菅政権の目玉「地銀再編」が、日本人の「お金の常識」を根底から揺さぶるのはなぜか

プレジデントオンライン / 2020年10月19日 13時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Drazen_)

菅政権が発足し、地銀再編への圧力が高まっています。地銀の歴史的な背景と今をざっと振り返り、これからの資産づくりのあり方について考えます。

■今度こそ、再編は進むのか

菅内閣がスタートしました。政策の目玉のひとつに地銀再編が掲げられていますが、これは日本経済の抜本的構造変化に立脚すればいよいよ不可避なことで、すなわちわが国の戦後20世紀型金融メカニズムの終焉を意味しています。

地方銀行は各都道府県に隈なく独立して存在し、旧相互銀行の第二地銀も同様にあることも合わせると100を優に超える数の銀行があり、各行が地域生活者の貯蓄資金の大半を預金として集めているわけです。

そもそも高度経済成長期に果たした銀行の社会的機能として、国民が持つお金を預金として銀行に集め、それを銀行が貸出しというカタチでフルに日本の産業育成資金として融通した結果、産業界は発展し、銀行に多くの金利を支払うことで預金者は銀行から相応の利息を得ることができました。これは預金行為によって経済成長から得られた配当だったと言えますが、そこには敗戦国の日本政府に終戦後の産業復興を支える資金が枯渇している他方、耐乏を強いられながらも戦中を生き抜いてきた国民には各自の貯蓄が残存していることが根底にありました。そのお金をタンスから銀行にシフトしてもらえば、銀行経由で産業育成資金が捻出可能になるという、いわば国民財産を拝借して国家再生に有効活用することを目的とした、窮余の戦略的な国策として銀行は大いに存在意義を有していたのです。

■高度成長期に地銀が果たした役割

わが国が奇跡の高度成長を実現できた根源には、無論産業界の不屈の努力が大前提ですが、製鐵、製紙、造船重工業、自動車、電機など、発展途上経済に欠かせぬ重厚長大産業が事業成長するためには、当然のことながら莫大な資金が不可欠でした。先進国であれば資本市場経由で調達した資金をベースにして借入金を重ねるカタチで成立する資本構成が、当時の日本においては資本市場機能が未熟であったため、専ら資本性資金も併せて銀行が資金供給を行ったわけです。要するに当時の銀行は、銀行本来の役割を超えてすべからく真のリスクマネーを産業界に提供する、勇気と気概に満ちた社会的存在だったわけです。

地方銀行は各地の地域経済再生と発展に資する産業資本を、当該地域の銀行が地元生活者の預金をベースに融通するという、地域循環サイクルの要たる金融機能をしっかり果たしていたと言えましょう。

高度成長期の日本経済には新たな産業がどんどんと勃興し、各銀行がそれらの資金需要にことごとく応えていく金融構図の中では、預金は経済活動の中で常に不足状態でした。従って需要が大きく上回る環境下では恒常的に貸出金利も高く設定され、一方産業界はその金利負担を十分吸収できる事業成長をしていたため、銀行はしっかりと融資による金利収益が得られました。そして銀行の経費を差し引いても相応に高い預金利息を預金者である生活者に還元できた。これが成長の配当としての預金金利だったのです。

利息が付与されて増えたお金を国民は再度預金に回す。こうして銀行経由で供給される産業資本も増加し、さらなる経済成長を後押しして、再び銀行が得る金利収入を通じて預金者に利息が付加されて還ってくる。銀行を仲介機能の主軸として融資資金をベースにした、いわゆる間接金融システムが20世紀の高度成長経済を支える金融メカニズムだったわけです。

■ゼロ金利時代の到来

日本の生活者の大切な預金がわが国高度経済成長の礎となったこのサイクルは、1990年代に入り経済が一気に成熟化へと転換期を迎えたことによって、一転機能不全に陥ることになります。成長期を終えた日本の産業界からは、資金需要の恒常的な減少が続きます。集めた預金を貸出しに回すことができず、銀行界は資金余剰を常態化させました。そして産業界から十分な金利収入が得られなくなれば、預金者に利息を付与することもできなくなる。これがゼロ金利時代の到来だったのです。

日本では成熟社会への突入とともに、少子化を伴った急速な高齢社会への進展が始まりました。東京一極集中を所与とした人口動態下では、地方経済で人口減少が止まらず地域経済は収縮衰退が共通現象として定着し、地方銀行は大都市を拠点の中心とするメガバンクとは別次元での構造的苦境に陥りました。すなわち地域生活者からの預金は集まる一方で、それを原資とした地域経済への貸出し需要が先細り、極度に預金量が融資量を上回る資金余剰が常態化することとなったのです。

本来地方銀行は、地域住民の預金を地域産業に回し、地産地消経済を担うことが本分でしたが、巨額の預金を持て余した地銀はどこも日本国債をせっせと買うこと以外に資金活用がおぼつかなく、預金余剰状態になすすべがなくなった状態というのが現状なのです。

■地銀カルチャーの問題点

地域経済に資金需要がなければ、集めた預金は資本市場経由で産業資本供給者としての役割を果たすべきですが、多くの地方銀行には高度な資産運用への知見が乏しくままなりません。ならば地元経済の隠れた資金需要を発掘し、経済再生の担い手たる地銀本来の社会的機能を果たそうにも、地域の殿様化してしまった地銀カルチャーがリスクマネーの供給能力を劣化させてしまったという残念な事実もあります。

菅内閣の地銀再編提言はそうした現実に鑑みて、まずは預金余剰のオーバーバンキング状態を解消することが目的でしょう。預金をゼロ金利でかかえたまま地銀に滞留させておいては日本全体で1千兆円超の預貯金が新たな富を創出できず、せっかくのお金が無為なままです。

従って菅内閣に限らずこれからの継続的な国策として、銀行に預けたままの預貯金を生活者自らが資本市場経由で産業資本として成長期待の存在する実体経済に投下し、リスクマネーとして新たな富を産み出す資金に転換させること。それが「貯蓄から投資(資産形成)へ」のスローガンの政策意図なのです。資金の出し手である生活者が投資のリターンを得ることは、かつて国民が預金利息を得て豊かな人生創りへの糧としていた構図の代替です。

読者の皆さんには、地銀再編の社会的意義を理解するとともに、資産形成手段としての真っ当な投資の必要性に本質的関心を高めてみていただきたいのです。

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中野 晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信・代表取締役会長CEO
1987年明治大学卒業、クレディセゾン入社。関連会社資金運用部にて債券のポートフォリオ運用に従事後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金運用や、海外契約資産の運用アドバイスを手がける。2006年セゾン投信を設立。

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(セゾン投信・代表取締役会長CEO 中野 晴啓 写真=iStock.com)

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