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「破産寸前から時価総額世界一」なぜイーロン・マスクは折れないのか

プレジデントオンライン / 2020年9月10日 9時15分

スペースX本社(カリフォルニア州ホーソーン)の社屋前に展示されている2段式商用ロケット「ファルコン9」(2018年8月) - 写真=iStock.com/Jorge Villalba

今年5月に民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させたスペースX、トヨタを抜いて自動車業界で時価総額世界一になったテスラ。これら二つのベンチャー企業をほぼ同時に立ち上げたイーロン・マスクの足跡は、決して順風満帆ではなかった。破産寸前の逆境を稀代の起業家はどう乗り越えたのか――。

※本稿は、桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■それは「世界を救う」夢から始まった

暗闇のような日々の中で、絶望は、がんばろうという強烈なモチベーションにつながります。――(きずな出版「イーロン・マスクの言葉」p132)

最もクレイジーな「ポスト・ジョブズ」と言われているイーロン・マスクのキャッチフレーズは「世界を救う」です。学生時代から「いずれ枯渇の時が来る化石燃料に過度に依存した現代社会に変革をもたらし、人類を火星に移住させる」というSF小説並みの夢を大真面目に語り続けてきたマスクは、スタンフォード大学の大学院をわずか2日で中退したのち、オンライン決済サービス「ペイパル」の成功によって大金を手に入れます。

そのお金を元にマスクが創業したのが、ロケット開発の「スペースX」や、電気自動車の「テスラモーターズ」です。しかし実は、最初からこれほどの事業を考えていたわけではありません。

■火星で植物を栽培する構想

当初、マスクは火星に「バイオスフィア」と呼ばれるミニ地球環境を持ち込んで植物を栽培する構想を描いており、それはマスクの手元資金でもできることでした。問題は資材を火星に運ぶロケットですが、アメリカのボーイング社製は経費が掛かりすぎますし、ロシア製は信頼に欠けていました。普通はここで諦めるところですが、マスクは「安くて信頼性の高いロケットを誰もつくっていないのなら、自分でつくればいい」と考え、ロケット開発に乗り出すことにしたのです。目指したのは「ロケットの価格破壊」でした。

■「私は決してギブアップしない」

ところが、いざ取り掛かってみると大変な苦難が待ち受けていました。スペースXは実に3回も打ち上げ実験に失敗。同時期に立ち上げたテスラモーターズでも、最初の電気自動車「ロードスター」の開発に1億4000万ドルもの資金を要しました。

スペースXやテスラモーターズの開発費用を自己資金で支えていたマスクは、売れるものはすべて売り、友人からも多額の借金をして、破産寸前に追い込まれますが、それでも挑戦をやめようとはしませんでした。彼は社員にこう言い切りました。

「私はこれまでもこれからも決してギブアップしない。息をしている限り、生きている限り、事業を続ける」。すべては「世界を救う」ためでした。

■同時期に二つの大事業で成果を出す

そんな「あきらめの悪さ」がやがて実を結びます。2010年、テスラモーターズはアメリカにおいてフォード以来という自動車メーカーとしての株式公開を果たし、2012年にはスペースXの「ドラゴン」が国際宇宙ステーションとのドッキングに成功するなど、マスクは目に見える成果を上げることができたのです。

テスラモーターズの設立は2003年、スペースXの設立は2002年。同時期にここまで大きなことを二つも始めて、続けて、どちらも成果を出すというのは、普通ではなかなか考えられないことです。しかしやはり刮目(かつもく)すべきは「続けた」点ではないでしょうか。なぜ、これほど無茶なことを、これほどの苦労をしながら続けられるのか。

それはマスクが本気で「宇宙開発(その先に見据える人類の火星移住)と電気自動車が人類の未来に貢献する」と信じているからにほかなりません。マスクの「世界を救う」という信念は、どれほどの逆境をも乗り越えさせるほどに強いのです。彼が称賛を込めて「クレイジー」だと言われるゆえんでしょう。

■「量産化」という鬼門でつまずく

ところが数年後、マスクは再び崖っぷちの苦労を味わうことになります。テスラモーターズは「ロードスター」や「モデルS」という高級電気自動車をつくることにはたしかに成功しましたが、マスクが目指す“電気自動車の時代”を切り開くためには比較的低価格で販売する大衆車「モデル3」の量産化が不可欠でした。

マスクが掲げたのは「週5000台生産」でしたが、その挑戦はあまりに過酷、あまりにつらいものとなりました。かつて盟友J・B・ストローベルが「自分たちが挑戦していることの難度を、過小評価していました。まるで迷路の中にいる気分でした」と嘆いたように、車を量産するというのは大変な苦労があるものです。マスク自身も量産化の難しさに「自動車ビジネスは地獄だ」とつぶやくほどの苦労を強いられています。

■「起業家は地獄のように働くべき」

2018年4~6月期のテスラモーターズの決算は最終損益が7億ドルを超える過去最大の赤字だったことに加え、マスクが掲げていた週5000台の生産目標を同社はいつまでたっても達成することができませんでした。

結果、マスクは工場に泊まり込む日々を余儀なくされ、マスコミからも散々叩かれます。それでもマスクはこう言って自らを鼓舞し続けたのです。「いまだに片足は地獄に突っ込んだままだが、このカオスからも、あとひと月もすれば解放されるだろう」

どこまでもめげない人です。

テスラモーターズの工場労働者はレッドブルを飲みながら1日12時間働くともいわれていますが、トップであるマスク自身が工場に泊まり込み、トーマス・エジソンばりに床で寝泊まりしながら誕生日を迎えたというほどの仕事中毒ですから、社員もたまったものではありません。

マスクの若いころからの信念はこうです。「起業家は毎週100時間、地獄のように働くべき」。「超多忙であれ。起きている時は常に働く。他が週に50時間働くなら、自分は100時間働く。そうすると会社としては本来の2倍仕事量をこなせたことになります」。半端ではない逆境を乗り越えるには、これほどのタフさとあきらめの悪さが不可欠なのです。

■国家レベルの難事業にあえて挑戦

「困難が多い事業こそ、やりがいが大きくて面白い」はマスクの言葉ですが、たしかにマスクの特徴は宇宙ロケットの開発や電気自動車の開発という、言わば国家レベルの困難な事業にあえて挑戦し、どんなに苦労をしても成功するまで絶対にあきらめないことです。

2018年7月1日、テスラモーターズは「週5000台生産」を達成しますが、マスクは即座に「週1万台生産」を掲げるなど、再び新たな「困難」に向かうのですから驚きです。

そんなマスクの執念が実り、テスラモーターズの「モデル3」は今やアメリカの高級車部門でドイツ車やトヨタのレクサスを抑えてトップとなり、世界の自動車メーカーの電気自動車シフトをけん引する存在となっています。さらにテスラモーターズの株価はうなぎ上りで、2020年7月にトヨタ自動車の時価総額を抜いて自動車業界ナンバーワンとなっただけでなく、同年8月21日には流通業界の巨人ウォルマートを抜いて3700億ドルに達するなど、凄まじい成長を遂げています。

■何も持たないからリスクが取れる

スペースXの活躍も顕著です。2020年5月、スペースXの宇宙船「ドラゴン」は2名の宇宙飛行士を乗せて宇宙ステーションに到着、かつてのスペースシャトルに代わる存在となっています。

桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)
桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)

こうした技術力の高さに加えスペースXの魅力は価格の安さにあります。アメリカ政府が主導して打ち上げる人工衛星は一基あたり2億ドルを要していたのに対し、スペースXの打ち上げ価格は6000万ドルと破格の安さを実現。今や世界中からこなしきれないほどの注文が殺到しています。

しかもマスクはこれまで使い捨てが常識だったロケットを何度も再使用できるようにしようと挑戦しており、もし実現すれば打ち上げにかかる費用は燃料費の30万ドルだけになるだけに、宇宙ビジネスそのものが大きく変わる可能性もあるのです。まさに自動車と宇宙ロケットという国家規模のビジネスにたった一人でイノベーションを起こしているのがマスクという存在なのです。

南アフリカから単身アメリカに移住したマスクは学生時代、そして起業した当初も驚くほど貧しい生活を送っていますが、そんな生活も「貧しくてもハッピーなら恐れることはない」と振り返っています。何も持たないことは、リスクを取るチャンスでもある――というのが難局におけるマスクの考え方だったのです。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。著書に『世界最強の現場力を学ぶ トヨタのPDCA』(ビジネス教育出版社)『イーロン・マスクの言葉』(きずな出版)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『伝説の7大投資家』(角川新書)など。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)

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