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不倫芸能人に「謝れ」と怒る人とSNSで「いいね」を欲しがる人はダブっている

プレジデントオンライン / 2020年9月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

不祥事を起こした芸能人にネット上で「謝罪しろ」と怒る人たちがいる。なぜそこまで怒るのか。早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「クレーマーはネット上で他人の誹謗中傷をすることで承認欲求を満たそうとしている。これはSNSで『いいね』を欲しがる人と同じだ」という――。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■店員さんや芸能人を「謝罪させたい」人々の生態

公的機関や企業がすぐ謝るので、それもクレーマーの成功体験となり、最近は相手に謝らせることが目的化してきたような気がするね。ただ、クレーマー側も相手の社会的立場やキャラクターを見ていて、それによって文句を言う相手を選んでいるところがある。

たとえば、スーパーやコンビニの店員は弱い立場の人の典型で、ストレス発散なのか知らないけれど、クレーマーたちは彼らにしょっちゅう理不尽なクレームをつけている。しかし、そうしたおかしな客に店員が「二度と来るな」とブチ切れることほとんどない。

とくに大型店舗の店員は、何を言われても自分自身がクレームをつけられているわけじゃないので、ペコペコ謝ってその場をやり過ごそうとする。そうやってすぐ謝ると、クレーマーに付け込まれやすくなり、さらにクレームが増えていく悪循環に陥る。

芸能人のような人気商売をしている人もクレームに弱い。イメージが自分の収入に直結しているから、不倫とかのネガティブな印象がついてしまうと困る。CM1本で2000万円とか3000万円とか稼いでいる人なんて、対応を誤ってCMを降ろされたりしたら収入が激減して大変だよ。だから、それが理不尽なクレームやバッシングだとしても適当なところで謝罪したほうが得という判断になる。

■イメージが重要な芸能人はクレーマーの対象になりやすい

芸能人がちょっと何かやらかすとみんなでバッシングし、CM出演している企業にクレームの電話をしたりするのは、謝ってくれそうだからだ。謝罪会見させて「ざまあみろ」と思いたいんだろうね。

ほとんどの芸能人はタレント事務所に所属しているから、ちょっと売れているレベルの人は会社の意向にも従わなくちゃいけない。結婚だって自分の意志では決められないし、しがらみだらけで奴隷みたいになっている人もいると思う。タレントイメージも事務所によってつくられ、「あなたは世間で清純派と思われているから、スキャンダルを起こすとオファーがなくなる。プライベートでも清純派として振る舞ってくれ」なんて言われると、なるべく自分でもそのイメージからはみ出さないようにするよね。

そうすると、何が「自分のやりたいこと」なのかもわからなくなり、四六時中ずっと演技させられている状態になる。つらいと思うよ。たまにすごく人気のある芸能人が突然理由もなく引退することがあるけれど、芸能人としての稼ぎを貯蓄していて、その金である程度生活していくことができるなら、もう無理して世間に顔をさらして生きていく必要はない。引退して好きなことだけやっていけばいいと悟ったんだろう。

こういったタレントイメージでがんじがらめになっている芸能人もクレーマーの対象になりやすいと思う。だから、頭にきて謝罪会見しないでそのまま引退してしまう芸能人もいる。

逆に社会的立場がない人、イメージを気にする必要のない人は、クレーマーにゴチャゴチャ言われても、それで仕事が減るわけではないので「うるせえ」って返すことができる。

■こちらが下手に出れば出るほどクレーマーは増殖していく

たとえば、株のトレーダーで年間何億円も儲けている人は、不倫してバッシングを受けようと誰にも謝る必要はない。犯罪にさえかかわらなければ、誰がどんなクレームを言ってこようが馬耳東風である。

それからコワモテのヤバいやつ、文句を言ったら逆ギレして殴ってきそうなタイプの人もクレーマーは避けるよね。5月下旬に東京・大田区の路上をベンツで暴走し、歩行者を轢き殺した変な女性がいた。

池田清彦『自粛バカ』(宝島社)
池田清彦『自粛バカ』(宝島社)

この人は近所の鼻つまみ者で、いろいろと奇行を繰り返して近隣住民とトラブルになっていたらしいけれど、そういう人はちょっとやそっとのクレームぐらいでは行動を改めようとしない。みんなが迷惑がって文句を言っていたらしいが、警察も明らかな犯罪行為でない限りは動いてくれないから、文句を言う程度ではどうすることもできない。この手の人はある意味無敵で、クレーマーはお手上げだ。

ネットでも同じことが言える。ツイッターでは何かやらかして言い訳すると火にガソリンを注ぐようなもので、いろんなやつから罵詈雑言が飛んでくるけれど、反応しなければ相手も面白くないから2週間ぐらいすると何も言ってこなくなる。あるいは「うるせえ、バカ野郎」と逆ギレすればクレームはあまり来なくなる。

私は面倒くさいのでアホなやつは全部ブロックしているけれど。結局、ネットでも現実社会でも、こちらが下手に出れば出るほどクレーマーが増殖していく構造になっている。クレーマー相手では社会的立場が弱みになるんだ。

■「いいね」がつくと社会に認められたと錯覚できる

情報社会になり、これだけSNSや匿名のメディアが発達すると、誰に対しても簡単に意見を言うことができる。それで日頃の鬱憤を晴らそうって人が出てくるわけだ。

昔は社会に何かを言いたい場合、新聞に投書するぐらいしか方法がなかった。でも、今はツイッターにフェイスブック、匿名掲示板、ヤフーニュースへのコメントと、投書よりも簡単に意見を言うことのできる場所がある。それでその発言に多くの「いいね」がついたりすると、自分が社会に認められたかのように錯覚することができる。

なんの社会的な力もない普通の人にとっては、そうやって自分の意見が多くの人に注目される機会なんてまずない。自分の発言に有名人のツイートと同じくらいの「いいね」がつけば、実際は違うんだけど、有名人と同等になったような気分になれる。ツイッターやフェイスブックはそうやって錯覚させることで儲けているわけだ。

しかし、当たり前の話だけれど、ツイッターで多少の「いいね」がついたとしても、そんなものにはほとんど意味がない。ツイッターは1回の投稿で書き込める文字数が140字に制限されているけれど、140字で何かを言って注目を集めようとすると、どうしても断定的になったり情緒的になったりする。

■論壇がものすごく劣化し、大衆化したものがSNS

本来なら「なぜそう考えるのか」という根拠を示さなければならないが、それをやっていたら140字にはとてもおさまらない。だからツイッターの言説っていうのはほとんど感性で成り立っていて、そんな短い文章を一生懸命書いてもどうしようもないんだよね。

それなりの知的レベルの人はある程度長くて筋の通った文章以外はゴミだと思っている。何かについて自分の考えを表明したいなら、「これはきっとこういうことじゃないか」と仮説を立てて、自分独自の結論を導き出すために情報を集めて根拠を探し、それを文章にまとめる。

ひと昔前までは論壇という言論文化があり、それを形成していたちょっと硬派な雑誌、オピニオン誌というのがあった。そこへ見識をもった評論家や学者、ジャーナリストがある程度長い文章を書き、それを見て意見を戦わせるわけだ。誰かが何かについて書くと、それに対して翌月の号で誰かがまた反論を書く。そのなかで「こいつは左っぽいけど筋が通っている」「こいつは右っぽいけどそれなりに筋がある」「こいつは言っていることが支離滅裂でアホだ」なんてことが自ずとわかるようになっていった。

今は雑誌自体が斜陽化しているので、オピニオン誌はほとんど潰れてしまっている。1980年代初めにニューアカ・ブームを生んだ『現代思想』がなんとか続いているけれど、もうああいう雑誌を読む人はほとんどいない。SNSに全部吸収されてしまった。論壇がものすごく劣化し、大衆化したものがSNSなんだと思う。

■「いいね」をほしがる人とクレーマーはよく似ている

SNSで「いいね」をほしがる人とクレーマーはよく似ている。人間は誰しも承認願望があるけれど、それを満たすためにはやっぱりそれなりの人間になる必要がある。

親指を上げていいねサインをしている女性
写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

昔だったら、絵画サークルで絵がいちばんうまい人や、そこまでいかなくても先生に褒められるレベルになれば仲間に承認される。文章を書きたいなら文芸誌や小説誌の新人賞に応募する。入選すれば他人に承認され、自分自身もうれしい。直木賞とかのエンターテインメント系ならその道で食べていけるかもしれない。承認願望を満たすのと同時にお金を稼ぐことにつながっていく。

SNSに夢中な人の多くは、承認されるための努力をしない。努力はしないけれど承認されたい願望だけが強い。そのもっとも典型的なものがSNSなんだ。たしかにSNSでうまく稼いでいる人もいる。

でも、そういう人は自分の承認欲求をちょっと満たして喜ぶのではなく、やっぱりそれなりの知性があり、スキルを磨く努力をしている。説得力のある言説で人々の注目を集め、だからこそスポンサーを獲得することもできる。お客さんを集めてフォロワー数を万単位とかにするには、他人と同じことを書いていてはダメなんだよ。

■クレーマーというのは努力をしない人たち

ユーチューバーも大食いとかドッキリとかくだらないことばっかりやっているけれど、今は競争相手がものすごく多いから、登録者数や再生回数が多い人は相当努力をしていると思うね。どんな企画をどう見せれば視聴者が喜び、ファンがつくのか。機材にも投資して映像編集を工夫し、面白いものをとことん追求している。それは私のような文筆家がやってきた努力とはまったく違うものだけれど、それでもやっぱり努力しないとお金は稼げない。

株のトレーダーだって、コンスタントに稼ぎ続けている人は経済情勢を調べ、チャートを分析し、膨大な量のトライアンドエラーを繰り返している。そうやって自分なりのメソッドを開発したからこそ、儲けることができるわけだ。どの分野でもみんなそういうことやっている。

ところが、クレーマーは、ただSNSで他人を誹謗中傷したり文句を言ったりしているだけだから、承認欲求は多少満たされるかもしれないけれど、その行為がひとつも稼ぐことに結びついていかない。いくら文句を言ってもお金はまったく増えないので、今度はその事実がストレスになっていく。

あいつはつまんないこと言って稼いでいるのに、なぜ自分はこんなにたくさん書いても儲からないんだと。そうやってますますクレーマー化していく。クレーマーというのは努力をしない人たちでもあるわけだ。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
早稲田大学名誉教授
早稲田大学名誉教授。1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。ビートたけしとは同じ小・中学校の出身。

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(早稲田大学名誉教授 池田 清彦)

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