コロナ禍の妊活「するか、しないか、何年待つか」女医が教える最終結論
プレジデントオンライン / 2020年10月16日 15時15分
※本稿は、宋美玄『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』(星海社)の一部を再編集したものです。
■「妊婦だから重症化しやすい」とはいえないものの…
これから妊娠を考えていたのに、新型コロナウイルスの流行のせいで計画が狂わされたという方はたくさんいると思います。
現在のところ、(何度も聞いたかもしれませんが)新型コロナウイルスに関しては、妊婦だから特別に感染しやすかったり重症化したりするという確固たるデータはありません。母から胎児への感染を疑う報告もわずかで、ウイルスのせいで流産や死産が引き起こされたと明らかに考えられる例もありません。
世界保健機関(WHO)も厚生労働省も、過剰に心配しすぎず、ほかの人と同じように予防対策をしていくことを推奨しています。
そんなふうに言われても、まだ症例が少なくて、感染症にかかったときの胎児への影響が完全にはわかっていないことや、ウイルスの流行拡大時には面会や立ち会い出産ができなくなることへの不安から、妊活を延期している人もいると思います。経済的な先行きが見えづらくなっているのも、妊娠を控える要因になっているでしょう。
少しでも良い環境で子どもを産んで育てたいと願うのは自然なことです。
もし、近い未来に新型コロナウイルスの流行が終息するのなら、その時期がわかってからライフプランを立てたいと誰もが思うことでしょう。
けれども、この流行がいつおさまって社会が元通りになるのか(それとも元通りにならないのか)は、今のところは誰にも予測ができません。
■全員にPCR検査しても状況はそれほど変わらない
2020年6月の時点で、日本の感染者数は海外の多くの国々に比べてずいぶん少なく、感染者ゼロが続いている県もあります。
ですが、通常通りの社会に戻り、海外からの移動を受け入れるようになれば、再び流行が起こります。
今の社会では、自分の住んでいる地域の外に移動したり人と接触したりする状況を避けることはできません。たとえ自分の住んでいる地域だけ感染者ゼロになっても、そこに出入りする人たちの中に感染者がいれば、いつでも流行は起こってしまいます。
仮に全員にPCR検査をすることができても、状況はそれほど変わりません。なぜなら、その中に偽陰性(本当は感染しているのに陰性という結果が出ること)の人がいて、陰性だと安心して活動をしたら、感染は容易に広がるからです。
自覚症状がない人でも感染力をもつのが、このウイルスの厄介なところです。感染拡大を止めるには、すべての人を感染者とみなして人同士の接触を断つか、効果的なワクチンを多くの人に接種して感染しない人を増やすしかありません。
人同士の接触を断つ状態を長期間続けることは難しいでしょう。
■ワクチンを待つ間にタイムリミットは迫っていく
効果的なワクチンが開発されて接種することができれば、もうウイルスを恐れなくても済みますが、ワクチンがいつ頃、開発されるのか。これも現段階では予想できません。何もかもうまくいって最短で半年から1年。うまくいかなければ5年から10年。さらに、いろいろがんばったけれど、結局、効果的なワクチンは開発できなかったということさえあり得ます。
もう少し時が経てば、ワクチンの開発状況やウイルスの流行の動向も今よりは見えてくるかもしれないので、もし、妊娠を望んでいる妊婦さんが現在35歳以下で、将来もちたい子どもの数に影響がなさそうであれば、しばらく様子を見て先が見通せるようになってから考えるという選択肢もあるでしょう。
しかし、30代後半から40代前半のアラフォーと呼ばれる年代の方々に関しては、何も考えずに1年待つと選択肢が狭まってしまいます。年齢とともに自然妊娠はしにくくなります。また、受精卵が着床しても育ち続けられずに流れてしまう確率は高まります。このため、35歳で約2割、40歳で約4割、42歳で約半分が流産に至ります。
さらに、年齢と妊娠の関係は、女性だけの問題ではありません。男性の年齢も関係してきます。男女ともにタイムリミットがあるのです。
これは初めての妊娠に限った話ではありません。2人目、3人目の妊娠に対しても体のタイムリミットは適用されます。1人目さえ早く産めば大丈夫というものではなくて、子どもを産もうが産むまいが、卵子は平等に歳を取っていきますし、精子を作る力も衰えていきます。
何も考えず、ノープランで状況を見守っていたら、あとで後悔することになるかもしれません。
■「自分の希望とその優先順位、年齢」で妊娠・出産プランを考えてみる
新型コロナウイルスの存在がほとんど誰にも知られていない2020年1月より前に妊娠をした方々は、本当に大変だったと思います。
もともと妊娠・出産は予定通りにいかないものですが、世界中に感染症が流行して社会の動きが止まるなんてことは、誰も事前に想定できませんでした。それでも多くの妊婦さんは無事に出産を終えました。わかっていないことが多いコロナ禍の混乱の中で、何の心の準備もなく不便さを強いられながらマタニティーライフを送ったすべての方々と医療スタッフに、まずは心からおつかれさまと言いたいです。
ウイルスの流行は待っていたら自然におさまるというものでもなく、ワクチンが開発されなければ、これから先、もしかしたらこの4、5月よりもひどい流行状況が訪れる可能性はゼロではありません。
いったいこの先どうなるのでしょう。
ウイルスの流行の状況に振り回されて、ずっと心が落ち着かないというのもなんだか悔しいですよね。
いっそのこと、先手を打って、コロナ時代の妊娠・出産を考えてみませんか?
たとえば、この流行が5年以内に終息する場合と、5年経っても終息していない場合にわけて考えてみるのです。
終息とは、厳密には、新型コロナウイルス感染症を発症する人が世界中でゼロになり人の間で流行しなくなることを指しますが、それが達成できる感染症は少ないため、ここではもう少しゆるく考えて、日本で感染者がゼロになり、流行国から来る人には検疫が課されている状態や、ワクチンが開発されて接種できるようになり、少なくとも自分は感染の心配がなくなった状態を指すことにします。
プランを考えるのに必要な情報は、自分の希望とその優先順位、そして年齢です。
■優先する希望によって選択肢が変わる
では、プランの例を次に挙げてみます。全員、初めての出産の場合で考えています。
Aさん29歳の場合
1.子どもは少なくとも1人は産みたい。
2.2人目はできたら欲しいが、2人産むことよりもコロナ禍での妊娠・出産を回避することの方が優先。
プラン
約5年以内に終息した場合は終息を待ってから妊娠をする。約5年経って終息しなかった場合は、それ以上待っていると妊娠しにくくなるので、状況を見ながら直ちに妊活を始める。
Bさん38歳の場合
1.子どもは少なくとも1人は産みたい。
2.できれば2人目も欲しい。
プラン
1年でも時間を無駄にしたくないので、よほどの医療崩壊がなければ、ウイルスの流行状況にかかわらず妊活を続ける。その代わり、コロナ禍でも安全に妊娠・出産を行えるように情報を集めて、流行がひどくなったときのことも想定した準備を進める。
Cさん24歳の場合
1.理想に近いお産ができるなら子どもは欲しいが、そうでないなら積極的に欲しくはない。
2.少なくとも5年は夫婦2人で暮らしたい。
プラン
ノープランでも問題なし。流行の状況が落ち着いたら考える。
いかがでしょうか。少し単純化しすぎた例ですが、優先する希望によって選択肢が変わることが伝わったら幸いです。
■コロナ禍の妊娠・出産にはメリットもある
ウイルスの動向は読めませんが、何人子どもが欲しいのかという希望は自分で決められますし、妊娠しやすさも年齢がわかれば予測できるため、選択肢はある程度絞られてきます。
この例ではAさんは、2人目を産むことよりもコロナ禍を避けることを優先していますが、もし、子どもを2人産むことを優先順位の1位に考えた場合は、プランは少し変わってきます。2人目を産むときの年齢を考えて、状況を見極める期間を5年ではなく3年にし、3年経っても終息しなかったら妊娠に踏み切るというプランに変えた方がいいかもしれません。
年齢によるリミットが迫っていて、さらにどうしても子どもが欲しいという場合は、少しでも可能性を狭めないために、Bさんのような判断も大いにありだと思います。コロナ禍でも多少の不便とリスクを受け入れたら妊娠・出産は十分にできることが、この4月と5月の間に証明されたからです。
Cさんの場合は、結論を先延ばししても何も問題ありませんよね。そもそも、Cさんのような人はこの本を手に取らないと思いますが、絶対に子どもが欲しくてさらに年齢のリミットも迫っているのに、Cさんと同じようにノープランで過ごしていたら、あとで後悔してしまうかもしれません。
今すでに妊娠していて、もう少し待てばよかったなと思っている人もいるかもしれませんが、コロナ禍の妊娠・出産はデメリットばかりではありません。
現在、新型コロナウイルスは人々に大きなショックを与えていますので、妊娠を延期する人は増えるでしょう。この時期に妊娠をすれば、生まれてくる赤ちゃんは全体として少なくなると思います。
同年代の子どもが少なければ、保育園に入りやすいというメリットがあります。受験や就活なども競争倍率が下がり、生まれてきた子の人生面で有利に働くことがあるかもしれません。逆にいえば、コロナ終息宣言が出された途端にベビーブームが到来して、そこで生まれた子たちは人生の様々な面で競争率が高くなってしまうかもしれません(もちろん、たくさんの同級生にもまれて競争しながら育った子どもたちは、たくましいアフターコロナ世代として活躍してくれるでしょう)。
■終息する場合としない場合、両方のケースを考えておく
何も考えずに、ただ流行が終息するのを待っているだけでは、人生の舵をウイルスに任せているようなものです。十年待ったのにワクチンも治療薬も開発できず、ウイルスの脅威はそのまま、人々は状況に慣れてしまって恐怖心が薄れ、誰も予防措置を取らなくなって、さらに流行は拡大し、高齢者や妊婦だけが怯えて暮らしているという未来だってあり得ます。
逆に、不便な思いをして不安を我慢しながらコロナ禍の中で出産をしたのに、すぐにワクチンができて、もう少し待てばよかったと後悔することも起きるかもしれません。
流行がおさまった場合と、おさまらない場合のどちらに賭けるか、という問題になってしまいます。どちらかに賭けて外れたら、取り返しがつきません。でも、両方のケースを考えておけば、大きく外れずに済むのではないでしょうか。
後悔しないプランを立てるために、コロナ禍での妊娠・出産について、怖がらず正しい情報を集めてみてください。
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産婦人科医、医学博士
大阪大学医学部卒業後、同大学産婦人科に入局。周産期医療を中心に産婦人科医療に携わる。2007年、川崎医科大学講師に就任。ロンドンに留学し胎児超音波を学ぶ。12年に第1子、15年に第2子を出産。
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(産婦人科医、医学博士 宋 美玄)
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