20代男性の6割が「女性が憎い」と答える韓国で起きたフェミサイド

プレジデントオンライン / 2020年9月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

韓国では、20代男性10人のうち6人が「反フェミニズム的」という調査結果がある。韓国の若者に取材をしてきたライターの安宿緑さんは「若い男性を中心に女性嫌悪が拡大している。特に20代の男性たちは『女性のほうが自分たちよりも優遇されている』と感じている」という――。

※本稿は、安宿緑『韓国の若者』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■2016年、ソウルで起きた「女性嫌悪による殺人」

『82年生まれ、キム・ジヨン』の大ヒットなどに象徴的だが、韓国では、ここ数年、長い間抑圧されてきた女性の権利回復を求める動きが強かった。

しかしその一方では、「女性家族部の存在自体が男性嫌悪である」と批判したり、非婚を含むフェミニズムの過激化に警鐘を鳴らす向きもある。

著書『そのフェミニズムは間違っています』(未邦訳)が、韓国国内で脚光を浴びた作家のオ・セラピは「性差別は明らかに存在するが、現在の韓国のフェミニズムは男性排斥、ラディカリズムに偏り、男女の分断を招いている」と指摘している。

実際に韓国国内では男女間で分断が進んでおり、特に若い男性を中心に女性嫌悪が拡大している。

典型的な「フェミサイド(女性嫌悪に基づく男性による女性の殺人)」と言われているのが、2016年にソウルの江南駅近くで起きた女性刺殺事件だ。

犯人の34歳の男は「普段から女性に無視されていたことを恨んでいた」と供述。事件後には、現場付近に設けられた追悼スペースに「イルべ」(韓国の巨大掲示板サイト)ユーザーが被害者を貶める文言を貼り付けるなど、韓国国内に広がっていた女性嫌悪が可視化されるきっかけとなった。

■性的被害を受けた女性が「逆告訴」されるケースが増えている

今、韓国では女性が性的被害を訴えた場合、それを受けて、男性側が名誉毀損、損害賠償請求といった逆告訴をすることが増えている。その結果、女性側が「誣告罪(ぶこくざい)(虚偽申告罪のこと)」に問われるケースまで起きている。

最近だと、2017年に国会立法調査官のホ・ミンスク氏がまとめた「チャ・ジニョン事件」が韓国国内で話題になった。これは、レイプ被害者であるチャ・ジニョンさん(仮名)が検察から誣告罪で起訴され、2年8カ月にわたる法廷闘争の末、ようやく無罪を勝ち取った事件だ。

加害者の男はチャ氏の知人で、性的暴行による怪我の治療費を出すことを第三者の仲介で合意。しかし男は請求された額が高すぎるとして支払いを拒否。揉めた結果、チャ氏は警察に被害届を出すに至った。

しかし、検察官はチャ氏の堂々とした態度に「あなたのような被害者はいない」と言い放ち、被害後、すぐに告訴しなかった点などを挙げ、誣告罪でチャ氏を逆に起訴した。そして法廷では、加害者の関係者がグルになって虚偽の証言をしたり、会ったこともない人間が証言台に立ったりしてチャ氏を追い詰めたとされる。

被害者のチャ氏が、逆に罪に問われかけた理由について、ホ氏がさまざまな角度から分析した結果、その最大の要因は「被害者らしくない態度」にあったと記している。「女性らしくない女性が善良であるはずがなく、そのような女性であれば性犯罪被害を受けても当然であるという偏見」「堂々と自己主張をする女性に対する不快感と敵愾(てきがい)心」が作用したというのだ。

■男性の被害さえも覆い隠してしまう「控訴合戦」

2018年に韓国性暴力相談所が発表したレポートでは、逆告訴はもはや単なる怨恨を超え、一つのマーケットを形成したと指摘している。実際、韓国国内では「無罪を勝ち取ります」と掲げた“逆告訴専門弁護士”らが増えており、加害者に「まずは反省の色を見せる」などと説いたマニュアルを作っている。着手金として日本円にして15万~30万円の場合が多いが、実際には、そこからあらゆる理由をつけて、報酬を吊り上げていくことも多いようだ。

こうした訴訟合戦は、男性の正当な被害さえも覆い隠してしまう。とある韓国人男性は、合意の上での性行為を後日「レイプされた」といって告訴されたと言う。その男性の友人は次のように語っていた。

「女性から彼を誘い、二人で仲良くホテルに入るところまで僕は見ています。法廷でもそのように証言しました。友人一同も、彼のために地方まで出向いて裁判を傍聴しました。でも証拠不十分で敗訴し、女性に大金を支払うことに。思い出すと、自分のことのように悔しいです」

ベッドルームで男性が豹変し、それで女性に怪我を負わせた、ということでもなかったという。友人は、「逆告訴の風潮が、結果として男性側の控訴や反論は『不適切なもの』として扱われることに繋がっているのだと思う」と述べる。

■女性嫌悪の核にある「恋愛と結婚」

なお慶熙(キョンヒ)大学校がソウル市内の男性大学生270人を対象に行った調査研究では、女性嫌悪の核に恋愛と結婚があることが示唆されていた。

現在の韓国社会では、階層がほぼ固定化し、経済的に同じレベルでしか結婚しにくい状況にある。そうして経済構造的に劣位におかれた若年層男性が無気力感、劣等感を募らせた結果、女性嫌悪が増大しているのでは、と分析している。

そもそも韓国の20代の男性たちが「女性のほうが自分たちよりも優遇されている」と感じていることは否めない。

たとえば韓国女性政策研究院が2018年、19歳以上60歳未満の男性3000人(うち20代男性1000人)を対象にしたオンライン調査では、20代男性の半数が敵対的性差別意識および反フェミニズム意識を持っているとされ、彼らが女性に対して「平等という言葉を盾に多くを要求し、男性嫌悪をしている」と認識していることが分かった。

さらに彼らは徴兵に対する被害者意識を持ち、軍隊は時間の浪費で、損失と捉えており、結果として「男性だけ軍隊に行くのは男性差別で、女性も行くべきだ」という認識を強く持っていた。また他世代に比べて、性風俗などに興味を示さない傾向がみられ、逆にオンライン上での女性嫌悪的書き込みに接する機会が多かったとされる。

■「自分は差別されている」と感じている20代男性たち

中道左派を代表するメディア「時事IN」が2019年3月、20代男性を対象に行った調査では、より核心に迫る結果が出ていた。

同調査では、調査会社である韓国リサーチを通じ、45万人の中から抽出した19歳から29歳の男女500人と、30歳以上の男女500人の合計1000人を対象に208項目の質問を設け、「まったく同意しない」「別に同意しない」「分からない」「やや同意する」「まったく同意する」の5つの尺度で回答を求めている。

結果、やはり20代男性の回答傾向に、ほかの年代とは著しく異なる特徴が見られた。以下、20代男性の「やや同意する」「まったく同意する」の回答率が高かった項目を挙げる。

・この社会では男性差別問題が深刻だ
・韓国で結婚は女性に有利だ
・韓国の法の執行は男性に不利だ
・政府の両性平等政策はよろしくない
・フェミニズムは男女平等よりも女性優越主義を主張している
・競争で勝った人がより多くを持っているのは当然だ
・上の世代は若い世代の機会を奪っている

「時事IN」の結果から見えてくるのは、強い被害者意識である。特に20代男性は、男性に対する不利益な事柄は「逆差別などの結果ではなく、単なる差別と感じている」点がほかの世代と異なるといえる。

■20代男性で突出する「反フェミニズム的」傾向

さらにフェミニズムについては、より強硬な姿勢が見出せる。「時事IN」は、フェミニズムに関連し、以下の6つの質問を設けている。

a 私は自らをフェミニストだと思う
b フェミニズムは男女の同等の地位と機会付与を実現する運動だ
c フェミニズムは韓国女性の地位向上に寄与してきた
d フェミニズムは女性を被害者としてのみ考える
e フェミニズムは男女平等よりも女性優越主義を主張する
f フェミニズムやフェミニストに拒否感を覚えることがある

「時事IN」はa、b、cの質問に対して「まったく同意しない」またはd、e、fに「まったく同意する」とした20代男性の集団を「反フェミニズム型」と定義しているが、その数は全体の25.9%、予備軍も合わせるとその集団は全体の58.6%に上った。

つまり、あくまでこの調査結果に従うなら「20代男性10人のうち6人が反フェミニズム的」ということになるだろう。なお30代以上の男性の場合、同じ設問に対する回答結果はこれより低かった。

「韓国で女性の所得が低い理由は性差別のためである」という質問に、「反フェミニズム型」の20代男性は78.3%が「まったく同意しない」。「別に同意しない」を合わせれば95.7%。そして「家族をつくるのは女性にとってより有利である」という設問には65.2%が同意。さらに「男女の所得が平等な社会が公正である」に「全く/別に同意しない」と答えたのが半数以上の58.3%に及び、これは他世代とほかの20代男性の数字に比べて倍以上となっている。

■「自分の権利を侵害されている」と感じると姿勢を硬直化させる

なお「学生時代は女性のほうが優秀だが、就職して社会人となった後は男性のほうが有能である」とする割合もほかの集団より群を抜いて多く(60.9%)、「今韓国で子どもを作るなら娘であるほうがより生きやすいだろう」といった設問にも66.7%が同意している。

安宿緑『韓国の若者』(中公新書ラクレ)
安宿緑『韓国の若者』(中公新書ラクレ)

また20代男性は、女性寄りの政策を打ち出す文在寅政権に対する不支持率も高い傾向がある。大統領府の政策企画委員会が2019年2月に発表した「20代男性の支持率下落の要因分析および対応方案」では、「文在寅政権の『親女性的』政策への不満の表れ」と分析していた。

韓国の階層社会の最新事情を綴った『世襲中間層社会』(未邦訳)の著者、チョ・グィドン氏は「男女の教育格差がほとんどなくなった現在、エリート男性にとって女性は自身のポジションを脅かす存在であり、非正規雇用で低所得層の男性にとっては、女性は恋愛市場で自身が弱者である現実を突きつけてくる存在」と定義している。

一方で、先に記した「時事IN」の「育児による女性のキャリア断絶に対する支援と補償政策に同意するか」という質問に対する回答は「若干同意」を含めて64%と高く、他世代と大きな差が見られなかった。

こうしたデータから、若い世代の男性も「何がなんでも女性の権利拡大に反対」しているわけではなく、自身の権利を侵害する可能性を感じさせる場合において、極端に姿勢が硬直化するという傾向を見出すことができそうだ。

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安宿 緑(やすやど・ろく)
ライター、編集者
東京都生まれ。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA!』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。

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(ライター、編集者 安宿 緑)

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