京大教授「第2波恐れる必要はない」…なぜ日本はコロナ重症化率・死亡率が低いか
プレジデントオンライン / 2020年8月7日 11時15分
■雇用の悪化は遅れてやってくる
新型コロナ感染拡大による解雇が、7月の1カ月だけで約1万人増えて計4万人超(厚生労働省調査)。4月の緊急事態宣言下で仕事を休んだ人は597万人で、うち約1割が退職、あるいは職探しをあきらめた(総務省統計局・労働力調査)……等々、新型コロナ感染拡大と緊急事態宣言が社会に何をもたらしたのかが、ようやく数字で判明し始めた。
こうした極めて厳しい労働環境は、今後さらに悪化する公算が高い。今年6月の有効求人倍率は1.11倍と2014年10月以来の低水準だが、雇用調整は遅れてやってくるのが常。2008年9月のリーマンショック後、有効求人倍率が最悪の水準にまで低下したのはちょうど1年後(2008年8月0.86倍→2009年8月0.42倍、労働政策研究・研修機構調べ)だった。
SNS上の一部では、地方のベンチャー企業が出した4職種若干名の求人に計350人超の応募が殺到。大量の失業者の出現に、経営者が「半年前の売り手市場に四苦八苦していたのが嘘のようだ」「恐怖にも似た感情を持った」と本音を吐いているのが話題となった。
■1000万円足りず会社倒産。元に戻すには3倍以上の資金が
この先、倒産が激増する可能性は高い。1社の倒産は社会にゼロではなくマイナスを生む。たとえば500万円、1000万円足りぬから潰れる店や会社は数多い。しかし、一度潰れた店や企業を元に戻すには3000万円、5000万円かけてもすぐには元の状態になど戻れない。
しかも、企業が存続できれば税金は払えるが、倒産すれば税金を払うどころか、雇用保険金の支払いや、生活保護で税金を使う一方の経営者・元社員がものすごい数で生み出されることになる。一度壊したものを元に戻すには、大変な時間とコストがかかるのだ。犯罪の増加といった世情の不安はもちろん、失業率と自殺率の密接な関係は、今さら繰り返すまでもない。ウイルスから命を守るための方策のはずが、いったい何のためにやっているのかがわからなくなってしまう。
さらに俯瞰してみると、国家や企業が今年の4~6月期の経済指標・業績の目を疑うような数字を続々と発表している。米国は4~6月期の実質国内総生産(GDP)が、年率換算でなんと前期比32.9%の減少(速報値)。1947年以降で最大の下げ幅という。ユーロ圏はそれ以上の40.3%減。需要が文字通り消滅した、という格好だ。日本では、一昨年10月から景気後退が始まっていたにもかかわらず、昨年10月に消費税を8%から10%に上げたことでさらなるダメ押し。そこへ新型コロナが……という二重苦、三重苦の様相で、同様に年率換算でGDP27.9%減と見込まれる(日本総研予測)経済活動の大ブレーキと前述の雇用状況を呼んだわけだ。
■「大丈夫だ」はニュースにならない
この状況下で、さらに経済を「止める」という判断が何を呼ぶのか。幸い、今のところ政府にそうした意図は見られないが、東京都を中心に連日感染者数の増加を、都道府県知事らがこれ見よがしのボードを掲げて喧伝、それをメディアが増幅している。7月初頭以降は、メディアに登場した多くの識者が、「2週間後、1カ月後(の重症者・死者数)は、どうなるかわからない」と心配顔をするのが常だった。
が、感染者数に比べて、最も肝心な重症者数・死亡者数は、そうした大宣伝に見合った増え方をまったく見せていない。なのに、この恐れ方はいったいどうしたことか。他の疾病と比べて無視できぬ数の死者が出ない感染症なら、国家レベルで恐れたり身構えるにも程度があろう。
「大変だ、心配だ」と警鐘を鳴らすのはメディアの役割だし、視聴者・読者もつく。皆で同じことを言っていればまあ、恰好はつくし安心。語尾に「……の可能性がある」と入れておけば責任は追及されないし、結果的に大変ではなかったとしても「ああ、よかったね」で済ませることができる。逆に「大丈夫だ」は通常、ニュースにならない。仮に「大丈夫だ」と言ったのに大丈夫でなかったらみっともないし、下手をすると社内外の責任問題になる――そんな無意識の防衛本能が、報道機関の「大変だ」の大合唱につながっているのだろう。
■「すでに集団免疫を獲得。“第2波”を恐れる必要はない」
しかし、それに煽られた世間では、不安が不安を呼ぶ。それを鎮めるのは正しい情報とその見立てである。その筆頭にいわゆる“ファクターX”がある。他国に比べて重症者・死亡者が少数で済んでいる理由が何なのか。それがはっきり分かれば、犠牲者をさらに減らす方策を立てることが可能になるし、仮にウイルスが悪い方向への変異を見せたとしても、一定の対処策は講じられるかもしれない。
ファクターX候補として直近で注目を浴びているのは、「すでに日本人は集団感染が達成されている」「“第2波”を恐れる必要はない」とする上久保靖彦・京都大学大学院医学研究科教授および吉備国際大学の高橋淳教授の研究。当サイトでは5月にすでに紹介済みだが、上久保氏は7月27日、免疫学が専門の順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康氏とともに都内で記者会見を開いて、その仮説を改めて繰り返した。
■中国人の入国禁止措置を延ばした“幸運”
要約すると、日本本土に侵入・拡散した新型コロナウイルスの複数のタイプについて、侵入の順序やウイルスどうしの干渉の仕方が(幸運もあって)他国と異なっており、それが集団免疫につながった、ということだ。上久保氏によれば、新型コロナウイルスには大きく分けてS、K、Gの3つのタイプが存在し、それぞれが日本国内に浸透する順番が集団免疫成立のカギだったという。3タイプおのおのの特徴は、以下の通り。
K型:S型の変異型で弱毒性。今年1月頃をピークに日本国内へ侵入。G型に対する獲得免疫を持つ
G型:中国・武漢で発生、感染力が強い。上海で変異し欧米に拡散。
まず、上久保氏らは昨年11月から今年1月にかけて、日本国内のインフルエンザ感染者が例年より少なかったことに着目した。なぜ少なかったか? インフルエンザに感染した人は新型コロナには感染せず、逆もまた同じ。これをウイルス干渉と呼ぶが、インフルエンザ感染者が減ったのは、インフルエンザウイスとのウイルス干渉を起こすS型・K型が、昨年来の早い時期に日本国内に侵入・拡散していたからだという。
G型が猛威を振るい、1月23日からロックダウンに入った湖北省武漢市について、日本は2月1日から「2週間以内に渡航歴のある人」を入国禁止にしたが、それ以外の地域の中国人は3月9日まで日本への入国が可能だった。この間、中国人とともにG型の毒性を弱めるK型が流入し蔓延。それが逆に幸いして、日本人はG型の上陸前にその集団免疫を獲得。実際にG型が上陸しても、少ない重症化率・死亡率で済むに至ったという。
■武漢発ウイルスG型の毒性を強めるS型、弱めるK型
ちなみに、武漢発のG型は上海で変異した後にまずイタリアから上陸し欧州・米国に広がって猛威を振るったが、欧米いずれの地でも昨年10月以降、まだ渡航制限がなかった頃にS型が流入・蔓延していた。このS型、実はK型とは逆にG型の致死率を上げるほうに作用する。それに加えて、欧米は日本より1カ月早い2月上旬にはすでに中国人の渡航を禁じていたため、K型が国内に入ってこなかった。G型の新型コロナウイルスの感染が拡大した欧州・米国で重症化率・死亡率が高い原因はこの2つだという。
もっとも、疑問点はいくつか残されている。集団免疫で日本人の体に生成されているはずの抗体がなかなか検出されないこと、抗体が生成されたとしても、それが数カ月で減退するかもしれないこと、等々。他のファクターX候補と同様に精査の余地はあるようだ。
■「ファクターXが存在する」前提で動け
他にもBCGの予防接種寄与説や、国際医療福祉大学の高橋泰教授が唱える「感染7段階モデル」など、ファクターXの有力候補はいくつか存在する。1つしかないとは限らないし、あるいはまだ表に出ていない別の要素かもしれない。それが何なのかを確定する作業が急がれることは言うまでもないが、無責任の誹りを承知で言うと、ファクターXが不確定なものであれ、今はそれが「存在する」という前提で国や企業を運営しなければ、日本経済は本当に死に至ってしまうのではないか。
繰り返すようだが、人とモノとカネの循環をぶち壊すのは簡単でも、それを元に戻すのにどれだけの代償を支払わねばならないかは、かつてのバブル経済後に痛切な経験を積んでいるはずである。
今は、選挙民の不安を鎮め、支持率が下がろうが「親兄弟が死んでもいいのか」などと怒号を浴びようが、自粛要請という無責任な手段に訴えず、忍の一字で経済活動を継続させるのが、今の政治の役割ではないだろうか。またこの期に及んで、重症患者・死亡者の数をアリバイ程度にしか報じず、感染者数の増加ばかり喧伝するマスメディアのニュースにどれだけの価値があるのか、視聴者は落ち着いて考えたほうがいいかもしれない。
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プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。
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(プレジデント編集部 西川 修一)
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