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年収800万円男性と結婚した"セレブ妻"が築40年木造アパート暮らしに転落した顚末

プレジデントオンライン / 2020年8月26日 9時15分

電気代節約のために、やつれた表情で毛布に身を包み暖を取る - 撮影=週刊SPA! 取材班

高年収の男性と結婚し、専業主婦となっても一生安泰とは限らない。週刊SPA!取材班が、暴力を振るう夫から逃げてレジ打ちのアルバイトをしながら一人暮らしをする元”セレブ主婦”に話を聞いた——。

※本稿は、吉川ばんび、週刊SPA!取材班『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■結婚後22年間不自由なく暮らしてきたが…

木村 晶さん(仮名・46歳)女性
出身/和歌山県
最終学歴/短期大学
居住地/埼玉県
居住形態/賃貸アパート
年収/120万円
職業/フリーター
雇用形態/アルバイト
婚姻状況/既婚

単身で暮らす女性の3人に1人が「貧困」というデータがある(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。貧困女性といえば非正規雇用者やシングルマザーなど複雑な事情を抱えているケースが多かったが、千葉県に住む木村晶さん(仮名・46歳)は安泰と思われている専業主婦からある日、一気に転落した。

「発端は、都内の中堅家電メーカーに勤めていた夫がリストラされたことです。夫は転職活動もむなしく20社以上落ち続け、そのストレスから私に暴力を振るうようになってしまいました。今は、夫から逃れてひとり暮らしをしています」

結婚以来、専業主婦として22年間不自由なく暮らしてきた木村さんは、手に職をもたないまま転がり放り出されてしまったのだ。

■「24歳までに結婚を」と必死に合コンを繰り返す

福岡県福岡市で厳格な両親に育てられたという木村さん。バブル景気を眺めて育った彼女は、「将来結婚したら専業主婦になることは当たり前だと思っていた」という。しかし、都内の短大を卒業する頃には就職氷河期に突入し、国文学科を卒業した木村さんの就活は困難を極めた。

「6歳上の姉が話していた就活とは様子が違い、困惑しました。文系の短大卒では面接にこぎ着けることすら難しかった。でも、母親から『就活は婚活。職場で結婚相手を選び専業主婦になるべし』と教育されていたので、なりふり構わず教授に取り入り、必死で就活しました」

希望する一部上場企業への就職は叶わなかったが、なんとか彼女は「丸の内OL」になる。

彼女が就職した1995年当時には、女性の結婚適齢期を指す「クリスマスケーキ」という言葉があった。24歳までに売れないとダメ、25歳になると売れ残りという意味だ。

「売れ残りの“ケーキ”になるまいと必死に合コンを繰り返しました。そして23歳の頃、5歳年上の男性と出会いました。のちの夫です。顔も学歴もまあまあいいし、中堅家電メーカーの正社員で福利厚生も充実している。この人なら私を幸せにしてくれると思い、必死でアプローチしました。交際から1年後、夜景を見ながらキスをした後、彼がひざまずいてプロポーズしてくれました。トレンディドラマのようなシチュエーションに興奮したのを覚えています」

■人もうらやむハワイ挙式で勝ち組主婦に

友人・親戚を大勢招き、ハワイであげた挙式を「人生でいちばん幸せな日でした」と振り返り、微笑む。東京・中央区にマンションを借りると、当時の年収800万円代だったバブル世代の夫とともに、外車、高級腕時計を購入するなど、貯蓄よりも消費を優先した暮らしぶりを満喫。友人から「セレブ主婦」と揶揄されたが、木村さんは気にも留めなかった。ほどなくして第一子を妊娠すると、物欲はさらに加速していく。

「結婚後は、夫の希望もあり家庭に入ることにしました。同期OLたちの『結婚おめでとう』という寄せ書きを見ては優越感に浸っていました。今思えば、あのとき退職せず、会社員を続けていればよかった……」

2005年につくばエクスプレスが開業すると、夫は茨城県守谷市にある沿線の街へ引っ越しを決める。リーマン・ショックが起きるすこし前のことだった。

■リーマン・ショックで夫に異変が…

「息子も幼稚園に通う年齢になり、子育てするなら郊外のほうがよいだろうと家を購入しました。ニュータウンの中でも新築が立ち並ぶ新しい一画で、日当たりもよく庭の広い戸建て住宅です」

しかし、転居の直後、夫の会社をリーマン・ショックの波が襲う。大口の取引先から次々と発注を取り消され、数十億円もの減収になったのだ。

「総務部で社内改革に取り組んでいた夫は急に部署が異動になり、残業が続くようになりました。その頃から、夫の様子が徐々におかしくなりはじめました」

夫は深夜11時すぎに帰宅すると缶酎ハイを何本も浴びるように飲みはじめ、言葉の暴力も増えていったという。木村さんの両親はすでに亡くなっており、姉は結婚して九州にいる。ママ友にも相談できず、悩みを誰にも打ち明けられないままだった。

「翌年に、夫は都内の本社から千葉県の支社へ異動になりました。通勤時間は短くなったはずなのに、毎日『疲れた』と口にするんです。毎晩うなされるし、心配でした」

そんな最中、息子の誕生日会を自宅で開くことになった。

「お友達をたくさん招いて、楽しくやろうということになりました。息子はとても楽しみにしているのに、夫は仕事を優先して準備を手伝ってくれません。そこで『準備する気あるの?』と確認すると、いきなり頰を叩かれました」

■結婚当初に夫と描いた未来予想図はすべて崩れ去った

以降、夫は手こそあげないが、言葉の暴力は増えていった。帰宅時に風呂が沸いていない、味噌汁がぬるい、話を聞く顔の表情が気に入らない……と、難癖をつけては木村さんに乱暴な言葉を浴びせていく。コーヒーフィルターを買い忘れただけで、腕を強く摑まれて、青あざができたこともあったという。ちょうどこの頃、夫のボーナスは目に見えて減額し、経済状態はよくなかったのだが、夫はこれまでの浪費生活を改めようとはしなかった。

「そこで家計を助けるためパートに出ることを提案したのですが、『俺の稼ぎが少ないってことか。おまえのやりくりが下手なんだよ!』と激昂。どこに怒りのスイッチがあるのかわからない状態で、意見なんてできません。毎日、彼の一挙手一投足にビクビクしていて、落ち着く日はありませんでした」

それでも、長く専業主婦生活を続けていた木村さんには、離婚の選択肢はなかったという。しかし、異動から1年後、ついに夫はリストラされる。その後も求職活動に失敗しては妻に暴言を繰り返す。都内の私立大学を目指していた息子は、「お父さんと一緒に暮らさなくていいならどこでもいい」と、学費が安く寮のある専門学校へ進学を決めてしまった。

「結婚当初、夫と描いた未来予想図はすべて崩れ去ってしまいました。我が家にあったのは、理不尽な言葉の暴力と息子の失意の姿だけです。あの子は、家を出ていく日『お母さんも早く逃げないと殺されちゃうよ』と忠告してくれました」

■専業主婦から時給900円のレジ打ちアルバイトに

ある夜、またも転職活動に失敗した夫から激しく罵られて、反抗すると何度も、頰を叩かれた。もう限界だった。夫の寝ている間にトランクひとつだけを持って、逃げ出した。

家を出ると、持ち出した宝石類を売って生活資金をつくり、夫に追われないよう、全く土地勘のない埼玉県に向かい、築40年の木造アパートでひとり暮らしを始めた。宝石を売ったお金はアパートの敷金・礼金に大半が消えたので仕事を探さねばならないが、仕事をするのは20年以上のブランクがあるうえ、家事以外にできることがない。

吉川ばんび、週刊SPA!取材班『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』(扶桑社新書)
吉川ばんび、週刊SPA!取材班『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』(扶桑社新書)

手軽にできるものをと、木村さんは近所のスーパーで、時給900円でレジ打ちのアルバイトを始めた。

「バイト代は手取り月12万円。月5万円の家賃を払ったらギリギリで、これでは離婚のための弁護士を雇うこともできません。部屋にはエアコンもなく、冬は常に毛布を被っているようなありさまです。親戚から夫は意気消沈していると聞きましたが、暴力をふるった後ろめたさがあるのか探しにはきません。こんな暮らしでも、夫に殴られるよりは100倍もマシ。頑張って働いて離婚して、いつか息子と2人で暮らしたいです」

夫の転落で家庭は脆くも崩壊、貧困に向かっていく。突然、社会に放り出されてしまった元専業主婦だった木村さんが、報われる日がくることを祈りたい。

(週刊SPA!取材班)

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