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「誰が首相になっても解決策はない」出口のない異次元緩和の末路

プレジデントオンライン / 2020年10月1日 15時15分

自民党両院議員総会で、壇上に上がる(左から)岸田文雄政調会長、新総裁の菅義偉官房長官、石破茂元幹事長=2020年9月14日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

日本の財政は火の車だ。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「自民党総裁選が行われたが、政治家は誰も財政問題を語ろうとしなかった。無責任にも、臭いものには蓋をしているようだ」という――。

■財政問題を語る政治家はどこにもいなかった

将来の首相を決める自民党総裁選で、どうして、どの候補者も、現在の日本の財政危機、日銀危機に触れなかったのだろうか? コロナとともに、最大の国難であると思うのだが。

臭いものには蓋か? 国民の目を逸らすためか? 回避不可能だから、国民には知らしむべからず、なのか? それとも政治家が経済・金融をわかっていないせいか? はたまた能天気のせいだろうか?

安倍晋三前首相の病状がどの程度だか知る由もないが、首相の座を降りたのは、年末にかけて行われる来年度の予算編成に向けてストレスが極限化したせいではと邪推している。

総裁就任前に出演したテレビ番組で菅総理が「行政改革を徹底して行った上で、消費税は引き上げざるを得ない」と発言した。一晩で撤回したものの、官房長官として安倍氏のそばにいて、財政の厳しさを痛感したが故ではなかろうか?

麻生太郎財務大臣や麻生派の河野太郎氏が出馬しなかったのも、財務省から、財政の厳しさについて十分なレクチャーを受けていたので、貧乏くじを引くのを回避したせいではなかろうか?(賢明だと思う) それほどに財政は逼迫(ひっぱく)している。

■菅首相発言が一晩で一変したのも理解できる

そう考えると、菅内閣は、「借金踏み倒し」を実行する政権であり、火中の栗を拾う政権となると考える。

「消費税は、いずれは上げなければならない」が「安倍首相も今後10年ぐらい上げる必要はないと述べている。私も同じ考えだ」と菅首相発言が一晩で一変したのも理解できる。再スタートを切る前の政権の首相発言は、反故になっても、誰も文句を言わないからだ。

日本は、他国と違い、平時から借金を積み上げ、財政ファイナンスを行ってきた。それが故に、現在、世界ダントツの財政赤字国家であり、中央銀行は世界ダントツのメタボになってしまっている。

家庭であれ、国であれ、借金は、満期日には返さねばならない。返さなければ家庭は自己破産で、国家はデフォルトだ。したがって借金が大きくなると、家庭であれ、国であれ、資金繰りは自転車操業となる。

新しい借金と満期が来た借金の返済原資を調達しなければならないからだ。満期日に返したお金を再度貸してくれる人もいるだろうが、貸す、貸さないは貸主の権利ではあるが、義務ではない。

■増税議論を避け、先送りを続けた自民党政権

ここで国と家計が違うところは、国には、巨大になった借金を問答無用で貸してくれる日銀がいることだ。それが2013年4月から始めた異次元緩和である。

日本銀行
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

これは国の借金を中央銀行が紙幣を刷ってファイナンスするという意味で、過去ハイパーインフレを引き起こした財政ファイナンスそのものだ。まさに財政破綻の先送り政策だった。これ故に日本は、財政赤字の巨大化とともに日銀のバランスシートもメタボになり、両者とも世界最大になってしまったのだ。

ちなみに、中央銀行が日銀のように紙幣を刷る権限が無いユーロ圏諸国は、中央銀行のバランスシートは拡大しないが、財政破綻を先送りできないので、財政破綻の恐怖につねにおびえている。

「財政赤字」「中央銀行のメタボぶり」は両者とも対GDP(国内総生産)比で測る。税収は、GDPにほぼ比例して増えるからだ。したがって「対GDP比の累積財政字額」とは「税金で財政赤字を解消できる難易度ランキング」であり、「対GDP比の中央銀行資産規模」とは「(金融引き締め時に必要な)税金で中央銀行バランスシートを縮小できる難易度ランキング」である。

要は、財政再建と、金融政策の機能回復には、日本は、世界ダントツの大増税が必要になったということなのだ。

■かつて財政危機は官民で共有されていた

第2次安倍政権発足以前は、それでも、将来の大増税を回避しようとする試みは行われていた。1997年には橋本龍太郎内閣が「財政構造改革法案」を成立させた。第2条に「財政が極めて危機的な状況にある」と記されたこの法案により、橋本内閣は、財政再建への意欲を示した。

ただ、残念ながら、この年は三洋証券・山一証券・北海道拓殖銀行等が破綻し、財政再建どころではないと、この法案は骨抜きになり、後継の小渕恵三内閣の時、実質廃案となってしまった。

民主党の野田佳彦政権は、東日本大震災に対し、「復興税」という臨時増税を行い、その財源を明確にした。借金が大きくなることへの恐怖、自制心はまだ存在していたのだ。財政危機に対しての警戒警報記事も頻繁に新聞紙面をにぎわした。

ところが第2次安倍内閣の「異次元緩和」発動で、その財政再建の試みはぶち壊しとなった。通常、財政赤字が拡大すると長期金利が上昇し、長期国債市場が「政治家さんよ、そんなにお金をばらまくと長期金利が上昇して景気が失速しますよ」と、大きな警戒警報を鳴らす。しかし異次元緩和で、長期国債の爆買いをするから、いくらばらまいても警戒警報が鳴らない。

ピンク、紫、濃い青空と災害予報の拡声器
写真=iStock.com/minianne
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/minianne

■「異次元緩和」の発動で失われた危機感

以前は、財政法第5条で本来発行できない赤字国債を、特別公債法案という財政法の上位法を毎年、成立させ、赤字国債を発行して、急場をしのいでいた。その法案を通すために毎年、与党は首相の首を差し出していたが、今では、一度、この法案を通せば5年間、赤字国債を発行できるようにした。

これでは赤字国債削減への首相のモチベーションは落ちる(第2次安倍政権が長期政権になり得たのも、これが主因だと私は考えている)。

又、「統合政府で考えると、財政は健全だ」という財政楽観論者の存在や「借金を拡大しても財政出動をすべきだ」等の財政出動派の存在が赤字を極大化させてしまった。この結果、第2次安倍政権は、尋常な方法での財政再建を放棄してしまったといえる。

■「誰が首相になっても解決策はない。だから臭いものには蓋」

巨額になった借金を解消する手法は「大増税」か「借金踏み倒し」しかないが、大増税を放棄すれば、「借金踏み倒し」しか道はない。

「借金踏み倒し」は歴史的には、しばしば起こる。鎌倉時代・江戸時代は「徳政令」「棄捐令」だったが、今の世の中では、さすがにこのような過激な政策はとれないだろう。となると、実質、「借金踏み倒し策」であるハイパーインフレ策しかない。

1000兆円超の借金は、タクシー初乗り1兆円時代には、実質無きに等しくなるからだ。インフレとは債権者(国民)から債務者(国)への富の移行という意味で、大増税と同じである。したがってハイパーインフレとは国にとっては究極の財政再建策だが、国民にとっては地獄となる。

菅政権は安倍政権を継承するという。実は誰が総理になっても、この機に至っては、継承せざるを得ない。異次元緩和をやめると新首相が発言したとたんにXデーが到来するからだ。

年間発行国債の7~8割をも買っている日銀が購入をやめる(=異次元緩和をやめる)と、長期国債の値段は急落(=長期金利は急騰)する。政府は高い金利では国債発行などできないから予算が組めない。資金繰り倒産だ。莫大な国債を保有する日銀も巨額な評価損を抱え、債務超過になり円は暴落してしまう。ハイパーインフレ一直線だ。

したがって、この論考の最初の質問に対する回答は「誰が首相になっても解決策はない。だから臭いものには蓋」がその回答だと私は思っている。

■「コロナのせい」ではない、人災だ

「今はインフレでもないのにハイパーインフレなど起こるわけがない」という方がいる。しかしインフレ/デフレとハイパーインフレでは発生原因が違う。インフレ/デフレはモノの需給で起こるが、ハイパーインフレは中央銀行が信用を失墜させた時に起きる。通貨の価値が失墜するからだ。一晩で起こりうる。

ストーブに紙幣をくべているハイパーインフレのようすの写真を本で見た方もいらっしゃるとかと思うが、これはマキの供給不足の現象ではない。紙屑となった紙幣では誰もモノを売ってくれない。したがってストーブにまきの代わりに紙幣をくべたのだ。

国のリーダーはXデーの当事者にはなりたくないものだ。したがって、異次元緩和という安倍政権の政策継承によって、菅政権は、粛々とXデーに向かって進んでいくだろう。

そしてある日突然、日銀が債務超過になり、市場が混乱すると思っている。人はそれを「市場の暴力」と呼ぶだろうし、政権や日銀は「コロナのせい」にするだろう。しかしその「市場の反乱」は借金を世界最大減まで膨らませ、異次元緩和で危機を先延ばしにした人災である。

国を頼りにせず、ドルを買って自衛せよと私が申し上げている理由がここにある。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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