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「開くボタンに唾液」恐怖のコロナテロを画策する白人至上主義者たち

プレジデントオンライン / 2020年10月6日 11時15分

オレゴン州ポートランドで開かれた極右組織「プラウドボーイズ」の集会で、神に祈りを捧げる参加者(2020年9月26日) - 写真=AFP/時事通信フォト

欧米の白人至上主義組織によるテロの危険性が高まっている。ロシアやウクライナの極右組織が欧米の組織に軍事訓練の機会を提供しているほか、新型コロナウイルスの感染拡大を狙ったバイオテロも計画されている。国際安全保障やテロ情勢に詳しい和田大樹氏は「米国の大統領選挙にあわせたテロに注意が必要だ」という——。

■「大統領選テロ」の可能性

11月の米大統領選まであと1カ月となった。現在のところ、世論調査では民主党のジョー・バイデン氏が有利な状況となっているが、2016年の際も優勢が伝えられたヒラリー・クリントン氏は最後でドナルド・トランプ氏に敗北したことから、何が起こるかは分からない。

バイデン候補が勝利すると、対中国ではトランプ大統領同様に厳しい姿勢で臨むと言われているが、対イランでは2015年のイラン核合意に戻ることを表明しており、中東を巡る情勢は大きく変化する可能性がある。

一方、最近、テロリズム研究の世界では、今回の大統領選挙を巡り一つの懸念が広がっている。それは、近年欧米諸国で台頭する、暴力的な白人至上主義などの極右思想を掲げる組織や個人が、大統領選挙に合わせてテロを起こすことだ。

■米当局も相次いで危険性を指摘

米南部貧民救済法施行機関(SPLC)は3月、白人至上主義組織の数が過去3年間で55ポイント増の155組織に達し、そのうち大量殺戮(さつりく)による多文化社会の崩壊を目指す「暴力的過激主義」を唱える組織の増加が顕著になっていると指摘した。

また、米国国家テロ対策センター(NCTC)のラス・トラバース元長官は8月、米ヤフーニュースのインタビューに応じ、現職のトランプ大統領が敗北すれば、同大統領を支持する暴力的な白人至上主義者や極右組織などが国内でテロを活発化させる恐れがあり、今後の世論調査でトランプ大統領敗北が濃厚になれば、大統領選前でも暴力的な活動が活発化する可能性を示唆した(*1)

米国務省も6月、2019年版の最新のテロ年次報告書を公開し、イスラム国などイスラム過激派の動向に触れる一方、反イスラム、反ユダヤ思想を掲げる白人至上主義者によるテロ事件が増加傾向にあり、欧米各国にその脅威が拡大していると懸念を示したが、これまで以上に白人至上主義テロを強調している。

■象徴となった2つの大規模テロ

こういった暴力的白人至上主義が、なぜテロリズム研究者や治安当局者の間で深刻な脅威と認識されるようになったのか。それには一つに、昨年3月にニュージーランド・クライストチャーチで発生したモスク銃乱射テロ事件がある。

この事件では、オーストラリア人の当時28歳のブレントン・タラント(Brenton Tarrant)容疑者が車でモスク2カ所を訪れ、金曜礼拝のため集まっていたイスラム教徒らを無差別に銃で襲い、50人以上を殺害した。タラント容疑者は、犯行前に「偉大なる交代(Great Replacement)」と題するマニフェストを「8chan」と呼ばれるネット掲示板サイトに投稿。白人の出生率の低下を問題視し、欧州各国を訪れた際に“白人の世界が移民難民に侵略されている”と危機感を抱き、反イスラム、反移民など強い排斥主義を覚えるようになったと述べている。

タラント容疑者は移民・難民へ寛容なドイツのアンゲラ・メルケル首相やロンドンのサディク・カーン市長を非難する一方、トランプ大統領を「白人至上主義のシンボル(Symbol of white supremacy)」などとして称賛。さらには、ノルウェー・オスロ銃乱射事件を実行したアンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)容疑者から強い影響を受けたと明らかにした。

ブレイビク容疑者とは、2011年7月、ノルウェーの首都オスロにある政府機関を爆破した後、近くにあるウトヤ島で労働党の青年部を狙って銃を無差別に乱射し、77人を殺害した人物だ。同容疑者もネット上に公開したマニフェストの中で、イスラムから自国を守ることは使命であり、多文化主義を貫く政権に強い不満を抱いたと明らかにしている。

■国境を超えて連鎖するモスクやシナゴーグ襲撃

タラント容疑者やブレイビク容疑者には、国際協調主義や多文化主義などリベラルな考え方を否定し、暴力的な手段を使って自らの世界観や文化・伝統を守ろうとする防衛的動機がある。そしてその後、タラント容疑者を模範とするようなテロ事件が連鎖反応的に各地で起きた。

2019年4月の米国・パウウェイシナゴーグ襲撃事件、2019年8月の米国・テキサス州エルパソ銃乱射事件、2019年ノルウェー・オスロ近郊バールムモスク襲撃事件、2019年10月ドイツ・ハレシナゴーグ襲撃事件などの実行犯たちは、「タラント容疑者から影響を受けた」、「聖なるタラント容疑者から抜擢(ばってき)された」などと主張した。

■テロの模様をネットでライブ配信

ドイツの事件ではステファン・バリエット容疑者がタラント容疑者と同じように、ゲーム配信のプラットフォーム「Twitch」を通じて35分のライブ配信を行っていた。そして、エルパソの事件では実行犯のパトリック・クルシウス容疑者が、ヒスパニック系移民の人口増加を“ヒスパニックによるテキサスへの侵略(Hispanic invasion)“と位置付けた。

タラント容疑者も使っていた“侵略”という言葉からは、“白人の世界から非白人を排除する”という強い排斥主義が想像できる。主義主張は違うが、こういった主張はシリア・イラクで領域支配を実現したイスラム国が掲げる二元論的、終末論的な考え方と類似するところが多い。

暴力的白人至上主義者個人によるテロほど大きく報道されているわけではないが、白人至上主義など極右グループの活動は近年、国境の壁を越えて北米や欧州、オセアニアなど欧米世界に拡大している。

 例えば、米国では「アトムワッフェン・ディヴィジョン(Atomwaffen Division)」、南カリフォルニアを拠点とする「ライズ・アバヴ・ムーブメント(Rise Above Movement)」、「アル=カーイダ」の英語直訳と同じ組織名の「ザ・ベース(The Base)」、「国家社会主義運動(National Socialist Movement)」、過激度の低い社交サークル(fratanity group)を自称するが、米国各地で左派との衝突を起こしている「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」などが代表的だ。

さらに英国の「ナショナル・アクション(National Action)」、ウクライナの「アゾフ大隊(Azov Battalion)」、ロシアの「ロシアン・インペリアル・ムーブメント(Russian Imperial Movement)」、北欧の「北欧抵抗運動(Nordic Resistance Movement)」など、各国に同様のグループが存在する。

こうしたグループは国内で活動するだけでなく、インターネットや会員制交流サイト(SNS)を利用して外国のグループと連絡を取り合い、国際的なネットワークを形成している。例えば、アゾフ大隊は軍事訓練のために外国から戦闘員を受け入れており、米ライズ・アバヴ・ムーブメントや英ナショナル・アクションのメンバーが実際にそれに参加している。サンクトペテルブルクでロシアン・インペリアル・ムーブメントのメンバーが主催する軍事訓練を受けた北欧抵抗運動のメンバーが、スウェーデン国内で移民・難民施設を襲撃したテロ事件も報告されている(*2)

また、ロシアン・インペリアル・ムーブメントのメンバーが米国や北欧を訪れ、ザ・ベースや北欧抵抗運動のメンバーと直接会って関係を構築したり、ザ・ベースの指導者がサンクトペテルブルクに滞在したりする状況も報告されている。

■「特別指定グローバルテロリスト」に認定された露組織

ザ・ベースの指導者とされるリナルド・ナザロ(Rinaldo Nazzaro)氏は、サンクトペテルブルクを拠点に、組織の幹部と共に若者の勧誘活動などを行っていた。その手法は、暗号アプリを使用した電話会議を通じて候補者に経歴や民族性、過激化の経緯、武器の使用経験について質問し、数回の面接を経て、最終的に有望な候補者を絞り込んでいたという。

ちなみに、米国務省は4月、ロシアン・インペリアル・ムーブメント、および同組織の指導者3人を「特別指定グローバルテロリスト(SDGT)」に指定した(*3)。SDGTとして指定された69組織のうち、白人至上主義組織は同組織が初めてだ。

■米陸軍の現役兵士からも逮捕者が

米国内では極右グループの逮捕事例も報告されている。米司法当局は1月、バージニア州リッチモンドで同月20日に開催予定の銃擁護派団体による抗議デモで銃器によるテロを敢行する計画を立てていたとして、ザ・ベースのメンバー3人を逮捕したことを明らかにした。

捜査に当たった連邦捜査局(FBI)によると、3人はインターネット上で暗号を用いてバージニア州の抗議デモへの参加や、ユダヤ系やアフリカ系黒人に対する暴力行為、簡易爆弾の製造方法などについて話し合っていたという。3人のうち1人はアゾフ大隊の軍事訓練に参加するため、ウクライナへの渡航を画策していた疑いが持たれている(*4)

また、米司法当局は6月、米駐留軍部隊を標的とするテロを計画したとして、ケンタッキー州出身の米陸軍兵士を起訴した(*5)。この兵士は、英国を拠点とする白人至上主義組織「9つの角度の順序(O9A)」に属し、同組織ならびに関連組織とされる「レイプワッフェン・ディヴィジョン(RapeWaffen Division)」に対し、所属する部隊に関する機密情報を流したほか、同部隊がトルコへ配備された際、部隊全員を殺戮するテロを計画していた疑いが持たれている。同兵士は2018年に入隊し、2019年にO9Aに所属、ネオナチ的な思想に傾倒していったとされる。

■コロナ禍で高まる白人至上主義テロのリスク

新型コロナウイルスの感染拡大は、米国を最大被害国にしてしまった。ロックダウンなどさまざまな社会的制限が課されることによって、米国は深刻な経済的打撃を受けることになった。

それによって、白人を中心とする若者たちの社会経済的不満がこれまでになく高まり、白人至上主義組織などが、「新型コロナウイルスによって欧米世界は大規模な被害を受けた。白人の世界をさらに守らないといけない」などと、自らの主義主張を正当化する道具として新型コロナウイルスを利用する恐れが指摘されている。

エレベーターのボタンに唾を吐きかけるなどの「バイオテロ」を呼びかける白人至上主義組織も――(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/zoff-photo
エレベーターのボタンに唾を吐きかけるなどの「バイオテロ」を呼びかける白人至上主義組織も――(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/zoff-photo

例えば、米国の国土安全保障省が2月に政府機関向けに配信した文書(*6)によれば、白人至上主義組織はメンバーやシンパに対し、もし新型コロナウイルスに感染した場合、政府機関や非白人の一般市民を対象としたバイオテロを行うことは「義務である」と呼びかけているという。彼らはメッセージアプリ「テレグラム」のチャンネルを通じて、ドアノブやエレベーターのボタンに唾液をつける、警官の顔に唾液をスプレーで吹きかける、非白人の住む住宅街で感染拡大をはかるなど、具体的な手段も提示している。

日本においては、次に誰が大統領になるのか、中国や北朝鮮の脅威がある中で新大統領のもと日米同盟はうまく機能するかなどに注目が集まるが、テロリズム研究の世界で今回ほど懸念が広がる米大統領選挙はこれまでなかった。今後の動向が懸念される。

(*1)“Former counterterrorism chief: Trump defeat may prompt right-wing terror attacks”, Yahoo News, August 19, 2020.
(*2)“These Swedish Nazis Trained In Russia Before Bombing A Center For Asylum Seekers”, BuzzFeed News, July 22, 2017.
(*3)“Designation of the Russian Imperial Movement”;, U.S. Department of State, APRIL 6, 2020
(*4)“IntelBrief: Members of ‘The Base’ Arrested in Maryland, Georgia, and Wisconsin”, The Soufan Center, Jan. 21, 2020
(*5)“U.S. Army Soldier Charged with Terrorism Offenses for Planning Deadly Ambush on Service Members in His Unit”, U.S. Department of Justice, June 22, 2020
(*6)“Federal law enforcement document reveals white supremacists discussed using coronavirus as a bioweapon” Yahoo News, March 22, 2020

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)
オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学 非常勤講師
1982年生まれ。岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。2014年5月、日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞。共著に『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(同文館)、『技術が変える戦争と平和』(芙蓉書房)など。

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(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学 非常勤講師 和田 大樹)

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