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「2単位→28単位」オンライン授業のおかげで留年を免れた女子大生の本音

プレジデントオンライン / 2020年9月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

文部科学省が全国の大学などに行った調査によると、9月下旬以降に始める後期授業の形式について、約8割の学校がオンライン授業を対面授業と併用して続けるという。上智大学4年生の茂木響平氏は、「私の周囲にはオンライン授業のせいで留年になった学生がいる一方、オンライン授業のおかげで卒業を決められた学生もいる」という——。

■アドバイスももらえず、大学の設備も使えない

オンライン授業によって良くも悪くも大学生たちの学生生活は大きな変化を迎えることとなった。対面でないことへの不満から休学や留年を検討する学生が続出している現実もある。立命館大学公認の学生新聞・メディア団体の立命館大学新聞社は、同大学の学生の25%が休学を、10%が退学を視野にいれているとする調査を発表した。大学生である筆者の周りにも、オンライン授業を理由に留年を決めた学生がいる。一方で、「オンライン授業のおかげで留年を免れた」と語る学生もいる。双方に話を聞いてみた。

「オンライン授業では学びは少ないと感じ、6月ごろには留年することを決めました」

そう話す池田さん(仮名・20歳)は都内の美術大学でデザインを学ぶ2年生だ。大学の授業がオンライン化されてからは、関西の実家に帰って受講していた。

「特に質が落ちたと感じたのは、実技の授業です。オンラインでの実技授業は、大学から送られてくる器具とこちらでそろえた材料で成果物を作って発表するという形式。教員や友人のアドバイスをもらいながら創作をしたり、大学の設備を使ったりといった通常のような創作活動ができず、これでは独学と変わらないと思いました。自分一人で黙々と創作をできるほど引き出しのある学生にとっては悪くないのかもしれませんが、私にとっては求める学びを得られなかったです」

■オンライン授業のおかげで留年を回避した学生も

美術大学や音楽大学などは、一般的な大学以上に実技での学びが重要となる。その分、学費も高額だ。授業のオンライン化で、対価に見合った学びが得られないなら留年という選択を取ることも仕方がないように思える。

「秋学期から実技だけは対面授業に切り替える専攻もあるらしいですが、私の専攻は引き続きオンラインで行うようです。サークルや個展の開催などの課外活動を充実させるのも難しい中、これからの学生生活が不安です」

オンライン授業にならなければ留年することはなかったという池田さんは、氷山の一角にすぎない。享受できるはずだった学びを授業のオンライン化が奪ったことは、多くの大学生に深刻な影響を与えている。

一方で、池田さんとは逆に授業のオンライン化で留年を免れたと話す大学生もいる。筆者の友人である岸部さん(仮名・22歳)は、都内の私立大学文系学部に通う大学4年生。授業がオンラインになってから取得単位数が激増したという。

「去年の私はゼミの単位すら落として、秋学期の取得単位はたったの2単位。留年はほぼ確定してしまったと思い、4年での卒業は諦めるしかないかと考えていました」

しかし、岸部さんは授業がオンライン化された今学期は打って変わって28単位もの単位を取得することに成功した。今までとったこともない好成績のおかげで、何とか留年も回避することができたという。一体、彼女に何があったのか。

■「人の目が怖くて家に引き返してしまう」

「私がこれまで大学で単位が取れなかったのは、精神的な障害を抱えていたことが原因です。双極性障害(躁鬱病)を抱える私は、これまで普通の人のように外出をすることができず、授業への出席が困難になることが頻繁にありました」

取得単位数の比較

「鬱の症状が出ているときに外出をすると、人の目が極端に怖くなってしまうんです。周りの人が自分のことをブスだ、奇形だと思っているように感じてしまい錯乱してしまいます。大学に通うには東京駅を経由しなければならないのですが、そこでの人混みが特に苦手で……。道行く人が自分の顔の悪さを嗤(わら)っているように思えて、家に引き返してしまうんです。当然、大学には行けず単位もろくに取得できませんでした」

実際の岸部さんは、学内で目立つほど傍目には誰しもが美人だと思うような顔立ちだ。しかし、多くの人がいる場所では自分のルックスの悪さに注目が集まっていると感じてしまう。このような精神状態は「醜形恐怖症(身体醜形障害)」と呼ばれる。自己の身体的なイメージが実際よりも低いことが原因で、自分の身体の美醜に極度にこだわってしまい、日常生活に支障をきたすことも多い。

■「外に出ること」自体が大きな課題だった

そんな岸部さんの抱える問題を解決したのがオンライン授業だった。

「私にとってオンライン授業の良さは、なんといっても人と会わなくても済む点です。在宅で受講できるオンライン授業なら、多くの人がいる場所を通っての通学も必要ありません。おかげでこれまでの課題だった授業への出席もすんなりこなせました」

精神的な障害を抱える岸部さんは、「外に出ること」が大きな課題だった。1年留年したところで、必ずしも単位をとれるとは限らない。大きな不安を抱える岸部さんにとってオンライン授業は渡りに船だった。岸部さんはこのことを「精神的なバリアフリー化」と呼ぶ。

「本当にオンライン授業には感謝しています。レポート課題中心の成績評価や一部導入されたオンデマンド視聴可の授業は、双極性障害の私でも安定期に集中的に取り組めるのでとても助かりました。オンライン授業にはメリットしか感じていませんね」

岸部さんはこの機会に簡単な整形手術も受けたという。コロナ禍で外出する機会がないこの時期は、しばらくの期間手術跡が目立ってしまう顔の整形手術には好都合だそうだ。おかげで、見た目へのコンプレックスも少し解消されたという。大学4年生になる岸部さんは就職先も決まり、来年度から無事に社会人として働くことになる。抱える障害を完全に克服したわけではないが、オンライン授業のおかげで岸部さんの人生は大きく好転した。

■オンライン授業には良い面も悪い面もある

池田さんや岸部さんのケースから見えてくるのは、オンライン授業はそれぞれの学生が抱えるバックグラウンドによって、善しあしが大きく変わってしまうことだ。

対面での授業は学生のメンタルやモチベーションの面でも重要だ。池田さんが「教員や友人のアドバイスをもらえる」「大学の設備や環境を存分に利用できる」と話したように、授業内容を充実させるだけでは代替できない学びもある。オンライン授業の合理性が評価され、これからの教育現場での導入を求める声も大きいが、画一的な合理化によってそれらが失われてしまってはもったいない。

一方で岸部さんのケースからは、オンライン授業は障害を抱える学生にとって授業のバリアフリー化をもたらす側面も見えてきた。本稿で紹介したのは精神的な障害のある学生だったが、例えば足が不自由で大学への進学が困難だった学生など、さまざまな事情を抱える人たちに大学での勉強の機会を与えることにつなげていける。

オンライン授業は、肯定か否定かといった二項対立の議論になりがちだが、「オンライン授業ではだめな学生」「オンライン授業でないとならない学生」といった個別のケースにも目を向けて、柔軟に活用していくことも大切だ。

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茂木 響平(もぎ・きょうへい)
上智大学文学部史学科
1997年、東京都生まれ。現在、上智大学文学部史学科に在学中。大学文化史を専攻し、書籍企画「平成珍サークル列伝」で第14回出版甲子園決勝出場、珍サークル研究家を名乗る。ライターとして、大学や就活、サークル、サブカルチャーなどをテーマに記事を執筆。学生団体「大学のお水飲み比べサークル」の代表として、各種イベントの主催や司会なども手がける。

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(上智大学文学部史学科 茂木 響平)

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