ココイチ創業者「店のまわりを掃除するなら、365日続けないと意味がない」
プレジデントオンライン / 2020年10月29日 11時15分
※本稿は、宗次徳二『独断 宗次流 商いの基本』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■うわべは真似できても、精神までは真似できない
数十年来の長きにわたり、食に関する業界では“胃袋戦争”が続いている。栄枯盛衰、優勝劣敗の厳しい環境で、ややもすると同業者対策の低価格競争が起こり、生き残るだけでも大変である。そんな中、ココイチは創業以来ただの一度も値下げすることなく、成長を続けている。
その理由はどこにあるのかと言えば、創業の原点である「現場主義の接客第一」を貫いていることだ。お客様の声に耳を傾けて前向きに改善を進め、「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ(ニコ、キビ、ハキ)」をモットー(現在はココイチの社是)とするお客様を大切にする姿勢だけはどこにも負けないという自負があった。この思いは、ココイチを退いた今でも変わらない。
逆に言うと、商品にしても供給システムにしても、お金をかければ他社でもココイチの真似をすることはできる。実際に、屋号から店の作りからメニューまで、唖然とするほどソックリなコピー店が現れたこともあった。しかし、そのチェーンはココイチと同じようには繁盛しなかった。外見をいくら似せても中身までは似せられなかったのだ。お客様は、それをきちんと見抜いたのである。
だから、私はライバル店が近くにできても一切気にせず、値下げ競争にも乗らず、自社の根本精神をひたすら磨き続けてきた。そうすれば必ずうまくいく、という確信があったからだ。
■経営コンサルタントに学ぶより、現場で真剣に働くことが大事
経営者の中には経営書をはじめ哲学書や歴史書などを読んで経営の参考にする人が多いが、私はそれほど本を読まないし、誰にも経営の相談はしていなかった。だから他人の影響をあまり受けていない。また、経営コンサルタントの先生の指導も全く受けていない。まさに変人経営者の極みといったところか。
では、私が何から経営の発想を得ているかといえば、それは現場である。現場で真剣に働いていれば、社員に対しても、お客様に対しても、もっとよくしてあげたいという気持ちが湧いてくる。だから、明日の経営のヒントはすべて現場にあると思って、毎日一生懸命働いてきた。現場で気づいたことは、その都度メモに書いてきた。
それを後で読み返してみると、5年前も10年前も書いている内容はほとんど同じだった。そういうものが蓄積されて、ココイチの経営ノウハウになったのである。
このような私の徹底した現場主義は、始まりが場末の小さな喫茶店だったことと関係しているかもしれない。いつ潰れるかもわからなかったし、大きくしようという思いもなかったから、すべて自己流でやってきたのだ。しかし、結果を見ると、道なき道を自分で切り開いていくというやり方は、自分の性分にとても合っていたように思う。
■クレームのはがきは事業改善のヒントが詰まったファンレター
店舗数が80店前後になり経営が軌道に乗りつつある頃、私は全店舗にアンケートはがきを設置した。ココイチを利用したお客様の声に、耳を傾けてみようと考えたのだ。
そこで本社宛ての専用はがきを店のカウンターやテーブル席に用意し、投函してもらうようにすると、多い時で月間3万通もの声が寄せられた。毎月多額の郵便料金がかかったが、書かれている内容はすべてありがたい言葉ばかりだった。
私や本部のスーパーバイザーが毎日すべての店舗を巡回指導できるわけではない。その一部を、アンケートはがきが担ってくれたのだ。
私はスタート時から会長職を引退する2002年5月末まで、丸15年間にわたり、毎日3時間半の時間を費やし、すべてのはがきに真っ先に目を通した。嬉しいことに「よかった」という声が圧倒的だったが、「がっかりした」「二度と利用しない」といったコメントもあった。私はそこに価値を見出した。元々それが目的で始めたのだ。私はクレームの文面をコピーし、そこにコメントを添え、該当する営業所や店舗にファクスで知らせて善処を求めた。
クレームのはがきは経営上の欠点を修正するヒントを与えてくれる貴重な財産である。言葉を換えれば、わが社への期待が書かれたファンレターだと言っていいと思うのである。
■会社全体に好影響を与えた「早朝の掃除ボランティア」
アンケートはがきの導入を決めた頃、それと併せてもうひとつ始めたのが掃除のボランティアだった。毎朝6時に20~30人の有志が集まり、本社周辺を中心に30分以上の清掃活動を行う。道路を掃き清めるほか、高速道路下のごみを拾いに行ったり、用水路の底にたまっているヘドロをすくい上げたり、私が先頭に立って真面目に取り組んだ。
会社の発展や利益とは関係なく、早朝から懸命に奉仕作業をする若い社員たちの姿はどれも美しかったし、すごいと思った。私自身のパワーの源泉にもなった。
本社周辺にはカレーの製造工場と商品の配送センターがあるため、トラックが始終出入りしている。周辺住民からクレームが来てもおかしくないところだが、この清掃作業をはじめ挨拶運動や花いっぱい運動をやっていたせいか、地元からのクレームは皆無だった。
掃除の後、社食で朝食をとり、新聞を読んだり洗車をしながら1日のスケジュールを考えて始業時間を待っている社員と、時間ギリギリに出社してくる社員の差は歴然としていた。新入社員やほうきを持ったことのない男性社員は大いに刺激を受けたようだった。
この清掃活動を通して、多くの社員に早起きの習慣が身につき、健全な企業風土が育まれていった。それが、社業の発展に好影響を与えたことは言うまでもない。
■近隣清掃で一番難しいのは、継続すること
私が経営をしていた時、店舗スタッフの基本的な仕事として力を入れていたのが周辺の清掃である。郊外店なら店の周囲200メートル分、市街地の店なら向こう3軒分の20~30メートル範囲のゴミを拾い、草取りなども徹底的に行う。これは、直営店もFC店も同じである。
ただし、必ずしも全店でそれができていたわけではない。店長やオーナーが率先垂範してやっているかどうかによって、差が出るのである。
近隣清掃で一番難しいのは、継続すること。365日行わなければ掃除をする意味がない。それは自分との闘いであり、生き方の問題であり、経営者としての姿勢の問題である。できない理由をよく聞かされたが、できるできないはその人の心の問題だということがよくわかった。
制服を着て毎日掃除をしていると、まず近所の方々が感謝の言葉をかけてくださるようになる。そのうち道行く人やお客様の目に留まり、アンケートはがきでお褒めいただくことが増えてきた。また、二次的な効果として店舗の売上が2~3%減ったくらいなら、掃除を徹底的にやれば半年、1年後には回復することもわかった。
掃除はお客様に気持ちよく過ごしていただくだけでなく、お客様から信頼され、売上不振の打開策にもなる。そのためにも、心を込めて続けることなのだ。
■お客様には「喜んでいただく」のが当たり前
お客様からお褒めの言葉をいただくことは嬉しいことだ。ただし、いくら褒めていただいても、それで満足してはいけない。対価をいただいて商売を行い、儲けさせていただいているのだから、お客様に喜んでいただくのは当たり前、褒めていただくのは当たり前だと考えておくほうがいいだろう。
お客様に喜んでいただこうという気持ちで、こだわって商売をやり続けて、なんとか横ばいである。いくらやっても山あり谷ありで、よくなったり悪くなったりを繰り返す。だから、お客様に「この店で買ってよかった」「この店で食べてよかった」と思っていただくようにするのは最低限の仕事なのである。
そこをスタート地点にして、「今度また家族と一緒に来たい」「知り合いを連れてきたい」「口コミで紹介したい」という行動を実際に起こしていただくまで、必死で努力を続けなければならない。それができるようになると、自然と売上は右肩上がりになっていく。
いい店にしていこうと思うほど、問題は尽きることなく現れる。それを1つずつ改善していくことによって、少しずつ良い店になっていく。長年商売をしているだけでいい店になるということは、決してない。
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カレーハウスCoCo壱番屋創業者
1948年石川県生まれ。74年喫茶店開業。78年カレーハウスCoCo壱番屋創業。82年株式会社壱番屋を設立し代表取締役社長に。フランチャイズシステムを確立させ、国内外の店舗で1400店を超え、ハワイや中国、台湾など海外へも出店し現在も拡大中。2005年5月に東証一部上場。1998年代表取締役会長、2002年役員退任。03年NPO法人イエロー・エンジェル設立、理事長就任。07年クラシック音楽専用ホール「宗次ホール」オープン、代表就任。
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(カレーハウスCoCo壱番屋創業者 宗次 徳二)
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