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上海の女性からマスク5万枚を200万円で仕入れた転売ヤーの末路

プレジデントオンライン / 2020年9月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrey Zhuravlev

この春、中国から「ナゾノマスク」を仕入れて、ひと儲けを企んだ人たちがいた。会社員の高山幸太さん(仮名・36歳)もその一人だ。しかし高山さんは「マスク5万枚を200万円で仕入れたが、在庫の処分に苦しんだ。二度とやりたくない」と振り返る――。

※本稿は、奥窪優木『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■上海留学で知り合った中国人の女の子から連絡が来た

まず、世間で暴利を上げたと目されているのが、マスク不足に乗じて新型コロナ以前の数倍という価格で、中国製“ナゾノマスク”を販売していた業者だ。

しかし、「正直、全然儲かりませんでした」と明かすのは、不動産営業職の傍ら、副業として中国製マスクを日本で販売していた高山幸太さん(仮名・36歳)だ。

「8年ほど前、上海に語学留学していたことがあるんですが、そのときによく行っていたバーで働いていた中国人のバイトの女の子が、3月末頃にWeChatで連絡してきたんです。聞けば、『中国のマスク工場にツテがあるから、日本でマスクを売らないか』って。

そのときネットで調べたら、日本では50枚入りマスク1箱が最安値でも4000円で売られていた。つまり1枚あたり80円です。一方、その工場からは1枚あたり約30円で手に入るということでした。私は過去に中国から輸入した電動スクーターやウェアラブルカメラなどをフリマサイトで売って生計を立てていたこともあるのですが、その経験をもとに頭の中でそろばんをはじき、1箱50枚入りにして3000円で1000箱売れば、150万円くらいは儲かるだろうと皮算用しました。

その女の子は、仲介手数料としてマスクの仕入れ価格の20%を要求してきましたが、交渉の結果15%ということでまとまりました。本職のほうの営業ができなくなって暇だったので、とりあえず50枚入り1000箱を発注してみることにしたんです」

しかし、詳しく話を進めていくと、想定外の費用がいろいろとかさむことになる。

■予想外の経費、刻一刻と下がるマスク相場

「1枚約30円というのはマスクだけの価格で、パッケージ料金が別にかかることもわかりました。日本で販売するには、パッケージの表記も日本語にしたほうがいい。とりあえず50枚入り1000箱分のパッケージ作成費用として、6万円ちょっとかかりました。

そうしてパッケージはできたのですが、今度は1000箱分は一気に用意できないということになって、4月半ばに400箱、4月の末までに600箱と2回に分けて送ってもらうことに。そのせいで割高になってしまい、2回分の送料として17万円も追加でかかることになった。この時点でマスク1枚当たりのコストは39円くらいになっていました」

それでもまだ最安値の80円で売ったとしても、マスク1枚当たりの原価率は50%未満。そう考えれば、高山さんの商魂が損なわれることはなかった。

「400箱は4月12日に発送されたのですが、日本に届いたのは4月27日のことでした。マスクの相場は発注から1カ月ほどの間に下落し、マスク1枚当たりの最安値は60円ほどになっていました。それはしょうがないとしても、腹が立ったのが、日本で約4.7%の関税がかかったこと。マスク不足の真っただ中に、日本政府は医療用以外のマスクに関税をかけていたんですよ。信じられますか?」

この時点で、マスク1枚当たりの利ザヤは20円程度になってしまっていたことになる。

「そうこうしている間にも刻一刻とマスク相場は下がっていく。できるだけ早く売り切らなければという思いで、某ECサイトに当時の最安値とほぼ同額の1箱2980円(50枚入り、税・送料別)で出品しました」

結果、売れ行きは順調で、2週間ほどで400箱を売り切ったという。

■規制強化を受けて3万5000円の追加費用を支払うことに

「ただ、ECサイトの販売手数料で8%ほど取られるので、400箱分を売り切った段階での儲けは30万円ちょっとになってしまいました」

当初の皮算用からは、かなり目減りしてしまったことになるが、このとき高山さんは別の問題を抱えていた。

「4月末から当局による規制が変更となり、中国の未発送の600箱について輸出が保留になっているっていうのです。問題とされているのは、パッケージの『抗菌』と『飛沫防止』の文字。医療用として認可を受けているものでなければ、その言葉は使えなくなったということで、パッケージを変更しなければならなくなりました」

確かに4月25日に中国税関総署が公布した「防疫物資輸出の品質監督を更に強化することに関する公告」には、輸出用マスクの医療用と非医療用の区分厳格化が盛り込まれており、医療用として認可を受けていないマスクについては、「医療」や「ウイルス除去」などといった「消費者に誤解を与える」文言を添えることが禁止されたようだ。

こうした突然の規制強化をクリアするためには、約3万5000円の追加費用を払ってパッケージを新調するしかなかったという。

そしてようやく残りの600箱が高山さんの手元に届いたのは5月11日のことだった。しかし……。

■マスク相場は下落を続け、ついには路上販売をするはめに

「そのときにはマスク1枚当たりの最安値は30円以下になっていました。完全に原価割れです。この頃、『原価販売』をうたうマスクが複数登場したことも、相場下落の一因になったと思います」

しかもこの時点では、マスク5万枚の仕入れにかかった約200万円のうち、110万円ほどしか回収できていないのだ。「このままいけば赤字確定となってしまう」と思った高山さんは販売戦略を転換した。

「ECサイトでの販売を諦めました。ネット上だと価格の比較が容易なので、最安値にしなければなかなか売れないからです。ECサイトの販売手数料もバカになりませんし。そこで始めたのが路上販売です。送料もかからないので、買うほうもお得感があると思ったんです。

実家の軽バンを借りてトランクルームに商品を載せ、山手線の主要駅の周辺で1箱2500円(税込み)で販売することにしました。1箱当たりの儲けは500円以下になってしまいましたが、赤字だけは避けたかったので必死でした」

しかし、これにも誤算があった。

「その頃はまだ緊急事態宣言下で、駅周辺といっても人通りもまばらでした。午前中は『マスクを忘れてきた』といって買ってくれる人が1日に何人かいましたが、4~5時間路上に立っても1日に5~6箱売るのがやっとでした」

そんな調子でも路上販売を続けていた高山さんだったが、5月25日に首都圏の緊急事態宣言が解除されると、状況は好転した。

「人通りが街に戻ってきて、売れ行きは目に見えてよくなりました。特に売れたのが、新橋駅や神田駅の周辺です。その頃には、ネットだと1箱1500円も出せば買えたと思うんですが、オジサンたちはマスクの相場なんか知りませんから。夜、お酒が入ったサラリーマンも狙い目でした。まとめて買ってくれる人には値引きをしたりもして、1日に40箱ほど売れたこともあります」

ちなみに路上での物販は警察への許可が必要なはずだが、問題はなかったのか。

「何度かお巡りさんが近くを通ることはありましたが、注意を受けることはありませんでした。ただ、上野駅で一度、怖そうなオニイサンに『誰に挨拶してここで商売しとるんや!』と凄まれたことはありましたが、『密』を警戒してか、一定以上近寄ってくることはなかったので、そのまま移動して事なきを得ました」

■42万円ほどの黒字になったが「二度とやりたくない」

こうして高山さんは、6月中にすべての在庫を売り切り、最終的な収支は42万円ほどの黒字となったという。しかし、その労苦を考えるとけっしておいしい仕事とはいえず、高山さんは「二度とやりたくない」と漏らすのだった。

奥窪優木『ルポ 新型コロナ詐欺~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社新書)
奥窪優木『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(扶桑社新書)

事業規模が小さすぎたことや、ビジネスとしてのそもそもの詰めの甘さも、高山さんの敗因の一部かもしれない。

しかし、中国での発注から納品までの間に、日本のマスク相場が予想以上のスピードで下落していっていた点や、中国当局による突然のルール変更に翻弄されるという点は、中国製マスクを日本で販売していたすべての業者に共通する点である。

多くの“ナゾノマスク”販売業者は、「暴利をむさぼる」というほどではなかったのかもしれない。そうなると、「パンデミック・プロフィティアーズ」(パンデミックに乗じて暴利をむさぼる者)は、さらに「川上」にいるということなのだろうか。だとすれば、中国国内のマスク業界の事情に迫る必要がありそうだ。

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奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき)
フリーライター
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。ツイッターアカウントは@coronasagi

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(フリーライター 奥窪 優木)

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