日本社会で「女としての息苦しさ」を感じる者同士、手を組み方法はあるか
プレジデントオンライン / 2020年10月1日 6時15分
■女性管理職が少ないのは、個人ではなく社会構造上の問題
前回は、日本では権利を主張するとそれがたとえ正当なことでも“わがまま”と思われがちだが、職場の環境や働き方を改善するために賢く声を上げていこうということを話しました。
女性の経営者や管理職の少なさが示すとおり、まだまだ日本の企業は男性優位で女性には昇進の機会が与えられていない。一方で、管理職になっている女性も目にする機会がある中で、女性がさらに「女性にも平等に仕事の機会を」「経験を積んで昇進できるチャンスを」と声を上げるのは勇気がいりますよね。私が『みんなの「わがまま」入門』で書いたとおり、まさに“わがまま”と思われ、「あなたの努力不足」「あなたが得したいだけでしょう」と言われがちなケースです。
そして、「そもそも女性が管理職になりたがらない」という声まで聞こえてくる。確かに、女性の多くがリーダーになりたがらないというデータは存在するかと思います。ではなぜなりたがらないのかといえば、「管理職になりたい」「昇進したい」というような“意欲”が、私たちが知らないうちにそがれている可能性があります。
例えば、女性で理数系の学校や学部に進学する人は少数派ですが、本当に男性との能力の違いがあるわけではなく、それ以前に「女の子は理科や数学に向いていない」という刷り込みをされていることも要因の一つと考えられます。それと同じように「女性は昇進したがらないもの」あるいは「女性はリーダーに向かない」といった刷り込みがあるのではないでしょうか。
■女性同士で足を引っ張り合わない
また、女性が管理職を目指さないのは「こんな上司になりたい」というロールモデルがいないという理由もあると聞きます。確かに若い世代は、仕事中心で働きすぎだった現在の女性上司のようにはなりたくないかもしれません。けれども、彼女たちのキャリアそっくりまねしなくても、こういう時どうしたんだろう、こんな時の選択は……と、部分部分をまねしつつ、相談しながら連帯し、昇進の機会を増やしていくのは、一つの有効な手段です。「私が我慢したんだから」と言われる可能性もあるかもしれないですが……。
東京都知事の小池百合子さんについて書いた『女帝』(石井妙子著/文藝春秋社)という本がありますが、読んでびっくりしたのは著者が女性であること。女性性の強調や政策など、小池さんには問題もありますが、本の中で容姿という、自分で変えられない要素に言及するというのを、しかも同性がするので驚きました。男社会の中で活躍するとこういう点で釘を刺されるんだと……しかも、女性が女性に。これが男性の菅義偉首相なら、同じように苦労人でのし上がってきたとしても容姿には言及されない。問題のある振る舞いに対する批判は重要です。それは同性、異性関係ありません。ただ、本質でないところに注目すると、政党や政治の構造的な問題が見えにくくなるし、無駄に女性の側が分断されてしまう。
私の個人的な体験をお話しますと、先日、安倍晋三元首相が辞任したとき、ラジオに出演したのですが、識者として呼ばれたのは男性ばかりで、女性は私だけでした。ふだん職場の大学でも教員は男女半々くらいですから、その状況が予想より怖く感じました。男性識者たちがたくさん話すので、私が話す時間は短くなってしまい、それなのに突然「女性として意見を」と求められる場も少なくない。そこで、放送前に勇気を出し「男性ばかりでやりづらいです」と言ったんです。その後、番組のスタッフさんたちに男女比を再検討いただいたので、とっさに「(抗議して)すみません」と謝ってしまったんですが、考え直し、「やはり今の『すみません』は取り下げさせてください」と言いました。すると、女性のリスナーさんから「自分も勇気が出ました」「励まされました」というメッセージが届いたんです。
■私たちは女という属性による息苦しさを共有している
前回の記事でも触れましたが、現在の社会は個人化しつつ流動化しており、女性一人ひとりの立場も全然違う。ただ私はその点を強調しすぎていたのかもしれません。だからこそ、これまで正直、女性同士のつながり、いわゆるシスターフッドができるとは期待していませんでした。しかし、ラジオ出演時の私のように、男性ばかりの場でやりづらい思いをしたり、発言することが怖いと思ったりするのは、女性ならみんな同じ。その場でつい「すみません」と謝ってしまうのも……。これらは女という属性による息苦しさの問題でもあったたんですね。
これまでは「2020年までに女性管理職を30%に」という政府の目標などを聞くたびに、「数をそろえてどうなるんだ」と思う気持ちもありました。単純に、女性の数を多くすることに意味があるんだろうか。パーセンテージを決めて数をそろえると、反発も起きやすいのではと考えていたんですが、やはり“数”には意味があると思います。私が男女半々の職場で息をするように意見を言えているのは、社会全体から見れば非常にレアなことなんだと、気付かされましたね。
■お飾りポジションを卒業して、女性リーダーを増やそう
企業においても、ラジオ番組に出演する前、私が懸念したように、「女性としての意見」は求められるけれど、実際の権限は与えてもらえないという場合もあると思います。これからは、そういった“お飾り”ポジションを脱していく段階。会議に呼ばれたとき、「お飾りポジションなら拒否します」と言うのは怖いかもしれませんが、「私以外に女性はいるんですか。LGBTの人はいるんですか」と質問をする。あるいは、文句を言いつつ参加したり、登壇したあとに嫌味の一つも言ってやるとか(笑)。そういうことを言う人が自分だけでなく、もう1人、2人でも一緒に声を上げてくるようになれば、状況はまったくちがってくると思います。
また、職場の中でリーダーのポジションを得たとき、「女性管理職を増やすという目標のために昇進させてもらえたのかもしれない」「女性役員枠、ダイバーシティ枠で採用された」と感じることもあるかもしれません。そういう自虐に逃げたくなることって誰でもある、でもそれを、あえて言わないことが大事なのだと思います。
ラジオで「すみません」を取り下げたのにはそういう気持ちもありました。自分ではどうしようもない構造的な理由によって男女の格差が生じている。これは自分の責任ではないのだから、ここで自分が謝ったりしたらいけないんだと感じました。それを貫くのはすごく勇気がいるけれど、謝らないし申し訳ないとも思わない。このスタンスがとても大事だと思います。
■謝ったらこれまでの積み上げが元に戻ってしまう
私は20代の頃、かなり年上の先輩に「私たちがどんどん社会に出ていくことが後輩の女性のためになる」と言われ、そのときは正直、ピンと来ませんでした。その先輩は「謝ったら(これまで積み上げてきたものが)巻き戻ってしまう」ともおっしゃっていて、30代になった今は、それがある程度真実で、こう言うと恩着せがましくてあまり好きではないのですが、下の世代のためにもなるんだろうと思います。
女性管理職を増やしてほしいと要望するなど、最初のステップで「“わがまま”を言った」結果、主張したことが実現したら、次のステップとしては「謝らない」ということが大事になってきます。だって、先に立場と権利を確保した男性たちは、そのことを当然と思い、謝ってなんかいないのですから。私たちも、せっかく得た権利を手放す必要はない。これまで先人が積み上げてきたものを巻き戻してはいけない、そんなふうに現在は考えています。
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立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事
1986年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。専攻は社会運動論・国際社会学。 著書に『みんなの「わがまま」入門』『社会運動と若者』『社会運動のサブカルチャー化』がある。
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(立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事 富永 京子 構成=小田慶子)
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