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がん患者4000人の教え「人生には限りがあるが、後半はだれもが豊かだ」

プレジデントオンライン / 2020年9月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

40代になると心の不調を訴える人が増える。これまで4000人以上のがん患者と向き合ってきた精神科医の清水研氏は、「私もしばらくうつ病の一歩手前という時期をさまよった。そこから立ち直れたのは、がんという病気と向き合ったクライエントの方々の教えだった」という――。

※本稿は、清水研『他人の期待に応えない ありのままで生きるレッスン』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■仕事のウェイトが大きい人ほど、中年期に心を壊す

人生の中盤に差し掛かると、それまでの自分自身を振り返るとともに、「このままでいいのか」という疑問が頭に浮かぶようになります。そして、これからの人生に対して不安や葛藤を抱えてしまい、精神的に不安定な状態に陥ってしまう人が少なくありません。

これが、「ミドルエイジクライシス(中年の危機)」、あるいは「ミッドライフクライシス」で、大体40代ぐらいからこの症状を感じる人が増えます。

この記事では、今ミドルエイジクライシスにある方々に向けて、人生の後半に「幸せな人生」を送るために必要なことを、私自身がクライシスに陥ったときの経験と、がん患者専門の精神科医としての知見から明らかにしていきます。

ミドルエイジクライシスに陥った場合、それまでに長年持ち続けてきた“幻想”とも言える考え方を手放す必要があるのですが、その“幻想”とは何なのか。

人は年を重ねるに従い、徐々に責任と仕事量が増えがちで、気がついてみたら、日々のルーチンをこなすことだけでもつらくなっていることがあります。

しかし、時代の変化についていくことも大変で、だんだん周囲に取り残されていると感じてしまいます。中間管理職にもなれば、上司と部下の間で板挟みになっているかもしれません。

仕事は人生の一部分と割り切って趣味などのプライベートが充実していればよいですが、仕事のウェイトが大きく責任感が強い人ほど、苦しくなります。

■原因は「成長し続けられる」という“幻想”

なぜこのように、人生の半ばを迎えると情緒不安定になってしまうのでしょうか?

その大きな原因の1つが、人生の前半に描いていた「自分は成長を続け、将来はもっと活躍しているはずだ」という期待に満ちた“幻想”と、実際の自分とのギャップに気がついてしまうことにあります。

心理学者のユングは、青年期から中年期への移行期を「人生の正午」と表現し、この移行期に人は危機を迎え、考え方をシフトする必要に迫られると言っています。

人生は1回限りなので、成長の過程にある人生の前半においては、正午の絶頂から午後の下降に至る変化を、前もって実感を込めて知ることはできません。人生の後半に入ったときに初めて、人間は衰えていくことを悟らなければならないのです。

そして、それまでがむしゃらに頑張ってきた在り方を変え、自分自身の内面と向き合うことが必要となるのです。

また、あなたは今までどのような価値観を指針として生きてこられたのでしょうか? 中年期になって精神的に不安定な状態に陥っているあなたは、もしかしたら社会から教えられた「こうすればよいのだ」という価値観を基に、頑張ってこられたのかもしれません。

しかし、このような価値観が自分にとって本当に大切かどうかということは、あなたの中では十分吟味されてこなかった可能性があります。

両親や教師や先輩がそう言うのだからきっと正しいのだろうと思い込んできただけかもしれません。その価値観は、実はあなたを幸せにするためのものではなく、あなたを社会に適応させるための価値観だったのかもしれません。

■さらに頑張ろうとするのは逆効果

若い頃は、どんどん成長し続ける“幻想”を持ちながら、社会に適応するために自分に我慢を強いて頑張ります。

いずれ自分が衰えていくということは知識としては聞いたことがあったとしても、若い頃はあまりそのことを意識しません。若いときは、年配の人が「年を取ってから体が言うことを聞かない」という話をしているのを耳にしても、どこか人ごとに聞こえ、将来の自分がそうなるという危機感はあまり感じません。ですので、自分が常に成長し続けられるというイメージを持ちながら将来設計を描きます。

しかし、年を取っていくにつれ、いくら頑張っても、実際に歩いたときに見える景色が、若い頃の予想とは異なっていることが気になってきます。人間、若い頃は世の中のことをよく知らないので、自分自身を過信して大きな夢や希望を持ちがちですが、中年期になると、それは実現されないことを実感を持って悟るのです。

そして、40代に入って不調とまではいかなくても、何か精神的にもやもやしたものを感じ始める人が多いようです。さらに症状が進み、若い頃描いていた“幻想”が崩れたある日、ぼうぜん自失として立ちすくんでいる自分に気づくのかもしれません。

ミドルエイジクライシスに陥ったとき、適切に対処する必要がありますが、気を付けないと問題をこじらせる方向に進んでしまうこともあります。

例えば、今まで以上に頑張ろうとするのも間違った例の1つです。まだやれるはずだと疲れている自分をさらにムチ打ち、業績を上げようと努力を重ね、若さを取り戻すためのダイエットに励む人もいます。

加齢による衰えに逆らい続けるのはどだい無理なので、この無理を重ねるというやり方はいずれ破綻してしまうでしょう。下手をすれば頑張るための心のエネルギーが枯渇してうつ病になってしまい、問題をさらにこじらせることにつながります。

■若い時に抱いていた将来像を手放す必要がある

ミドルエイジクライシスに陥った場合は、今までのやり方にしがみつくのではなく、きちんと問題を分析して、丁寧に対処する必要があります。そのために、まずはもやもやの原因が、若い頃から持ち続けてきた“幻想”にあることを認識し、“幻想”を手放す覚悟をすることが第一歩です。

ここで誤解のないように1つ付け加えておきますと、私は「人生後半には、明るい将来などない」と言っているわけではありません。

断言しますが人生後半には「豊かな人生」があります。何を隠そう、私自身もミドルエイジクライシスに陥り、しばらくうつ病の一歩手前という時期をさまよいましたが、今は危機を乗り越えることができました。

社会から教えられた価値観から一度離れ、自分自身ともう一度向き合い、心から「そうしたい」と思える生き方を選ぶことによって、人生後半には今までにない新たな輝きが生まれるのです。

■4000人以上のがん患者から学んだこと

中年期の危機による変化を乗り越えれば、豊かな人生後半を過ごすことができることは、心理学の知見で示されており、文学の中にもさまざまな言葉で書かれてはいます。

清水研『他人の期待に応えない ありのままで生きるレッスン』(SB新書)
清水研『他人の期待に応えない ありのままで生きるレッスン』(SB新書)

しかし、私自身に人生後半の「豊かな人生」に至る道筋を最も明快に示してくれたのは、がんという病気と向き合った私のクライエントの方々です。

「がん」という病気は、「自分はいつまでも成長し続けられる」という“幻想”を一気に打ち砕くとともに、人に「死」を意識させ、「人生は限られている」という真実をいやおうなく人に突き付けます。

「死」はできれば目を背けておきたいものですが、意識することでさまざまなことを人は考えることになります。

がんに罹患すると最初は誰もがショックを受けますが、しばらくすると「限られた人生をどう生きるのか?」という問いと向き合うようになり、私のもとにカウンセリングを受けにやってこられます。

私はその方のお役に立とうと全力を尽くすのですが、向き合ったクライエントの方々が示してくれた生き方は、どれも力強く説得力のあるものでした。生きるために大切なこと、本質的なことをたくさん教えていただき、その結果として私自身の人生がとても豊かになったのです。

最後に、ミドルエイジクライシスの到来は苦しいことかもしれませんが、“幻想”に基づいた若い頃の夢から離れ、真の「幸せな人生」を得るためのチャンスでもあることを強調しておきたいと思います。

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清水 研(しみず・けん)
精神科医・医学博士
1971年生まれ。金沢大学卒業後、都立荏原病院での内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院での一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降、一貫してがん患者およびその家族の診療を担当する。2006年より国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科に勤務。2012年より同病院精神腫瘍科長。2020年4月より公益財団法人がん研究会有明病院腫瘍精神科部長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。

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(精神科医・医学博士 清水 研)

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