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「会議でマスク未着用の社員を出勤停止」はコロナ対策としてやりすぎなのか

プレジデントオンライン / 2020年8月31日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mkitina4

■本人は「どこに行ってもマスクが買えない」などと弁明

今年4月、大阪電子専門学校(大阪市天王寺区)を運営する学校法人木村学園が、嘱託職員の男性に対し、「マスクを着用せずに学内の会議に出席し、その後の言動が不適切だった」として4日間の出勤停止とする懲戒処分を下したことが、5月に新聞などで報じられました。

本人は、「どこに行ってもマスクが買えない」などと弁明しましたが、理事長から「学生にうつしたらどうする」などと注意を受けたそうです。なお、校内には一定数のマスクが備蓄されていましたが、男性は「知らされていなかった」といいます。

男性が労働組合を通じて、処分の取り消しを求める申入書を提出したところ、処分は停止となり、反省文を提出することで落ち着いたといいます。

ただ、この事例は、コロナ禍の労使トラブルを象徴する出来事だったのではないでしょうか。今後、同じような事態はどこでも起こる可能性があります。

■完璧に対策できなくても、やれるだけやる

職場でこうしたトラブルを防ぐにはどうすればいいのか。私は、①社内ルールを決める、②社内ルールを周知する、③研修をする、という3つのポイントの徹底が重要だと考えています。

まず参考にしてほしいのは、厚生労働省が発表している「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」の活用です。

そこには身体的距離の確保やマスクの着用、手洗いなど感染防止のための基本的な対策をはじめとしたさまざまな感染症拡大防止のための対策が記載されています。

もちろん、このチェックリストの項目をすべて実行、クリアできればいいのですが、以下3つのように、業種や職種、職場環境によっては実行できないものもあります。

テレワークができない職種

機密情報を扱う職種などはテレワークができない社員がいます。

だからと言って、できないなりの対策を講じる必要があるはずです。

例えば、社内にいる者同士の打ち合わせであってもオンライン化することや、通勤ラッシュが存在する地域であれば時差通勤を導入する、ソーシャルディスタンスを確保した配置にするなど、できる範囲で対策することが肝要です。

距離を確保するスペースがない職場

テレワークができない、スペース的に距離の確保ができないという職場もあります。このケースでもやはりできる限りの対策は講じるべきです。

距離が確保できないのであれば、仕切り板で飛沫防止に努める、社員全員のフェイスガードを購入するなどが挙げられます。フェイスガードが手に入らない状況であればクリアファイルで代替するなど何らかの対策が必要でしょう。

3密をどうしても回避できない職場

徹底的に換気をする、会話を抑制する、日々の健康管理を徹底するなど、より具体的な対策を講じる必要があります。

必要に応じて行政に相談し指導を仰ぐことも有効でしょう。すべてを完璧にできなくとも「やれるだけやる」という姿勢が重要になります。なぜなら、そこには使用者に求められる安全配慮義務があるからです。

■安全配慮義務を果たさないと、民事訴訟に発展することも

安全配慮義務とは、労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。

一般的に労働者は使用者に指定された場所で、使用者の用意した設備や器具等を使って仕事をすることから、契約書にわざわざ記載していなくとも信義則上、使用者は労働者を危険から保護するよう安全配慮義務を負っているものとされています。

なお、「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれており、「必要な配慮」とは労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて求められるものです。

すなわち、コロナという状況に応じて必要な配慮を求められるともいえるでしょう。

そして、会社がこの安全配慮義務を果たしていない状況下でコロナが発生した場合には、労働者等から慰謝料や損害賠償を求める民事訴訟に発展することもあり得るのです。

つまり、労働者からすると「対策してくれてありがとう」というよりは「義務を果たしてほしい」という意味合いが強くなってきています。

なお、詳細は記しませんが、大前提として産業医や衛生管理者の選任、衛生委員会の開催、36協定の締結とその順守など、法令上必要と明記されている義務は果たしていなければなりません。

■在宅勤務にまつわるトラブルも増加

今回のコロナ禍を経験し、ポストコロナにおいても安全配慮はある程度継続していく必要があると思われます。

なかでも在宅勤務にまつわるトラブル事例が増加傾向にあります。

例えば、エコノミー症候群を防止するための作業環境の指導やパソコンを使用する場合の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の徹底、長時間労働の抑制などが考えられます。

つまり、「自宅だから自己責任だろう」では安全配慮義務を果たせない可能性があるということです。

テレワークを継続するのであれば、安全配慮を考慮したルール作りを見直す必要があります。

出張命令をする際も、エリアや移動手段について安全配慮が必要です。

例えば、疫病が流行しているような地域への出張命令は、その必要性や感染防止対策の度合いによっては安全配慮義務違反に問われ、民事損害賠償の対象となるかもしれません。

その他、特に業務上の高度な理由もなく精神論で「絶対にテレワークは認めない」なんていうケースも同様でしょう。

ハラスメントも内容が変わり始めてきました。

オンラインによる打ち合わせで「部屋の中をくまなく映せ」と言ったり、多数のメンバーが参加しているオンライン会議で、特定の者に必要以上に叱責をしたり、「お前だけはテレワークさせない」と言ったりするパワハラもあります。

同じくオンラインで、女性社員に対しては「部屋に男がいるだろう」「一番イケてる服に着替えてこい」といったセクハラ行為も発生しています。

また、コミュニケーションツールを導入したものの、社内の誹謗中傷の温床となってしまう、上司が時間や曜日問わず気軽に指示を出すツールとなっていることもあります。

このようなトラブルが原因となり過重労働や精神障害など業務災害にまで至ってしまうこともあり得ます。

だからこそ、社内ルールを作成し研修などで周知させていくことが必要なのです。

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大槻 智之(おおつき・ともゆき)
特定社会保険労務士
1972年、東京生まれ。日本最大級の社労士事務所である大槻経営労務管理事務所代表社員。オオツキM 代表取締役。OTSUKI M SINGAPORE PTE,LTD. 代表取締役。社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」は、現在日本国内外の企業500社を顧客に持つ。また人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、220社(社員総数18万人)にサービスを提供する。

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(特定社会保険労務士 大槻 智之)

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