三浦瑠麗「映画『テネット』が描く不確実性の恐ろしさ」

プレジデントオンライン / 2020年10月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FlashMovie

テレビや雑誌などさまざまなメディアで発信を続ける国際政治学者の三浦瑠麗氏。なかでも政治や文化について一段深い議論を展開するのがプレジデント社の公式メールマガジン「三浦瑠麗の『自分で考えるための政治の話』」(毎週水曜日配信)だ。同メールマガジンから抜粋・再編集した記事をお届けする。

■不思議な難解さで大ヒットの映画『テネット』を観る

クリストファー・ノーラン監督の最新作『テネット』を観てきた。劇場にほとんど大作がかからないなかで公開されたためもあり、またその不思議な訳のわからなさゆえに大ヒットしているようだ。題名のテネットは英語でTENET。前から読んでも後ろから読んでも同じ、というつづりで、本作のカギとなる単語である。

ジョン・デイビッド・ワシントン演じる主人公には名前が与えられていない。彼は隠密作戦を行うエージェント。テロを阻止するために動員されたはずが、状況をよく理解しないままに、人類を救うミッションに駆り出される。このミッションというのが、どうも未来の敵が発動させようとしている最終兵器から人類を守ることらしい。未来の人類は時を遡って兵器を送りつけてきているという。

■時間を逆行する弾丸

わかりやすい兵器として主人公と視聴者の前に示されるのは、時間を逆行する弾丸。銃の引き金を引いて撃つと弾が飛んでいくのではなく、弾が標的から銃に戻っていく。不気味なのは未来の人類がそれをこちらの世界に送ってよこした、ということ。そしてどうやら未来の人類が祖先にあたるこちらの時代の人々を敵視しているようだ、ということ。主人公が乏しい手掛かりの中で「テネット」という合言葉を口にしつつ情報を探るうち、未来から人も物も大量に移動している実態が次第に明らかになる。そして、現代人である武器商人が未来との取引で利益を得、カギを握っていることも。

SFであっても、人々が恐れるのはやはり人間、そして不確実性だ。未来の人類がどのような人々なのか、主人公も彼を助ける仲間のニール(ロバート・パティンソン)も知らない。物語が進むうち、自分よりも少し先の未来あるいは敵の実態を知っていると思われたインドの武器商人の黒幕、プリヤ(ディンプル・カパディア)も、主人公より少し多く知っているにすぎない、ということが見えてくる。

不確実性の恐ろしさは、敵の正体が見えないこと、敵がいつどこに現れるかわからないこと、その意図が理解できないことに象徴される。未来の敵は、時間を遡って現れる。まさに銃弾が戻ってきて弾倉に収まるように、時間を逆行して物事が動く。

この作品の難解なところは、逆行という概念。とりわけ、逆行してくる未来の人・モノと普通に進む現在の人・モノが同一現場で同時進行するところにある。その人物がどの時点での人物なのかがわからないので、観客は混乱する。命を落としてしまえばその人の未来はなくなるが、そうでない限り幾度でも時間を逆行して未来から現れることができる。したがって、最終兵器を守り続け、隠し通すことが現代の人々のミッションとなる。

映画の終わりに見えてくるのは、テネットの秘密組織ができた背景とその真の創設人物だ。ネタバレは避けなければ、ということで、どうぞご自身で映画館へ。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『私の考え』(新潮新書)など。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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