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「俺は税理士になる」68歳の母を悩ませる44歳子供部屋オジサンの人生設計

プレジデントオンライン / 2020年9月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan-balvan

第2の職場のリタイアを控えた女性(68)は、息子(44)と同居している。息子は約10年前に勤務先が倒産。簿記の資格を持っていたことから、「俺は税理士になって、開業する」といって資格取得を目指したが、10年間結果が出ていない。ファイナンシャルプランナーには「このままでは84歳の頃には生活ができなくなる」と忠告されたが――。

■実家の母へ娘が経済的援助を続ける理由は「兄が同居しているから」

都内在住の女性(42)から、地方にある実家の家計について相談がありました。

実家は、第2の職場をそろそろリタイアする母(68)と、失業して10年たった兄(44)の二人暮らしです。年金も貯えもあり、母一人なら老後も何とかなるはずですが、母の退職後は兄との暮らしが破綻するのではないかと心配になってきたそうです。

女性は結婚していて、夫(46)と小学生の子ども2人と暮らしています。パート勤めではあるものの、薬剤師のため時給は高めでしっかり自分のお金を持っています。その中から、盆暮れには母にいくらかを渡して援助してきたのですが、上の子ども(小6)が私立中学を受験することになったので、今後はこれまでと同じような援助はできそうもありません。

夫の定年時に下の子(小2)が大学を卒業するので、自分たち夫婦の老後生活費の準備を考えると、教育費の負担が終わったとしても実家にお金を融通することは難しい状況です。これまで夫からは何も言われていませんが、そろそろ夫の目も気になってきました。実家への援助は数年間の限定だと思っていたのに、すでに10年もたってしまったからです。

兄と自分が小学生の頃に両親は離婚。子ども二人を女手一つで育ててくれた大切な母への援助はあたりまえのことで、数年間であれば大きな負担感もなく、迷いはありませんでした。自分の稼ぎから援助できることがうれしくもありました。

けれど、援助開始から10年がたち、女性は先の見えない不安を抱き始めています。後日、お母さまにも同席してもらって詳細をうかがいました。

■母ひとりの老後なら大丈夫だが、兄もいるので家計破綻のリスク

家族の情報は次のとおりです。

【家族構成】
母:68、定年退職後の再就職先で勤務中
兄:44、男性、無職
妹(相談者):42、結婚して夫と子ども2人、パート勤務、上の子が私立中学受験予定
父:兄妹が小学生の頃に母と離婚、交流なし
【資産状況】
自宅:分譲マンション、離婚時の財産分与で母名義に
預貯金 母:1200万円
兄:不明だが、持っているとしても10万円程度と推測
【家計状況】
収入 母:給料180万円(2年後に退職勧奨ありそう)、年金144万円、
個人年金60万円(7年後まで)
兄:1カ月あたりのアルバイト収入は数万円程度、家計には入れない
支出:336万円(月平均28万円)

■30代半ばで勤務先が倒産した兄「俺は税理士になって独立開業する」

現在無職の兄は大学卒業後、正社員として就職して一人暮らしをしていましたが、勤務先が倒産。30代半ばで失業してしまいました。同じようなことが起きるのはイヤだと考えて再就職はせず、簿記の資格をバージョンアップして、税理士として独立開業を目指しています。

母は、資格取得までのしばらくの期間であればと久しぶりの息子との暮らしを歓迎し、一人暮らしの母を心配していた女性も兄の実家暮らし(子ども時代の自分の部屋)を歓迎したのでした。

それなのに、兄は独立開業どころか、いつまでたっても資格を取得できていません。就職先で簿記の資格を取得した兄は、さらに税務の知識があると仕事に役立つと勉強を続けていたのですが、失業を機に税理士資格の取得を思い立ちました。

ドアノブに手を当てドアを開ける
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

税理士の資格取得には5科目の試験に合格しなければなりませんが、一度に全科目ではなく、1科目ずつ合格していけばいいので、女性にも母親にも税理士取得は現実的なプランに感じられたと言います。

勉強に支障があるからという理由で、兄は定期的なアルバイトをしたことはありません。時々、単発のアルバイトで小遣いを稼いでいるようですが、家計にお金を入れることはありません。資格取得のための学校は、最初の1年間通っただけで、以降は在宅で勉強しています。おそらく手持ち資金が底をついたのだろうと、女性は推測しています。

友達と遊びに出かけることもないので、女性と母は、このままひきこもりになってしまうのではないか、いや、これはもうひきこもりになっているのではないかと危惧しています。

■兄は不定期バイトで月数万円収入も、家計に1円も入れていない

母は離婚前からの勤務先を60歳で定年退職しました。母一人の老後であれば、それまでのたくわえと年金で生活は何とかなりそうでしたが、楽しみにしていた旅行資金をゆとりあるものにするために、再就職して65歳までは収入を得る計画でした。

それが、今では息子2人との生活を支えるものとなっていて、65歳を過ぎても仕事を辞めることができずにいます。

現状、母の手取り収入は月15万円、年金が月12万円、これに個人年金が月5万円あり、計32万円。兄は不定期のアルバイトで月数万円あるようですが、家計に1円も入れていません。支出は、母と兄の食費や水道光熱費などで月28万円。よって、母は仕事を辞めることはできません。

ただ、勤務先の都合で2年後には退職を勧められる可能性が高く、収入が途絶えてしまいそうです。体力的な理由やいまさら新しい環境に慣れることへの不安から、再々就職は現実的ではありません。

兄が当初の計画どおりに独立開業できるのが理想ですが、資格の取得がいつになるのかわかりません。それならば、少しでも早く就職して安定した収入を得てほしいというのが、今の女性と母の願いです。

自分たちの願いを伝え、兄の将来のこと、お金のことなどを話し合いたいと思うけれど、その気配を察すると本人の機嫌が悪くなって室内にこもってしまうので、きちんと話し合えずにいます。

■母は「子供部屋おじさん」の兄との暮らしを何歳まで継続できるか

母娘は「独立開業という大きな夢をかなえることができずに、一番つらい思いをしているのは本人だろうねぇ」とため息をつくばかりです。兄は自身の失業について「自分が悪かったわけじゃない」と思っているフシがあり、現実から目を背けているようです。このためどのように話しかければいいのかわからずにいます。

そこで、筆者は実家の家計のシミュレーションをつくりました。母は、何より娘に迷惑をかけずにどこまで自分が息子を支えられるかを知りたいとのことでした。

家計のシミュレーション

母が予定どおり2年後に退職して平均的な生活費で暮らしていくと、母84歳時点で家計は赤字に陥り、平均余命である90歳の赤字額は600万円を超えてしまいました(グラフの緑ライン)。つまり、84歳からは生活が成り立たなくなってしまうのです。

退職後の生活費を毎月1万円節約することができると、赤字になるのは85歳。90歳時点の赤字額は366万円です(グラフの黄ライン)。毎月の少しの努力で、赤字を減らせることがわかります。

2年後の退職をあと2年延ばすか、再就職をして4年後まで今と同じ年間180万円の収入を得ることができれば、赤字になるのは87歳。90歳時点の赤字額は260万円です(グラフの青ライン)。

毎月1万円の節約で赤字が大きく減ることに母は目を見張りました。「努力や工夫をすることで、生きながらえることができそうな気がする」。そんな感想をもらしました。

母が健康で過ごすことができれば、このシミュレーションをたよりに、息子との暮らしを成り立たせる可能性は十分に残されています。けれど、母の介護費用がかさむなど予想外の支出が生じれば赤字はふくらみます。母亡き後の息子の生活がどのようなものになるのか。母は「このままでいいはずはない」と思いを新たにしたようで、「近いうちに息子と話してみる」と言ってくれました。

母としては、息子に自身の財布のシミュレーションを見てほしいそうですが、ファイナンシャルプランナーへの依頼は息子自身にさせるべきでしょう。筆者は息子から声がかかるのを待っているところです。

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菅原 直子(すがわら・なおこ)
ファイナンシャル・プランナー
会計事務所向けオフコン販売、外資系生命保険会社の勤務・代理店を経て1997年FP資格取得・独立。わが子の成長にあわせて教育資金関連に注力し、各地の高校で保護者・生徒向けの進学費用に関する講演多数。卒業後の奨学金返還など将来の生活設計も考える講座内容から、親子・保護者・生徒から個人相談を受けることも。一般の個人相談では、ご相談者のライフデザイン(どのような人生を送りたいのか、どのような日々を送りたいと思っているのか)を一緒に考えるところから始めるようにしている。「働けない子どものお金を考える会」「子どもにかけるお金を考える会」メンバー。

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(ファイナンシャル・プランナー 菅原 直子)

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