでの職がなくなることを意味する。しかも、「職がなくなる」のはコロナの影響を直接受ける産業にとどまらない。
3密回避のビジネスの動きは当然AI(人工知能)などデジタル技術の発展を加速させる。従来指摘されていたAIの発達でなくなる仕事の時期がより早まることは間違いないだろう。
英オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイとマイケル・A・オズボーンの2人がAIの進化で奪われる職種についての論文を2013年に出し、世界を驚かせたのは記憶に新しい。
10~20年以内に米国の労働人口の47%がAIなどの機械に代替されるリスクが70%以上と発表していた。しかし、当時の日本はどこの企業も人手不足であり、AIが自分の仕事に取って代わるのはまだ先の話だと思っていた人も多かった。
しかし、コロナ危機で接客業などの接触型ビジネスや事務系や工場など定型業務の労働集約型産業から、AIや機械へのシフトや専門技能集約型労働への移行が現実味を帯びている。
■コロナ前まで人出不足だった職種が、いきなりリストラ開始か
日本でも三菱総合研究所の「内外経済の中長期展望2018~2030年度」には次のような職種の労働人口の数字が出ている。
●一般事務・営業事務・会計事務などの「分析的なタスクでルーティン業務に従事する人」:1880万人
コロナ前までは、生産・輸送・建設職や販売・サービス職は人出不足の状態にあった。それがAIなどの活用で徐々に緩和され、事務職は2020年代前半から過剰になり、2030年には120万人が過剰になる。少し遅れて生産職はIoTやロボットによる自動化で顕在化し、30年に90万人が過剰になると予測していた。
しかしコロナをきっかけにその時期が早まるだろう。
■3大メガバンクも2026年までに計3万人超の削減
すでに業務効率化のツールとして注目されているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)がホワイトカラーの定型業務を次々と代替している。
RPAとは、AIとML(機械学習)を活用し、人間が担っていた定型作業をコンピュータに処理させて自動化する“事務ロボット”だ。
最大の特徴はオフィスワークのルーティン(定型)業務を代替できること。社員が携わっている業務をルーティン業務と非ルーティン業務に仕分けする。具体的には業務を個々のタスクに分解し、そのうち代替可能なタスクをRPAが担う。それによって業務の効率化が向上し、社員は非ルーティング業務に集中できる。
金融・保険業界を中心に多くの業界で事務系の定型業務がRPAに急速に代替されつつある。また、これまで生命保険業界が多く抱える営業職はAIなどに代替されにくい職種とされてきたが、コロナ禍で対面営業ができなくなり、リモート対応に切り替えている。だが新規顧客の獲得は難しく、技術革新を含めた新たなビジネス手法が求められている。
一方、日本の3大メガバンクは合計で3万人超の業務・人員を2023~26年までに削減する方針を打ち出していたが、こちらも前倒しで一気に人員削減が進む可能性もある。
■テレワークができない「年収500万円未満」の人のクビが危ない
今後、AIの進化で失われる仕事に加えて、コロナ禍によってなくなる仕事のキーポイントが「テレワークできる仕事」と「できない仕事」である。
コロナ危機によってアメリカではテレワークできない仕事に従事する人が職を追われ、逆にテレワークできる仕事に従事する人は収入も含めて影響を受けないという実態が顕著になっている。
また、テレワークできない人、つまりテレワーカビリティの低い人は中・低所得層に多く、コロナ危機によって格差が拡大しているとの指摘もある。
労働政策研究・研修機構の調査では、日本でも在宅勤務に早期に移行した人は労働時間も変わらず、収入を維持した人は高所得層(年収700万円以上)に多く、逆に在宅勤務に移行できず、労働時間や収入が低下した人は所得が低い層(500万円未満)に多い。
■失職リスクが高いのは、飲食業、販売業、建設業、警備業……
みずほ総合研究所も、テレワーカビリティの低い仕事とAIなどに代替される仕事には関係があるという調査結果を発表している(「コロナショックと労働市場」2020年7月15日)。
同調査では、アメリカの職業分類ごとに算出した「雇用の自動化リスク(ロボットやAIなどに仕事を奪われやすいかどうか)」の確率と、米国労働省が算出したテレワーカビリティを並べて比較している。
その結果、「雇用の自動化リスクが高いほどテレワーカビリティが低いという関係がみられる。デジタル化というメガトレンドが、コロナショックによって雇用面で加速するというストーリーは説得的である」と述べている。
ではどんな職業が失われていくのかを見てみよう。
飲食業の職業
土地・建物の清掃、メンテナンスの職業
建設・採掘の職業
設置、保守、修理の職業
生産の職業
運輸・運搬の職業
販売・営業の職業
事務/管理補助の職業
2:<自動化リスクが30~40%超でテレワーカビリティ10%以下の職業>
医療補助の職業
保安・警備の職業
ケアとサービスの職業
3:<テレワーカビリティが40~60%と高いが、自動化リスクが30%以上の職業>
ビジネスと財務の職業
法務の職業
これらはアメリカの職業分類(大分類)のうち、軍隊と農業・漁業・林業を除いた21職種のうち13を占める。コロナ感染が長引けば、上記の1の職業が最初になくなるか減少し、その次に2の職業、3の職業という順番だ。
■コロナ禍でもしぶとく生き残る職業の具体名
それでは、生き残る職業とは何か。テレワーカビリティが40~60%と高く、自動化リスクの確率が20%以下の職業は以下の通りだ。
コンピュータ・数理の職業
建築・エンジニアリングの職業
自然科学、社会科学の職業
コミュニティ/社会サービスの職業
教育、訓練、司書の職業
アート、デザイン、エンターテインメント、スポーツ、メディアの職業
医療・看護・技師の職業
これらの職業に共通するのは創造性の発揮が期待される専門職人材だ。マネジメントの職業も含まれているが、マネジメントといっても単に課長、部長という役職を指すのではなく、プロジェクトや部下を動かすことができるプロフェッショナルのリーダーを指す。
また、コンピュータやエンジニアリングの専門家にはデジタル技術者などアフターコロナの技術革新を担う専門人材も含まれる。
前出の三菱総合研究所の調査によると、日本には技術職・研究職、金融・保険専門職など「分析的なタスクで非ルーティン業務に従事する人」は900万人存在する。しかし、こうした技術革新をリードする専門職人材は2030年には170万人が不足すると予測している。
コロナショックを契機に前述した3密回避のビジネスモデルへの転換が叫ばれており、専門人材に対するニーズはすでに高まっている。多くのビジネスパーソンも今後、スキルやキャリアチェンジを迫られることになるだろう。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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