イマドキの若手には「これじゃダメ」より「こうしたらどうか」が効く
プレジデントオンライン / 2020年8月20日 15時15分
※本稿は、榎本博明『ビジネス心理学大全』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■すぐに反発したり落ち込んだりする
戦力として使うためにも、本人の成長のためにも、至らない点、改善すべき点を指摘しなければならないのだけれど、最近の若手はすぐに反発したり落ち込んだりするので、非常に指導がしにくいというのは、どの職場でも管理職が口にする悩みです。
経営者や管理職の人たちが、仕事の質を上げるために必要な注意をするのをなぜ躊躇しなければならないのか、今の時代はおかしいのではないかといった思いに駆られるのもわかります。自分たちが若手だった頃は、もっと厳しく注意されても、それを素直に受け入れて、自分の仕事のやり方を修正し、成長してきたので、今の若手の気持ちが理解できないのでしょう。
でも、そういう時代になっているのが現実なので、今の若手の気持ちも理解し、そうした心理を踏まえて、戦力として育てていく必要があります。そこで、まずは今どきの若手の心理から見ていくことにしましょう。
■「認めてほしい」という欲求が非常に強い
今の若手はほめて育てるという教育思想が急速に日本中に広まる中で育った世代です。それに加えて、わが子が叱られたり厳しい目にあったりすると学校にすぐにクレームをつけるモンスターペアレントも登場し、学校の先生も生徒を叱りにくい時代に学校生活を送ってきました。
たえずほめられ、承認欲求が満たされてきたため、承認欲求が満たされないとやる気になれないといった感受性の人が多くなっています。さらには、叱られることがほとんどなかったため、叱責されたり、注意されたりすることに耐えられない感受性をもっている人が少なくありません。
上司など年配者は、子ども時代に家庭でも学校でもしょっちゅう叱られ、厳しいことを言われて育ったため、就職してから上司や先輩から厳しく叱られたりしても、心の抵抗力があるので、心が折れるようなこともなく、ときにその理不尽さに「何くそ!」と反発しながらも、「絶対に認めさせてやる!」と息巻いて頑張ることができました。
でも、今の若手は、そのように叱責を糧にして頑張るよりも、反発したり、やる気をなくしたりしてしまいやすいのです。
そのため、上司の側からすれば、本人のためを思って口にした注意の言葉であっても、それを冷静に受けとめる心理状態になく、被害者意識さえもってしまうことがあるわけです。
注意されるということは、自分のやり方を認めてもらえなかったことになるので、機嫌が悪くなり、やる気をなくすわけです。「ダメ出しばかりでやる気なくなる」とか「あれはパワハラじゃないですか」といった不満を口にする人たちの心の中には、満たされない承認欲求が渦巻いていると思ってよいでしょう。
■「これじゃダメ」ではなく「こうしたらどうか」
このように育った世代は、「ダメ出し」に耐えられる感受性はあまり持ち合わせていないため、「何くそ!」と反発し、「ちゃんとできるようになって見返してやる」と勢いづくようなことにはなりにくいのです。モチベーションにつながる反発ではなく、「せっかく頑張ったのに、ダメ出しかよ。もうやる気なくした」といった感じの反発になりがちです。
だからこそ、厳しく育てられた世代には想像できないくらいの傷つきやすさを抱えているということを念頭に置いて指導する必要があるのです。
今どきの若手のもうひとつの特徴として、マニュアル世代ということがあります。学生時代にアルバイト経験が豊富といっても、今の時代は極力人によって仕事にムラが生じないように、多くの仕事がマニュアル化されています。そのため、自分で頭を悩ませ、工夫をして、自発的に仕事力を高めるという経験が乏しいということがあります。ゆえに、「ダメ出し」されても、「じゃあ、どうすればいいんだ?」と戸惑ってしまいます。
したがって、いきなりの「ダメ出し」は禁物です。傷つけないためにも、見放された気にさせないためにも、「これじゃダメだ」「そんな対応で通じるわけないだろう」というような言い方ではなく、「ここをもうちょっと工夫できないか?」「もう少し丁寧に対応するようにしたら、与える印象もずいぶん違ってくるんじゃないかな」などというように、改善の方向性を示唆する言い方をすると、注意の言葉も染み込みやすくなるでしょう。
■命じるよりも「問いかける調子」でアドバイス
傷つきやすい世代を育てるのは大変だと思うかもしれませんが、傷つきやすい心理を理解し、それなりの対応を心がけていれば、それほど難しいものではありません。
「ダメ出し」をするのではなく、改善の方向性を示唆する言い方を心がけるということに加えて、「問いかける調子」でアドバイスすることも大切です。「こうするように」というときつい感じになりますが、「こんなふうにしたらどうかな?」というように問いかける調子で言うと、柔らかい印象になります。そのようにクッションを挟んだ言い方を心がけたいものです。
さらには、ミスを指摘し、改善を促す場合なども、「私も若い頃はよくやらかしたもんだけど」とか「みんな最初はよくこういうミスをするんだけどね」などといった調子で、クッションとなる枕詞を用いるのも有効です。
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心理学博士
МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)
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