「コンビニは敵ではない」急成長シャトレーゼの60円アイスがやけに美味いワケ

プレジデントオンライン / 2020年10月8日 11時15分

YATSUDOKI「川上村契約農場の苺ショートケーキ」(540円+税) - 写真提供=シャトレーゼ

山梨県発の総合菓子メーカー・シャトレーゼが、苦境に立つ洋菓子業界で異例の成長を遂げている。業界はコンビニスイーツに席巻されているが、同社は「コンビニは競合相手ではない」と明言する。「驚くほどおいしいのに驚くほど安い」という強さの源泉とは——。

■不振にあえぐ業界で異例の快進撃

総合菓子メーカーのシャトレーゼが快進撃を見せている。主力事業の洋菓子チェーン「シャトレーゼ」は628店舗(2020年10月6日時点)を展開し、過去5年間で150店以上増やした。2015年には海外にも進出し、シンガポールを中心に80店舗を構える。

店舗数の推移(海外店舗を含む)
提供=シャトレーゼ

持ち株会社のシャトレーゼホールディングス(HD)の売上高(連結、2020年3月期)は前年度対比110%増の732億円。コンビニスイーツの波に押され、他チェーンや専門店が不振にあえぐ中でも着実に業績を伸ばしている。業界最大手・不二家が2019年12月期決算で減収減益を計上し、不採算店舗を大量閉店している状況とは対照的だ。

シャトレーゼグループ売上高(連結)
提供=シャトレーゼ

シャトレーゼは山梨県甲府市を発祥とし、これまでは都市郊外を中心に店舗を展開してきた。メニューはケーキをはじめとする洋菓子のほか、アイス、和菓子、ピザ、ワインなど400種類を超える。目を見張るのはその安さだ。年間500万個を販売する人気No.1ケーキ「スペシャル苺ショート」は300円(+税、以下同じ)、爆発的ヒットを記録したアイス「チョコバッキー」は1本60円だ。

品質にも自信を持っている。「バスク風チーズケーキ」などコンビニスイーツはたびたび話題になり、専門店を脅かしているといわれるが、シャトレーゼは「コンビニは競合相手ではない」(広報)と言い切る。なぜそこまで安くておいしいのか。

■コストをそぎ落とした独自のサプライチェーン

その理由は、「ファーム・ファクトリー」と呼ばれる同社独自のサプライチェーンにある。

山梨県の白州工場を拠点に、素材の調達から生産、配送、そして直売店舗での販売までを自社で管理しており、本来なら市場に流通させる過程で発生する中間マージンやテナント料が要らない。このため相場よりも2~3割安い価格で商品を提供できている。

だから安くても品質は高い。牛乳は、山梨県と長野県にまたがる八ヶ岳にある契約牧場から仕入れており、水は甲斐駒ヶ岳のふもとに工場を構え、日本名水百選にも選ばれた「白州名水」を使用。卵や苺、和菓子に用いる小豆も全国の契約農家からそれぞれ仕入れており、加工はすべて自社工場で行っている。

■すべては「10円シュークリーム」から始まった

シャトレーゼの創業は1954年、現会長の齊藤寛氏が今川焼き風のお菓子「甘太郎」の店舗を山梨県甲府市(旧紅梅町)に出店したことにさかのぼる。67年には名前を現在の「シャトレーゼ」に変更し、シュークリーム製造に乗り出した。ただ、当時はコンビニなどなく、駄菓子屋や青果店で菓子を売る時代だ。

YATSUDOKI「八ヶ岳南牧村契約農家のしぼりたて牛乳のカスタードシュー」(250円+税)
写真提供=シャトレーゼ
YATSUDOKI「八ヶ岳南牧村契約農家のしぼりたて牛乳のカスタードシュー」(250円+税) - 写真提供=シャトレーゼ

冷蔵ケースのない売り場で生菓子をストックするにはどうすればいいか。そう悩んだ末に思いついたのが、1個50円が相場のところを5分の1の値段で売り出した「10円シュークリーム」だった。冷蔵ケースが必要ないほど、飛ぶように売れる商品としたわけだ。結果、「10円シュークリーム」は1日50万個を売り上げる人気商品となり、成長の足掛かりをつかんだ。

■業界特有の弱点を突破した

75年には、首都圏を中心にフランチャイズ(FC)による洋菓子専門店を展開した。スーパーなどへの卸売りを進めていたが、そのさなかに主力の工場が火事で全焼してしまう。卸売り用の菓子が生産できずに苦しんだ状況から生まれたのが、問屋を介さず、自社工場でつくったものを店舗で直接販売する工場直売店だった。

85年7月、甲府市に実験店舗をオープンしたところ大盛況。翌年の工場直売店FC1号店(千葉県)の開店をきっかけに全国各地から出店の申込みが相次ぎ、今のようなロードサイドの郊外型FC店が完成した。

シャトレーゼの外観
写真提供=シャトレーゼ
シャトレーゼの外観 - 写真提供=シャトレーゼ

ケーキなどの生菓子の流通は難しい。鮮度が売りの商品だから作り置きはできないし、売れ残りは捨てるしかない。だが、製造数を絞れば、販売機会を失ってしまう。生菓子市場では、顧客の需要を読み切り、緻密な販売予測を立てることが最重要なのだ。

そうした市場で、川上から川下までを自社でまかなうことで、シャトレーゼは業界特有の弱点を突破したといえる。

■安いけど「コンビニは競合ではありません」

洋菓子市場を分析しているTPCマーケティングリサーチの光山華代氏は、シャトレーゼの快進撃をこう分析する。

「工場で製造してはいるが、原材料は契約農家から仕入れており、競合社以上に『安心・安全』を強調することでイメージアップにつながっている。スーパーで売っているケーキよりは本格的で、高級店よりは手軽に買えるという『安くておいしい』路線において不動の地位を占めている」

その意味で現在の競合はコンビニだろう。ローソンをはじめ、各チェーンがスイーツに注力している。だが、意外にも同社は「コンビニは競合相手ではありません」と断言する。

「コンビニにはわれわれのような売り場はもてません。独自の調達ルートでその日に作った焼きたての商品を出すことができる当社にとって、競合はあくまでパティシエがいる専門店です」(広報)

近年の洋菓子業界は、コンビニスイーツの流行で生まれた“プチ贅沢”や“手軽さ”がトレンドとなっている一方、専門店の通販で高価なスイーツを取り寄せる人も一定数おり、緩やかな二極化が進んでいる。

青森県産ふじりんご使用アップルパイ(370円+税)。YATSUDOKIでは一番人気だという
写真提供=シャトレーゼ
青森県産ふじりんご使用アップルパイ(370円+税)。YATSUDOKIでは一番人気だという - 写真提供=シャトレーゼ

安さを売りにしてきたシャトレーゼも2019年からはプレミアムブランドの「YATSUDOKI(ヤツドキ)」を立ち上げ、1号店を東京・銀座に開いた。シャトレーゼの「スペシャル苺ショート」は300円だが、ヤツドキの「八ヶ岳川上村契約農場の苺ショートケーキ」は540円でグッと価格帯を引き上げている。今後は大阪や札幌、福岡など全国の都市部に順次出店する計画で、「品質が専門店にも通用するか見てみたい」(齊藤会長)と期待を寄せる。

■課題は認知度とブランド力

一方で課題もある。シャトレーゼの主力である郊外のロードサイド店は、人口減少と過疎化でいずれ衰退は避けられず、頭打ちになっている。また、同社が自負する契約農家の多くは地元・山梨県やその近隣に集中しており、全国展開を進めれば原材料の調達ルートの確保は難しくなる。

大ヒットを記録した「チョコバッキー バニラ」。価格は1本60円(+税)
大ヒットを記録した「チョコバッキー バニラ」。価格は1本60円(+税)写真提供=シャトレーゼ

北海道と九州の店舗ではケーキやプリンなどの生菓子に限って現地の製造工場で作っており、今後はいかに“山梨ブランド”を守れるかがカギとなりそうだ。

広告宣伝よりも品質向上を優先するという当初からの経営方針から、テレビCMなどは打っておらず、同業の不二家と比べれば全国的な認知度はまだ道半ば。これだけ店舗が増えていることを知らない消費者も多いはずだ。同社も「ファンを取り込むためにロイヤルティーをもっと高める必要がある」(広報)と認める。

驚くほどおいしくて、驚くほど安い。そんなシャトレーゼの快進撃はいつまで続くのか。洋菓子業界の競争激化に注目が集まっている。

(プレジデントオンライン編集部 内藤 慧)

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