「女性はいくらでも嘘をつける」でわかった日本女性を苦しめる最大の原因
プレジデントオンライン / 2020年10月16日 9時15分
■日本の女性リーダーに足りない大切なもの
「女性はいくらでも嘘をつけますから」――。先日、自民党の杉田水脈衆院議員がそう言い放ったことが話題になりました。
この発言に対して抗議のデモが行われ、謝罪と議員辞職を求めるオンライン署名には約9万筆が集まりました。新聞社等の取材に、しばらくのあいだ杉田議員は「そういう発言はしていない」と答えていたものの、その後一転して発言を認め、「ご不快な思いをさせた」と謝罪しました。
それにしても、なぜよりによって「女性の政治家」がこの手の発言をしたのでしょうか。本当に彼女個人だけの問題なのでしょうか。それともこのようなことを思ったりポロッと言ってしまうような原因は日本の社会にあるのしょうか。
今回はそんな問題について考えてみたいと思います。
■日本に来て驚いた言いまわし「女の敵は女」
日本に来たばかりの約20年前、日本の生活スタイルや考え方など、何から何まで筆者には新鮮に感じられました。特に興味深かったのは同性である女性たちとの会話。知り合いや女友達とお茶をしながら何げない雑談をするなかでさまざまな発見がありました。
筆者の知人女性は当時女性社員が少ない会社で働いていましたが、新人の女性社員に対するいじめは主に先輩の「女性」から行われていたといいます。そして彼女は言いました。「難しいのよね、やっぱり女の敵は女だから」と。
その時は、その知人女性がたまたまそういう感想をもったのかな、と思いました。しかし、別の女性と話をした時も「女の敵は女」という言葉が出てきました。そこでようやく、これは日本でよく使われる「言いまわし」なのだと気付きました。
意識してみたところ、確かに日本では「女の敵は女」だと思わされるシチュエーションはちょくちょくあるのでした。
私が日本に来てすぐに横山ノック元大阪府知事による女子大生スタッフへの強制わいせつの件がメディアで話題になりました。筆者もこの女子大生スタッフに大いに同情したのですが、ある女性はこう言いました。
「女子大生はお金のためにマスコミに話を売ったのだと思う」
「横山ノックは女子大生にはめられたのだと思う」
この発言を聞いた時に「女の敵は女なんだな」と思ったことを覚えています。
ジャーナリストの伊藤詩織さんの例を見ても分かるように、あれから20年以上経った今も、性被害に遭った女性に「目立ちたいだけ。男性はむしろ女性にはめられた」と言う人は後を絶ちません。
■子供のいる女性の「しわ寄せ」が独身の女性に…
会社で働く女性から「子供を持つ女性社員からのしわ寄せがつらい」という声をよく聞きます。新聞社の悩み相談サイトの「働く」の項目には、定期的にこの手の相談内容がアップされています。
内容は「子供のいる女性の同僚がよく学校の行事や子供の病気などで仕事を休むため、独身の私は有休が全くとれなくなった」「子供のいる女性の同僚が時短で働くようになってから、その分の仕事が独身で子供のいない私に降りかかっている。残業で疲れ果てているのに事態が改善される兆しがない」といったもので、文章から疲労度が伝わってきます。
地方都市で中学校の教員をしていた50代女性は「自分も子供がほしかったけれど、働いていた中学校の女性の教員たちには既に子供がいて、当時独身だった私に仕事がふられることが多かった。デートもままならず結局子供を持つことはかなわなかった」と話しました。
育児と仕事を両立しなければ女性も大変ですが、その横にいる「独身の女性社員」にも大きな負担が強いられている現状があるのでした。
■責任は会社にあるはずだ
確かに、仕事仲間の女性が子供をもった結果、自分に多くの残業や休日出勤がふりかかってくることを想像すると、その理不尽さに怒りが沸々と湧いてきます。
この話は一見すると、なにかと「子供をもつ女性社員」を責めがちです。しかし本質的な責任は「会社」にあります。誰かが抜けた時に社員に偏ることなく仕事を振り分けたり、新たな人員を雇ったりして調整する責任は会社にあるからです。
ところが実際には「なあなあ」になりがちなのも確かです。
男性が多い会社や中小企業では「女同士で仲良くやってくれよ」とばかりに「女性が抜けた分の仕事は全て別の女性がカバーすればよい」という暗黙の了解があったりします。
結果として独身の女性に負担がかかるのが現実です。
子供を持つ女性は「子供をもって大変なのに、仕事場で女性からつらくあたられる」、独身の女性は「子供を持つ女性のカバーをなぜ私だけがしなければならないの」とそれぞれの言い分があります。
しかし厄介なのは、カバーに入った女性がその大変さを周囲に話すと、男性から「やっぱり女の敵は女なんだな」と思われがちなことです。残念なのは、これが会社の問題であるにもかかわらず、時に「女の敵は女」「女同士のバトル」と周囲から面白おかしく取り上げられることです。
この問題の原因は「男性が育児で仕事をセーブする」ことがまだまだ少ないからです。多くの男性も時短で働けば、総合的に時短で働く社員はかなりの数になります。「時短で働く社員の分をどのようにカバーするか」という点を会社はもっと工夫するはずなのです。
■ドイツもシビア……同性から悪く言われる専業主婦
実はドイツにも女の闘いというものが全くないわけではなく、日本とは少し形は違いますがなかなかシビアです。例えば専業主婦という存在について。日本では「女性の多様な生き方」の中に「専業主婦」も含まれています。実際に専業主婦が一方的に叩かれる場面はあまり見られません。
一方、ドイツでは専業主婦に対する風当たりはかなり強いのです。持病を抱えている、ドイツ語ができないなど、特別な理由がない限り疑問に思われる傾向があります。専業主婦は「なぜ自分でお金を稼ごうと思わないのか」と疑問を直球でぶつけられることも多く、何かと周囲から質問攻めにされることになります。
さらに「夫が望んでいるので専業主婦をしているんです」なんて言った日には、DVの被害者だと思われ相談機関を紹介されかねません。「自分が好きで専業主婦をしている」と言えば、何か問題のある人だと見られる場合が多いのです。
特に、同じ女性が専業主婦に対して厳しい見方をする傾向があります。
ドイツ在住のある日本人女性は「ドイツ人である夫の仕事の都合」でドイツに引っ越し、当初は就労していませんでした。しかし数カ月後、夫の親戚や知人から「なぜ働かないのか」と聞かれ、なかでも女性からの質問攻めが執拗だったと嘆いていました。
このようにドイツでは「専業主婦である」というだけで直接非難されます。そう考えると日本の社会は優しい社会だといえるでしょう。
■ヨーロッパでも女性の分断が問題に
また家事の外注が進むヨーロッパでは、高等教育を受けたミドルクラスの女性が家事や掃除などの仕事に就く移民のマイノリティ女性を差別する傾向が見られます。
この現象については、ポストフェミニズム論の代表的論者であるアンジェラ・マクロビー氏がイギリスを例に、本来は「女の仕事」であった家事や掃除などの仕事に従事する移民の女性がミドルクラスの白人女性から「自分たちよりも劣った存在」として憐みの対象で見られ、連帯の対象として見なされていない問題を指摘(Angela McRobbie, 2009, The Aftermath of Feminism, SAGE)しています。
イギリスが階級社会だという背景もありますが、決してそれだけが理由ではなく、明らかに「女性が女性を低く見て、女性が女性にきつく当たる」傾向もあり、ヨーロッパの「女性の連帯」が必ずしも全ての場面でうまくいっているわけではないということがうかがえます。
■「女性同士のバトル」を見るのが好きなニッポンの社会
日本で特徴的なのは「女性同士のバトル」をどこかエンターテインメントとして消費しているところです。週刊誌で「女が嫌いな女」がランキング形式で発表されることがあるのも日本ならではです。
ところで冒頭の杉田水脈氏の「女性はいくらでも嘘をつけますから」という発言について、筆者は当初「女性の一般的な発言に関する杉田氏の感想」と勘違いをしていましたが、実際には性暴力がらみでされた発言でした。
杉田氏は自民党の会議で2021年度の予算の概算要求の説明を受けた際に「性暴力を支援する相談事業を民間団体に任せることは反対だ」という自らの意見を話すなかで「女性はいくらでも嘘をつけますから」と発言しました。
「女性がレイプ被害等について、いくらでも嘘をつける」というのは、日本に限らず世界の多くの国でひろく信じられてきた偏見です。しかしWHOは性暴力被害者のための法医学的ケアガイドラインの中で「女性は(性被害について)嘘をつく」というのは「典型的なレイプ神話」(誤解)だとしています。
杉田氏の性暴力の被害女性を咎める発言は今回が初めてではありません。2018年にはジャーナリストの伊藤詩織さんについて「女としても落ち度がありますよね」「伊藤詩織さんが記者会見を行って嘘の主張をした」と発言しました。SNSには「介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むようなことをする女性」と書き、伊藤さんに訴えを起こされています。
性暴力を受けた女性に「本人に落ち度があったのでは」と発言すること自体がセカンドレイプにあたります。衆院議員がこのような発言をする背景には、日本の社会にも同様に考える一定の層がいるからだという見方もできます。
■大事にしたい「シスターフッド」
2019年の男女格差の国別ランキングで、日本は「153カ国中121位」でした。G7(主要7ヵ国)のなかで最下位です。しかし日本では「女性は優遇されている」という発言をよく聞きます。仕事で「女性だから」という理由で抜擢されるのはおかしいという声も少なくありません。残念ながら女性自身が「女性だからと優遇はされたくない」と考えている場合もあります。
しかし、ドイツでは2015年に「女性クオータ法」が成立し、翌年から大手企業には監査役会の女性比率を30%以上にすることが義務付けられました。女性の役員や管理職を増やすため、企業には自主目標の設定、具体的処置、達成状況に関する報告義務も課せられています。なお、この制度は公的部門にも適用されています。
学歴も能力もある多くの女性が、前例に従い補助的なポジションにしか就けないことが長年問題視されてきました。そのため具体的な数字を設定し、法的に問題の解決にあたったことは合理的で、この制度に女性が反対したという声は聞こえてきません。
その根底にはシスターフッド(女性同士の連帯)の精神があります。
女性が個人的に「自分は仕事でそれほど上のほうのポジションには行きたくない」と考えていても、「でも上のほうに行きたい他の女性もいるのだから、経営陣に女性が増えるのは良いことだ」と考えるのがシスターフッドです。
つまり自分自身の要望や生き方とは必ずしも一致しなくても、自分と同性である他の女性たちの応援はする、という考え方です。ヨーロッパでは、生き方が違っても、支持する政党が違っても「女性の地位向上のためには団結する」という姿勢が目立ちます。
■杉田議員にもシスターフッドの精神があれば……
近年の「#MeToo運動」を見ても、日本では「性被害に遭った女性を女性が叩く」ということがしばしば起きています。杉田議員にシスターフッド精神が少しでも頭の片隅にあれば「女性はいくらでも嘘をつけますから」は出てこなかった発言なのです。
「女性は感情的」と同じぐらいに偏見に満ちた発言なのは言うまでもありません。
(一部の)男性が考えがちなことを、よりによって女性である杉田議員が口に出して言ってしまったのは、日々女性を低く見ている多くの「オジサン」に囲まれ、自身も彼らの価値観を内面化してしまった結果かもしれません。
女性の政治家にシスターフッドを期待するのは求めすぎなのでしょうか。
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ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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