橋下徹「なぜ政治学者は国民の7割が評価する安倍政権を全否定するか」
プレジデントオンライン / 2020年9月9日 11時15分
(略)
■国民・メディアによる評価・批判は政治家への「人事評価」である
国家を動かすということは、まさに国家の行政組織を動かすということであり、その肝は、人事と予算だ。つまり、組織のメンバーを効果的に動かすためには、人事評価というものが重要になってくる。
人は自分が評価されるように動く。だから組織のメンバーを効果的に動かすためには、各メンバーがどのように動けばいいかの指標を合理的・効果的に明確に示すことが肝要である。激しい競争にさらされている現代の民間企業は、ここに叡智を注いでいる。
逆に、競争のない世界の組織では人事評価にそこまでこだわる必要はない。これまでやってきたことをそのまま踏襲すればいいし、組織内の人間関係を重視した内向きの人事評価をやっていても、その組織がつぶれることはない。
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もちろん公務員組織というものはその役割からミスをしない堅い仕事のやり方が求められるので、このような組織体質を全否定するものでもないが、それでもこれからの時代は、公務員組織であっても世の中の課題を積極的に解決し、新しい道を切り開くことが求められるようになってくるだろう。
そこで僕は、民間における人事制度を、公務員組織の中に導入する取り組みを行った。
(略)
これは政治に対する批判・評価も同じことだ。
日本は民主国家であり、国民主権を標榜する国家である。国民が政治権力を選び、それを構築する。権力の源は国民にある。それは政治権力の最終的な責任は国民にあるということと同義だ。
とすると政治家に対する人事権者は国民であり、国民が政治家に対して評価基準をしっかりと示すことが政治をうまく動かす肝になる。
特に政権はどの方向に進めばいいのか。何をどの程度やればいいのか。
政権に対する評価基準が合理的・効果的に明確化されていなければ、政権は進むべき方向性を見誤る。
さらに加えて、評価すべきところはしっかりと評価しなければ、人は動かない。これも人事評価の要諦だ。
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■安倍政権の「評価」に乗り出した政治学者たちに欠けているもの
今回、安倍晋三首相が辞任表明をし、一斉にメディアは安倍政権の評価をし始めた。ここでは、いわゆる政治学者たちが「さあ、俺たち、私たちの出番だ!」と、張り切っている。
ところがこの政治学者たちは、自分に関心のある個別の政策を取り上げて、ここが足りない、あそこが足りない、ここが問題だと文句を言うばかり。自分がこれまでしこたま勉強してきて頭に詰め込んでいる知識を、どかーっと吐き出すことに必死になっている感じだ。
「俺って、私って、こんなことまで知ってんだよ。偉いでしょ?」というように。
政治家だって人間だ。100%完璧な人間なんていない。しかも政治家が担う仕事は、そうは簡単に解決できないような難題ばかりだ。
ところがメディアや学者たちは、政治家は魔法の持ち主で、どんな難問でも簡単に解決する力を持っている(それなのにその力を発揮していない)ということを当然の前提にしているように思われる。
なぜそんなことになるかというと、政治学者は、政治を「お勉強する」だけで実践の裏付けがないからだ。僕から言わせれば、政治なんて実際にやってナンボのところがあって、彼ら彼女らは政治をお勉強だけしていて面白いんかな?と思うけど、まあ政治学者たちはそれを好き好んでやっているのだからこれ以上とやかくは言わない。
ただ、国家だなんだと大きなことを言わなくても、町内会・自治会レベル、またはPTAレベルや子供たちのクラブ活動レベルでも、十分に「政治」はできるのだから、一度そのレベルでもいいので「政治」というものを実践すればいいのにと思う。そうすれば、本からは絶対に得られない「政治」の本質というものを少しでも理解できると思う。
政治を実践したことのない学者たちが、お勉強した政治をどこで使うかと言えば、結局、政治に対してとことん文句を言うことくらいしかない。しかも自分の人生をすべて捧げてきた政治のお勉強なので、そりゃとことん政治に文句を言って、自分を際立たせることでしか自分の人生に納得できないだろう。
だから、そういう人たちが集まる場では、際立った政治批判というものが脚光を浴びる。それがいわゆる「論壇」っていうやつなんだろう。そこには、国民はどう思っているのか、という視点はまったくない。
メディアとは、民主国家において国民と政治をつなぐ重要な役割を担うものだ。ところが今のメディアは、このような政治批判に血眼になっている政治学者と政治をつなぐことに血道をあげている。その政治学者たちの政治批評や論壇が多くの国民から支持を受けているかどうかにはまったく関心がない。
するとこういう問題が起きてくる。政治学者の世界で際立ち、政治学者の世界で評価されている議論や意見を、メディアが大きく取り上げる。実は国民からはまったく支持されていないかもしれないのに、メディアはそれがさも国民全体の意見であるかのように取り上げてしまうのだ。
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■たった10%の少数意見を「国民の声」として垂れ流していいのか
確かに、表現の自由や、特に政治批判の場においては、少数の意見も大切だ。しかしそこでメディアがやるべきことは、少数意見は少数意見であることをしっかりと踏まえて、その声を政治や世間に届けることだ。当たり前のことだが、少数意見を国民の大多数の意見であるかのように伝えることは絶対にするべきではない。
特にマスメディアが陥るのは、自分たちの考えこそが絶対に正しく、国民大多数の声だと信じ切ってしまうことだ。権威を重んじる大手新聞社にその手が多い。
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こうしたメディアに接するだけでは、多くの国民が支持し納得するような意見に出くわす機会が極端に少なくなってしまう。メディアでの意見と、国民の考えがどんどん乖離してしまう。
安倍さんが辞任表明をした後の世論調査においては、安倍政権の評価は著しく高かった。総じて国民の7割ほどが評価している状況だ。それに対して、安倍政治を完全否定している国民の割合は10%ほど。
とすると、政治学者の白井聡氏をはじめ、これまでメディアに登場してきた安倍政治を完全否定する政治インテリたちは、この10%ほどの国民の声ということになる。つまりメディアは、国民の10%ほどの意見を、ずっと「国民の声」として垂れ流してきたことになるのだ。
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(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万1800字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.215(9月8日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【提言!日本をよくする政治評価システム(1)】不足だけをあげつらう従来型の政治学者やメディアにはできないこと》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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