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中国経済「主要国で唯一のプラス成長でも危険すぎる理由」

プレジデントオンライン / 2020年8月24日 18時15分

李克強首相。欧州連合(EU)と中国はテレビ会議を通じて第22回二国間サミットを開催した=2020年6月22日 - 写真=Avalon/時事通信フォト

■“国家資本主義体制”の優位性を世界に示した中国だが……

2020年4~6月期、主要国の経済成長率は、軒並み第2次世界大戦後で最低の落ち込みを記録した。前年同期比でみた実質GDP(国内総生産)成長率は米国がマイナス9.5%、日本でマイナス9.9%、ドイツでもマイナス11.7%だ。

共通するのは、コロナウイルスの感染拡大で人々の動線が阻害され、個人消費が大きく落ち込んだことだ。ワクチン開発と供給に関しては不確実な部分があり、先行きの不透明感はぬぐえない。それに加えて、米中対立の先鋭化は世界の貿易取引を低迷させている。

そうした状況下、中国では共産党政権が迅速果敢に財政・金融政策を運営し、4~6月期のGDP成長率は3.2%のプラスだった。それは、ある意味で“国家資本主義体制”の優位性を世界に示したといえるかもしれない。ただし、その裏側で不動産バブルと債務の拡大の懸念が高まっていることは軽視できない。

将来の展開は不確実だが、バブルはどこかではじける。歴史を振り返ると、バブル崩壊後、経済全体でバランスシート調整と不良債権処理というバブルの後始末が必要になる。今すぐ、それが現実のものになるとは思わないが、世界第2位の経済大国である中国で不動産バブルが崩壊すれば、世界経済には無視できない影響が及ぶ。

特に、近年中国との経済的関係を重視してきた韓国経済にはかなりのマイナスの影響が及ぶことは避けられないだろう。

■中国経済の光と影「債務依存度は高まるばかり」

現在の中国経済は、光と影が混ざったまだら模様の状態だ。明るい部分として、4~6月期のGDP成長率はプラスだった。

それを支えた要因の1つは、自動車の生産と販売の回復だ。中国政府が感染対策を徹底した結果、4月に入り中国の生産活動が回復しはじめた。その上で、政府は電気自動車(EV)などの販売補助金を2年延長し、新車販売台数は前年同月比で増加に転じた。

産業のすそ野が広い自動車の販売増加は、中国経済の持ち直しを支えた一因だ。世界経済全体で中国以外に自動車の販売が増加している市場は見当たらない。

公共事業の積み増しも経済を支えた。橋梁や鉄道、工場建設のために鉄鋼やセメントの生産が増加し、4~6月期のプラス成長を支えた。中国の個人消費が低迷していることを考えると、目先の景気安定に公共事業の重要性は高まっている。AIなどIT先端分野での競争力も景気を支える要因だ。

一方で、中国経済には影の部分もある。経済成長の限界を迎えつつあることだ。2018年以降、度重なるインフラ投資にもかかわらず中国のGDP成長率は鈍化したことがそれを示している。資本の効率性は低下し、債務問題は深刻化している。

その状況を改善するために、昨年4月ごろまで李克強(リー・コーチアン)首相と劉鶴(リウホー)副首相は規制の緩和や市場原理の導入など構造改革を重視し、鉄鋼などの過剰生産能力の解消と、成長期待の高い先端分野への生産要素の再配分を目指した。

背景には、わが国の教訓がある。1990年代初頭のバブルが崩壊後、1997年までわが国は公共事業を積み増し“ハコモノ”を建設することで雇用保護を優先した。その結果、不良債権処理が遅れ経済は長期停滞に陥った。

しかし、昨年4月下旬、米中の通商摩擦が一段と激化し、習近平国家主席は保守派に配慮して補助金政策などを用いた経済運営を優先した。地方政府は債券発行による資金調達を増やし不動産開発やインフラ投資を行った。その結果、債務残高は増加した。その上に新型コロナウイルスが発生し、債務依存度が高まっている。

■歴史から振り返ると中国の不動産バブルに調整圧力か

また、中国人民銀行(中央銀行)は新型コロナウイルスの感染拡大による中小企業などの資金繰りを支えるために、金融緩和を強化した。その結果、4月以降、景気の持ち直しとともに投資資金は不動産市場に還流し、不動産バブルが再膨張している。それも中国経済の弱さの1つだ。

バブル発生の経緯を簡単に振り返っておこう。リーマンショック後、中国は景気対策の一環として不動産開発を重視した。その結果、不動産価格上昇への期待が高まり、多くの人が資金を借り入れて不動産を購入した。“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が連鎖して不動産価格は高騰し、バブルが発生した。

中国政府は景気と不動産価格の動向に合わせて金融政策や融資規制などを調整し、バブルの崩壊を防いだ。2020年1~3月期、新型コロナウイルスの感染発生によって一時的に中国の不動産投資は鈍化したが、景気の持ち直しによって価格には上昇圧力がかかっている。

未来永劫、資産価格が上昇し続け、債務が増え続けることはありえない。日米のバブルの歴史を振り返ると、GDPの2倍程度に民間(家計と金融機関を除く企業)の債務残高が達すると、経済全体に調整圧力がかかる可能性が高まる。

■サムスンの業績に影響も

BIS(国際決済銀行)によると3月末で中国の民間部門の債務残高はGDPの204.6%だ。その水準は1980年代後半のわが国の状況に近い。不動産バブルに加え、基礎資材分野では過剰生産能力が増している。それを補助金などで延命するにも限度がある。中国経済の下方リスクは上昇しているとみるべきだ。

それは、中国経済に依存して社会と経済の安定を維持してきた韓国にとって無視できないリスクだ。過去、中国経済がそれなりに落ち着いている場合、最大の輸出先である中国の需要を取り込んで韓国では設備投資が増え、雇用・所得環境が改善した。

それを支えたのが韓国最大の企業であるサムスン電子だ。同社の中国向けの半導体輸出などが増えると韓国全体で株価は上昇し、消費者心理も上向いた。反対に、中国のバブル崩壊懸念が高まる場合、同社の業績にはかなりの影響があるだろう。

■中国は不良債権処理が不可避に

その場合に懸念されるのは、韓国経済の機能が大きく低下することだ。最大のポイントは、韓国経済の大黒柱であるサムスン電子への影響である。韓国経済にとって最も重要な企業はサムスンであることは言うまでもない。同国のGDPの約2割を占める、押しも押されもせぬ経済の中心企業だ。

サムスンの台頭には、韓国の過去の保守派政権の経済運営姿勢が強く影響している。朝鮮戦争の休戦後、保守派政権はサムスン電子を筆頭に財閥企業の経営を優遇した。サムスン電子などは政府の支援を取り付けつつ、わが国からの技術移転を進めた。

その結果、韓国は汎用品を大量生産し、低価格で輸出する体制を整え、最大の輸出先である中国を中心に海外の需要を取り込んで経済成長を実現した。

半導体をはじめIT先端分野で世界的シェアを手に入れたサムスン電子には、多くの人が就職を目指した。良い大学を卒業し、賃金水準の高いサムスン電子に就職することを夢見た。それは韓国の受験戦争がし烈化した要因の1つだ。

そのサムスンの重要顧客の1つは中国のIT企業だ。いわば、中国経済が元気で同国のIT企業が隆盛を誇っている間は、サムスンも相応の収益を上げることが可能になる。問題は、中国経済の中の不動産バブルが崩壊する懸念だ。中国経済が低迷期に入ると、中国と関係の深い韓国にもマイナスの波が及ぶことは避けられない。

いつ、そうした展開が起きるかは予想できないが、どこかのタイミングで中国の不動産バブルは崩壊し、不良債権処理が不可避となるだろう。それによって、中国経済の成長は鈍化し、サムスン電子が中国の需要を取り込んで業績拡大を目指すことは難しくなることが懸念される。

■ファーウェイ向けの輸出も抑えられ韓国経済は苦境に

また、仮に、中国の不動産バブルが延命されても、長い目で見ると、韓国を取り巻く経済環境は厳しさを増すことになるだろう。

中国は補助金政策などによって半導体の製造など先端分野の競争力を引き上げ、米国に対抗しようとしている。サムスン電子にとって中国企業は重要顧客から競争上の脅威に変わりつつある。

過剰生産能力の深刻化によって中国の潜在成長率が低下していることも韓国経済にはマイナスだ。

さらに、中国の不動産バブルだけでなく、米中対立の先鋭化によって、サムスンが中国のIT企業向けの輸出が抑えられる可能性もある。特に、米国が締め上げ策をとっているファーウェイ向けの輸出が厳しくなることが想定される。それは、輸出を中心に韓国経済を下押しするはずだ。

現在、世界経済の中で相対的に踏ん張っている韓国経済ではあるが、徐々に将来への不安が高まり、社会に閉塞感が広がる可能性は軽視できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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