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「菅首相も言及」都道府県ごとに地銀があるのは時代錯誤である

プレジデントオンライン / 2020年10月5日 9時15分

記者会見する菅義偉官房長官=2020年9月3日午前、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

菅義偉首相が地方銀行について「再編も一つの選択肢になる」と語ったことで、地銀再編に注目が集まっている。さらに、地銀再編のハードルを下げる独占禁止法の特例法が11月27日に施行される。東洋大学国際学部の野崎浩成教授は、「特例法を制定するまでもない。都道府県を市場の単位とする考え方は時代錯誤だ」という——。

※本稿は、野崎浩成『消える地銀 生き残る地銀』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

■注目すべきは「東北地方の北部」

菅義偉首相の発言で地銀再編への機運が高まる中、「単刀直入にどことどこが再編するか教えてほしい」というところでしょう。しかし、再編はきわめてナイーブな問題であり、また様々な要素が加わった化学変化で奇跡的に出来上がるものです。また、勝手に組み合わせを予想すると、お叱りを受けてしまうことがあります。もちろん、株価への影響もありますので、慎重な取り扱いが必要です。

そこで、あくまでも「頭の体操」として、このような組み合わせができれば素敵だなというものを最後にお示ししたいと思います。ですので、確固たる根拠に基づく見通しなどでは決してなく、ブレインストーミングで出てきそうなもの程度でご理解頂ければ幸いです。

また、単なる組み合わせで終わるのも面白くありませんので、各銀行あるいはグループの特徴的な取組みをご紹介しながら述べていきたいと思います。

東北地方の特に北部は、地銀再編で注目している地域です。

青森県を地盤とするみちのく銀行と青森銀行が、2019年10月に包括的提携を発表しました。両行は以前からATM共同化やメール便の共同運行などによる業務効率化に取り組むなど協力関係にありましたが、提携関係をさらに進めて、顧客サービスの強化と経営効率の向上の両面での協働を図るというものです。

■みちのく銀行と青森銀行が合併すると貸し出しシェアは7割を超える

前者に関してはATM利用手数料の相互無料提携、取引先の本業支援のための商談会等の共同開催、地域イベントの共同運営・協賛を、後者については事務処理などのバックオフィス業務の共同化を検討対象としており、このうちATM利用手数料の無料化はすでに開始されています。

正直なところ迫力に欠ける内容ですが、バックオフィス業務の共同化に関しては、踏み込み方によっては経営統合への布石と十分になりうると思います。

しかし、この2つの銀行は青森県のトップバンクだけに貸し出しシェアは7割を超えると思われます。したがって仮に合併の合意に至ったとしても、長崎県の十八銀行と親和銀行の合併をめぐる公正取引委員会による渋滞と地域シェア的には似通った状況です。このため、通常であれば承認への茨の道を見込むでしょう(※)。しかし、独占禁止法上の特例措置があるため、この時限性(10年)から逆に統合へ向けて弾みがつく可能性はあると思います。

※統合が競争の阻害となるか否かの1つの物差しはHH指数(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)が重視されていて、市場シェアの自乗の和が2500を超えると審査により慎重さが加わります。ですから、シェアの和が70%を超える場合は、ほとんどがこの基準に引っ掛かる形となります。

■独占禁止法の特例措置などそもそも必要ない

余談ですが、本質的には独占禁止法の特例措置など必要なく、地域再編を認めるべきだと思います。その理由は簡単で、公正取引委員会の考え方が時代錯誤だからです。確かに1997年までは、監督当局が概ね都道府県単位をもとに、地銀の店舗展開について越境の設置について抑制的に運用していた印象があります。このため、その時代であれば、「地域市場」の定義については都道府県単位でシェアを用いるのは妥当だと思います。

しかし、1997年に店舗の新設の実質的許可の前提となっていた店舗通達が廃され、実態として地銀が他地域に店舗展開する自由度が確保されたのです。このため、都道府県を市場の単位とする考え方は妥当性を欠くこととなりました。なぜなら、仮に当該地域の合併が貸し出し金利の引き上げにつながれば、収益機会を求めて他地域の地銀がどんどん進出することとなるでしょう。したがって、長崎県を含め、県単位を市場と見なす時代は終わったと考えるべきでしょう。

夜の東京と一万円札
写真=iStock.com/F3al2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/F3al2

これに頭の体操的に加わるのが、岩手銀行と秋田銀行です。隣県地銀は「仲が悪い」ことが少なくないのですが、青森銀行、岩手銀行と秋田銀行の3行は極めて親密な関係にありました。

例えば、AAIネットによるATM提携が象徴的で3行相互でATM利用の手数料を無料化することで相互の顧客の利便性を高めるものです。この2000年からのATM相互開放からまもなく、2003年には3行の法人顧客の合同商談会などを通じて顧客間の交流やビジネス機会の創出を図る「Netbix」(ビジネス情報交換ネットワーク)がスタートしました。

■ノウハウや問題意識を共有してきた銀行による結集は極めて自然な流れ

3行の共通認識は、限られた経営資源の中でいかに顧客満足度を向上させるかという点です。個人顧客が北東北エリアを往来する中で、無料で使えるキャッシュポイントが増えれば喜ばれるでしょうし、中小企業等の顧客が接点を持てない地域でのビジネス・パートナーを探せる機会があれば、取引先企業の事業繁栄につながると共に銀行貸し出し等にも発展する期待も持てるでしょう。取引先企業の相互紹介は、銀行間の信頼関係がないとなかなかできるものではありません。

営業活動に係る連携だけではなく、業務インフラに関する提携も進んでいます。3行はサイバーセキュリティ情報の共有と対応策に関する研究のための「北東北三行共同シーサート(CSIRT=Computer Security Incident Response Team)」を2015年に設置しました。銀行をめぐるサイバー犯罪は減らず、警察庁の統計では2019年におけるインターネットバンキング不正送金は1872件、25億円以上に上っています。金融庁も危機感を持っており、調査を進めています。しかし、地銀にとって単独行が対処するには厳しい事実もあります。そこで、3行は情報セキュリティに関する情報や課題を幅広く共有、共同研究することで、情報セキュリティの協力体制の構築することを決めました。

野崎浩成『消える地銀 生き残る地銀』(日本経済新聞出版)
野崎浩成『消える地銀 生き残る地銀』(日本経済新聞出版)

また、他地域でも同様の連携はありますが、これら3行も「大規模災害等発生時における相互支援協定」を締結し、大規模災害等が発生した場合に相互に支援することで地域の金融機能の確保をすることとしました。例えば、応急対策および復旧活動等に必要な要員の派遣、車両、通信機器等の貸与、仮店舗等の施設の提供、そして飲料水、食料品、生活支援物資等の提供などを相互に支援することとしています。

さらに2019年にはこれら3行に山梨中央銀行を招き入れて、ITベンダー数社と共に株式会社フィッティング・ハブを設立しました。この会社は、ブロックチェーン技術の活用を下地として、電子交付サービスをサービス内容としており、安全で低コストのシステム構築を見通しています。まさに、フィンテックの技術共有について経営資源を持ち寄って解決しようという思想です。

ここまでを踏まえても、青森銀行、岩手銀行、秋田銀行の結束は固く、また青森銀行とみちのく銀行の連携を踏まえると、人口減少などの経営課題を共通認識とする、そしてノウハウや問題意識を共有してきた銀行による結集は極めて自然な流れだと思います。

■将来的には北海道と北陸地方を含めた大連合になる可能性も

さらに、頭の体操を駆使すれば、ほくほくフィナンシャルグループの合流も捨象できないと思います。ほくほくフィナンシャルグループの北海道地域を担う北海道銀行は、AAIネット各行との提携を経て、結果的にAAIネットへ参加しているのと概ね同値となっています。こうした動きは地域での合従連衡の意識付けの一部にはなってもおかしくないと思います。

したがって、第一段階としては、青森県内における青森銀行とみちのく銀行の統合、第二段階としてはみちのく銀行を含む青森銀行、岩手銀行、秋田銀行による連合、そしてさらに発展形にあるのがほくほくフィナンシャルグループを含めての再編すら考えられると思います。

このため時間軸として、段階的統合はあるにせよ、最終形としては北東北とほくほくの地盤である北海道と北陸地方を含めた大連合に発展するポテンシャルは存在していると思います。

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野崎 浩成(のざき・ひろなり)
東洋大学 国際学部教授
1986年、慶応義塾大学経済学部卒業。1991年、イェール大学経営大学院修了。シティグループ証券時代に日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。

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(東洋大学 国際学部教授 野崎 浩成)

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