橋下徹「僕が菅総理の『自助論』に賛同する理由」
プレジデントオンライン / 2020年9月23日 11時15分
(略)
■菅内閣が進めるのは「安倍政治の完成」である
はっきり言うけど、菅総理にビジョンがないと言っているメディアはかなり危ないね。万年政権与党の自民党と万年野党の社会党で構成されていた1955年体制の政治から意識が抜け出せていないんだろう。
自民党が万年政権与党だったときには、自民党内の総裁(=総理大臣)争いによって、ある種の政権交代(疑似政権交代)が起きていた。だから自民党内で総裁が変わるごとに、新総裁のビジョンというものが問われるのが当然だった。
しかし、今は、形の上では与野党が政権交代する二大政党制を前提としている。
ということは、自民党は党組織としてのビジョンを掲げて、誰が総裁になったとしてもそのビジョンを実現していくという組織マネジメントが必要になる。
総裁の属人的なビジョンから、党の組織的なビジョンへ。
(略)
菅さんは、7年8カ月の間、政府ナンバー2の官房長官として安倍政権を支えてきた。当然安倍政権の掲げたビジョンというものに、菅さんは関与もしているし責任も負っている。つまり安倍政権のビジョンは、菅さんのビジョンでもある。
(略)
菅さんは、安倍政権を基本的には継承すると明言しているのだから、国家像もビジョンも安倍政権のものと同じということで明確だ。
特にアベノミクスの3本の矢について、安倍さんは金融緩和と財政出動は実現した。他方、成長戦略と言われた規制改革のところが不十分だったと、これまでさんざんメディアや学者は批判していたじゃないか!!
だから菅さんは、このアベノミクスで不十分だった規制改革に力を入れると宣言した。
まさに菅さんは、安倍政治を完成に向けようとしているんだ。
一人の政治家がなんでもかんでもすべて完璧に実現できるわけではない。改革のテーマが大きくなればなるほど、何人ものリーダーが連なって実現するしかない。
(略)
■政治において最も重要な目標は国民が「飯を食っていけること」
政治の目標や目的は考えれば考えるほど無限に出てくる。
それでもその中から何か一つを選べと言われれば、やはり国民がきちんと「飯を食っていけること」になるだろう。
ここでメディアを通じて政治評論をおこなう、いわゆるインテリたちの感覚とズレが生じる。
というのは、政治評論をするインテリたちのほとんどは、飯を食うことに困っていない。だから政治に求める目標や目的が、どうしても「高尚」なものになってしまうんだ。
(略)
しかし大多数の国民にとって一番重要なことは、ちゃんと飯を食っていけることなんだ。
(略)
この「国民が飯を食っていけること」という政治の目標・目的から考えると、やはり「失業率の低下」が重要な指標だ。
(略)
正規雇用者と非正規雇用者がどれだけ増えたか。この点でも安倍政権に対して、非正規雇用が増えただけ!! と批判する者が多い。
しかし政治に100%の完璧を求めること自体、適切な評価とは言えない。安倍政権ではコロナ禍前までは約500万人の新規就業者が増えて、そのうち150万人が正規雇用の増、350万人が非正規雇用の増である。
150万人も正規雇用が増えれば、60点の及第点には達するのではないだろうか?
(略)
■自助を基本に成長を目指す菅政権か、成長を目指さない「エダノミクス」か?
ここからは加点事由の話になるが、改革を推し進め、日本の国の潜在的成長率を高めれば、どんどん100点満点に近づいていく。
雇用も増え、賃金も上昇する。
菅政権にはこの方向性を目指してほしいというのが僕の論だが、これに対して、枝野幸男さん率いる新・立憲民主党は成長をことさら目指さないということらしい。
(略)
さらに枝野さんは、菅さんが掲げる「自助」という言葉にも嫌悪感を示す。
僕は菅さんと同じく、「まずは自分のことは自分でする」という自助がとりあえず基本だと思う。それは個人に責任を押し付けるという意味ではない。自助がなければ成長は生まれないし、さらに自分のことは自分でできる人を増やすことで、限られた税金を、支えが本当に必要な人にできる限り多く配分できるようになるからだ。
支えが必要な人が多くなれば、支えるための税金がそれだけ必要になる。逆に自助の人が増えて支えが必要な人が少なくなれば、本当に支えが必要な人に多くの配分ができる。
支える人をしっかりと支えるためにも、自分のことは自分でできる人を増やすべきだ、というのが僕の自助論だ。菅さんも同じだと思う。
日本の国は成長を目指すのか、自助が基本なのか。
この点は菅政権と新・立憲民主党で考え方が異なるようなので、まさにこの点を徹底的に国会論戦、党首討論して欲しい。最後は国民が選挙によってどちらの方向性でいくのかを選ぶことになる。
■「おかしいよね」を指摘し実際に正すのが改革だ
僕は成長を目指す派だし、自助が基本。菅さんもそのために徹底して改革をやるのだと思う。
新規参入を阻んでいる規制が強すぎると、切磋琢磨が生じず成長しない。
この点、菅さんには国家観がなく、思い付きだけの脈絡のない改革屋だという批判がある。
アホか!!
こういう批判をする輩は、改革の「か」の字もやったことのない連中だろう。
そもそも規制改革とは脈絡のないもの。世の中にごまんとある既得権益を守る壁を、一つずつ見つけては打ち壊していく作業。一つ見つけては一つ正す。ほんと途方もない地道な作業の連続なんだ。
改革をするのに必要なのは、本で得た知識ではない。「これおかしいよね」と感じる感性と、それを口に出せる勇気。おかしいことを口に出せたら、あとはそれを変えるのみ。
しかしほとんどの政治家は、そのおかしいことを口に出せない。これまでのやり方をよしとしている人たちから批判を受けるのが嫌だからね。
悪しき前例主義を改める!! おかしいことは変えなきゃならない!! までは誰でも言えること。
じゃあ、どこがおかしいのか。どこを変えなければならないのか。ここを具体的に指摘できる政治家はほとんどいない。
ここで新大臣に就任した河野太郎行革担当大臣が、深夜に及ぶ新閣僚の就任記者会見について「さっさとやめたらいい」と言い出した。
素晴らしい!!
これまでの多くの政治家たち、記者たち、官僚たちは、この深夜の記者会見を改めることがなかった。こんな深夜の記者会見くらいのことでも、おかしいとは誰も言い出さない。これが改革の難しさの象徴だね。
人は皆、これまでやってきたことをそのまま続けてしまうのが普通だろう。これはおかしい! とは、なかなか指摘できない。
そこを「これはおかしいよね」ということを口に出して、実際それを正そうと挑戦し続けてきたのが菅さんだ。
(略)
(ここまでリード文を除き約2700字、メールマガジン全文は約1万1800字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.217(9月22日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【いよいよ発進!菅義偉政権(1)】早くも改革エンジン・フル稼働!僕が新内閣に期待すること》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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