なぜ、韓国ユニクロは「異常な反日」をチャンスに変えられたか
プレジデントオンライン / 2020年10月26日 18時15分
2019年8月6日、ガラガラの「ユニクロ」店舗を見つめる女性。2019年8月2日、日本の内閣が韓国を「ホワイトリスト」から外すことを承認したことで、多くの韓国人が日本製品をボイコットしている。 - 写真=EPA/時事通信フォト
■ファストリの底力“不買運動の中で勝ち組に”
現在、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの業績が回復基調にある。これまで同社は、カジュアル着を中心に製品開発を進めデザイン性の向上などに取り組んできた。また、同社は事業運営のデジタル化も進めた。そうした戦略が、コロナショックによってはっきり優位性を示し始めている。多くの衣料品メーカーが苦戦する中、同社は業界内での“勝ち組”としての地位を明確にしつつある。
ファーストリテイリングの事業戦略によって、反日感情が高まり不買運動まで発展した韓国市場でも顧客に回帰が進んでおり、同社の業績回復に寄与する格好になっている。それに加えて、世界経済の中で景気回復が鮮明な中国でも、ユニクロは人気を獲得している。中国事業の成長などによって、2021年8月期、ファーストリテイリングは純利益が1650億円に達するとの業績予想を公表した。
コロナショックを境に、「ZARA」ブランドを持つスペインのインディテックスなどライバル企業もオンライン事業の強化に取り組み、中国などでの需要獲得を目指している。ただし、株価の推移をもとに考えると、ファーストリテイリングへの成長期待は相対的に高い。それは、同社がデジタル化への取り組みを進めて中国やインドなど成長期待の市場で需要を獲得し、世界トップのアパレル企業に成長するとの見方が増えていることの裏返しだ。
■「異常な反日」続く韓国でユニクロが復活したワケ
コロナショックによって、2020年8月期のファーストリテイリングの決算は減収減益だった。しかし、同社は世界経済の環境変化への対応を迅速に進め、収益性は改善し始めている。それを確認する良い例が同社の韓国事業だ。オンライン事業の強化などによって、ユニクロの韓国事業が、厳しいながらも徐々に上向いていることは見逃せない。
ファーストリテイリングは、韓国事業が引き続き厳しいとの見方を示している。背景には反日感情がある。2019年7月、わが国は安全保障面への懸念を理由に韓国向けフッ化水素など特定品目の輸出管理手続きを厳格化した。その結果、韓国の反日感情はエスカレートし、ユニクロやGUブランドをはじめ、わが国企業への不買運動が勢いづいた。
不買運動への対応としてファーストリテイリングは店舗削減を進め、韓国の店舗数は2019年8月期の188から2020年8月期には163まで減少した。その上で、同社はオンライン販売を強化した。2021年8月期の業績見通しに関して、同社は韓国事業が通期で減収になると想定しつつも、粗利益率が大幅に改善するとの見方を示している。
■それでもユニクロの衣料品を買いたい韓国人
粗利率の改善は、非常に重要なポイントだ。もし、韓国の消費者心理全体に不買運動を支持する考えが浸透しているなら、利益率の改善は見込みづらい。そう考えると、韓国におけるユニクロへの不買運動には変化の兆しが出ていると考えられる。
つまり、不買心理を求める周囲に気を遣いつつも、オンラインで(他人に見られないように)ユニクロの衣料品を手に入れたい消費者は多いと考えられる。
ある意味、韓国におけるわが国企業への不買運動は、ファーストリテイリングがコロナショック以前からデジタル・トランスフォーメーション(DX)への対応を進め、より効率的な事業運営を目指す重要な機会になった。
同社が一見すると収益獲得のリスクと考えられる事象を、より効率的な事業運営と成長実現のチャンスに変えていることは重要だ。その反面、韓国は雇用機会を失っている。
■コロナ禍で世界中の人の生活を支えた「モノづくり」
さらに、ファーストリテイリングの中国事業は回復している。2021年8月期通期に関して、同社は中国事業が大幅な増収増益を達成するとの見通しを示している。
近年、中国市場ではファーストリテイリングに加え、インディテックス、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、現地の新興アパレルメーカーが参入し、競争が激化した。競争が熾烈(しれつ)化する環境下、同社の収益が増大するとの見通しが示されたことは、世界最大の消費市場である中国市場において、ファーストリテイリングの競争優位性が一段と高まっていることの裏返しだ。
中国市場におけるファーストリテイリングの成長を支えている要因の1つは、同社が丁寧かつ、時流に即したモノづくりを重視し、普段着としての衣類の機能向上を目指したことだ。それがコロナ禍における中国をはじめ、世界の人々の生活を支えている。
コロナショックの発生によって、世界全体で人々の外出機会は減った。その結果、ビジネススーツなどの需要は大きく低下した。反対に、より多くの人が快適な普段着を求め始めた。部屋着としてもビジネスシーンにおいても違和感がなく、デザインも、着心地もよい衣類への必要性が世界全体で高まっている。
■価値観の変化「スーツはビジネスに必須とは限らない」
また、コロナショック以前からカジュアルなビジネスウエアへの需要は徐々に高まっていた。マイクロソフトのビル・ゲイツやアップルの故スティーブ・ジョブズらは、新商品のプレゼンなどをネクタイ&スーツ姿ではなく、ジーンズを主体とするカジュアルないでたちで行った。
それによって、スーツはビジネスに必須とは限らないとの価値観が生まれた。コロナショックによってテレワークなどが浸透し、スーツをベースとするビジネスマナーは変化している。感染をいち早く食い止めた中国ではそうした取り組みが鮮明であるようだ。
見方を変えれば、ファーストリテイリングはかなり早い段階で需要の変容を察知し、ビジネスにも日常生活にも対応できる衣類の創造を目指した。そうした取り組みが、コロナ禍をきっかけに中国市場などで一気に花開き、同社の需要獲得につながっているとの印象を持つ。それに加えて、ファーストリテイリングのデザイン、品質管理なども中国の消費者にとっては魅力だ。
■ライバルに差をつける世界一の戦略
また、ファーストリテイリングが“情報製造小売業”としてのビジネスモデル構築を目指していることも重要だ。同社は、IT先端技術を駆使して、効率的な在庫管理や人件費の削減、需要の変化の精緻な把握と予測などを行う体制を強化した。
その上、裁断や縫製を必要としないアパレルの編み上げ技術である「ホールガーメント」を導入することによって、製造の効率化を実現した。それが中国市場をはじめとする世界規模での急速かつ大規模な環境変化への対応を支えている。
現在のグローバルな競争環境を俯瞰した時、世界のアパレル業界の中でファーストリテイリングの事業戦略は最も優位といっても過言ではない。ファッション性を重視してきたインディテックスとH&Mが、需要の変容にどう対応できるかは不透明だ。
つまり、ファーストリテイリングは大手ライバル企業よりも、事業の中長期的な方針を明確化できている。それがアパレル大手3社の株価推移に影響した。年初来から10月下旬までの間、ファーストリテイリングはライバル2社の株を上回って推移している。
■「より良い普段着」でトップをひた走れ
コロナショックによって経済のデジタル化とグローバル化が、これまで以上のスピードで進んでいる。世界経済の中で中国経済の景気回復は先行している。その需要を取り込むために、国際的な競争は激化する。また、より効率的に収益を得るために、データ獲得と分析の重要性は一段と高まり、デジタル化も加速する。
現状、いずれの点でもファーストリテイリングは競合他社に先行していると考えられる。インディテックスは大規模出店戦略を修正している。H&Mも店舗の閉鎖などを進めており、収益の改善には時間がかかるだろう。
欧米などで新型コロナウイルスの感染者が増加し、ワクチン開発がどう進むかも不透明であることを考えると、アパレルをはじめ多くの産業で優勝劣敗は鮮明化する。
そう考えると、グローバル化とデジタル化への取り組みを強化し、より良い普段着の創造を目指すファーストリテイリングの成長期待は高い。同社が世界トップのアパレル企業としての地位を確立する可能性はこれまで以上に高まっている。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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