レジ袋有料化は「エコ」じゃない…製造会社の涙の訴えと"死んだウミガメ"の真相
プレジデントオンライン / 2020年8月12日 15時15分
■海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの解決
今年7月1日、すでにスーパーでは始まっていたレジ袋の有料義務化が、対象をコンビニや百貨店などに拡大して全国的にスタートした。有料か無料かを問われれば、金額の多寡に関わらずタダを選ぶ人は少なくない。年間300億枚(環境省調べ)、1人1日1枚程度というレジ袋の消費に多少は歯止めがかかるのかもしれない。半面、レジで店員にいちいち1枚3円、5円を支払うか否かを問われるのが煩わしいと感じる向きもあろう。
経済産業省は、今回の有料義務化を「海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの解決に向けた第一歩」と位置づけ、「マイバッグ持参など、消費者のライフスタイルの変革を促すことが目的」と説いている(レジ袋有料化Q&Aガイド)。
2016年1月に開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、世界のプラスチックの生産量が1964年~2014年の間に20倍以上に急増。海に流出したプラスチックは、2050年までに海のすべての魚の量を上回る(重量ベース)という試算が発表されており、海洋プラスチックごみ対策はそのあたりの流れを受けて設けられたようだ。
何せプラスチックのゴミといえば、1972年のオイルショック以来日本人の心に根付いている地球環境の敵役だ。面倒だとは思っても、なかなか抵抗しづらい理由付けのキャンペーンではある。いっそ気持ちを入れ替えて、「世界のために今、私ができること」を日々積み重ねていくのもアリなのだろうか。
■ポリ袋はビニール袋とは違う。実はエコ。
ただ、レジ袋を作る側の人々にとっては、とてつもない逆風である。東京都内に本社を置くファッションバッグ・レジ袋・ゴミ袋,フィルムシート製造の清水化学工業が、自社ホームページに「脱プラスチック、脱ポリエチレン、ポリ袋から紙袋へ切り替えをご検討のお客様に一度弊社の声をお届けしたくメッセージを書かせて頂きます。」と、その持論を詳しく掲載。多くの反響を集めている。
同社によれば、「ポリ袋は実はエコ」だという。
① ポリエチレンは理論上、発生するのは二酸化炭素と水、そして熱。ダイオキシンなどの有害物質は発生しない。
② 石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。ポリエチレンは石油をガソリン、重油等に精製した残り・余りもの。
③ ポリ袋は薄いので、資源使用量が少量で済む。
④ ポリ袋は見かけほどごみ問題にはならない。目に見えるごみの1%未満、自治体のごみのわずか0.4%。
⑤ 繰り返し使用のエコバッグより、都度使用ポリ袋は衛生的。
⑥ ポリ袋はリユース率が高い。例)レジ袋として使用した後ごみ袋として利用
……等々、メーカー側の都合の良い言い分ばかりかと思いきや、ポリ袋を塩化ビニール製と思い込んでいたような向きにとって、新たに気づかされる記述が多い。
■ポリ袋は海洋プラスチックごみの0.3%
気になるのは、海洋プラスチックごみの種類の内訳(環境省「海洋ごみの実態把握調査」容量ベース 2016年)だ。多い順に漁網、ロープ(26.2%)、発泡スチロールブイ(14.9%)、飲料用ボトル(12.7%)、ブイ(8.9%)…と続き、「ポリ袋」はずっと下位、なんと0.3%しかない。
ゴミを出す分量が少ないほうがいいのは当然だが、物事には優先順位があるだろう。海に漂うプラスチックごみの1%にも満たぬポリ袋の減少を、なぜ大半の国民を巻き込んだ大仰なキャンペーンで奨励しなければならないのだろうか。
デンマーク・コペンハーゲン・コンセンサス・センターのビョルン・ロンボルグ前所長も、「すべての国がビニール袋を禁止したとしても、ビニール袋は世界の海に浮いているプラスチックの質量の0.8%未満しか占めていない」とその無意味さを語っている。米カリフォルニア州では、ビニール袋を全面禁止にして年4000万ポンドのプラスチックを排除したはいいが、ごみ袋として再利用していたビニール袋がなくなったせいで別の素材のゴミ袋や紙バッグの消費が激増。より多くの二酸化炭素を出す羽目になったという(THE GLOBE AND MAIL 2019年6月17日)。
何よりも、新型コロナの感染が取りざたされる中、同じ袋の使いまわしはウイルスを仲介してしまう危険が付きまとう。2016年にプラスチック製のレジ袋を禁止した米国カリフォルニア州では、紙袋などを10セント、日本円で10円程度で販売する法律を導入したものの、今年4月にレジ袋を無料で復活させる(NHK7月1日)など、元に戻す動きが続出しているのだ。
■OECD諸国には不利な環境規制
また、「誤ってビニール袋(ポリ袋)を食べたウミガメが死んだ」といった類いのエピソードも、そのままうのみにすべきではないようだ。2000年以降、神奈川県に漂着したウミガメの死体を累計500頭以上解剖した団体による、「いまだにビニール袋が死因と断定できるウミガメには出会っていません」との報告もある。
レジ袋に限らず、一時やり玉に挙がったストローなど、プラスチック関連の規制にはなぜ今? といいたくなる。近年クローズアップされてきたマイクロプラスチック——大きさ5mm以下の微細なプラスチックごみ——もそうだ。
2004年に科学誌で取り上げられたのが端緒とされるが、歯磨き粉の研磨剤などに含まれていたり、さまざまなプラスチック塊の破砕や劣化によって生じるとされ、漂流の過程で表面に吸着した化学汚染物質が海洋生態系へ取り込まれる原因になる可能性があるほか、誤って食べた海洋生物の体内に取り込まれることによって、海洋生物が害を受け、炎症反応、摂食障害などにつながる場合があるというが、先述のダボス会議まで誰も知らなかったわけではあるまい。
少なくともすでに急速な経済成長を終え、それなりに環境対策を進めているOECD加盟国、特にその優等生である日本にとって、この先環境問題に絡めて新たな規制をかけられるのは、CO2削減目標は今も発展途上国と同じ扱いの中国など、最近まで野放図に驀進し、膨大な廃棄物を今も出し続けている新興大国との競争において、伸びしろが少ない分ハンディを負うことになる。
■本気で環境問題に取り組もうとする国は…
逆にいえば、新興国に環境問題による規制という足かせをはめるのは、新興国とそこに巨額の投資を行う欧米の資本家たちにとっても望ましくないことになる。トランプ米大統領なら罵倒するスウェーデンの環境運動家グレタ・トゥーンベリ氏が、世界最大のCO2排出国である中国を批判しないのも、何かしら理由のあることなのかもしれない。
前出のロンボルグ前所長は、大陸から海に流入するプラスチックごみのうち、OECD加盟国のものは5%以下。半分は中国・インドネシア・フィリピン・ベトナムの4カ国によるものであり、とりわけ中国のものが27%以上と指摘。重要なのは、この4カ国の廃棄物管理を注視することだと主張した。
確かに、これだけのデータが明らかでいながら、CO2をはじめとする環境問題について新興国を追及しないのなら、本気でプラスチック問題、環境問題に取り組もうという国が、本当は世界中でどこにもいないのだということになってしまうのだが……。
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プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。
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(プレジデント編集部 西川 修一)
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