元NHKキャスターが指摘「ありがとうございます」が「あざ~す」に聞こえる人の話し方
プレジデントオンライン / 2020年10月30日 9時15分
※本稿は、野村絵理奈『オンラインで伝える力』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
■日本語の発音があいまいになっていないか
オンラインでは細かい音の聞き分けが対面よりも難しくなるため、どうしても聞き間違いが増えます。例えば、「1」(ichi)と言ったつもりが相手には「7」(shichi)に聞こえたり、「100」(hyaku)を「約」(yaku)だと勘違いされるなど、似た音であれば聞き間違いが生じるリスクはさらに高まります。
ちなみに、対面であってもマスクを着用していたりする場合は同じようなことがおこりやすくなります。何度も聞き返されてしまうと、時間のロスになるだけでなく、聞き返すほうにもストレスを感じさせるので、明瞭に発音できるように改善しましょう。
大切なのは、音を一音一音、正確に伝えることです。
日本語を構成する五十音は、それぞれに特徴があります。母音を作る口の開け方、舌の位置や動き、唇の形や動き、息の使い方まで、さまざまな個性があるのです。にもかかわらず、音の特徴を理解しながら発音している人はほとんどいないでしょう。
英語の発音を学ぶときには、正しい口の形や舌の位置、唇の動かし方などを学ぶことから始めますが、日本語でそれを学ぶ機会はほとんどありません。
その結果、日本人であっても、日本語の発音があいまいになり、オンライン上などでは特に聞き取りにくい発音になる原因になっています。
■脱落音があると、対面でもだらしない印象に
特に聞き取りにくい音を発音する際の、舌や唇の動きなど目安となるポイントを以下に挙げておきますので、参考にしてみてください。
サ行→上下の歯の隙間から息を勢いよく出す
タ行、ナ行→舌の先の方を上の歯の裏にぴったりとくっつけてから発音する
ハ行→口をしっかりと開け息をしっかりと吐き出しながら発音する
マ行→口を開けるときに上下の唇の摩擦を意識する
ラ行→舌先をとがらせて、上下にバウンドさせるように発音する
パ(バ)行→唇をすりあわせながら、破裂させるような音を出す
聞き取りやすく話すためには、脱落音と呼ばれる、発音できていない(抜け落ちている)音をつくらないことが大事です。
脱落音が多い人には、先に挙げたような難しい音が発音できていなかったり、母音(a i u e o)が抜け落ちたりしている特徴があります。
例えば、「ありがとうございます」を正しく一音一音発音すると、
A RI GA TO U GO ZA I MA SU
となります。
でも、脱落音がある人の場合、
「あざ〜す」
のように聞こえることがあります。
■丁寧な発音は人格をも美しく見せる
これは少し極端な例ですが、母音まで意識して一音一音丁寧に発音しないと、相手に雑な印象を与える発音になってしまいます。
たかが話し方と思っていても、時に話し方は〈人格〉として伝わってしまうこともあります。
文字も人格を表すといいますが、文字を書くときも、丁寧に書いてあったり、大きさが揃っているほうが美しく見えますよね。話し方にも同じことが言えます。
つまり、話し上手でなくとも、一音一音丁寧に発音された「粒の揃った音」は、その人の〈人格〉をも美しく見せてしまうのです。アナウンサーの発音が美しく、聞き取りやすいのは、脱落音がない、正確な発音をしっかりトレーニングしているからなのです。
このように明瞭な発音は、聞きとりやすいだけでなく、知的な印象をも相手に与えることができますのでぜひ心がけてみてください。
■聞き手を飽きさせない表現テクニックを身につけよう
さて次は、伝えたいことをより効果的に伝えるための、相手を引きつける表現テクニックです。
すでにお話ししたように、アナウンサーというのはテレビの前ですっかりリラックスしている視聴者に内容を一度で理解してもらうだけでなく、そのニュースの要点をきちんと届けなければなりません。
もし、一本調子で淡々と話してしまうと、大事なところが埋もれてしまい、伝えたいことが伝わらず、印象にも残りません。
そこで、重要なところを強調したり、必要に応じて間をおいたりする表現テクニックを使っているのです。
こうした表現テクニックは、大勢を前にしたスピーチやプレゼンだけでなく、聞き手の集中力が途切れやすく、限られた時間の中で必要なことを伝えなければならないオンラインコミュニケーションにおいては、特に重要な役割を持ちます。
10月21日配信「 オンライン会議で『相手の目を見てしっかりうなずく』がNGな理由」で、自分の気持ちを相手に伝えるには3倍増しのテンションで表現しなければ伝わらないとお話ししましたが、こうした表現テクニックを用いれば、伝えたいことを効果的に強調することができます。
表現テクニックの中でも代表的なのは抑揚、つまり音の高低差をつけるテクニックです。
例えば音楽であっても、あまり音程に変化のない曲を聴いているときは長くなるにつれ飽きやすくなります。人の話もそれと同じで、高低差のない話し方は単調に聞こえやすく、聞いているほうは平坦な道をただ歩いているような感覚に陥り、話が長くなるとつい眠くなってしまいます。オンラインの場合はなおさらでしょう。
一方、抑揚がつくとそこに変化が生まれるので、聞き手も退屈しません。アップダウンのある道を歩くのと同じように、オンラインでも聞き手を飽きさせない話し方が可能になります。
■抑揚は「音の高さ」がポイント
抑揚をつける方法は二つあります。
一つは、上の図表1のように、単語の中の一つ一つの音に高低差をつける方法です。これだけで言葉にぐっと躍動感が出ます。
そしてもう一つは、文章全体の中で強調したい箇所、つまり、ここがポイントという箇所は、少し高い音で話し始めることで抑揚をつける方法です。
試しに次の文章を読んでみてください。
人とAIとの協業に投資することにより、2022年までに38%の収益効果が可能だと推測されています。また、生産性の向上だけでなく新しいビジネスの創造や革新にもつながります。
■事前に原稿があれば印をつけておくとよい
普通に読んでしまうと、淡々とした平坦な印象を与えてしまいがちな内容ですが、次は【】内の箇所を強調するつもりで、抑揚を意識して読んでみましょう。
人とAIとの協業に投資することにより、2022年までに【38%の収益効果】が可能だと推測されています。また、生産性の向上だけでなく【新しいビジネスの創造や革新】にもつながります。
いかがでしょう。より生き生きとした印象を醸し出せることに気づいていただけましたか。
実際のオンラインコミュニケーションにおいても、事前に原稿があるような場合には、このように強調したいところにあらかじめ印をつけておくのは良い方法です。慣れてくれば、印がなくても、また特に原稿がないような場合も、抑揚をつけて話すことができるようになります。
強調する方法としては他にも、「感情を込める」「音に強弱をつける」「スピードを変える」という方法がありますので状況に応じて、使ってみても良いでしょう。ただし、オンラインの場合は、音が弱かったり、スピードが速すぎたりすると、言葉自体が伝わらなくなりますので、弱くする表現よりはむしろ強める表現を、スピードを速くするよりはゆっくり話す表現をおすすめします。
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元NHKキャスター、気象予報士
1975年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、NHKキャスター、気象予報士を経て2005年KEE'Sを設立。独自の教育メソッドを確立し、これまで5万人以上にコミュニケーション、話し方、プレゼンなどの企業研修を行っている。近著に『SPEECH 人を動かすリーダーの話し方』(ポプラ社)がある。
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(元NHKキャスター、気象予報士 野村 絵理奈)
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