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「テレワーク移住はウソ」都心タワマンがむしろ絶好調であるワケ

プレジデントオンライン / 2020年10月22日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlxeyPnferov

いま不動産市場はどうなっているか。一部には「都心部から人が逃げ出し、郊外への移住が加速する」という論調が見られたが、それは事実ではない。不動産コンサルタントの長嶋修氏は「都心の住宅市場は絶好調で、懸念されていた“オフィス離れ”も起きていない」という。なぜなのか——。

■中古市場のマンション価格はむしろ上昇基調に

2020年、日本や世界を新型コロナウイルスが席巻し、不動産市場は大きな打撃を受けた。とりわけフランス・パリは2度目のロックダウンに入り、アメリカ・ニューヨークは中心部から郊外に脱出する動きが加速している。日本でも4月から5月における緊急事態宣言下では不動産取引が半減した。こうした中、多数のメディアや識者からは「不動産市場が崩壊する」「都心部・都市部から人が逃げ出し、郊外や地方への移住が加速する」といった論調が見られた。

筆者のもとには連日「新型コロナウイルスの影響をどう見ているか?」といった質問が寄せられる。意外に思われるかもしれないが、緊急事態宣言が明けてからの住宅市場は絶好調といっていい。

もちろん緊急事態宣言期間中の4月や5月は取引が40~50%減といった地域が続出したものの、その期間中にとりたてて価格が落ちているわけではない。千葉や埼玉で落ちたように見えたのもその内訳をよく見ると高額物件の取引が減少したという特殊要因のようだ。

6~9月になると滞留していた需要どころか、それ以上の勢いが出てきた。都心・都市郊外・新築・中古・マンション・一戸建てのいずれも非常に好調だし、新規売り出しが減ったこともあり、とりわけ中古市場では在庫が大きく減少していることもあり、取引量はコロナ前と同等かややマイナスのレベルだが、価格は上昇基調にある。

新築マンションは、2019年後半から売れ行きは悪化しており、そこにコロナ禍がやってきたため、緊急事態宣言中はモデルルームを閉鎖し取引には急ブレーキがかかった。

■月々5万円台の支払いで買える一戸建てが人気

とはいえ、大手寡占が進んでいる市場では、リーマン・ショックの時のような投げ売りは起きていない。またかねて新規売り出しを減らしてきたため、在庫はずいぶんと減り、在庫が少ない中でのやり取りなので、コロナ前から販売不調だった現場では日ごとに値引き販売が行われているようだが、価格が大きく下がる状況にない。

昨今特徴的なのは、新築、中古とも一戸建ての売れ行きがいいことだ。イメージでいうと3000万~4000万円台で、低金利下において100%の住宅ローンを組んで購入者の半分以上が変動金利を選択するといったもの。金利は0.38%(ジャパンネット銀行・10月)程度ゆえ、期間35年、3000万円台なら月々の支払いは8万円程度。ここで住宅ローン控除が利用できればローン残高の1%が戻ってくるため、毎月に換算すれば約2万5000円のマイナスとなり、事実上、月々5万~6万円台の支払いで買える。

在宅勤務が増えたいま、2~3DKでチープな賃貸住宅から出て、家賃並み、あるいはそれ以下で持ち家を選択するといったものだ。

私たちの周りを見渡しても、コロナを機に都市郊外や地方居住を行動に移した人がどれほどいただろうか。

在宅勤務(リモートワーク)といっても、その生産性について多くの企業が検証中である上、オフィスにおいても一定のソーシャルディスタンスを確保しようとすると必要面積はそう小さくならない。通勤がゼロになるケースは非常にまれで、わざわざ密な電車やバスといった公共交通機関を使う気にはならず、むしろできることならもっと会社に近づきたいはずだ。

■75m2以上だった3LDKは、今は60m2台前半に

確かにコロナ期間中の、各種メディアによるアンケートをとった結果を見れば、都市郊外や地方移住を考えていたことがうかがえる結果も出ている。また不動産検索サイトの運営者に聞けば、自粛期間中は検索の範囲が都市郊外や地方へと広がったものの、自粛明けには元に戻っている模様だ。他先進国のようにコロナの影響がもっと長引けば、あるいはロックダウンといった深刻な事態になれば、大都市から都市郊外や地方への人口移動は起きたかもしれないが、わが国では自粛期間が約1カ月で済み、感染者数も死者数も圧倒的に少なかったことから、この程度で収まったともいえる。

在宅勤務が増えることで、自宅にスペースが必要になる。そうすると従前は65m2でよかったものが、75m2必要になる。居住面積を広げるためには、駅から遠くするか、中心部から遠くするか。その選択肢に変わりはない。新築マンションでは最近、在宅勤務用のブースをオプションで提供する動きが出ているが、専有面積が増えているわけではないので、収納を減らした形をとっている。

自宅で働く若い男性
写真=iStock.com/Geber86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Geber86

2013年のアベノミクス以降、3LDKは75m2以上が当たり前だったものが、今は60m2台前半になっている。とはいえこれを機に供給側も専有面積を広げるわけにはいかない。そこで中古物件に目が向けられている。

中古住宅の成約件数は、8月までは前年同月より増えた。9月は首都圏は7%マイナス、都心3区は23%のマイナスになったものの、それは取引が萎んだというより、在庫がものすごい勢いで減った要因の方が大きい。その証拠に、価格は上がっている。

都心3区中古マンションの「在庫数」と「成約単価」

■都心部、駅近、タワマンは下がらない

都心部・都市部、駅前・駅近、大規模タワーは引き続き売れ行きは好調を維持し、その他の大半はなだらかに下がっていく。その流れに変わりはない。

結局のところ住宅市場は、

(1)価値を維持する、あるいは価値が上がる不動産
(2)なだらかに下落し続ける不動産
(3)限りなく無価値になる、あるいはマイナス価値となる不動産

といった「三極化」の途上にある。コロナで一時混乱した後はそれが加速化しており、一段の低金利が住宅購入を後押ししている。これは従前と変わらない光景だ。むろん今後、第2波や第3波・新種が到来すれば話は別だ。

■“オフィス離れ”も意外に起きていない

オフィスも、イメージほど急激に空室率が上昇する状況ではない。かれこれ10年前の、東京オフィスの空室率は10%近く、これが1%台となり供給が非常に逼迫(ひっぱく)していたところ、コロナで3%台となった。なかでも渋谷の空室率が上昇したのは、IT系かつ中小規模で機動的に動けるテナントが多いためで、丸の内・大手町や虎ノ門、新宿の大規模ビル群などは動きがない。

そもそも渋谷は空室がほとんどみられず、ビットバレーと呼ばれるなかIT系企業が集まりたくても集まれず、仕方なく恵比寿や五反田に流れた経緯がある。渋谷に空室が発生すれば、その復活は早いはずだ。一部企業が地方移転といった極端な例はあるものの、大半の企業が在宅勤務の労働生産性を検証中なのと、何より3~5年といった長期の賃貸契約を結んでおり、期間中に解約すれば違約金が発生する。

したがってこのまま在宅勤務が普及しても、その影響は3~5年をかけてじわじわと出てくるのが妥当だろう。一方で都心部でも少し裏通りに入った小ぶりのビルは厳しいのかもしれない。つまりより立地の悪い物件、建物の性能に課題がある物件など、弱いものがとことん弱くなる構図だ。

■割安感のある日本の不動産市場が海外で注目

日米欧の同時金融緩和、とりわけ日米は無制限金融緩和を標榜しており、マネーがあふれている。こうしたなか、グローバルに見て相対的に割安感があり、同時にコロナの影響が少なかった日本の不動産に注目が集まっていることは、筆者が先般出演したクローズアップ現代プラス(NHK)でも説明した。

かつて日本はプラザ合意で円高に誘導され、低金利政策と金融緩和、財政出動を行いバブル経済につながったが、今回も株や不動産に過剰に資金が流れ込むことで価格が上がり、株を売って不動産を購入するといったバブルがバブルを生む可能性もある。90年型バブルにおいてもリーマン・ショック前のプチバブルでも「賃料上昇は後から付いてくる」といった謎の理屈で、マイナス利回りの不動産取引が行われていた。

最も元気なのが物流系。楽天やアマゾンの業績は今後も見通しが明るい。ホテルは稼働率が壊滅的に低く、大打撃でしばらくは投資が行われないだろうが、そうした立地は新築マンション用地がホテルに奪われてきた経緯があり、新築マンション用地としてカバーされるだろう。

■都心から1~1.5時間のベッドタウンがより弱くなる

住宅市場に話を戻そう。今後は自治体間格差にも注目したい。今後都市間、自治体間の格差が開くのは必至だ。

シカゴ近郊の住宅街を空撮
写真=iStock.com/pics721
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pics721

各自治体の財政に大きな開きがあり、預金を切り崩している自治体も相当数あり、今後数年で枯渇するところも。すると行政サービスを縮小するなどの格差が顕在化するだろう。したがって、今後の住宅選びは自治体の経営力が観点になるはずだ。首都圏でいえば、かつてベッドタウンと呼ばれた、都心から30~40キロ圏内、自宅からオフィスまで1~1.5時間といった、国道16号線の外側がより弱くなるだろう。

自治体の災害対応も見逃せない。例えば災害可能性のないエリアに人を寄せていく施策を打ち、自治体のコストをコンパクトにし行政効率を高めるなど、経営的な観点が求められる。拍車をかけるのは、金融との連動で、すでに火災保険や水害保険の世界では、大手損保は災害可能性の有無によって保険料に格差をつけるよう転換した。これが金融機関の不動産担保評価に適用されれば、その格差は決定的になろう。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修)

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