部下に「敬愛されるリーダー」が、いつまでも一流になれないワケ
プレジデントオンライン / 2020年10月16日 9時15分
※本稿は、小宮一慶『できる社長は、「これ」しかやらない 伸びる会社をつくる「リーダーの条件」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■部下の前で、弱みをさらせていますか?
社長に限りませんが、気取って格好つけているようでは、リーダーはダメです。そんな「いいところばかり見せよう」とする人は、本当のところ何を考えているのか分からなくて信用できません。できる社長ほど、自然体でざっくばらんな素の姿を見せようとします。
私が関わっているある会社では、コンサルティング会社に頼んで、社長以下全役員の強みと弱みを分析しています。すごいのは、自分で自分の強み、弱みを知るだけでなく、その内容を社員も見られるように開示しているのです。つまり、部下は役員の強み、弱みを共有しているのです。
なぜそんなことをしているかというと、強みが分かっていれば、それに関して部下はどんどん相談することができるから。弱みが分かっていれば、その部分を部下がカバーすることができるから。こうなると、格好つけたところで仕方ないのです。
社長にしても、他の役員にしても、必ずしも人格的に優れているからその立場に就いているわけではありません。創業社長となると、多少は人格的なものもあったうえで現在の地位を築けたという面はありますが、別に高潔な聖人君子であるわけではありません。
自分の弱さも見せて、困ったときは「助けてくれ」と言える人のほうが強い。成功していけるのは、そういうリーダーです。ただし、能力もやる気も、人間性の良さもなく、それをさらけ出したら何とかなるというものでもありません。気取らないが、自身を高める努力をしていることが大前提であることは言うまでもありません。
■愛嬌、人間味のある社長ほど成功するワケ
「愛嬌がある」とか「ユーモア感覚がある」というのも大事な要素です。要するに、一緒にいて楽しい人。愛嬌というのは、ある意味「隙」ではないかと思うのです。
そつのない人、隙のない人はつきあいにくい。そういうタイプよりも、「一緒にいたいなあ、もっといろいろ話したいなあ」と思うような人のほうがいい。よく知られている言葉ですが、松下幸之助さんが部下に言っていたというこの言葉が私は好きです。
「君ならやれる。わしだったらやれないけれど、君ならやれる」
天下の松下幸之助さんにこんなふうに励まされたら、本当にできるんじゃないかという気がしてくるではありませんか。自分にはできないと言ってしまえるところに、なんともいえぬ愛嬌が感じられます。
■一流の社長は例外なく「しつこい」
成功する社長に共通する性格の一つに「粘り強さ」が挙げられます。言い換えれば、しつこい。決めたことはしつこくやる。簡単にはあきらめない。そうやって信念を貫く粘り強さが、成功につながるのだと思います。
ですから、部下にもしつこく言わなければいけないことは、何度も何度も言い続けます。
もっとも、この兼ね合いが難しい。しつこいくらいに言って、身体に染みこませるというのも一つ大事なことです。ただし、一挙手一投足まで細かいことまで指示してはいけない。それぞれが自分の裁量で自由にやれるようにしなくてはいけない。あまり口を出しすぎると、部下が自分で判断できなくなるので、判断できない人になってしまいます。
けれども、あとは任せたといって丸投げしてはいけないのです。関わりすぎてもいけない、関わらなさすぎてもいけないわけです。「規律の中の自由」が大事。ある程度自分で判断してやらせないといけない。ある程度規律を守れる人には、権限を与えて、ある程度自由にやらせる。その代わり、徹底的に結果が出るまでやらせる。なあなあの結果などは許してはダメです。
もちろん、それぞれの能力によっても違います。規律は守れるけれど、能力が足りない人もいますし、その逆で能力は高いけれど、規律が守れない人もいます。能力を見極めた上で仕事を任せるのですが、十分なアウトプットを出せることが大前提です。そうしないと、お客さまにも、周りの仲間にも迷惑です。規律を守れない人は論外です。
■『老子』に描かれた「最高のリーダー」の条件とは?
『老子』のなかに、最高のリーダーとはどういうものかという話があります。かいつまんで説明すると、次のようなものです。
最高のリーダーは、その存在さえ意識されない。
その次は、敬愛されるリーダー。
その次が、恐れられるリーダー。
最低なのは、バカにされるリーダーである。
敬愛されている人は、良いリーダーです。慕われ、その人のおかげだとみんなが思うような存在なわけですから。そして、多くのリーダーはそれを目指します。
しかし、その上がある。「存在さえ意識されない」とはどういうことかというと、何かを成し遂げて手柄を立てても、部下はリーダーのおかげだとは思っていない。つまり、部下に自分の存在を意識させる、誇示するようなのはまだまだであるということ。存在を悟らせず、部下に「自分の成果だ」と思わせることができることこそ、最高の指導者だというわけです。
それは何もしないということではなく、「考え方」を普段から統一、徹底し、部下が「自分の力でできた」と思えるような「仕組み」をつくり上げているのが、最高のリーダーであるというのです。
これは、私もそのとおりだと思います。その人がいないとうまく回らないようでは、本当の良いリーダーではない。リーダーと同じ考え方を持ち、誰がやってもできてしまうような仕組みを考え出せたら、自分がいなくなっても、組織は長続きしていける、ということです。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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