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「意外な事実」ネット炎上の参加者は参加しない人より年収が80万円高い

プレジデントオンライン / 2020年10月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/loveshiba

インターネットで「炎上」に参加する人は、全体の約1%ほどだ。それなのに、ターゲットとなった人が身の危険を感じるほどの中傷につながるのはなぜなのか。炎上の書き込みをする人々は何を考えているのか。毎日新聞取材班が取材した——。

※本稿は、毎日新聞のWEB連載「匿名の刃 SNS暴力考」をまとめ、加筆した、毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

■炎上書き込みをする人はわずか1%

炎上に参加するのは意外に「普通の人」であることが分かってきたが、実際に参加しているのは全体から見れば、ごく少数であるようだ。

慶應義塾大学の田中辰雄教授(計量経済学)と国際大学の山口真一准教授(計量経済学)らが2014年に実施した調査で、その一端が明らかになっている。

インターネットモニター約2万人を対象に、炎上への関わりや性別、年齢などの属性を尋ねたところ、炎上を「聞いたことはあるが見たことはない」との回答が約75%を占めた。

一方、炎上に参加した経験がある人は、「1度書き込んだことがある」と「2度以上書き込んだことがある」を合わせて計1.1%だった。質問では「炎上事案に対しての書き込み経験があるか」を尋ねており、批判や中傷に限定していない。炎上している人を擁護する書き込みが含まれることを考えると、批判的な書き込みをした人はさらに少ない可能性が高い。

これとは別に、山口准教授らが16年に約4万人を対象に実施した別の調査結果によると、1件の炎上事例に書き込んだ人のうち、書き込みが3回以下だった人が69%だったのに対し、51回以上の「粘着型」とも言える人は3%だった。山口准教授は「そもそも関与する人は少なく、さらにごく少数の人たちが大量に書き込むことで大きな影響力を持ってしまう。それがネット炎上の特徴です」と語る。

■「反応しておく」だけの人が多い

炎上を構成する投稿の内訳については、本書の第2章でも紹介している帝京大学の吉野ヒロ子准教授も分析している。あるパソコン販売店で「高額のサービス解約金を求められた」とした客の投稿をきっかけに炎上した16年の事案に関する約60万件のツイッター投稿を調べたところ、炎上を構成する投稿全体の6割は「なんだこれ」「こんなこと起きてるんだ」といった軽い反応だった。吉野准教授は「炎上というと、ものすごく大量に誹謗中傷が飛び交っているイメージが強いですが、話題になっているから反応しておく、という感じの人がかなり多い」と話す。

さらに、リツイートされる頻度が高かったのは、過激で攻撃的な投稿よりも、騒動を俯瞰してまとめた投稿や、面白おかしくネタにした投稿だったことも分かった。炎上参加者の大半は、冷静な人たちだったとみられている。

■テレビ番組とネットニュースが炎上を増幅させる

吉野准教授は、炎上を拡大させる要因として、マスメディア、ニュースメディアの影響も指摘する。2015年に行ったウェブ調査で、炎上を認知する経路として「テレビのバラエティー番組」を挙げた人が50.4%と最も多く、「ネットニュース」が32.2%、「テレビのニュース番組」が28.5%と続いた。「ツイッター」(20.4%)や「2ちゃんねる」(18.4%)の割合は低く、既存のマスメディアやそれを引用したネットニュースの影響力が大きいと言える。

さらに、テレビのニュース番組で炎上を認知した人は、炎上した対象を非難する態度が形成されやすいことも分かった。ニュース番組では「炎上対象が不適切な行動をとったために炎上している」という論調で取り上げることが多いのが原因とみられる。マスメディアやネットニュースが多くの人に炎上を認知させ、さらに攻撃的な態度にも影響を与えているのだという。

■炎上記事の量産が、「再炎上」を招く

実際、ツイッターでの炎上が、テレビやネットニュースなどで取り上げられると、さらに多くの人が参加し、再炎上するという現象が起きていることも判明している。吉野准教授は「たいして批判が広がっていないのに、やたらと炎上、炎上と書いて記事を量産しているネットメディアもある。報道を抑制するなど何らかのガイドラインを設ける必要があるのではないでしょうか」と提言し、こう続ける。

「背景には炎上と書けばPV(ページビュー)がとれ、広告収入が増えるなどの事情があるのかもしれませんが、炎上をコンテンツとして消費し続けることは好ましくない。そういうメディアに対して、企業も広告を出さないようにするなど自主的に規制することも対策の一つです」

■伊藤詩織さんへの書き込みをウェブサービスごとに分析

ネット中傷や炎上という現象は、ウェブサービスによってその現れ方が違う。評論家の荻上チキさん(38)は、ジャーナリストの伊藤詩織さん(31)に関する約70万件の書き込みを対象にウェブサービスごとに傾向を分析した。

第4章で詳しく触れるが、伊藤さんは2017年、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受けたとして実名で被害を告発。

19年12月には山口氏を相手取った東京地裁の民事訴訟で山口氏側に賠償を命じる判決(控訴中)が出たが、ネット上では伊藤さんに対する中傷が多く投稿された。伊藤さんは20年6月8日、ツイッター上で伊藤さんを中傷するようなイラストを投稿したなどとして、漫画家のはすみとしこ氏らに対し損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

荻上さんは20年2月、伊藤さんの弁護団から依頼を受け、訴訟対象とする書き込みを絞り込むため、伊藤さんが性暴力被害を実名で告発した17年までさかのぼり、投稿内容を収集、分析した。

ツイッターの投稿で名誉を傷つけられたなどとして漫画家らを提訴し、記者会見するジャーナリストの伊藤詩織さん=2020年6月8日、東京都中央区
写真=時事通信フォト
ツイッターの投稿で名誉を傷つけられたなどとして漫画家らを提訴し、記者会見するジャーナリストの伊藤詩織さん=2020年6月8日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■「違法性の高い投稿」が多かったツイッター

対象としたのは、ツイッター、フェイスブック、ヤフーのニュースコメント欄、ユーチューブ、各種のまとめサイト、ツイートをまとめた「トゥギャッター」、はてなブックマーク、個人ブログ――など10以上のウェブサービス。

伊藤さんの氏名が出ていなくても、伊藤さんを想起させる「オシリちゃん」「伊●詩織」なども含めて検索して投稿を収集。6月8日の提訴会見時点で確認できた投稿は、肯定的な内容も合わせて少なくとも70万件に上った。

荻上さんらは確認できた投稿のうち、ツイッター、ヤフーコメント欄、匿名掲示板「2ちゃんねる」、ユーチューブについて、批判的な投稿と、違法性の高い投稿の割合をそれぞれ推計で算出した。すると、ツイッターでは、批判的な投稿は全体の10.6%で、「ハニートラップ」や「枕営業」など名誉毀損にあたりうる違法性の高い投稿は4.5%だった。

同様に、ヤフーコメント欄では批判的投稿17%、違法性の高い投稿1.8%、2ちゃんねるでは批判的投稿3.9%、違法性の高い投稿3.7%、ユーチューブでは批判的投稿5.5%、違法性の高い投稿3.6%だった。

■強烈なアンチを育てるツイッターの仕組み

ツイッターは、違法性の高い投稿が最も高く、批判的な投稿と合わせた割合も4つのサービスの中で2番目に高かった。荻上さんは、背景に「投稿者のアカウントの継続性」と「投稿の拡散性」があるとみる。

「ツイッターは、投稿がリツイートされることによって投稿者が承認されていくプロセスがある。否定的な書き込みを続け、それがリツイートされ続けることによって投稿者は『承認された』と感じ、攻撃的な言葉にエスカレートしていく。書き続けることによって強烈な『アンチ』が育ってしまう土壌があると感じました」

荻上さんはさらにこう指摘する。

「態度模倣効果とでも言えばいいでしょうか。ツイッターでは『このような振る舞いをとることが政治的レスポンス(反応)として正当なのだ』という態度が伝染する。フォロワー数の多いオピニオンリーダーの影響力も強くあります」

伊藤さんを巡っても、〈枕営業(をしていた)〉や〈伊藤詩織は通名で実は(外国籍の)『尹詩織』だ〉というようなデマや、伊藤さんが性暴力に関して海外メディアの取材に答えた内容が〈日本人に対するヘイトだ〉とする主張など、誹謗中傷やデマの内容は似通っている。

こうした現象に荻上さんは疑問を投げかける。

「ツイッターの拡散性自体が問われます。デマやフェイクニュース、他者の尊厳を傷つけるような言説を拡散させることが社会にとって良い行為なのでしょうか」

■炎上参加者は「高年収で役職につく男性」が多い傾向

次に、炎上に参加する人の属性について考えたい。前出の国際大学の山口准教授が2014年の調査をもとに炎上参加者と非参加者の属性を比べたところ、「男性」と「子持ち」という属性に加え、年齢が若い(ただし、調査は20歳以上対象)、世帯年収が高い、ラジオ聴取時間が長い、ソーシャルメディアの利用時間が長い人ほど、そうでない人に比べて炎上に参加する傾向が高くなることが分かった。

さらに16年の調査では、炎上参加者の平均世帯年収(670万円)と非参加者の平均世帯年収(590万円)に80万円の差があった。主任・係長クラス以上の役職についている人は、非参加者では18%なのに対し、参加者では31%を占める。その一方、「無職・主婦・アルバイト・学生」が占める割合は、非参加者で48%だったのに対し、参加者では30%にとどまっている。こうした数字から、どちらかというと生活が安定している人の方が、炎上に参加しやすい傾向が見える。

■「正しければ何をやってもいい」のか

毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)
毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)

また、調査結果からは、自分なりの「正義感」に突き動かされて炎上に参加する人が多い傾向もうかがえた。タレントの不倫や一般人がアイスケースに入った写真をツイッターにアップした事案など、一時的に批判が集中した炎上事案5例について書き込んだ人に理由を尋ねると、いずれも「間違っていることをしているのが許せなかったから」との回答が最も多く3~5割を占めた。さらに「その人・企業に失望したから」を合わせると、いずれの事例でも6~7割を占めた。

山口准教授は「炎上参加者には情報を自分で摂取し、なおかつそれを自分なりに解釈している人が多い傾向が見えます。政治や様々な話題に対して、自信を持って、自分の考えを持っている。もちろん大半の人はそこで終わりですが、一部の人は自分と違う考えが許せない。そういう人たちが攻撃的な書き込みをしている可能性があります」と分析する。

その上で、「本人は正義感からやっているかもしれませんが、個人の価値基準での『正義』が社会的正義と相いれない場合もある。正しければ何をやってもいいという意識にブレーキが必要ではないでしょうか」と語った。

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毎日新聞取材班 毎日新聞統合デジタル取材センターの記者ら6名による取材班。毎日新聞、毎日デジタル上で連載「匿名の刃~SNS暴力考」を展開する。

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(毎日新聞取材班)

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