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3人で1回線の惨状「霞が関のありえないテレワーク事情」を改善する意外なカギ

プレジデントオンライン / 2020年10月9日 11時15分

ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵さん(同社提供)

働き方改革や女性活用に取り組むワーク・ライフバランスは、新型コロナウイルスの感染が急拡大し始めた今年3月から緊急事態宣言が解除される5月までの間の、霞が関の官僚たちの働き方について調査を行った。霞が関のテレワークを阻んでいたものは何か、デジタル化が進んでいた省庁の成功要因は何か、同社代表の小室淑恵さんに聞いた。

■「コロナはイヤだけど、ママが家にいてうれしい」

8月にリリースした「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」の結果には、大きな反響がありました。調べた私たちですらがくぜんとするような、中央官庁や国会議員の、デジタル化の大幅な遅れを表すデータが集まりました。

回答を寄せてくれた若手官僚480人のうち、女性は約30%でした。国家公務員の採用者に占める女性の割合は36%ですが、今回の調査は官僚の中でも、国会対応が多い部署を中心に行っていますから、女性の割合は36%よりも低いと思います。そう考えると、回答者の約30%を女性が占めていたというのは、霞が関で働く女性のこのテーマへの関心の高さと熱い思いが表れているように思います。

ある省庁の40代女性の、「(リモートワークになり)そろってご飯を食べた娘に『コロナはイヤだけど、ママが家にいてくれるからうれしかった』と言われた」というエピソードには、私たちも涙が出そうになりました。

「テレワークになったおかげで、保育園にお迎えに行くことができた」というコメントも複数ありました。今までは残業が多くてなかなか自分で迎えに行けなかった方々でしょうか。「普段からテレワークができたらいい」という声は、男女双方から多数寄せられました。

■小泉大臣の「育休」で躍進した環境省

今回の調査結果では、省庁によってデジタル化の進捗に大きな差があったことがわかりました。「大臣とのレクが電話やオンラインに移行したか」「大臣レクにおけるペーパーレス化が進んだか」という質問への回答を見ると、1位の環境省と2位の経済産業省が、他の省庁を大きく引き離しています。

特に環境省は、原田義昭前大臣の頃から頑張っていましたが、小泉進次郎現大臣になってここ1年ほどで躍進したという印象です。女性活躍とデジタル化の進捗は、長期的には連動してくるでしょうから、環境省では女性活躍の方も伸びるのではないかと思います。

大臣レクの電話・オンライン化・ペーパーレス化の省庁別状況
ワーク・ライフバランス「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」より

環境省でデジタル化が一気に進んだ要因は、実は1月に小泉進次郎大臣が育休を取ったことにありました。

省のトップである小泉大臣が自宅から会議に入るので、幹部以下の職員も「対面でなければ」と忖度する必要もなくなりましたし、オンライン会議に慣れるしかありません。当初はさまざまなトラブルがあったそうですが、大臣から叱責されることはなく、足りなかった回線や機器などのインフラを順次整備していったそうです。これがいわば予行演習となって、新型コロナの緊急事態宣言下でも、スムーズにオンラインに移行できたわけです。

小泉環境相はこの結果について「(1月の育休については)賛否両論あったし、自分でも迷う部分はあったけれど、それがコロナ禍のテレワークに繋がったのであれば本当によかった」と話していました。また、デジタル化の推進については、ご自身の独りよがりではなく、本当に職員から評価されているのか、日常の実態まで変わったのかどうかが非常に気になっていたそうで、私たちの調査が「第三者から通知簿をもらったような形だったので、よかった」とコメントされていました。

省庁別のテレワーク活用度
ワーク・ライフバランス「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」より

■1回線を3人で分け合う「ひもじい」ネット環境も

一方で、中央省庁のネットインフラがあまりにも整っていなかったことは驚きでした。例えば厚生労働省では、子育てや介護でリモートワークをする職員を想定した環境しか整えておらず、全職員の3分の1の人数分しか回線が用意されていませんでした。このため、コロナ禍でのリモートワークでは、1つの回線を、朝から「あなたは○時から○時」と3時間ごとに区切り、「一杯のかけそば」のように3人で分け合うという、ひもじいネット環境に置かれていたそうです。

また、情報通信政策をつかさどるはずの総務省では、20代職員から「省内職員の多くが同時にテレワークしているからか、テレワーク時の通信環境が劣悪。ひどいときは1通メールを送るのに30分近くかかる」という声もあがっていました。

■ペーパーレス化の遅れも露呈

回線や機器などのインフラが整っていなかっただけでなく、ペーパーレスが進んでいなかったことも、テレワークの大きなハードルになっていたようです。オフィスにしかない紙書類を必要とする業務でテレワークができなかったり、大臣や議員、省庁幹部への説明に大量の紙資料が求められたりと、民間企業に比べるとまだまだ業務の多くが紙で進められていました。

これは、セキュリティの面でも非常に危ないと思います。書類が保管されている建物が災害などで倒壊したり、火事にあったりしたら、すべての情報が消失しかねません。しかも、紙は簡単に改ざんできてしまう。紙はリスクも高いといえます。

ペーパーレス化でも、環境省と経産省が他省庁を大きくリードしていました。経産省については、元NTT社員の世耕弘成参議院議員が大臣だった2016年から19年にペーパーレスが進みました。私も各省庁の審議会の委員を務めましたが、一番早く審議会がiPadを利用してペーパーレスで進められるようになったのは経産省でした。経産省は民間企業とのやりとりが多いですし、人材交流も活発です。やはり、閉じている省庁ほど遅れているという印象ですね。

■テレワークで仕事ができない本当の理由

「自宅からだとネットにつながらない」「リモートでは必要な書類を見ることができない」「議員や幹部に提示する資料を印刷しないといけない」、だから「テレワークでは仕事が進まない」という結論を出してしまった省庁も多いようです。しかし、それは本質的な議論ではないはず。仕事が進まないのはテレワークのせいではなく、貧弱なインフラやペーパーレス化の遅れのせい。そこを議論し、変えていく必要があります。

そもそも霞が関の政府機関は、例えば大地震のような緊急事態が起こって、全員が登庁できなくなるというケースも想定しておく必要があります。しかし、そのための準備がほとんどの省庁でできていなかったことが、コロナ禍で露呈してしまいました。国民に外出自粛を要請する一方で、霞が関ではテレワークが進まず、多くの職員が2日に1回は出勤していたという状態。中にはほぼ毎日出勤していたという省庁もありました。

■霞が関がブラックだと、損をするのは私たち

小泉環境相からは、「こうした調査を、省庁のデジタル化進捗の“通知簿”にして、毎年各大臣に配ってもらえないか」といった提案をもらっています。確かに、「毎年夏になるとワーク・ライフバランス社の調査がある」ということになれば、新任の大臣もデジタル化の歩みを進めるはずです。そして毎回調査結果を各大臣にお持ちして、「どんなリーダーシップを発揮してどんな取り組みをしたのか/今後していくのか」をお聞きしたいと思います。

今回調査を行ったことについては、SNSやネットニュースへのコメントでも、非常にポジティブな反応が多くて驚いています。官僚を応援する声も多く、「官僚がやりがいを持って健康的に働けない国に未来はない」といった書き込みもあってうれしく思いました。

もともと私たちが一番伝えたかったのはこれだったんです。国の行政を支える官庁を、優秀な人たちが疲弊して辞めていくような職場にしてしまったら、一番損するのは私たち国民です。今すぐデジタル化を進め、働き方改革を実行してもらわなければいけません。

■夜間に一斉閉庁する「インターバル」の導入を

そこでぜひ、官庁だけでなく民間企業にも広く導入してほしいのが「インターバル」です。これは、残業時間を制限するというアプローチと異なり、その日に仕事を終えてから翌日仕事を始めるまでに、一定の時間を空けるというものです。インターバルは、昨年の労働基準法の改正で「努力義務」になりましたが、実際に導入している企業はまだほんの一部です。EUでは、仕事を終えてから翌日仕事を始めるまでに11時間のインターバルを開けるよう定められています。

これを、省庁で導入すべきだと思います。具体的には、夜10時から朝5時ごろまで、完全に閉庁するのです。ひとまず全員夜10時には帰宅してもらい、緊急の仕事は、今回インフラを整備したテレワークで行う。全員が深夜に緊急の仕事をするわけではありませんから、回線は足りるはずです。

人間の脳は朝起きてから13時間しか集中力が持たないことが証明されています。ミスが発生し、そのカバーをする仕事やクレーム対応に追われる……といった事態を打開していくためにもインターバルが必要なのです。

■不正行為やセクハラ・パワハラを防ぐ効果も

さらに、これを行うとパワハラやセクハラ、不正行為の数が大幅に減るはずなんです。セクハラ、パワハラだけでなく、領収書精算のごまかし、職場のプリンターで個人の年賀状を印刷するなどのちいさな不正もみな、人が少ない深夜に起こります。深夜のオフィスに立ち入れないようにすることで、発生を防止できます。

また、セクハラ・パワハラにはストレスが大きく関わっています。本来はパワハラをするような人ではなかったのに、長時間労働の組織に入ることでパワハラ体質になってしまう、あるいは、真面目だった人が裏でセクハラをするようになる。ストレスによるメンタル疾患の一つなのですが、こうしたモラル崩壊も睡眠を十分にとることで改善できるのです。

一度家に持ち帰ることで、「やっています」というアピールのための仕事はしなくて良くなりますし、職場の同調圧力で「何となく」してしまう残業もなくなります。ストレスから、他人に当たり散らすパワハラやセクハラが生まれる、負の連鎖も止められるはずです。

こうした取り組みを、まずどこか進んだ省庁からトライしていただけないかと考えています。どこかが一歩踏み出せば、そうした事例にならう省庁が出てきます。

国会議員の方はみなさん、平日は国会、週末は地元と、精力的に動きまわっていらっしゃいますが、年中人に見られているし、有権者からのプレッシャーもあります。国会議員も、やはり休息がないとストレスで脳が疲弊し、官僚や秘書さんにきつく当たるようになります。ですから国会議員や大臣も、夜10時には帰宅していただき、率先して休息を取ること、時間外にどうしても必要な仕事の指示だけに留めていただくことが大事です。

コロナ禍は、これまでなかなか変わらなかった霞が関や永田町の働き方を変えるきっかけになります。デジタル化は、菅内閣の目玉の一つでもあるはずです。各大臣、国会議員の皆さんには、ここでデジタル化を進め、真に健康に働ける日本、働きがいのある職場づくりにリーダーシップを発揮し、大きく変えてほしいと願っています。

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小室 淑恵(こむろ・よしえ)
ワーク・ライフバランス代表取締役社長
1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げるコンサルティング手法に定評があり、残業削減した企業では業績と出生率が向上している。「産業競争力会議」民間議員など複数の公務を歴任。2児の母。

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(ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵 構成=西川修一)

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